第二話 変な薬
変な薬の名前が判明した。『すっぽんぽんにしちゃうぞ』だって。相変わらずのネーミングセンスだ。困るね、いや、困らないけど。いやいや、どっちだよ! うん、僕は混乱してるね。自覚出来るくらい混乱してるんだね。まぁ、そんな事は良いんだ。これを姉が何に使うかなんだ。
流石に姉だって良識は持ってるはずだ。はずなんだよ。そう期待してる。だから、屋外でこんな事をしないはずだ。ストリーキングみたいに、マッパで街中を全力疾走しないはずだ。『性別かえちゃうぞパーフェクト』を使って男になれば、マッパになって良いってもんじゃない。どちらにしたって、公然わいせつ罪か身体露出の罪で現行犯逮捕されちゃう。
デフォの姉は背が小さいだけで美少女だし、黙っていれば小動物系女子に見られるし、何なら中学生に間違われた事が有るし、肌はピチピチで「スキンケアなんて必要なくない?」って養母に言われたらしいし。
だからさ、黙って可愛い仕草してれば、幾らでも男は寄って来るだろうし、彼氏なんて作りたい放題だろうし、『結婚して幸せな家庭』なんてのも作れるはずなんだ。
でもね、駄目なんだ。中身がよくわからないんだよ! 十七年間一緒にいる僕でさえ、姉の考えている事はわからないんだ!
僕はね、平凡だから分かりやすいと思うよ。百七十センチで平均身長ど真ん中だし、体重も五十五キロで「ちょっと痩せ気味だねって」健康診断で言われたけど普通の範囲内だし、成績は平均点すれすれだし。ただ、感情が表に出易いって言われるよ。それは自覚してる。だから、こうして姉に揶揄われるんだ。変な薬を発明する度にね。
でも、姉を見ると実の両親は美男美女のカップルだったんだろうなって思うよ。背丈も似れば良かったのにね。そう言っても、僕は実の両親を見た事が無いんだよ。だって、写真とかは残って無いから。僕達は路頭に迷っていたんだし。
あ~、僕はまだ混乱しているね。妄想が広がり始めてる。駄目だ、姉が呆れた顔で見ている。今度はニヤニヤし始めた。違う違う、僕は姉と違って普通なんだ。普通の男子高校生なんだ。冷静になれ僕! 頑張れ僕!
「海、ムキムキになりたければ良い薬を作ってやるぞ」
「違うよ! なんでムキムキ!」
「お前は良く、女顔だの言われとるだろうが」
「確かに言われるけどさ」
「筋肉がつかないって嘆いておるだろうが」
「確かにそうだけどさ」
「女装させたら似合うだろうが」
「そんな事は無いよ!」
ソジャナイヨ! 違う違う、そうじゃないよ。『日本語の下手な外国人』の物真似をしてる場合じゃない。変な新薬の事を問い詰めなきゃ!
「貴様、女生徒に告白されたらしいな」
「誰にそれを聞いたの?」
「勿論、ジェニファーだ!」
「ジェニファーじゃなくて、麻沙子さんでしょ? 小野寺麻沙子さん!」
「それは仮の名だ!」
「本名だよ!」
「我が道明寺家には格式と伝統が存在する」
「意味が分からないよ」
「だから、メイドはジェニファーなのだ!」
「なんでだよ!」
思わずツッコんじゃったけど、そんな事を言ってる場合じゃないんだ。また、姉のペースに嵌ってるよ。マッパの癖に! マッパの癖に!
それにしても、何で姉はマッパになる薬を発明したんだろう? 普通に考えたら、普通に考えなくても、使う事は無いと思うんだけど。だって、シャワー浴びたり、お風呂に入ったりする時は服を脱げば良いでしょ? その薬が服を見えなくさせるだけなら、服を着たままシャワーを浴びる事になるんだよ。変でしょ?
