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第十一話 立ち入り捜査

 私はパトカーに乗せられた。後部座席で、二人の刑事にサンドウィッチにされて座らされた。そんなサンドウィッチは美味くもあるまいに。逃がさない為か? 逃げやしないがな。

 それより、パトカーに乗ると改めてわかる。あの大災害から十五年、東京はよくここまで復興したなと。


「道明寺。何を考えている?」

「宮司。お前たち警察は、この様に世間を見下ろしているのだな?」

「喧嘩を売ってるのか!」

「そう怒鳴るな、少しは落ち着け。私は別に嫌味を言っている訳ではない」

「ふんっ!」

「これで本当に治安維持になっているのか?」

「当たり前だ!」

「それなら良い。でも、空を飛んでいては見えないものも存在すると思わぬか?」

「何が言いたい?」


 相変わらず宮司は喧嘩腰だ。あれだけ煽ってやったんだしな、それも仕方ない事か。しかし、警部という地位にいるのだから、大人らしい態度を取って欲しいものだが。こればかりは、本人の気質によるものだろうからな――。


「いや、警察も大変そうだなと思っただけだ」

「それなら、とっとと白状しろ」

「白状も何も、私は何もしていない。それとも、研究室から何か見つかると?」

「絶対に見つけてやる!」


 それにしても嫌な景色だ。十六年前の大災害以降では、津波被害を見据えた都市の高層化を見据えた都市計画が行われた。いわゆる、地上を捨てて高い場所で生活するというやつだ。その計画に伴い、車の飛行も実用化された。


 しかし、それらの計画は貧富の差を助長させた。富裕層は高い場所で安定した生活を送る。しかし、貧乏人は地上に這いつくばる様にして暮らす。それが、今の日本だ。


 実際に私たち姉弟は災害で両親を亡くした。海には事故で死んだと言っておいた。本当の事を教えても良かったのだが、聞かせた所で何も状況が変わることはない。何せ、生きていくのが困難な時代だったのだから。


 当時は私たちみたいな災害孤児は沢山いた。逆に子供を失った親も沢山いた。それだけ、多くの日本人が災害の犠牲になったんだ。私たち姉弟が生きているのは、両親の犠牲が有ったからだ。


 それから復興が始まり、計画通りに都市の高層化が進んでも、私たちは地上で暮らすしか無かった。少ない配給を大人が奪い合い、僅かに残った欠片を子供たちが食べる。そんな生活をするしかなかった。それは施設でも根本は変わらない。

 

 養父母に引き取られた私たちは、運が良かったとしか言い様がない。何せ今の地上は犯罪の温床、いわゆるスラム街と化しているのだから。こうやって見下ろしていると、国の政策が正しかったのかは甚だ疑問だ。


 ただ、宮司にはこんな話はせんがな。余計な詮索をされても困るしな。それ以前に、宮司はとてもイライラしているし、私も癇癪を起こした女とは話したくもない。


 暫くすると会社に到着する。発着場に着いたパトカーは、バンタイプのを含めて全部で五台。よくもまあ、こんなに着いて来たもんだ。

 ぞろぞろ餌を運ぶ蟻の様に、荷物を持った刑事たちが会社の中に入って行く。これも滅多に見る事が出来ない光景だろう。従業員たちは『何が起きたのか?』と驚いている。気持ちはわかる。私もこんな無頼漢共を愛する会社に入れたくは無い。


 宮司と部下の数名は、真っ先に私の研究室を調べるらしい。それ以外の刑事たちは、別の施設を調べるらしい。せいぜい頑張ってくれ。ここには真っ当な物しか無いのだから。

 私の研究室に入った宮司は、部下を顎で使い、室内を荒らし始めた。流石は警部だな、とても偉そうだ。口げんかには弱いくせにな。


「道明寺。この部屋に出入り出来るのは?」

「私の部下と新薬の研究に直接関係した仕事をしている社員だけだ」

「それは何人位だ? 名前をリストにして提出しろ!」

「偉そうだな。まぁいい、後で事件前後のログを渡してやる」

「後でじゃない! 今直ぐだ!」

「はいはい。イライラせずに待っていろ」


 まったく、警察署で私にやり込められたので、相当腹がったっているのだろう。如何にも『警察だぞ! 偉いんだぞ! おとなしく従え!』と言わんばかりの態度だ。警察に協力するのは義務ではないというのにな。まぁ、今回は令状が有るし、従うがな。


 宮司の部下たち、いや、無頼漢。いや、最早ヤカラと呼ぶべきだろうか。一応は新薬の研究室なんだから、そんなに荒っぽくしないで欲しいんだが。類人猿にそんな事を言っても無理な話か。

 他の部署でもかなりの迷惑をかけているのだろう。今度埋め合わせとして、ちょっと高価な菓子折りでも配るか。少し散財になるが仕方あるまい。


 そして、奴らは開発中の新薬を片っ端からケースへ詰めていく。科学警察研究所で詳しく調べるんだと。時間の無駄遣いを頑張ってくれたまえ。

 

 私は忙しい振りをして、出入りのログの提出を遅らせる。ちょっとした嫌がらせだ。宮司こと『シルバーバック』は――。いやいや、これじゃあ『シルバーバック』に失礼か。何せゴリラはとても温厚な種族なんだから。


 対して、短気なメス猿はイライラを隠せない様で、ずっと私を睨んでいる。そんなに睨んでも直ぐには提出せんぞ。これから一時間は、時間をかけるつもりだからな。そのままイライラして、頭の血管を破裂させるがいい。そうすれば多少の欠陥も治るかもしれんぞ。

 

 私が哺乳類の始祖である『エオマイア』へ嫌がらせをしている間にも、ヤカラ共が頻りに私へ質問を投げて来る。「これは何ですか?」とか「これはどういった時に使う物ですか?」とかだ。

 見物客にウンコを投げるしか脳の無いチンパンジーと変わらん癖にな。仕事をする振りは一人前らしい。


 そんな、どうでも良い質問にも一々答えてやる。今日の私はとても優しいと思う。後で海に褒めてもらおう。


 海洋生物共がどれだけウヨウヨと動き回っても、何も目立った物は見つからない。時間が経てば経つ程に焦りが生まれて来る。奴らが人間に釣られるのも時間の問題か?

 私も釣り竿セットでも持ってこようか。撒き餌をしなくても集まってくるだろうよ。寧ろ、この状況が定置網みたいな物か。わらわらと会社に集まって来たんだしな。


 何だかんだで、奴は粘っていた。何か見つけようと頑張っていた。それを見ていて思った。そうだ、観察日記をつけようと。

 そんな事を考えていると、時間があっという間に過ぎ去っていく。今日は仕事にならなかったが、暇つぶしが出来たと思えば良い事にするか。


 結局、私は宮司から命じられたログを、帰り際に渡した。奴は「チッ」っと舌打ちしていた。しつこい宮司の事だ。これで満足する訳は無いだろうけどな。しかし、私を攻める根拠が無くなるんだから、少しの間は静かにしてくれるだろう。


 悔しそうな表情を浮かべながら、それでも持ち帰る新薬等を大事そうに抱えて、奴らは海へ戻って行く。奴らが肺呼吸をするのは一万年早かったのだ。もう少し進化してから、私と対峙したらどうかと思う。


 帰り際に宮司は「絶対にお前を捕まえる」と言っていた。しかしな、宮司。それはお前には無理なんだ。お前が歯だけ立派だけど、小魚しか食べないサメで有る限りはな。

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