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第十四話 秘密の研究所へ

 国会議員の闇献金に関する騒動は、どんどんと盛り上がっていた。でも、事態は急展開を見せたんだ。何せ、当の国会議員が辞職すると言い出したんだから。

 議員の豹変っぷりに、みんなびっくりしたんだと思うよ。辞職するって会見を見たけど、前の会見とは人が変わったようだったしね。


 小野寺さんの言う通りだったね。本当にこれで一件落着なら良いんだけど。でもさ、これでは終わらないんだよ。だって、僕は覚えているんだよ。姉に見せられたリストには、後四人の名前が乗ってたんだから。


 同じ事を繰り返すのかなぁ。またテレビ局とかに侵入するのかなぁ? 危険な事はしないで欲しいんだけどなぁ。でも、僕に姉を止める事なんて出来ないんだしさ。寧ろ、どうやって無茶をさせない様に考えないとね。

 だって、重要な事を忘れがちだけど、組織は宇宙人の侵攻を阻止しようと頑張ってるんだよね。僕もその一員なんだ。ちゃんと自覚しないとね。


「うむ。海にも自覚が生まれた様で何よりだ」

「へっ? 僕、独り言でも言ってた?」

「私は心が読めるのだよ。特殊能力ってやつだな」

「嘘つかないでよ! そんな訳ないでしょ!」


 海は自分を分かってない様だけど。本当に分かり易いのだ。拳を握りしめてフンフンと鼻息を荒くしていれば、何を考えているのか簡単に察する事が出来よう。そこがたまらなく可愛いんだが、言わないでおこう。むくれるからな。こんな事で口をきいてくれなくなったら、悲しいからな。


 それよりもだ。前回は薬を水に溶かしたら、効果が薄まってしまった。あれでは『裸の王様』とは言えん。だから改良せねばならん。ただな、私は天才だからな。私にかかれば簡単なはずだ。「行き詰ってるなんて嘘だったね」なんて、軽く言えるはずだ。


 それに、ジェニファーの報告では、警察の動きが弱まったそうだ。捜査は続いているが、私がターゲットじゃなくなったって所だろうな。宮司はもう少ししつこくして来ると思っていたが、予想外だったな。何が有ったのかは知らんがな。


 これはチャンスでも有るのだ。宮司と言う、しつこく私の周辺を嗅ぎまわる犬が、せっかく遠くへ離れてくれたんだから。この機会に薬の改良を急がねばならんな。


 そんな訳で、今日は会社に出社せずに私の研究所へ向かうとしよう。


 私の研究所は、組織の中でも養父母とジェニファーしか知らん秘密の場所だ。ゴミ溜めと化した地上の建物に紛れ込んで存在しているから、宮司や警察の連中には絶対に見つからない。何せ奴らは、空から下を見下ろすだけだからな。それでパトロールが出来てると思い込んでるしな。


 それと、研究所は私の所有物では無い。勿論、養父母や海、ジェニファーの所有物でも無い。そんな簡単に足が付く様にはしてない。研究所へ向かう時は変装するし、その意味でも足は付かない。


 その辺りは抜かりないのだよ。はははっ、宮司よ。薬の出所が見つからなくて残念だったな。


 そうだ。一応は連絡をしとかなければな。「今日は出社せん」と。報連相は大事だしな。あの駄犬なら、上手くやるだろう。変態だが役に立つ男だ。私が何日か研究室を留守にする位、どうって事は無かろう。

 それに、電話をすればワンコールで出る様な男だ。その意味でも、役に立つ男だと思う。気持ち悪い奴では有るがな。


「もしもし? すいらんちゃん?」


 ほらな。ワンコールどころか、トゥルルルのトゥで電話に出おった。


「すいらんちゃん? こんな朝にどうしたの? もしかしてモーニングコール?」

「そんな理由で貴様に電話はせん」

「それじゃあ、秘密の要件? 何かなぁ?」

「相変わらず気持ちの悪い駄犬だ」

「気持ち悪いとか言わないでよ。俺はこんなに君を愛していると言うのに」


 こいつは、年中発情期なんだろうな。若しくはロリコンというやつだ。本当に気持ち悪い。本当なら関わりたくないが、役に立つ男だから仕方なく使ってやってる。本当に関わりたくないがな。

