第二十一話 同胞との接触
どうやって特定したのか。既に議員辞職した儀蔵を含めた五人の名前と、裏金作りの証拠が雑誌社に取り上げられた。
この反響は凄かった。既に闇献金疑惑で捜査が始まっている小金は勿論の事、矢場・高野・東島と残り三人の議員に関しても国会で糾弾が始まった。
間違いなくこれは、道明寺翠嵐が裏で糸を引いているのだろう。そして、奴の事だ。これで終わりにはならないだろう。我々の憑依を解くべく、何かを仕掛けて来るに違いない。
私は、これ以上同胞を失う訳にはいかない!
恐らく次のターゲットは、同じ国声党の矢場だろう。何とかして彼に接触しなければならない。しかし、彼も警戒をしているだろう。テレビ・新聞・雑誌等の記者だけでなく、我々警察をもだ。何せ、あんな記事が新たに出たばかりだしな。
しかし、こんな時だからこそ、我々は一致団結しなければならないのだ。矢場を経由して高野と東島にも連絡を付ける。そして、私を含めた四人で道明寺翠嵐に対抗するのだ。
私は上役にかけあい、矢場の事務所に直接向かった。任意の事情聴取を目的にしてだ。最初っからこうすれば良かったんだ。考えが足りなかった。
いや、違うな。これも、道明寺翠嵐の策略なんだ。私を混乱させて、判断力を鈍らせていたんだ。
だが、今の私は冷静だ。道明寺翠嵐よ! お前の陳腐な罠にはもうかからんぞ!
事務所に赴いたものの、門前払いにされると思っていた。しかし、任意とは言え警察をすげなく追い返したとなれば、かえって悪い噂が立つだろう。特に、私は特別捜査官だしな。
応接室に通されると、矢場が既に待っていた。そして、私を見て気が付いたのか、笑みを浮かべてしわくちゃの手を差し出して来た。その手を握り返した時、同胞は小声でささやいた。
「よく来たな、同胞よ。今は何と名乗っている?」
「宮司だ。宮司彩」
「こちらは、矢場夜風だ」
「知っている。良かった、まだその体にいたのだな?」
「あぁ。この体はまだ利用価値が有る」
「そうか。詳しい話をしたいのだが」
「それは人払いをしてからでもよかろう」
そう言うと矢場に取り付いた同胞は、秘書たちを応接室から出した。そして、私たちは対面になりソファーへ腰掛けると互いの状況確認から始めた。
同胞は自分のおかれた状況を良く理解していた。誰かが我々の存在を理解し、憑依した人間からの解放を狙っているのだと。だから私は教えてやった。道明寺翠嵐というマッドサイエンティストが一連の犯人だと。
「他の星から来た奴らのせいでは無かったのか?」
「あぁ。信じられないかも知れないが、奴はただの人間だ」
「いや、お前が言うならそうなのだろう。だが、未だに信じられない」
「だが、真実だ」
「道明寺翠嵐と言ったか? そいつ一人で行える事ではないだろ?」
「あぁ。私は奴のバックに何かしらの組織がいると踏んでいる」
「そのバックとやらは、判明しているのか?」
「それはまだだ。奴自身が尻尾を掴ませない」
それから私は、同胞に水に混入していた謎の物質の事を話した。それは、未だに解析出来ていないが、これまで姿を消した同胞を裸にした原因である事が間違いないと。
「薬……。薬か……」
「どうした? 何か思い付いたか?」
「いや。この世界の技術で解析できないなら、本隊に送ったらどうかと思ってな」
「あぁ、それも考えた。しかし、それにはサンプルを複製しなければならない」
「宮司。科警研に上手く使える奴はいないのか?」
「残念ながらな……」
確かに同胞の言う通りだ。薬のサンプルを複製して本隊で解析すれば、謎の物質に関しては直ぐに判明するだろう。しかし、それには私の息がかかった者を、科警研に送り込まねばならない。若しくは、科警研の誰かを私の影響下に置かねばならない。
