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第十五話 第二のターゲット

 海がシャワーを浴びる隙に、こっそり新品とすり替えた『脱ぎたてのシャツ』を持ち帰っておいて本当に良かった。これのおかげで、仕事がとっても捗る。それはもう、「ヒャッハ~」っと思わず叫んでしまう程にだ。

 一日経過する毎に、『十代の青い匂い』というやつが強くなっていく。これは、ある意味でドラッグだな。「吸ってみるか? 一瞬で飛ぶぜ!」って言うやつだ。


 ただ、残念な事に海のシャツは、ジェニファーにバレてしまった。


「淑女が何をなさっているのです?」

「違うのだジェニファー」

「何が違うと?」

「このシャツは、凄く良く効く『エナドリ』みたいなものだ」

「エナドリとはいえ、魔法の妙薬ではございませんよ」

「このシャツが無ければ、私は薬の改良が出来ない!」

「いけません! これは没収させて頂きます!」

「そこを何とか!」

「いいえ。例えお嬢様が土下座なさろうとも、認める訳には参りません」


 結局、海のシャツは取られてしまった。頭を地面にグリグリと押し付けたのにも関わらずだ。そんな私を冷たい目で見て、シャツを持っていく姿。それは、正しく鬼であった。


 ジェニファー。貴女は私の最大の理解者だと思っていたのに……。


 ジェニファーは毎日の様に研究所にやって来る。何をしに来るのか、それは簡単な話だ。私の食事を作る為だ。三食分をまとめて作り置きして、軽く掃除をして帰って行くのだ。実に優秀だ。痒い所に手が届くとはこういう事を言うんだろうな。


 掃除をしてくれるのは、とても助かる。研究中は片付けにまで気が回らないからな。何より助かるのは、食事を作ってくれる所だろうな。


 何せ、自分で作るのは面倒だし、食べる時間すら惜しい。どれだけ食糧を用意していても、気付けば食わずに研究を続けてしまうのだ。「食べろや、このクソ雌がぁ!」なんて冷たい目で睨まれれば、さすがの私も箸を取るがな。


 研究中なんてそんなものだろ?


 だから、私は研究所に引き籠もっていても、飢える事が無いのだ。そんなこんなで、私が買い込んだ食糧は、全てジェニファーが没収していった。まぁ、地上の人達の腹が少しでも満たされるなら、それで構わないんだがな。


 地上での配給は、一応行われている。しかし、圧倒的に栄養が足りない。『一日の栄養と必須ビタミンを摂取出来る』と謳った『栄養補助食品的なシリアルバー』も追加で配られるが、あんな物を幾ら食べたところで栄養が体に吸収される訳ではない。


 どの道、栄養が足りないんであれば、粥や具が少ないスープみたいな物では無く、腹持ちが良い物にした方が良い。例えば、以前動画で見た『安売りスーパーのカップ麺』の様な配給にな。


 配給は税金でまかなわれているのだし、主に税金を払っているのは上空に住んでいる富裕層達だし。そう言う意味では、『貧乏人に食わせる飯はねぇ』って所なんだろうな。


 歪んでるよ。全くな。

 

 とはいえ、ジェニファーに『海のエキスがふんだんに含まれたシャツ』を取られてしまったから、作業のスピードが凄く落ちた。だから、スケジュールが予定より一週間も遅れてしまった。その間は、海の部屋に付けたカメラの映像で、心を慰めるしかなかった。


 そんな状況でも、第一弾の改良を終わらせた私は、とても偉いと思う。帰ったら、海に褒めてもらおう。臨床試験のついでに、作戦の第二弾といこうじゃないか!


「そんな訳で帰って来たぞ!」

「突然だね、姉さん」

「会いたかったぞ、海よ」


 暫く家を留守にしていたかと思ったら、突然に帰って来た姉。今まで何をしていたんだろうね。気になるけど、聞きたくない。そんな複雑な気分になるよ。だって、ろくでもない事を企んでいるに違いないからね。


 それと、帰って来て早々に抱き着こうとするのは、本当に止めて欲しい。


「頑張った私を撫でまわしても良いのだぞ」

「嫌だよ」

「何故だ!」

「ペットじゃあるまいし、何で姉さんを撫でまわさなきゃいけないのさ!」

「海のペットになら、なってやっても良いぞ」

「何でだよ!」


 姉が変なのはいつもの事だけど、今日はいつにも増してテンションが高い。きっと、何か良い事が有ったんだろうな。僕にとって、というか世間の皆様にとって、ろくでもない事なんだろうけどね。


