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魔法少女の光と影  作者: 生姜焼き
陰陽コミュニケーション
2/21

幼女と影と魔法少女


 あれから三日経った。

未だにおれは何も出来ていない。

家の冷蔵庫も空っぽになったし電気も水道もガスもいつか止まる。


 何かしないといけない、でも何も出来ない。

魔法少女って何してるんだろう。


 マジルガに対応して、人助けして、あとは……

学校に行ってたり仕事してたり……


 ああ、みんな普通に過ごしてるんだ、日常があって、帰る場所があって、生きる。


 おれは魔法少女だ、魔法少女である事を魂で理解している。

おれが生きているのは魔法少女に為ったからだ。


 でもおれは死んで、家族も居なくて、だからおれには魔法少女であることしかない。

そうだな。


 外に出よう。

俺は魔法少女何だから人助けしよう。


 ごめんお母さん、何も出来なくて。


「行ってきます」



 寒いな。

木枯らしが紅葉を散らし紅いカーペットを敷き、冬に向けて景色を変える街模様だ。

慌ただしい師走の気配を肌で感じながら、変わらぬアスファルトの道を歩いていく。


 昼間から平日に出歩くことなんてなかったから新鮮だな。

世界が様変わりしたように見えるのは気のせいじゃないだろう。

生まれ変わって初めて見える視点もある。


あのいちょう並木の公園に行ってみようか、きっと絶景だろう。


 歩く、歩く、新しい日常を。

思う、思う、魔法少女を。


 黄金の葉が舞い落ちる最中、枯れ葉で遊ぶ子供たちの喧騒が心地よく響く。


 少し足を休める為にベンチに腰をかける。

心安らぐ一時に、さっき自販機で買ったコーンポタージュを飲む。

肌寒い風の中、魔法少女の格好より薄着の子どもがおれより元気にはしゃぎまわるのを見ればつくづく子どもは風の子と言うのがわかる。


「お姉ちゃん」


 おれも昔は外で遊ぶのも好きだったはずなんだけど、今はもう外に出る楽しさを忘れて……


「お姉ちゃん!」


「んえ?」


 おれに妹などいないが。

目線を下に下げれば、可愛らしい女の子が。どうやらただの二人称であったようだ。


「お姉ちゃんは何してるの?」


「うぅ」


 純粋無垢なストレートの質問が心に突き刺さる。


「えーっとお姉ちゃんはね、魔法少女なんだ。」


「そうなの!?」


 手を口にやりたいそう大袈裟にリアクションをとる幼女。


「すごいすごい!初めて見た!生魔法少女!」


 とてもキラキラした目でじっと見つめてくるから、少し恥ずかしくて目を逸らす。


「そう、魔法少女だから皆が困って無いか見回っていんるんだ。」


 他にやることもないし。


「ねえねえお姉ちゃん?」


「何?」


「お姉ちゃんは何ができるの?」


「うんとね。」


 何が、という抽象的で哲学的な難しい質問だ、でも多分聞きたいのは魔法の事なんだろうな。


「地面の影をみてて。」


「はーい」


 魔法少女は知っている。己の魔法を。

鳥が空を飛ぶように、魚が海を泳ぐように、魔法少女が魔法を扱うのは、至極当然な自然の摂理と言える。


 ゆらり、と日を背に在るべき人影が揺れる。

歪み、形を変え、二つの小さな影は踊り出す。



「なにこれなにこれ!」


「影を操ってるんだよ。」


 物理的にあり得ない挙動だって影だけならば色々できる。

背を伸ばし、髪型を変え、大人っぽく変えてみたり、逆にうんと縮めて赤ちゃんみたいにだってできる。


「誰にも出来ない特別な影芝居、素敵でしょ。」


「うん、すてき!」


 無邪気な笑顔が可愛らしい。


「でもお姉ちゃんなんで楽しく無さそうなの?」


「え?」


 いきなり心に突き刺さる言葉が。


「そ、そう見える?」


 思いもよらない言葉に動揺し過ぎてちょっと言葉が震える。


「だってお姉ちゃん一度も笑ってないじゃん。」


 ピタリと、震えが止まり理解する。

そっか、笑えてないのか。知られたくない陰キャの性ではあるが、嫌な図星をつかれれば誰だってこうなるだろうと思いたい。


「ごめんね、楽しそうじゃなくて。」


「もう、そんな悲しそうな顔して笑わないでよお姉ちゃん。似合わないよ。」


「うん、そうだね。」


 幼女に慰められてしまった。


「キャーアア」


しんみりとした空気を破り、悲鳴が響く。


「Buuun」


 排気音のような音をならし走るバイクに上半身をくっつけただけような黒い泥人形。

いちょうの舞いを物ともせず公園を走り抜く。


「マジルガ!?」


「何あれー!?」


 僅かに目視出来るだけのスピードを出して疾走するマジルガ。

通り過ぎた突風によってスカートが捲れ上がった。


「っちょっとま」


 スカートを抑え恥じる体に対し意識が反射的に魔法を行使する。


「ってえええ」


 自らの影を伸ばしてあのマジルガの影を掴む。

そしてマジルガに引っ張られるように体を寄せて行く。


「頑張ってー!」


 小さな応援に見送られマジルガを追いかけていく。



「あああはやいぃぃ!」



 おれの魔法はあくまで影を操るものでおれ自身は普通の人間位しか動けない。

だからおれの()()おれを引き寄せる事でマジルガの影に掴まっているおれのの影と一緒に追跡しているのだ。


 簡単に言ってしまえば魔法でマジルガにしがみついているだけにすぎなくて、情けなくジェットコースターに振り回されてる人状態だ。


「ううううう」


 それにしても早い!

目まぐるしく変わる風景、恐ろしく体を押す風、あっという間に隣街だ。



「止まれええ」


 やられっぱなしではないと影を全力で引き留める。


「Bruuunnn!?」


 ジリジリと減速して行くのに対しこの爆走マジルガは全力で抵抗している。


そして減速しきれなくなって徐行状態で拮抗していると。



「そこまでです!」


 視認さえ出来ずマジルガが()()()()、影も形もなく消え、マジルガの影に掴まっていたおれが放り出され、何者かに激突した。




「うわあ!」


「へびゅ」



「いたた、大丈夫ですか!?」



 顔から柔らかな人体に衝突し勢いを殺して地面に倒れこんだおれに声をかけられる。



「うーん」

 

 くらくらするなか声に応えようと顔をあげると。


「ぽきょぇ?」


 テラテラと眩しく反射する白い髪、燦々と輝く黄金の瞳、白と虹で彩られた、巫女服のような和装ドレスに浮かぶ羽衣を纏う今をときめく新星の魔法少女光さん(魔法少女ver.)だ!



「えーっと、お名前分かります?」



「えっえっとわたくしは名乗るほどのものでもないと言うか大変失礼にあたるよな事なんじゃないかと思わなくもないと言うかつかぬことを申し上げると大層のものではないと言いたいのですが……」


「えっと落ち着いて下さい?」


「あっすいませんえっと自分の名前はかげってじゃなくてえいっていうなであって」


 落ち着けなんで光さんがここに?ってそんなことどうでもいいっていやよくなくないって


「エイさんですか?」


「あっいやエイナです……」



「そうですか。あとエイナさんは魔法少女…ですよね?」



「ひゃいい」


 頭まわんないどうしようどうすれば


「きゅいいい」


パタン


「あれちょっと大丈夫ですか!」



限界オタク死亡(気絶)

更新はまた明後日

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