しかし、どうにも私にはそういう事が苦手な様だ。それは、元の人格が影響しているのだろう。そう考えると、宮司彩に取り付いたのは失敗だったのかも知れない。
「どの道、その辺りに関してはお前に頑張ってもらう他にない」
「違う! そうじゃないんだ、同胞よ! 気をつけねばならないのは、同胞の方なんだ! 君は狙われているのだぞ!」
「それは充分に理解しているつもりだ。それより、俺にはやるべき事が残っている」
「さっきも言ってたな。それは今必要な事なのか?」
「お前を除く四人が、何故議員に憑依したか理解しているか?」
「それはこの国を乗っ取る為だろ?」
「違う。お前は根本から間違っている」
「何が間違っていると?」
「良いか? 何故、日本がこんなディストピアになっていると思う?」
「米国の影響だろ?」
「そうだ。そして、米国では日本以上に貧富の差が酷い。おまけに、貧民を奴隷化する流れは、ヨーロッパ大陸まで波及している」
その位は知っている。貧民の奴隷化は日本だけで行われるのではない。世界中でおこなわれている。だから、世界は日本を攻めない。それが当たり前の流れなのだから。
しかし、それがどうした? 人類が真っ当な進化から外れただけではないのか? 進化の過程では往々にして起きうる事だ。不思議な事態ではあるまい?
「どうやら、お前は分かってないようだな?」
「何をだ?」
「この事態は、他の星から来た奴らのせいだ」
「なにぃ! 他の星だと!」
「今更驚く事ではあるまい? この地球は古代の時代から、我々の様な存在に脅かされて来たのだから」
「それは知っている。だが、今の状況と他の星の奴らとの関りが分からない」
「お前が憑依した宮司という女は、相当に頭が悪いようだな。その影響で、お前の理解力も落ちている」
「くそっ! 確かにそうだ。忌々しい限りだが」
「良く聞けよ。米国の大統領は、奴らに憑依されている」
「な、なんだと!」
「恐らく、日本の首相もだ」
「ま、まさか! いや。だからか――」
同胞に聞かされて初めて気が付いた。考えれば分かった事だ。この地球は様々な星の連中から狙われている。我々の様に単に偵察目的で訪れただけの連中だけではない。既に母星が滅んだ星の奴らもいる。そんな連中が、新たな故郷として地球を欲してもおかしくない。
「しかし、同胞よ。何故、その情報をお前が知っていて、私が知らない? 私は曲がりなりにも、現場指揮官のはずだぞ!」
「それは、表向きだ」
「はぁ?」
「表向きにはお前が現場リーダー。しかし、本当の現場リーダーはこの俺だ」
「なんだと? 隊長はそんな事を一言も言ってない!」
「それは当たり前だ。お前は、他の連中から我々の存在を悟らせない様にする、囮なんだから」
「わ、私がおと、囮だと?」
「そうだ。付け加えると、お前は他の連中がちょっかいをかけて来た時に、フレキシブルに動く遊撃隊の様な存在だ」
「遊撃隊って一人でか?」
「そうだ。話を戻すが、今の状況では情報が足りない。他の連中も、その道明寺翠嵐に関してもだ」
「報告のしようが無いって事か?」
「そうだ。だから、今の俺は国会議員でいなくてはならない」
驚きの連続だ。他の星から来た連中の事もそうだが、私が現場指揮官では無かった事もだ。しかし、そうかんがえると、私の役目は何なのだ? ただ漫然と特別捜査官として仕事をしていても良いのか?
「お前は、引き続き道明寺翠嵐の情報を集めろ。それと、道明寺のバックについてもな」
「わかった。それで、同胞はどうするんだ?」
「俺は首相に憑依した奴が、どの星から来たのか探る。目的も含めてな」
「出来るのか?」
「出来るか出来ないかじゃない、やるんだ。我々の目的はこの星が置かれている状況を、正しく上に報告する事だ」
「他の連中に先を越されてたとしたら、それも報告するのか?」
「当たり前だ。それによっては、本隊を動かさねばならない」