「まぁ良い。今日の私は機嫌が良い。だから、お前にも教えてやろう」

「何を?」

「薬の改良が終わった。名付けて『すっぽんぽんマークツー』だ!」

「それは、試験版とは何が違うの?」

「聞きたいか?」

「う、うん……」


 姉は得意げに胸を張り、わざとらしく間を取った。


「聞きたそうだな?」


 本当は、早く自慢したくて仕方ないくせに。


「言いたくなければ聞かないけど……」

「では、教えてやろう!」


 何だか勿体ぶってるのが、ちょっと腹立つよ。でも仕方ないか。何せ、二週間も家を留守にしてたんだからね。その成果が『すっぽんぽんマークツー』とか意味が分からないけど。せめて名前は『バージョン、イッテンゼロニ』とかにして欲しいんだけど。


 まぁ、それは置いておいて薬の効果は飛躍的に向上したみたい。従来型は飲むことによって効果を発揮するのに対し、新型は衣服にかけるだけで効果を発揮するらしい。


 面倒だ、非常に面倒だ。これまでは飲ませなければ、マッパにならなかったのに……。これでは被害者が続出だ。いよいよ、ストリーキングが続出する世の中になっちゃう。


「それと、次のターゲットも決めたぞ」

「ん? それって、宇宙人に憑依された国会議員って事?」

「そうだ。以前リストを見せた中にいる」

「誰?」

小金望夫こがねもちお五十六歳。国声党の衆議院議員だ」

「最初の人と同じ党だね」

「あぁ。儀蔵の闇献金にこいつも関わってる」

「そっか。同じ党だしね」

「だから、宇宙人に狙われたのかも知れんな」

「それなら助けて上げないとね」

「そういう事だ」

「でもさ、どうやって助けるの? 最初の件が有ったから、警戒してるはずだよね?」

「そうだろうな。テレビ出演等はせんだろうな」

「そうすると恥ずかしがらせる事は難しいね」

「そうとも限らん」


 この辺りに関しては、ジェニファー率いる諜報部隊が活躍してくれた。どうやら小金は、一週間後の土曜日に講演会を開くらしい。その機会を狙う。


 但し、今度は議員の講演会だ。テレビの生放送とは注目度が違う。今時、議員の講演会に行く物好きなんて、それこそ後援会のメンバー位じゃないのか? 良くは知らんがな。それでは、話題にすらならない可能性が有る。


 だから、前回とは順番を逆にする。まず、例の暴露系雑誌に儀蔵の闇献金と小金の関与をほのめかす断片を流す。掲載日は講演会の直前に設定しておく。そうなれば、テレビが注目する。


 勿論、注目を集め過ぎて講演会が中止になる恐れは有る。但し、私の予想が正しければ、小金は講演会を中止にはしない。寧ろ、この機会を利用して、訪れた後援会のメンバーに訴えるだろう。『自分は何もしていない』と。


 講演会が中止になれば、別の機会を待てば良い。何も裸にせずとも、証拠が残っているのだ。儀蔵と同じ様に政治生命の終了だ。けれど、決定打としては少し弱い気もしているがな。


「そっか。その小金って議員さんは、姉さんの罠に食いついてくるかな?」

「恐らくな」

「それなら、僕も頑張らないとね」

「何をだ?」

「何をって宇宙人対峙だよ!」

「いや。お前は今回も」

「まさか、参加させてくれないの?」

「言葉を遮るな、海よ!」

「だって!」

「お前にはお前の役割が有る!」

「それって何さ?」

「アリバイ作りだ!」


 どうやら、今回も僕は蚊帳の外らしい。アリバイ作りなんて言うけれど、単にその日はバイトに行けって事だよね。まぁ、姉の考えた作戦だし、僕なんかが意見しても仕方ないしね。


 後、僕に出来る事と言えば、『作戦の詳細を他人に洩らさない事』かな。それが一番重要な気がする。うん、その位は僕にだって出来るよ。だって、姉は僕を信用して話してくれたんだろうしね。それを裏切るなんて、僕には出来ないよ。

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