 

「今日から暫く会社には出社せん」

「あ~。薬の改良? 前回は失敗だったからね」

「そうだ。数日はかかる予定だ」

「わかったよ、その間は何とかしとくよ」

「私が出社していない間のアリバイ作りは、ジェニファーと連携して上手くやってくれ」

「あ~、ジェニファーさんね。わかった、それも任せて」

「新薬開発の進捗は、ジェニファー経由で報告しろ」

「え~。直接電話したいなぁ~」

「気持ち悪いから止めろ!」

「そんな事を言わずにさぁ~!」


 こいつは、通話の記録で足が付く事を知らんのか? それも長々と話そうとしおって! これが無ければ役に立つし、気持ち悪くないのだが。わかっておらん、ロリコン駄犬だ。


「うるさい! 切るぞ!」

「地上に行くんでしょ? 気を付けて! あぁ~切らないで! ちょっ――」


 何かほざいているが、こっちから電話を切ってやった。これ以上は話す事も無いからな。それより、上空で生活している者達は、地上に降りる事が無い。そもそも、政府専用の通路以外に、アクセスする方法が存在しないのだ。


 こんな状況では、いずれ地上の者達が反乱を起こすのではないか?


 本来ならアクセス出来ない。そんな地上へ降りる方法が、実は存在する。それを使って、私は移動している。それは、かつて養父母が作った秘密の通路だ。それを使って、養父母を含めた組織のメンバー達は地上に行き来していた。


 私たち姉弟が養父母に出会う事が出来たのは、別の理由だがな。秘密の通路から降りて私たちを拾ったと知られたら、それはそれで問題になるからな。


 秘密の通路を使えば、一時間もかからずに地上へ降りる事が出来る。そこからは変装して行かねば危険だ。何せ、スラム街だからな。私が護衛する手段を持たずに一人で歩いていたら、直ぐに持ち物を奪われ、服を剥ぎ取られ、犯されて、終いには殺されるのがオチだ。


 だから、マッチョな男性に変身していく。勿論、拳銃とサバイバルナイフを腰にぶら下げていても危険な場所だ。地上の者たちは、飢えに追い詰められた獣のようだからな。奪い奪われ、殺し殺される。生きる事自体が戦いの場所なのだ。


 役人だって、地上に降りる時は何らかの武装をするんだしな。これ位は当然だろう。まぁ、ジェニファーを連れていれば、こんな武装も必要ないんだがな。それと、海ならば一人歩きも可能だろうな。護身術は身に着けさせたしな。

 私にそれが無理なのは、この体形にある。この小さい体でトコトコ歩いてれば、腹を減らした肉食獣の群れに現れた獲物の様ではないか。


 だから、研究所に向かうのも一苦労だ。でも、この位しなければハイエナの様な宮司に、研究所の存在が直ぐに見つかってしまう。


 瓦礫の中を慎重に進む。大震災で倒れた建物が、散乱したままになっている。その隙間に隠れる様にして、ボロを身にまとった人達が集まっている。そんな場所では雨風は避けられないだろうに。


 ここに来る度に思う。こんな地上と上空に隔たれた社会なんて、ぶっ壊してしまった方が良い。

 ただ、それには準備が必要だ。養父母は組織を用いて準備を重ねて来た。だが、まだまだ社会を変革するには時間がかかる。だから、私が踏ん張らねばいけないのだ。


 地上の人達にも見つからない様に隠蔽した扉。その扉は私にしか開けられない。扉を開ければ、地下へと続いている。階段を降りて行けばようやく研究所だ。

 研究所には、食糧を充分に用意してある。水道や電気等のインフラも整えてある。少なくとも一か月程度なら籠れる様にしてある。いざという時の為にだがな。


 取り合えず、ここまで来るのに相当の時間がかかった。直ぐに薬の改良を始めねば。さぁ、やるぞ! お~!

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