第二十三話 宇宙人の脅威
同胞が事務所を去って直ぐに、俺は窮地に立たされてるだろう同胞に連絡を取った。同胞とは直ぐに繋がった。
「取り合えず、高野君と呼ばせてもらった方が分かり易いか?」
「ええ、リーダー」
「リーダーか、そうだな。矢場と呼ばれるよりしっくりくる」
「分かってますよ。直接会うのはリスクを伴いますからね」
「これからする話は、君から東島君に伝えてやってくれ」
「わかりました。例の同胞には?」
「あいつには何も伝えなくていい。昨日、俺の事務所を訪ねて来た」
「あぁ、何となく分かりましたよ。また、やらかしたんですね?」
「そうだ。ほとほと愛想が尽きた」
「まぁ、奴は放っておくとして。頻繁に連絡が取れないのは面倒ですね」
確かにそうだ。これでは作戦に支障来す。だから、もっと連絡を取り合いたい。しかし、電話やメール等のこの世界の方法では足が付く恐れがある。『思念の伝達』では他所の奴らに聞かれる恐れがある。
消えた同胞の二人とは、同じ党だから密に連絡を取れたが、高野と東島は野党だ。何処かで会っていたのがバレたら、『野党の議員と密会』なんて記事が出てしまう。
これは、早急に何とかせねばならんな。
「所で、重大な要件ですか?」
「あぁ、ある女の事に関してだ」
「ある女? もしかして、道明寺翠嵐って女の事ですか?」
「良く分かったな。その通りだ」
「そいつの事だったら、探偵に調べさせて有りますよ」
「そうか。流石は高野君だ。奴とは出来が違う」
高野が調べさせたのは、直ぐに分かりそうな情報だけだ。それでも、居場所が特定出来ただけ充分と言える。
道明寺翠嵐、現在二十五歳。大震災で両親を失い、施設に生活していた。施設を脱走した後、十三歳の時に道明寺空海の養子になっている。現在は、明薬科学研究所に勤務し、新薬の開発に携わっている。現住所は東京都――。養父母と共に暮らしている。
都立都蘭高校に通う、実の弟がいる。名は道明寺海、現在十七歳。飲食店でアルバイトを行っている。
父は道明寺空海、現在四十二歳。明薬科学研究所の代表取締役。母は道明寺晴香、現在三十八歳。コンサルティング会社、ゼイロン・ストラテジーの代表取締役を勤めている。
道明寺の家では使用人を雇っており、名を小野寺麻沙子、現在四十六歳。道明寺翠嵐を引き取った同時期に、家政婦として雇われている。
「震災孤児か……」
「ええ。スラム出身かと思われます」
「その根拠は?」
「姉弟が引き取られた施設の近くに、大きなスラムが有りますから」
「そこで暮らしていたと? たかが十歳前後の子供が? ろくに話しも出来ない幼児を連れて?」
「ええ。確か稀代の天才と呼ばれているとか」
今日生きる事さえも困難なスラムで、子供が暮らしていただと? 考えられん事だ。しかし、スラムの人間を頼るしか道は無かろう。それ以外の場所で役人に見つかったら、施設へ送り返されるだけだしな。
そうなると、道明寺翠嵐という女は相当に頭が切れる存在だという事になる。何せ、子供ながらにスラムの大人相手を相手にして、生き延びてきたのだろうから。
「必要なら素行調査までさせますが?」
「いや。それはこちらでやろう」
「ありがとうございます。その情報で足りますか?」
「あぁ、今の所はな」
「件の女は、同胞二人を窮地に追いやった奴ですよね?」
「そうだ。これ以上余計な真似をしない様に、しつけをしようと思ってな」
「それは良いですね。具体的にはどんな事を?」
「奴隷を使って脅そうと思っている」
「出稼ぎに上がってきている連中なら、幾らでもいますしね?」
「多少の金を握らせれば、何でもやる連中だ」
「それでも、女が言う事を聞かなければ?」
「攫って消すだけだ。今のスラムは治外法権と化している。何でも有りの地獄だ」
今のスラムは震災直後のそれとは違い、組織だっている。旧時代の暴力団の様な構図だ。そんなスラムが日本中の都市下には存在している。
そして奴らは横のつながりを持っている。仮に『東京都下のアンダーグラウンド』に在るスラムで処理出来ないのなら、別の場所で処理すれば良い。簡単な事だ。
おとなしくこちらに従えば別だがな。
「奴隷の手配は、自分がやりましょうか?」
「いや、君は国会の対策に全力を注ぎたまえ」
「そう仰って頂けると助かります」
「何せ君と東島君には後ろ盾が無い」
「厳しいお言葉ですが、本当の事ですから頭が痛い……」
「この話は東島君にも共有してくれ」
「わかってます」
「それと、思念の伝達は慎重にな」
「はい。肝に銘じて」
「結果は追って連絡する」
「リーダー。釈迦に説法かも知れませんが……」
「国会の事だろ? お互いに気をつけよう」
「はい!」
必要な事は伝えられたと思う。念の為、他所の連中に察知されていないか確認した後に、秘書を呼んだ。曲がりなりにも警察が事務所を訪れたばかりだ、緊張していたのだろう。少し硬くなった表情になって、執務室に入って来た。
「先生……。警察はなんと?」
「それに関しては心配する事はない」
「しかし、特別捜査官ですよ!」
「だから、心配ないと言っている!」
「申し訳有りません、先生」
つい大人げなく声を荒げてしまった。少し間を取り落ち着いた後に、俺は秘書へ高野から聞き取った内容を書いたメモを渡した。
「そこに書いてある、道明寺翠嵐を脅せ」
「脅せとは? この女性が何かしたんですか?」
「それを君が知る必要はない」
「兎に角、この女性が邪魔なんですね?」
「そういう事だ」
「それなら、明薬科学研究所の従業員を使うのは如何でしょう?」
「ふむ。その会社は奴隷を雇っているのか?」
「ええ。慈善事業じみた事を行っている、嫌味な会社ですから」
「なるほどな。同じ会社に勤めている奴隷に、首を締められるって訳か」
「はい。その方が効果的かと」
「わかった。君の考えで行こう」
「ありがとうございます。早速取り掛かります」
先生は詳しく仰らなかったけど、恐らく今回の暴露に関係しているのだろう。首謀者か? それをリークする為に、わざわざ特別捜査官が足を運んだと考えれば、つじつまが合う。
それならば、排除するのが当然だ。しかし、足が付くのは不味い。だからこその奴隷という訳だ。どこで死んでも、いつ居なくなっても、誰も気にしないのが奴隷だ。
仮に明薬科学研究所が、従業員として奴隷を管理していたとしても同じ事だ。出入りが激しく管理するのが面倒だから、どの会社も上に奴隷を呼ぶ事は無い。奴隷は地上でひっそりと公共事業だけやっていれば良い。
さて、早速動かなくては。こういう地道な事をこなして点数を稼げば、いずれ私の地位も上がって行くだろう。時期に秘書が一人居なくなる事だしな。その間に、自分の地位を盤石な物にしておかないと。
この世は、金と社会的地位が全てだ。それが無くなったら、いつでもアングラ落ちだ。私はただの秘書では終わらない。もっと上を目指す。それこそ、矢場夜風を食らってでもな。




