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第十八話 捜査の開始

 小金議員の露わな姿が会場中に晒されて直ぐに、講演会は中止になりました。議員は控室に引き上げました。その混乱に乗じて、秘書として潜入していたシルビアが姿を消しました。

 私とジムもここで引き上げられれば良かったのですが、そういう訳にはいきません。会場がバタバタしている際中にやらなければならない事が有ります。


 それは、罠の撤去です。


 直ぐに警察が訪れるでしょう。警察が到着すれば「現場を荒らすな」と言われ、私たちは会場に近付く事すら出来なくなるでしょう。その前に撤去しなければなりません。

 但し、こんな事は日常茶飯事です。ジムは素早く講演台に近付いて装置を回収します。そして、直ぐに我々二人は会場を後にします。


 それから直ぐにダフへ連絡しました。シルビアは秘書として、私とジムはアルバイトとして潜入する為に作り上げた戸籍等のデータが存在します。それらを全て抹消するのです。

 面接時に使用した履歴書等の紙データは、既に破棄してあります。後はデジタルデータを消すだけです。


 そうすれば、私たちは存在しなかった事になります。シルビアに関してはテレビに映っていますが、別人に変装していましたから問題ありません。ジムも姿を消し、私は日常へ戻ります。


 これで、議員を裸にしたトリックは存在せず、犯行を行った可能性の有る人物も存在しない事になります。警察側からすれば不可能犯罪に見えるでしょう。プロの仕事とはこういう事です。


 そして、ここからは儀蔵元議員の時と同じく、ダフがネットに闇献金の証拠を全て流します。それに合わせる様にして、ジムが拡散しつつネット上で煽ります。


 ここまですれば、作戦は概ね完了したと言っても過言では無いでしょう。無論、今回の作戦はお嬢様の薬が有ってこそ成り立った訳で、それを忘れてはいけません。

 何せ、お嬢様の薬は『車が当たり前に空を飛ぶ世の中』になっても、何百年も先を行く技術です。今を生きる刑事たちには、想像だに出来ないものです。


 さて、私の役目は終わりました。先ずは入れ替わりましょう。


 ☆☆☆


 私が現場に着いた頃には、所轄の警察官によって講演会場は封鎖されていた。封鎖を潜って、私は現場へ急ぐ。それより、今は現場に急がなければ。今、同胞は危機に晒されているのだから。

 こんな時に自分が特別捜査官で良かったと思う。どんな所轄の現場にも入り込めるのだから。


 直ぐ助けに行く。だから焦るなよ。


 心が急く。つい速足になる。でも、焦った表情に出してはならない。あくまでも、私はこの連続事件の捜査に加わった特別捜査官なのだから。真剣な面持ちでいなければならない。

