暗澹の夜
じーーーー。
「あはは、そう非難がましい目で見ないでください。」
おれは困ったように笑う悪逆非道邪智暴虐悪鬼羅刹の光さんに抗議の視線を送る。
「そう拗ねないでください、申し訳ないと思っています。」
口だけではそう言えるがおれにはわかる、反省はしている、だが後悔はしていないというやつだ。
見ろ、あの眉を下げつつも成し遂げたようにやりましたと主張する顔を!
「ごめんなさいエイナさん、私にできることならなんでもするので許してください。」
まあ、そこまで言うなら?おれは心が広いし?悪い気はしなかったし?というか気持ち良すぎたし、なんでもしてくれるって言うなら?どうしても、どーしてもって言うなら許すよ?
「許します。ただし。」
「ただし?」
「もう一人にしないでください……また洗われてもいいですから離れないでください、一人でいるのは耐えられないです……」
しんと静まりかえる風呂場に光さんは悲しそうな顔をする。
光さんと触れあって、温かさを知ってしまった、冷たくなった心は溶けてしまった、もう一人になれない、きっと孤独に耐えられない。
とっくのとうにおれは限界だった、都合の良い口実で光さんに縋り付くほどに。
「そうですか、ならば絶対に離しません。こんなに苦しんでいるエイナさんを見捨てはしません。」
真剣に向き合い光さんにそっと優しく抱きしめられて、風呂の中で二人、ただじっと寄り添う。
「そろそろあがりますか。」
「はい……」
何分経ったかもわからずに過ぎた時間を振り返る事なく風呂場をあとにする。
「ドライヤーとバスタオルはここにあるので好きに使って下さい。」
「わかりました。」
ふんわりとしたタオルに包まれながらドライヤーの音が響く。
「着替えは今日は私のパジャマで我慢して下さい、明日服を買いに行きましょう。」
光さんにパジャマを手渡される。
おれが着るには少し大きい。
「その、下着はどうしましょう。」
非常に由々しき自体だ、さすがに下着は借りるわけにもいかないのでどうするのか。
「少し邪道ですが……異相変装を悪用します。」
「悪用?」
出来るのか、悪用。
「本来異相変装は魔法少女の服を着る、脱ぐ、着替えるだけの魔法ですが頑張れば下着の部分だけ着ることも出来なくないです。」
そんなこと出来るのか、確かに邪道かの使い方かな。
「【異相変装】」
なんとなく出来る気がしたのでやってみる。
「随分大胆ですね、エイナさん。」
「あわわ。」
感心した様な光さん、ばっちり黒のレースの入ったセクシー目の下着だった。
ちょっとこれは裸よりも恥ずかしいかも……
そそくさとパジャマを着る。
「これからどうします?取り敢えず寝ますか?」
「そうですね、少し……疲れました。」
今日はちょっと色々ありすぎた、とにかく寝たい気持ちがある。
「それでは一緒に寝室に行きましょう」
おれの手を引いて他の電気を消しつつとても簡素な居室に着く。
「布団敷くので待っててください。」
「手伝います。」
そんなこんなでいそいそと二人で布団を敷いた。
「電気消していいですか?」
「大丈夫です。」
そうして暗い闇の中で布団に入いる。
少し怖くて光さんの方に体を寄せる。
「こんな夜ですし少しこれからについて話しましょう。」
光さんの存在がわかると落ち着くようで、寝る前に話すのも悪くない。
「エイナさんは事情があって身分も家族も家もないのでしょう?」
「……そうですね。この先どうすればいいか分かりません。」
未だ割り切れたわけではないし、心に残る傷は癒えていない。
「今は何も無くても未来はきっと輝くものです、悲観しても、絶望しても、いつかは立てる生き物ですよ、人は。私はそう信じています。だから何も考えずに楽しく過ごしましょう。」
おれに必要なのは時間だろうか、光さんの言う通りいつか立ち直ることは出来るのか。
「こんな自分が幸せになっていいんですか?全部を置いてのうのうと生きてもいいんですか?いつか許される日が来るんですか?」
幸福になる権利は人間誰しもが持っているけども、他ならぬ自分自身が認めたくない、そんなこともいずれ認められるだろうか。
「今は分からないですが美味しいもの食べて、ぐっすり寝て、たくさん笑って過ごせばちょっと前向きになるでしょう。」
五年後は?十年後は?何も分からないけど今日明日の事くらいはくだらない日々で埋めていいかも知れない。
「光さんの言う事を信じて明日を夢見て寝ます。おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
この先どうなるか分からないけど、不安は尽きないけど、でも生きるしかない、そんな夜だった。
更新は明後日