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ショートショート5月〜4回目

バケツ

作者: たかさば

 …たまには公園にでも、出かけてみるか。


 気まぐれに、近所の公園へとやってきた。


 子供の頃に何度か訪れた事がある、大型の公園。大きな池と、アスレチックコース、自販機コーナーに遊歩道…わざわざ出向くような魅力的な公園ではないが、市民の憩いの場になるようなスポット。


 平日の昼間ということもあり、人は少なめだが…子連れや高齢者がボチボチ目にとまる。


 木陰の、風通しのいい遊歩道をしばらく歩いて…池を望む休憩スペースのベンチに腰を下ろし、ひと息つく。


 キラキラとした湖面を眺めながらぼんやりしていると、アオサギが飛んできて…着水するのが見えた。

 波紋を目で追い、しばしのどかな光景を…楽しむ。


 ふと、目の端に…違和感のようなものを、感じた。


 濁った湖面の周りに生えている、雑草の中に…、人工的な、色が、ある。


 ……あれは、なんだ?

 目を凝らしてみるが、よくわからない。


 近くに行ってみれば、正体がわかるかもしれない。

 だが…池の周りは小高い崖になっていて、近づく事は難しそうだ。

 どこかに観察できるポイントがあるかも知れないが…そこまでしようとは思えない。


 ……そろそろ、行くか。


 私はベンチから立ち、公園をあとにした。




 ……公園にでも、出かけるか。


 近所の公園へと、やってきた。


 平日の昼間のわりに人が多いなと思ったら…もう夏休みなのか。


 木陰の、風通しのいい遊歩道をしばらく歩いて…池を望む休憩スペースのベンチに腰を下ろそうとしたが、あいにくといっぱいだ。


 キラキラとした湖面を眺めながら散策路に入ると、目の端に違和感のようなものを感じた。


 濁った湖面の周りに生えている、雑草の中に…、人工的な、色。


 ……あれは、ベンチから見えたやつに違いない。

 目を凝らしてみると…小さなバケツの底だった。

 この池の一部では釣りができるようになっているから…そこから流れ着いたものなのだろう。


 池の周りの崖を囲うように植えられている生け垣の、ほんのちょっとの隙間から見えた、この景色。


 注意深く見ていなければ気が付かない場所。

 気がついても、取りに行けない場所。


 ……いったい、いつからあの場所にあるんだか。


 私はそんなことを思い、公園をあとにした。




 ……公園に、出かけるか。


 今日も近所の公園へと、やってきた。


 平日の昼間、あたりに人は少ない。


 落ち葉だらけの遊歩道をしばらく歩いて…いつもの場所に向かう。


 キラキラとした湖面を背景に、濁った水と荒ぶる雑草に囲まれた、人工的な色。


 ……今日も、あった。

 小さな、バケツ。


 こんな場所にあっては、誰も気が付かないのだろう。

 こんな場所にあっては、気づいても拾ってもらえないのだろう。


 ……いったい、いつになれば、あの場所からすくい上げてもらえるんだか。


 私はいつものようにそんなことを思い、公園をあとにした。




 ……公園に、出かけよう。


 近所の公園へと、やってきた。


 平日の昼間…誰も、いない。


 誰もいない道をしばらく進んで…いつもの場所に向かう。


 ……今日もあって、良かった。

 小さな、バケツ。


 ……いつまで、気付かれずにあの場所にいることができるんだろうか。


 私はいつもと同じように思い、公園をあとにした。




 ……公園に、出かけると。


 いつもとは違った光景が…広がっていた。


 平日の昼間…公園内のあちこちに、作業員がいっぱいいる。


 人を避けながら遊歩道を進み…散策路に入る。


 ……目の前に広がる、違和感。


 濁った湖面が、ない。

 太陽の光が反射しない、泥。

 雑草が、どこにも見当たらない。


 濁った池の水が、抜かれてしまったようだ。

 きっと、新しい水が入って…美しく輝くのだろう。

 池の周りの崖を囲うように植えられている生け垣も、奇麗に刈り揃えられて…スッキリしている。


 この場所から、池全体が…見渡せるようになった。


 いつも見ていた、人工的な、色が。

 ……どこにも、見つからない。


 ああ、ついに。


 あのバケツは、見つかって…しまったのだな。

 あのバケツは、すくいあげて…もらったのだな。


 ああ、これで。


 私の、バケツがある事を確認する日々は…終わったのだ。


 ああ、……いつか。


 私も、誰かに……、気付いてもらうことができたら、いいな。


 そんな事を思い、公園を…あとにした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] バケツを確認するのが楽しみになっている人かと思いきや、 同志を見つけたような感覚だったのかもしれませんね。 しかし、バケツは先にいなくなってしまい…主人公も誰かに気づいてもらって欲しいもの…
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