鶴は羽ばたく
電動客車の中、ユラユラ揺られ眠気を誘われる。ガタンゴトン、音が心地よく体の奥底を撫ぜている。私達は“折鶴”の噂話を聞いて、とある田舎へと向かっていた。吊り革も揺れと共に踊っている。窓から見える景色はまるで沢山の線が走っているよう。朝日がまだ登りきらない内に、私達は長椅子のシーツに腰掛けてうとうと首を振っている。
隣を見れば、長髪を差し込んでくる日光に照らされながら指先で弄る少女が居る。彼女は私の友達、同級生でクラスメートの八仙花阿豆。阿豆は膝上に置いた小柄なバッグを抱きかかえ、その上に肘を置いて本を読んでいる。が、その目は虚ろだ。私は微かな好奇心に釣られ、彼女の髪を耳にかけてみた。
「……どうしたの」
「んいや、ちょっと暇でね」
私の名前は枳殻恋、中学二年生だ。電車に乗るのはこれが二回目、一回目は学校の遠足で使い方を教わったくらい。どこへ行ったかは覚えていない。
「暇かぁ。……リズにゲームさせて貰ったら」
阿豆は指をすっとページから離して、私の左側で液晶に目を向ける二人を指す。瞳の焦点は本の文章に向けられているが……、正確にそれを指している。私に視線を合わせる事もせず、自分の本に夢中みたいだ。
私は素直に、それに従う事にした。そしてそれを行動に起こすため、左に思い切って体を動かす。それに合わせて、気づいたのか顔を上げた。
「恋もゲームしたいのですか?」
いち早く口を開いたのは、敬語混じりに話す不思議っ子千代見さち。家にこれしか無かったとか言って、背丈に合わない私服を選んで着てきた。ショートカットの髪を真っ直ぐにして、頬に貼ったガーゼが特徴的。前髪はリズから貰ったピンで留めている所がいい子だと感じさせる。
「ちょっと待って、今機器探してる…………。よし、これ使って良いよ」
「ありがと、リズ」
そして緋衣リズ。比較的口数が少ないが、一番思いやりのある友達。後ろで結ばさった髪を肩に掛けていて、さちとお揃いのピンを胸元のポケットにさしている。
幼馴染の阿豆、中学で初めて会ったさちとリズ、そして私の四人。これが俗にいうイツメンで、仲良しな友達。わいわいがやがや、私達は対話やら個々の楽しみやらをしながら目的地に着くのを待っていた。
「久しぶりじゃない? 貴方が、故郷の世界の話するの」
机と紅茶を挟み、女性と一人の少年は昔話を咀嚼している。星屑の光が吊るされた、書庫で。翼の生えた少年は真っ白な布に身を包み、暖かな紅茶を軽く啜った。女性を見つめながら、目尻に描かれた金と水色の線に指を沿わせながら、少年はふう、と息を吐いた。
「俺は一人の少女と、緑が生い茂る地に建つ小さな神社で出会った」
これから語られるは、「千羽鶴」の昔話。