 少し気持ちを落ち着けて、歩く速度を緩める。そのタイミングだ、所轄の警察官が声をかけてきた。


「宮司警部!」

「わかってる。儀蔵と同じ犯行だ。それより、議員が飲食した物は?」

「科警研へ回しました」

「よし。他におかしな点は?」

「秘書の一人が消えたと、議員が話しております」

「それは……。直ぐにそいつを探すんだ!」

「はい!」


 消えたのは、道明寺翠嵐の関係者だろう。やはり、入り込んでいたか。でも、そんな足が付くような真似をするなんてな。警察を舐めるなよ、絶対に尻尾を掴んでやるからな。


「宮司警部!」

「なんだ? 秘書が消えた話なら聞いたぞ」

「そうではなく。二人のアルバイトの姿が見当たらないそうです」

「――、そいつらの身元も洗え! 間違いなく、今回の犯行に関わってる!」

「ですが、警部。身元を洗うにも……」

「何が言いたい? 身元を確認出来る書類なら、幾らでも有るだろ?」

「それが、全て紛失している様で……」

「はぁ? それでは、今まで誰にアルバイト代を払ってたと言うんだ!」

「それが、消えたアルバイトは、二人共に数日前に雇ったばかりだと……」

「くそっ! どうなってる!」

「モンタージュを作らせますか?」

「そうしてくれ。何がなんでも、その二人の足取りを追え!」

「はい」


 恐らく、アルバイトの二人を追った所で見つからんだろうな。間違いなく、道明寺翠嵐の犯行だ。こんなに用意周到なのは、あの天才しかいない。

 ゲソ痕を幾ら採取した所で無駄だ。警察犬を使った所で、消えたアルバイトを探せはしないだろう。その程度で道明寺翠嵐に繋がる糸を見つけられるなら、今頃奴は檻の中だ。


 可能性にかけるとしたら、議員の秘書か? 何とかして、道明寺翠嵐に繋がる手がかりを掴みたい。だが、あの天才の事だ。秘書経由で痕跡が見つかる可能性も低いだろうな。


 それより、次から次へと警察官に声をかけられ、同胞の所に行けない。苛立ちが増す。くそっ! 本当に忌々しい!


 ようやく控室まで辿り着いたと思ったら、中から怒声が聞こえて来る。荒れているな、同胞よ。だから、「道明寺翠嵐に気をつけろ」と伝えたかったのだ。恐らく、同胞は罠に嵌ったのだ。


 扉を開けると、横柄な様子で椅子に座った、でっぷりとした裸の男性が目に入る。局部を懸命に手で隠している。声を荒げて、周りの者達に体を隠す物を取ってこさせている。

 しかし、何を被せても消えてなくなる。目を疑いたくなる状況だ。儀蔵氏の体を捨てた同胞も、こんな状況だったのだろう。可哀想に。


「小金議員ですね?」

「あぁ、それがどうした! 今は忙しい! 事情聴取なら後にしろ!」

「そうもいかないんですよ」

「あぁ? ふざけるな! 貴様ら警察は何をやっているんだ! 今頃のこのこと現れて!」


 同胞の怒りは収まらないようだ。しかし、これでは話にならない。周りの者たちの目も有る。どうにか、同胞と普通に会話が出来ないものか――。


 私は少し様子を見る事にした。同胞は、秘書の一人らしい男性に何かを投げつける仕草をする。同胞の手から離れた瞬間に、目に見えない何かが実体化する。それは、秘書にぶつかる。


 実際に見ると、恐ろしいとしか言えない。同胞の手に触れた物は全て消えさり、手から離れると目に見えるようになるんだろう。道明寺翠嵐の仕掛けである事は間違いない。寧ろ、これで実感した。あの天才しかこんな真似は出来ない。


 恐らく、儀蔵氏が飲んだと思われる『飲み物に混入していた謎の物質』が原因だろう。


 しかし、何故消えるのか私にも理解が及ばない。この状況がいつまで続くのかもわからない。儀蔵氏の場合は、一時間程度で元に戻ったそうだが――。

 私が現場に到着するまでに、一時間近くはかかっている。前回と同様なら、もう元に戻っても良さそうだが。


 待っても同胞の怒りは収まらない。こんな状況だ、怒りが収まる訳がない。


 私は仕方なく、同胞に近づいた。声を荒げて同胞は「出て行け!」と叫ぶ。私は警察だぞ。そんな態度をとられては、ただの被害者として扱う事は出来ないんだぞ。

 

 同胞よ。わかってくれ、お前の為だ。そして、私は同胞に顔を近付けて、小声で伝える。


「同胞よ、私だ。わかるな?」

「はぁ? 何を言ってるんだ!」


 うん? 我々の存在が周囲にバレない様に装っているにしては、明らかに反応がおかしい。まさか、君もこの体を捨てるというのでは無かろうな?


「大丈夫だ、同胞よ。私が守る」

「何が守るだ! この状況をなんとか出来るのか! あぁ? 言ってみろ!」


 同胞を怒りで我を忘れてるだけだ。きっとそうだ。だから、落ち着かせよう。そうすれば、状況を正確に理解してくれるはずだ。私がこうして来た理由も含めて。


「同胞よ」

「だから! 貴様はさっきから何を言っている! 何が同胞だ! 貴様とは初対面だろ! ふざけるな!」


 おかしい。これはおかし過ぎる。まさかとは思うが、既にこの体には居ないのか? もう見切りをつけたというのか? そうだとしたら、私はこれからどうすれば良い?


 誰か教えてくれ!

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