特異なる魔法少女
とても静かになったエントランスに声が響く。
「さて、今日集まってもらったのはとても大事なマジルガの話だ。」
どこか、ひきこまれる優しい音色で、圧倒的な存在を示す、思わず傾聴したくなる声だ。
「最近、とてもマジルガの発生件数が減っていてね。皆も思っただろう?退治するマジルガが減っていることを。」
「はい、先月よりは明らかに。」
「そう、先月比でいえば二割は減少しているんだよ。はっきり言って異常だね。」
なにやらいい話では無いようだ。
光さんも真剣に聞いている。
「そしてこっちの方が大事な話で、一級以上の危険度のマジルガの発生の割合は増加しているよ。」
それはずいぶんと深刻な話だった。
マジルガには危険性の等級がわけられている。
一番下の三級は、人に損害を与える存在として認められたマジルガだ。悪戯や食い逃げのマジルガが主に該当する。次に二級は人に危害を加える存在と認められたマジルガ、通り魔や強姦のマジルガなどが該当する。一番上の一級のマジルガは、人に重大な危害危害を加える存在と認められるマジルガだ。爆破や殺人、惨劇のマジルガなど凶悪なものが該当する。
「それは……大変ですね、だから私達が呼ばれたのですか。」
「そうだね、だから君たち三等星の魔法少女を集めた。」
「!」
この人数の三等星の魔法少女、それほど大事だったのか。
マジルガにも等級がわけられているように、魔法少女にも魔法少女協会が認定する、等級がある。
六等星から一等星まであり基本的に魔法少女は五等星だ。
六等星、条件は魔法少女であること、魔法少女協会に所属していれば無条件で認定を受けれる。所属してなくても魔法少女であることを証明出来れば認定される。
五等星、条件は三級のマジルガの退治の実績があること。
魔法少女として活動しているならば自然と認定が受けれるであろう条件だ。
三万人いる魔法少女のうち二万人はいるとされる。
四等星、条件は二級のマジルガの退治の実績があること。
数年活動している魔法少女ならばほとんど認定されている。
八千人はいるとされる。
三等星、条件は一級のマジルガの退治の実績があること。
ここからは才能のある魔法少女のみがたどりつける領域だ。
それほどまでに一級のマジルガは強く危険である証明であり、わずかでも一級に敗北の可能性があれば認定されない。
三万人のうち千人ほどになる。
「今までははっきり言って飽和状態だった魔法少女の人数がひどくなるかも知れない。現状四等星以下の人数に対して三等星以上の人数はあまりに少ない、このまま一級のマジルガが増え続けたら皆の負担が大きくなり過ぎてしまう。」
「あまり、お気になさらないで下さい、私達はマジルガに対処するのが使命であり、生き甲斐ですから。」
「それは頼もしいけれど、それでは根本的な対処にならないからね。そこで皆には、四等星の育成に尽力して欲しいんだ。」
「そうですか。わかりました、会長の命、慎んでお請け致します。」
「それじゃあ皆、忙しいけれど、各々才能のある魔法少女を見繕って欲しい。時間はかかってもいい、三等星以上を狙える娘を見極めておくれ。」
「はっ、仰せのままに。」
「うん、では解散。」
あれだけいた女性達も一瞬で何処かにいき、理解が及ばず呆然とする。
その中心にいた何よりも暗い闇色の少女はこちらに向いた。
じっと、こちらを観察しているようで、ひとしきり見た後にこつり、こつりと靴音を鳴らしゆっくりとこちらに近づいてきた。
「久しぶりだね、光。」
「お久しぶりです、夜神さん。」
光さんは黒咲会長と知り合いらしい。きっちり背筋を伸ばして挨拶をする。
「少し話があるんだ。応接室まできてくれるかい?」
「はい!夜神さん!」
靴を翻し歩き始めた黒咲会長にピタリと後ろについていく光さん。
「ああそうだ、そこの君も出来れば来て欲しい。」
黒咲会長は首だけをこちらに傾け、見ず知らずのはずのおれにはっきりと用があることを告げた。
「はっはい。」
断るような気も起きないで、それで不快感の無い不思議な声で、光さんと黒咲会長の後についていく。
静かな廊下を渡り応接室に案内される。
「さて、話をしよう。」
とても高級そうなソファーにとさりと軽そうな音を鳴らし座る黒咲会長。
「はい!」
「光、君も四等星だ、それも三等星の筆頭候補だ。」
「そうですね。」
「そろそろ昇級検定があるからね、合格したら忙しくなるよ、四等星以下と違って責任を持つをことになるからね。覚悟は出来てるかい?」
三等星は四等星以下の魔法少女の昇級の認定や魔法少女協会の研修に関わることになる。
「覚悟はしてます。私は魔法少女として生きることを決めたので。」
黒咲会長はにっこり笑う。
「いい心得だね、いつまでもその心持ちを忘れないでね。」
「はい!」
「そしてそこの君、名前は?」
黒咲会長は漆黒の目をこちらに向けて、魂まで見透かすようにじっと見つめる。
「エイナ、です……」
魔法少女協会の頂点たる黒咲会長に見つめられ、とても緊張する。
「そう固くならないでくれ、エイナちゃん。私の名前は黒咲夜神、魔法少女協会の会長だよ。」
「はい、知っています、黒咲会長はかつて名を馳せた伝説の魔法少女ですから……」
「会長は付けなくていいよ、気軽に黒咲さんとでも呼んでくれ。」
「分かりました黒咲…さん。」
「うん、そうだね、エイナちゃんに一つ質問しようか、君はどうして魔法少女になったかな?」
「えっと……わからないです……」
おれは自分が何で魔法少女になったかわからない、おれが知りたい。
「そう、わからないんだね、それと少し見た限りではね、エイナちゃんははっきり言って異質なんだよ。現行の魔法少女としてはあり得ない、光と同じタイプだね。」
「それってどういうことですか……」
「君は魔法に選ばれた。魔法少女にではなく。」
「どういうことですか?」
違いがわからない。
「秘密だよ、まだ。」
「気になるんですけど……」
「こう言う夜神さんは意地でも教えてくれませんよ?」
今まで口を閉じていた光さんがしゃべる。
「夜神さんも勿体ぶった言い方して肝心なこと何も教えてくれないのどうにかした方がいいですよ!」
光さんは頬を膨らませ、黒咲さんに抗議する。
「勿体ぶっている訳でもないし言えないことも多いんだよ。」
黒咲さんは困った顔をする。
「どうしても知りたければ光も一等星になれば教えられるけどね。」
「分かってます、魔法少女の秘密は一等星しか知れないことも、私はそれもあって一等星目指してますし。」
膨れっ面を萎ませ光さんは諦念して言った。
「行きましょうエイナさん、もう話すことも無いですし。」
「えっあ」
光さんは強引におれの手を引き応接室を後にする。
「光、頑張るんだよ。」
「はい!」
はっきりと、様々な感情を乗せて返事をして、扉を閉めた。
「外で少し話ましょうか。」
廊下からエントランスに向かい、出入口から外に向かう。
また改変するかも