お風呂にて
結局人の誘いを断れるような心もコミュ力も無いので脱衣場まで来てしまった。
思考は働かず悶々と煩悩を抱え苦悩する。
当然人生で一度も女の子と一緒に風呂に入ったことないし、そんな予定もなかった。
「エイナさん。」
「ひゃい!」
「風呂、入らないんですか?」
「いや誰かと風呂に入るのも初めてだし心構えと言うかなんと言うか……」
かれこれ数分間脱衣場で足踏みしてるだけだ。それでも光さんは笑顔でずっと待っていて心が痛む……
「そう気負うものでは無いですよ、さあさあ脱いで下さい。」
「そう言われてもどう脱げば……」
親が買ってきた服しか着たことがないのに女物の複雑な衣装の脱ぎ方なんてわからない。
「それならいい魔法が有りますよ、服装を変える魔法が。」
光さんはしたり顔でなんとも都合のいい魔法をすすめてくる。
「そんな都合のいい魔法が有るんですか?」
「あるんですよ、魔法と言うものは望まれて生まれるものですから。」
言われてみればマジルガも欲望から生まれた制御できない魔法の産物だ。
「光さんって便利な魔法を使えるんですね……」
「魔法少女ならどんな人でも使えますよ。」
「……そうなんですか?」
「私は脱ぐようなことを想定されていないような衣装の魔法少女もたくさん知っていますし、それでいてこの魔法を使えなかった話は聞いたことありませんね。」
光さんは空に指を走らせ光の文字を書く。
「『異相変装』」
衣服が光の束となり、粒子となり、やがて消えてしまった。
「ほら、エイナさんも真似してやってみてください。」
一糸まとわぬありのままの姿を惜しげもなく晒す光さんに思わず顔を覆う。
そこにあったのは完成された少女性だった。
幼げの残るあどけない雰囲気と大人の階段を一段飛ばしで成長する体、表現しようととしてもおれには考えつかないが、一つ確かに言えることは何よりも綺麗だった。
「はわわわわ」
「もう、そんないけないもの見ちゃったみたいな顔しないで下さい、恥ずかしがるようなことでもないでしょう。」
あっけらかんに笑う光さんはおれの手をとって言う。
「さあやってみて下さい、願いを込めて語ればあなたの魔法は応えてくれます。」
真剣な顔で見つめながら光さんは言う。
魔法のことはよくわならないが、とにかく光さんの言うことを信じて語って見よう。
「ど、【異相変装】」
するとおれの衣服は薄く影となってすっと解けていった。
おれは光さんほど発育が良い訳じゃないがそれでもしっかり女の子の体をしていることが、未だに慣れずなんだかとても恥ずかしい。
「あう……」
おれも光さんも全裸で脱衣場にいるという事実が、おれが女になった証明であり、性欲より羞恥上回る現状に少し寂しくなった。
「さあ風呂場に行きましょう。」
光さんはぐいぐいとおれの心情も知らず手を引いて風呂場まで誘う。
「どうですか我が家の風呂場は、一軒家としては破格の広さでしょう!」
はっきりと金がかかっていることがわかる浴場だった。
広いというだけあって二、三人は余裕で入れるスペースに岩盤柄のタイルと檜の桶がある本格的な旅館の浴場を思わせる風呂場だった。
「凄いでしょう!おばあちゃんがとてもお風呂好きなので家を建てる時ここだけはこだわり抜いたど言っていました。」
どうやら光さんのおばあさんは無類の風呂好きらしい。
「確か風呂場だけで一千万は使ったとか。」
「いっ、せんまん?」
もう呆然とほうけるしかない。
「おばあちゃん凄いんですよ、いろんな意味で。」
上機嫌で語る光さん。
「いつか紹介しますよ、ここにいればそのうち会えます。」
にこにこと光さんはおれに桶を渡してくる。
「さて風呂に入りましょう、そしてできればエイナさん自身のことを教えて下さい。」
光さんはかけ湯をして浴槽に入る。
「つまらない話になりますけども……」
桶で浴槽から湯をすくい光さんと同じくかけ湯をする。
「全然構いませんよ、友だちの話を聞いてるだけで楽しいですよ。もしつまらなくても一緒につまらないと笑いましょう。」
光さんは浴槽の縁に腕を組んでもたれかかり、へにゃりと口を緩める。
「自分は、もとは普通の人間であったはずで、平和に暮らしてた訳で。」
おれは爪先からぴちゃりと入った先にあった少し熱めの湯に、三日間口を閉ざした寂しさを融かすようにぎこちなく口をひらいた。
「幸せでいいですね。」
光さんは首を傾げながら目を瞑り、楽しげにきいている。
「ただそれを、三日前に全部失っただけのつまらない話です。」
振り絞るように言うと光さんはあわあわと慌ただしく湯を進みおれの顔と向き合う。
「そんなに苦い顔しないで下さい、苦しいことを言わせてすみません。過去ことよりエイナさんが好きなものについて教えてくれますか?」