いや、待てよ。タンスを開けたら服が見えないドッキリとか? それならありそうだ。でも、ドッキリなら僕にばらしちゃって良いのかな? 「バレバレだよ」とか言ったら怒るかな? そんな事じゃ怒らないか。
「ドッキリではないぞ」
「心を読まないでよ!」
「お前は分かり易いんだ」
「だったら、その薬は何に使うの?」
「馬鹿なのか貴様は! 服が見えなくするんだ。決まってるだろ」
また、揺れもしない胸を張ってる。どや顔をしてる。ちょっと腹立つ。せめて、二人称は統一してよ。
そんな事を考えていたら、姉は『上着を脱いで僕に渡す仕草』をして来た。だからさ、僕には見えないんだって。でも、姉の手が有る辺りを探ると、何かが存在しているのがわかる。なんか覚えの有る感触だ。それを『僕が取り、姉が手を放す』と僕がかけてあげた上着が見える様になった。
だからさ、何が起きてるの?
「わからんか?」
「さっぱりだよ」
「お前にも解る様に簡潔に言うと。被験者の衣服が見えなくなるのだ」
「今回の場合、被験者は姉さんだね?」
「そうだ」
「飲むと服が見えなくなるって言うのは、そういうこと?」
「あぁ、私が着ていない服は海にも見えるのだ」
ドッキリじゃないってのは、こういう意味だったのか。でもさ、充分ドッキリさせられてるんだけどね。
「それでさ、その薬はどの位の効果が有るの?」
「効果持続時間の事を言ってるのか? それなら試験版だから、精々一時間程度だ」
「あ~、姉さんは一時間もマッパって事?」
「いや、お前が帰って来る頃を見計らって薬を飲んだからな。残り時間は十分程度だろうな」
姉は腕時計を見る仕草をしたけど、やっぱり見えない。身に着けている物は服だろうが時計だろうが見えなくなるって仕様らしいね。
「薬の効果が切れるまで、自分の部屋に居なよ」
「そうはいかん」
「なんでだよ!」
「この姿でお前に会う事が宿命だったのだ」
「何で厨二病っぽく言ったの?」
「お前に合わせたのだ」
「違うからね!」
僕のツッコミを無視して、姉は再び懐に手を入れる様な仕草をする。そして、一枚の紙を取り出した。そっか、紙は衣服と見做されないんだ。それなら、紙の服とかならどうなのかな? 紙糸なんて物が有る位だしね。でも、糸は糸でも服になったら見えなくなるのかな?
聞いてみたいな、なんて言っても教えてくれるかな? 多分、教えてはくれるだろうな。問題は僕の頭だろうね。すっごく詳しく説明されても、僕が理解出来ない可能性の方が高そうだ。
だから、僕はそんな質問を止めて紙を眺めた。そこには名前とかが綴られてた。
「あのさ、この人達って国会議員の人?」
「あぁ、そうだ」
「それで、このリストになってる人達と薬って何の関係が有るの?」
「お前にはわからんだろうな。だが、そいつらは悪事を働いたのだ」
「どういう事?」
「国政に携わる立場に有りながら、不当に私腹を肥やした罪だ!」
もう一度、ちゃんとリストを見ると、そこには政党の名前や何をしたかも綴られていた。
儀蔵隆夫六十二歳 国声党 衆議院議員 闇献金
小金望夫五十六歳 国声党 衆議院議員 闇献金
矢場夜風七十一歳 国声党 衆議院議員 裏金作り
高野微助四十一歳 連人党 衆議院議員 裏金作り
東島一哉五十八歳 連人党 衆議院議員 裏金作り
う~ん、だから何って感じもするけど。悪い事をしたら罰せられなきゃ駄目だよね。それはわかるよ。でも、政治家って逮捕されないんでしょ?
「言いたい事はわかるぞ」
「僕の何がわかると?」
「国会議員は捕まらない。だから、悪事を働き放題だと言いたいんだな」
「そこまでは考えてないよ」
「つまりだ。そんな小悪党共に正義の鉄槌を下すのだ!」
「それが、すっぽん何とかって訳?」
「それではカメのすっぽんではないか! すっぽんぽんにしちゃうぞだ!」
「違うよ、姉さん。間違えたとか忘れたとかじゃなくて、その名前を口にしたくないんだよ!」
結局、使い道はイマイチわからないけど。やっぱり何か企んでるみたいだ。止めさせなきゃ。だって、悪い予感しかしないし。それよりさ、未だ薬の効果って切れないの?