魔法少女であるということ
暗い暗い光なき世界。
目を開けているはずなのに一分の先まで見えやしない真なる闇の中。手を伸ばそうとしても、ただ鈍く動かしにくい抵抗感が伸し掛かる。
硬い床でも柔らかい羽毛でもない流れの無い海で漂うような、独特の浮く感触が体を支える。
そもそも重力も感じられない宇宙よりも暗い場所に体感なんて曖昧なモノに意味なんてない。
誰かが思い描く幻想の内にあるここは影の中、正確言うならおれの影の中だ。
あの魔法に巻き込まれる一瞬、おれは影の中に自分を引きずり込んだ。
無意識ゆえの生存本能か……こんなこと出来るとは思わなかったが出来た以上深く考えるのも無駄だ。
魔法少女にとって己が魔法は息をするようなものなので反射で使うことも良くあるだろう、多分。
でもおれが魔法少女に生まれ変わって魔法について考えたことなかったな。
出来る出来ないは何となく分かるが、具体的に何が出来て何処までやれるかなんて理解していない。
日が浅い魔法少女歴なものでフィーリングで魔法少女をやるしかない。
魔法少女については知っている、幼少期より憧れていた彼女達についてはテレビやインターネットのメディア露出している人の情報は可能な限り追っているから名前、趣味特技まで大体分かる。
マジルガについても魔法少女の相手としてかなり調べているので現役魔法少女と同じくらいには知識があるはず。
これは人生を魔法少女に捧げた副産物なので魔法少女になってめちゃくちゃ役に立つのがありがたい。
でも魔法というものに対しておれはあまりに無知だ。
……そもそも魔法少女になったばかりでうだうだ考えることじゃないな、頭も良くないおれが考えるより体に身を任せ動くほうがいいか。
一人孤独に居るだけの世界は、息も、声も存在してるか不確かで、このまま影の世界に溶けてしまいそうな気がしたので抜け出そうとする。
おれの意に従うように現実世界に引き戻される、気分は釣り上げられる魚、影のあった地面に頭から勢い良く飛び出して空中にあいきゃんふらい。
やりすぎた、辺りの家の屋根を越すぐらいにまで飛んでいき、そこから自由落下を始めアスファルトに加速してゆく。
まあ死ぬような高さでは無いが着地がちゃんと出来るかというと……!
「へぶっ!」
出来なかった、そういきなりスタイリッシュに出来る訳がなく足がもつれてゴロンと地面に転り打つ。
光さんはおれを背負いながらも飛んで跳ねて華麗に動いていたのに情けなく横たわるおれのなんと惨めなことか。
それでも全身にじんわり響く打撲の痛みにあんまり見られたくないダサい姿で済んだことに喜ぶべきだ。
目の前に居たマジルガが綺麗さっぱり消え去ったのを見ると影の中に居らず完全に魔法に呑まれていればああなっていただろう、そう考えるとゾッとする。
とりあえず思考を切り替えて次を考える、兎にも角にも光さんの下に合流しなければ。
あんなこと言って離れたが流石にこれは想定外だ、光さんの迷惑にならないようにあの場を離れようとしたがこんな知らぬ場所にすっ飛ばされるなんて予想出来ない。
全てが未知、一度死んだ身としては何があっても受け入れるが何かに巻き込まれてばかりだ。
光さんはおれが消えたとなれば探しにくる、ただでさえ迷惑をかけているのにこんなことになっては光さんに迷惑をかけすぎているから無事に顔を出して安心させたい。
問題はアスファルトに仰向けになって見える、夜空を覆う白濁と輝く圧倒的な魔法。
あの裂け目から溢れた魔法が今にも動き出そうとしているのを見て急いで立ち上がる。
あの一瞬をなんとかしても、あれはただの始まりの合図に過ぎなかった。
飽和した魔法がうねり荒れては今にも弾けそうに活動する、おれに出来ることは何も無くて、そのまま走り出す。
