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魔法少女の光と影  作者: 生姜焼き
陰陽コミュニケーション
16/26

影法師の夢


 暗い微睡みの中でずっと揺蕩う。

世界は朧げに、されど確かな感触を持って輪郭を象る。

ふわふわとあちらこちらに彷徨う意識の曖昧さに頭が混乱する。


「オレが居るだけでこうなるお姫様には、まだまだ成長して貰わないとな。」


 カーテンを閉ざして、灯りの一つもない暗闇に包まれた寝室におれの声が静かに響く。

決してあり得ないはずの、夢の元にいるおれに聞こえるおれの声は一体なんなのだろうか。


「夢じゃねえよ。いや、お姫様からしたら夢みたいなもんか。愉快な話だ。これが夢のはずがないと一番知っておかなきゃいけないのにな。」


 薄々とした世界の認識を広げてみるとおれの体の姿がはっきりとしてきた。

これは明晰夢ってやつだろう。おれ自身は動けないままおれの口がよく分からないことを言っているのだから。


「お姫様は起きるにはまだ早い、今は弱くてもいつか目覚めてくれないとオレが困る、お姫様の為にオレが体を張るとしようか。」


 おれは周囲の状況がわかってきた。

おれの姿は素肌の感覚を覚える、感じることを考えるに全裸だ、それに、辺りは暗くて見えないが何故か、おれが布団に安らかに息一つたてず眠るおれを見下ろしているのがわかる。


「オレが今から教えることはほとんど伝わらんだろうが少しでも覚えていて欲しい。」


 体を伸ばしながらストレッチをしているようで肌をなぞる空気がわかる程感覚が冴え渡っていた。


「まずオレは五感で感じるだけじゃ駄目だ、魔法を使うその意味を知れば世界のことは、もっと広がる。オレのことを知れる。」


 暗闇にあったはずの視界がしっかりと見えるようになり、灯りがついているようにさえ思える。

一糸まとわぬ裸体が見え、ただ眠るおれの姿も見える。


「オレに出来ることはお姫様にも出来るのさ、今は力が足りないけどな。まだまだこんなもんじゃないぜ。」


 カーテンをしゃっと開け放ち、沈みつつあるがまだまだ高い日が照らす二階から見える外の景色を一望する。


「いい世界だよな、ここは。オレはこんな世界を守りたいんだよ、だからお姫様にも強くなって欲しいのさ。」


 おれの口から出るにしては大層なことをいうのを感じつつ、深く呼吸して生きていることを懸命に確かめるおれ。おれの取りうる行動じゃない、おれはこんなに明るく為れない。


「お姫様は自分を卑下するのが大好きだからなあ、いつか自分を認められる日がくるといいな。」


 何故か自分の口からおれの説教が飛び出してくる、夢のくせにここでも自虐なのか。


「そういうことじゃないんだけどな?」


 苦笑するおれは自問自答の答えを一蹴する、どこまでも他人事で知らない自分を鏡で見ているみたいだ。


「それも間違いじゃないが、正解じゃない。当たらずとも遠からずってやつかな。」


 寝ているおれの横でくるくる回りだしたおれはあらぬ思考を放り投げ、ただ身を任せる事にした。


「知らない人の夢を見ているとでも考えてくれ、なにせこんな奇跡は二度と無いしな。」


 すると意識が切り離されるようにおれの姿が俯瞰するように映る。

誰もいない映画館で一人座る寂しさを覚え、映るおれの姿に少し恥ずかしくなる。


「お姫様は自分の全裸は恥ずかしいんですかね、オレはお姫様の為に服を着るとしましょうか。」


 瞬き一つする前に、素肌は完全に服に覆われていた。

黒いヴェールを身につけて片目が隠れるように流された髪に、水黒のチェックの前結びのワンピースドレスに白い刺繍の入ったケープを纏う少女がそこにいた。


「オレはあんまりファッションセンスねえなあ、もっとかわいくてもよかったな。」


 絶対おれには着れない女性用服を軽々しく着る姿に戦々恐々とする、おれの姿をしながらもここまでするとは……!


「お姫様はアレだな、随分難儀な性格してるな。大体事情が分かってても面倒くさいとはなるな。」


 もうボロクソに言われるのも仕方ないとは思うけどとやかく言われるのも腹が立つ。


「まあもういいよ、オレがお姫様に教えることがあるしさっさと済ませちまおう。」


 ため息を吐きつつやれやれと歩き出すオレの姿に思う所がありつつただ見ている。


「あの光に見つかっても困るし移動するか。」


 光さんの家をいるのが困るといったように一瞬で景色が変わる。

そこにあったのは静寂に包まれた教室だった。おれのいた中学校、そのクラスの教室。


「ここなら存分に話せるな、と言っても教えることに大事なことは無いけどな。」


 中央の机に堂々と座り、指をびしりとこちらに、向けてくるおれ自身。


「おさらいだ、オレはマジルガに襲われて死んでしまい、不幸にも魔法少女に生まれ変わってしまった、ここまではいいな。」


 それはそうだ、ただ純然たる事実であり、避けようの無い惨劇の果てにおれはここにいる。

何故おれが魔法少女になんてなってしまったかのこともわからずに。


「まあそう逸るなお姫様、今知っても意味が無いし知らない方がいいこともある。」


 訳知り顔でそういう自分のことをはぐらかすおれの姿をした人は笑う。


「完全に別人として認識されたな、仕方ねーけど今はその方が自然だ。」


 もう何言ってもなんだか信じれる気にはなれない。


「それでいいぜ、オレと話すなんて本当はもっと先の話だったんだ、情報が足りない中でこんなこと言われても困るよな?」


 そうだ、何も分からず生きるのもしんどいし、漠然と未来を見るのも辛い。ただ、眠りたい。


「思ったより限界が近かったからオレがここにいるんだからな。ここからは一人ごとだ、もうお姫様と一緒に居るのもそろそろ限界だしな。」


 はっきりしていた感覚に亀裂が入り、意識が少しづつ剥がれていく。


「お姫様はこれから辛い運命に巻き込まれる、これは生まれ変わった時からの運命で避けられない。」


 おれの知らないどこまでも慈愛に満ち溢れて居る顔で、こちらに微笑むおれの姿。


「オレに出来ることはほんの手助けだけだ、それでもオレはお姫様はこれからのことをきっと乗り越えられる、オレはそう信じている。」


 そこにあるのは無限の信頼、決して他人事なんかじゃない誓いのエール、背中を押してくれる期待。


「艱難汝を玉にす、今は何も知らずとも、何の力も無くとも、やがていつか花開く時がくる。生まれた意味を知る時がくる。それまではどうか希望を持って、過ごして下さい。」


 ほとんどの感覚が薄らぐ中で贈られる言葉は聞こえずとも確かにこの魂に届いている。

何も分からないおれでも頑張れるだろうか。


「ほとんど覚えていることはないと思うがこれだけは覚えておけ、“影法師はずっとそばにいる。”忘れんなよ。」


 消失していく意識の中で最後に笑った顔を見ておれも忘れないと誓った。



「起きて下さいエイナさん!ご飯ですよ!」


 顔を近づけて起こす光さんに何か新しいことがおこる予感がした。

影法師ちゃんは大体ホワイトさんです

それだけじゃないですが

更新は明日

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