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玉兎の憂鬱  作者: 残解
序章・月の裏の月
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序章・第八話



私は綿月豊姫。ここ、月の都を守る『月の使者』をやっている。家の妹に誘われて入ったのだか、月面の裏の裏にある月の都に誰か来るわけもないのでかなり暇。



やることと言えば、配下の玉兎たちを鍛えたり、妹の依姫と鍛練したり。後は桃を食べることだろう。月の桃は大体は私が育てているせいか、私の名前をもじってよく『桃姫』と呼ばれることがある。私自身も桃が好きなのでこのあだ名は密かに気に入っていたりする。



ちなみに配下の玉兎と言うのは、『月の使者』の配下の玉兎でイーグルラビィから選ばれる。いわばエリート玉兎と言ったところだろう。私たちから選ばれるか、ある一定以上の実力を持っているかで選ばれるが、基本的に私たちが選んでいる。



鍛えると言っても何か教えるわけでも無く、ただ手合わせをするだけだ。まあ、玉兎が良く使う武器がレーザー銃なので、刀を使う依姫と扇を使う私では教えることがないだけだが。



そんな暇な生活の中にある面白いことが起きた。月のトップである月詠様に呼ばれたのだ。月詠様に呼ばれること自体は初めてではない。しかし、私単独で呼ばれたことが無かったのでかなり興奮している。



用事は月詠様の部屋に着いたら教えると言われていて、部屋に着くまでにどんな用事かを考えてみる。最近私の近くで起こった出来事と言えば、依姫がある一匹の玉兎に斬り付けかけたということぐらいか。イーグルラビィのことや、私が育てる桃のことに何か言われたことはないのでおそらくだか、あの玉兎の件だろう。



それにしてもあの時は驚いた。いきなりいつも冷静なわが妹が屋敷にいた玉兎に斬りかかるなんて。侵入者かどうかはまず確認からと教えたことがあるがいくら経っても頭よりも身体が動いてしまうあの癖はなかなか治らない。



まあ、それが依姫のかわいいところなのだが。あの時、冷静にその場を治めたが正直言うとかなりヒヤヒヤした。あの玉兎が攻撃を止めていてなかったらどうなっていたことやら。どうやって止めたかは分からないが、何かしらの能力を使ったことは明らか。



だけれど、能力持ちはこの月では珍しくない。妹の依姫は『神霊を呼ぶ程度の能力』私は『海と山を繋ぐ程度の能力』と能力を持っている。だからだだの玉兎が能力を持っていてもおかしくないというわけだ。さて、そんなことを考えていると月詠様の部屋の前に着いた。



バカみたいに大きな扉を開ける。



ウィーン



やっぱりこの扉、大きすぎではないだろうか。何度かこの扉が開くところを見てきているのだかやっぱり慣れない。この大きさの扉は月の都にもこれ一つしかない。上層部が月詠様にと作ったらしいが、これは逆に迷惑ではないだろうか。



ここまで大きいと動かすのにもかなりの電力を食う。強度も凄そうだが。ちなみに下のほうに小さなドアがあるが、それを知っているのは私と師匠だけ。わざわざこの扉を『開けるのめんどくさい。』と言って月詠様が扉に穴を開けたのを今も覚えている。しかも拳で。


























月詠様の前に出て、跪く。



「失礼します月詠様。今日はどういったご用件でしょうか。」



「やあ、豊姫。まあ座りなよ。」



「では、失礼します。」



座るよう促されて、月詠様の向かい側に座る。月詠様の部屋は特にめちゃめちゃ派手と言うわけではなく比較的シンプルで、例のバカデカイ扉を作った上層部とは違い質素だ。だけれど、一応は月のトップなので奥に豪華な部屋があるが、使っているのを見たことがない。一度入いらせて貰ったことがあるが、なんか倉庫と化していた。



「それで、ご用件とは何でしょうか。」



とにかくそんなことより私単独に用事とは、何かしらの理由があるのだろう。月詠様はむやみに人を使ったり、呼んだりしない。いつも何かしらの理由がある。いままでもそうだったので呼ばれることに抵抗はないが、なぜ私一人なのかは気になるところだ。