光さんに会う前にここから離れるのが大事で、でも現実はそううまくいかなかった。
「sguuukii?」
頭上から落ちてきたソレは、魔法としか言えない不定形に異形の頭、足、腕、翼までついた、何処か見たことのあるパーツも見たことのないパーツもついたなにかだった。
推測は立つ、新人魔法少女でも分かるあの圧倒的な魔法は何処までも純粋で、それ故にやばい代物だと。
これは、魔法の根源だ、おれ達が使う魔法の、人類が願ってしまったマジルガの大元だからマジルガが混ざった魔法の塊であるそれはマジルガキメラとでも言えるものだ。
「何でこうなる!」
狡猾のマジルガも、知らないマジルガが混ざったマジルガキメラに魔法で足止めをしつつ精一杯走る。
「shhiiiiiaaaaa!」
おれの魔法じゃ意に介せずこちらに向かってくる、明らかに強くて二級どころか一級の領域にあるマジルガキメラに明確な殺意を持って腕を振るわれる。
死ぬ、死ねる、死んでしまう。そんなことばかり頭によぎっておれは、何も動けなかった。
「エイナさん!」
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
「えっ?」
視界は切り替わり、光さんの家の瓦礫の前に見える。
そして遅れておれが光さんに抱きつかれている形で支えられていることに気づく。
「ふー、ふぅ。無事で良かったです、エイナさん。」
息を切らしながらも心底安堵した表情でこちらを見ている光さん、現実にだんだん引き戻されて理解する。
光速移動、乾いた血が張り付いたまま光さんは、何も顧みずおれを助けに来てくれた。
「ごめんなさい……」
自然と涙がこぼれる、おれは結局光さんに迷惑かけて助けられるだけで光さんに何も出来ない無力さに、そんなことしか言えなかった。
「迷惑かけてばかりでごめんなさい……」
魔法少女に憧れて、誰かを助けたかったのにおれがしたことは人の足を引っ張るだけでなんのために魔法少女になったのか分からなくなる、誰が望んだ?なぜおれが魔法少女になった?
「生きていてごめんなさい……」
あの時死んだほうが良かったんじゃないか?
ああ、気付かなければ良かった。生きている理由も、意思も、なくしてしまうなら、知りたくなかった。
憧れた魔法少女の力を持って、役に立てなくて誰かを傷つけることがこんなにも苦しいなんて。
「謝らないで下さい!」
そう言って光さんはおれを抱きしめた。
「いいですか、エイナさんは何も悪くないんですよ!悪いのはマジルガなんですから!」
抱きしめる力が強くなる。
「エイナさんは優し過ぎます、私の傷はマジルガのせいでついたものでエイナさんがあんな場所に飛ばされたのもマジルガのせいです!エイナさんのせいなんかじゃありません!」
何処までも優しく言い聞かせるように話してくれる。
「でも」「マジルガのせいです。」
「迷惑」「マジルガのせいですから。」
「謝るのは私の方です。」
言葉に重ねてまくし立ててくる。
「魔法少女になりたてでこんな過酷な現場に付き合わせてしまった私が悪いのです。」
抱きしめたまま優しく頭を撫でられる。
「魔法少女の右も左も分からないのによくついてきてくれました、感謝することはあっても迷惑なんて思うことは絶対ないんですよエイナさん、私の言うこと、どうか信じてくださいね。」
「はい……」
涙だけが溢れては大粒の雫となって流れていく。
ずるい言い方だ、おれが謝っていたのにこれじゃ謝ることも出来ないよ……
おれは優し過ぎたと言うけれど、おれが憧れた優しい魔法少女そのものが光さんだ。
……本当におれにはもったいない魔法少女だ。
更新する言うて二カ月
日が空くと何書いてるかわからん
サバイバーズギルト発症エイナちゃん、可愛いね
次から終盤です
更新は明日