光さんはおもいっきり顔を近くに寄せて、瞳の奥と息遣いを感じるほどの距離に心臓が高鳴る。
「近いです近いです、あと好きなものは魔法少女です、いつの間にか魔法少女になっていましたけど実は魔法少女になる前から憧れてたんです。」
いろいろ失ったもあるが、魔法少女になったことは一つ確かに喜ぶことだ。
「いいですね、私も大好きです。」
ふわりと微笑む光さん。心から好きなのがよくわかるようだ。
「でも色々失った自分が魔法少女でいいんだろうか、と思っています。」
誇るべき矜持も、確固たる信念も、守るべき家族もない。
結局おれは魔法少女でしかない、ただの人間だ。
そんなおれが魔法少女でいいのか。
「いいんですよ!」
ざぱりと水面を揺らし立ち上がる光さん。
「エイナさんがつらい過去があって魔法少女になったのはなんとなく分かります。ですが、ですが関係無いんですよ。魔法少女であることは、否定するものではありません。相応しいとか相応しくないとかより人のために動けるのが魔法少女ですよ。」
そういうものだろうか、おれは魔法少女であることを誇りに想えるだろうか、光さんがいうのならおれもいつか人を助けることができるだろうか。
でも願わくば誰かのための魔法少女になれるといいな。
そんなことを思っているとのぼせてきた。
「温まってきたことですし体を洗いますか。」
少しぼーっとするが、体の芯まで温まってきた。
でも女になってからのぼせやすくなったな。性別が違うだけでここまで違うものか。
「エイナさんもほら、背中流しますよ。」
「いや、そんなことまではさすがにさせられないです……」
家に泊めてもらい、飯をいただき、その上風呂で背中を流してもらうなどおれには贅沢すぎる。
おれはそこまでしてもらうような人じゃないのに、光さんの手を煩わせるのは忍びない。
「いいんですよ、私がエイナさんの世話をしたいのでするんですよ。ですが私が体を洗うのは嫌ですか?」
「嫌……ではないですけど。」
嫌な訳がない、光さんに背中を流してもらうことを拒否する人なんていないと思うしおれもその気遣いは嬉しいけれど、申し訳ない気持ちが勝つ。
「ならばいいじゃ無いですか、遠慮なく何も考えずに私の奉仕の餌食になってください。」
なんだか強引に勧められている、光さんはすっと風呂椅子を置いて促してくる。
とんでもなく圧がすごい笑顔で有無を言わさぬように見てくる。
「わかりました……」
思うことをぐっと飲み込んで頷く。
ここまでされて断れるはずもなく、光さんに流されるままに風呂椅子に座る。
ほとほと小心者のおれはコミュニケーションできず途方に暮れる。
「借りてきた猫のようにおとなしくなりましたね……観念しましたか。」
なんだか満足げに微笑む光さんにおとなしく洗われる。
鏡に映る姿は破廉恥だった、格好は風呂場なので裸であって然るべきだけれども、それより光さんの洗いかたが何よりも……
「どうですか、上手でしょう?おばあちゃんに極楽と言わせたテクニックです!」
光さんのドヤ顔しているがそれどころではない。
光さんのほっそりとした指先が丁寧に、背中全体を滑らかになぞる。
心地よい場所を全て見抜かれているようで、ぞくぞくと痺れるように快感が迸る。
「ふあああ」
快い感覚に身を任せ、魂から浄化されるように身を震わせ、脳をとろけたように声をあげる。
そんな未知の体験がいけないことをしているような気持ちになった。
「それにしてもエイナさん華奢ですね、ここまで綺麗に細いと羨ましくなります。」
光さんは普通に洗ってくれてるだけで、おれの邪な心がふしだらな光景を勝手に見ているだけなのだが、もぞもぞと悶えることは淫らなことだと思春期の男子が考えてしまうのは当然のことではないか。
でも今は女の子なのでただ何でもないことをエロいことに結びつける変態女子でしかない。
「も、もういいんじゃ無いですか……これ以上は勘弁してください……」
もう限界、何かに目覚めそうで光さんなしでは風呂に入れなくなってしまう。
「むぅ、そんなおめめぐるぐるで言われてしまっては仕方ありません、背中を流します。」
膨れっ面で不満足気な光さんに戦きつつ。
シャワーにあたる感覚か何より安心を誘う。
「前と髪は自分で洗いますから……」
なにやらじっとこちらを見てくる光さんは鏡越しに何かを確認している。
「……えい!」
光さんの手がするりと脇腹のあたりにのびて来ていきなり掴まれる。
「ん゛に゛ゃ゛ぁ」
エタって無いですじつは
一話に収まらず
エイナちゃんはBヒカリちゃんはEくらい
ヒカリちゃんはテンション高め
続きの更新は明日