美容デー
土曜日、作法の授業と週間の運動を終えて私はお風呂に入っていた。
「明日はドレスと化粧品の購入日よね?」
そうなのだ。明日は半年に一回の購入日。まさしく美容デーなのだ。
記憶を取り戻す前のリリーはどこか男っぽく、服は簡素で化粧品など買いもしなかったからお金は十分過ぎるほど有り余っている。
「そうですね。きっと今のリリー様にお似合いのものがたくさんございますよ。」
リサはマッサージをしながらにこやかに頷く。ちなみにこのリサの地獄のマッサージ、死ぬほど痛いけど効果は絶大なのだ。
その成果もあってか今のリリーは絶世の美少女と呼ぶにふさわしい姿に成長してきている。
適度な運動と食事制限、お風呂でダイエットに成功した身体。ウエストと手首は折れそうなほど細く、胸には仄かな膨らみができている。
リサに毎日マッサージされた肌は陶器のように透き通って、身体に艶がある。
何より顔は本来の完璧な骨格が明らかになり、蜂蜜色の瞳に白銀の睫毛が影を指しているのが美しい。薄い桃色の唇は紅をさしていないのに完璧な色味で神秘的でさえある。
「ドレスや化粧品といえば色選びが命よね。」自分の姿を鏡で除きながらひとりごちる。
「色ですか?装飾ではなく?」私の一言にリサが反応する。
そうか。この世界には色味について詳しい研究がないのかもしれない。
前世ではパーソナルカラー診断などで自分に合う色味が簡単にわかっていた。
リリーに説明しようと口を開く。
「人にはそれぞれ似合う色味があってね。大きく四種類に分けられるのだけれど、おそらく私はブルベ冬といって、濁りのない色や透明感のある色が似合うの。リサも同じかな。
これはドレス選びでも化粧品選びでもすごく大事なの。」
リサは驚いて
「そうなんですね!リリー様のメイクをするときに参考にします。」
といった。
「ふふっ、明日が楽しみだわ。」
そんなこんなで夜は更けていくのであった。
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「おはよう、リサ」
「おはようございます、リリー様」
日課である朝のヨガを終えて、ドレスや化粧品選びのための準備をする。
今日は蜂蜜色の瞳に合う柔らかな日差し色のドレスを着る。
「こんにちは。ウェントンがリリー様のため馳せ参じます。」
馴染みの商会の者が部屋に荷物を抱えてやってきた。
王都に住んでいると本店に直接貴族が行くこともあるらしいのだが、何しろ領地に住んでいる私はそういうわけにもいかない。
半年に一回、こうして懇意にしている商会の者が品を持ってやってきてくれるのだ。
「ウェントン。久しぶりね。今日はたっぷり買い物をするから覚悟しておいてちょうだいね。」
ウェントンは顔を上げて、
「以前に増しておきれいなリリー様。ピッタリの品々を用意しておりますよ。」
と余裕のある笑みを浮かべる。
「まずは化粧品から。こちらがベース用品、アイシャドウ、ペンシル類、ラメ、シェーディング、ハイライト、チーク、リップでございます。」
驚いた。化粧品は前世並の品揃えだ。手に出してみたところ、品質も申し分ない。
「こちら王都で流行りの最先端のものを取り揃えております。」
するとリサが戸惑ったようにこちらを見る。
「リリー様、私には目利きが出来ません。どれを買ったらよいのでしょう。」
これだけ多く取り揃えてくれたなら迷うのも当然だろう。
「大丈夫。私が選ぶから。ベースは肌が綺麗だから下地とパウダーだけでいいわ。
変に厚塗りしてもね。一番明るい色のこれと、これをちょうだい。」
私は自分の肌を触りながらそういった。
「アイシャドウはグレーと白系で透明感をだす。アイライナーは白銀の睫毛に合わせて白色、ラメは大粒と小粒の無色を2つ。シェーディングとハイライトはこの色味がいいわね。
チークとリップは唇の色味に合わせて薄い桃色にするわ!」
「流石はリリー様。良い品をお選びで。」
ウェントンが声をあげる。前世で化粧品やら美容やら何かと勉強しておいてよかった。最高の土台で試せるんだもの。次はドレス選びよ。
「ふふ、ウェントンありがとう。ドレスはデイドレスを7着、イブニングドレスを1着買うわ。」
デイドレスは普段の生活、例えばお茶会などで使用するもの、イブニングドレスは夜会で使用するものだ。
「では、デイドレスから。」
そう言ってウェントンはさまざまな色味のドレスを出してくる。
「まぁ!素敵!」
一際目を引いたのは1番取り揃えの多い白のドレス。
どれも装飾には銀と金の細糸が使われていて複雑な編み込みが施されている。
「では、白色のドレスを7着買うわ。」
白銀の髪とまつ毛を持つリリーにぴったりのイメージカラーだ。
「かしこまりました。では次にイブニングドレスをお選びください。」
イブニングドレスは夜会用なのでデイドレスよりも華やかだ。数々のドレスの中に、これもまた白色の美しいドレスがあった。
このドレス、レースがたっぷり使われていて可愛い!綺麗なAラインのドレスで正統派だからこそリリーの美しさを引き出せるわ…!
「このドレスをいただけるかしら?」
「よくお似合いになると思います、リリー様。」
それからウェントンと二、三言交して買い物は決定したのだった。
読んでくださってありがとうございました!