「…………依姫がある玉兎に攻撃した件だけれど。」



その一言に背筋が凍る。薄々気が付いてはいたが、あの玉兎は月詠様の何かなのであろう。月詠様の屋敷の中に普通の格好でいること自体がおかしい。それから気付くべきだったのに、私は全く持って未熟だ。しかし、今は自分の未熟さに浸っている場合ではない。



「申し訳ありませんでした。私がもっと早く気付き、依姫を止められていたら…………」



私が依姫を庇ってあげなくてはならない。そもそも私が早く気付いていれば依姫はあの玉兎を攻撃することはなかったのだ。私が月詠様の言葉を待つ。数秒後月詠様から発せられたのは怒りの言葉でも、戒めの言葉でもなく、



「どうだった?」



一つの質問だった。何がどうだったなのか、言われた瞬間は分からなかった。今さっきまで咎める言葉を予想していたからか少し答えるのが遅れる。だか、こちらも伊達に何億年も生きていない。直ぐ様理解する。



「例の玉兎と依姫の刀を止めたことでしょうか。」



が、一応確認として月詠様に聞く。



「へえ、依姫の刀を…………」



月詠様が相槌をうち、頷く。どうやら合っていたようだ。しかし、なぜそんな質問をしたのかはわからない。続けて聞いてみる。



「なぜ、そのような質問を?」



「いや、その玉兎の能力が私ではわからなくてね。それで、君たちに合わせてみたという訳だよ。」



と、なると………



「月詠様がこれを仕掛けたんですか…………」



それに対して、月詠様は頷く。確かにおかしいと思ったのだ、見た目は子供の玉兎なのに通行証も持っているし。まあ、でも良かった。本当にこれが月詠様の起こした物ではなく、事故だったとしたら依姫がいくら『月の使者』だからと言っても、一月人。上層部に目を付けられ裁かれていたかもしれないので本当に良かった。



「良かった…………」



「おや、まだ安心するのは早いよ。」



「えっ!」



月詠様の言葉に驚く。どういうことだろうか、今回の件は月詠様の起こしたことであって、依姫が罰せられるものではないはず。なのに…………



「そんなに警戒しなくてもいいよ、ここの為に尽くしてくれている君たちを罰するつもりはないさ。」



じゃあどういうことだろうか?罰しないのなら何を………


   

「依姫に《《お仕置き》》を頼めるかな。」



真顔で言ってくる月詠様。これには私は喜んで答えるしかない。



「喜んで。」




























「と、言うわけだよ。」



いままでの流れを聞いて私の顔に穴が開いてしまいそうな程、とんでもない形相で睨んでくる依姫。そして、左手を刀にあて今にも刀を引き抜き切りかかって来そうな体勢でこちらを向いている。



「まあまあ、いいじゃないか。小さいときに良くされていたし、今さらだろう?」



「それがっ!いやっ!なんです!」



月詠様に弄られ、顔をさらに真っ赤にして怒る依姫。怒ると言ってもそこにある感情は怒りよりも恥ずかしいの方が大きいだろう。それを見ていると、やっぱりいくら生きても我が妹はかわいい。それだけは変わらないだろう。これから先ずっと。


























「……お……姉…様?お姉様!聞いてますか?」



「あら、ごめんなさい少しボーッとしてたわ。それで、なにかしら?」



どうやら話を聞いてい無かったことがばれてしまったみたいだ。先ほど月詠様の部屋を出て、自分たちの部屋に戻っているところ。



「もう!しっかり聞いていて下さいね?それで、あの玉兎にはどこににいけば会えると思いますか?」



「あら、惚れたのかしら?」



「違います!この前のことをちゃんと謝れていないので。」



「かなり先になると思うけれど、いずれ手合わせするでしょう?その時に謝ればいいじゃない。」



「それじゃあ遅いですよ。」



手合わせと言うのは、月詠様からのお願いだ。なんでも、『彼がある程度の実力を身に着けたら手合わせしてほしい。』とのことだ。月詠様のことだからかなり鍛えてくるので、かなり先になると言ったのはその為だ。まあ、玉兎が強くなる幅なんてたかが知れているけれど。だけれど依姫の攻撃を止めたのだ、きっと楽しませてくれるだろう。



「お姉様!聞いていますか!」



「あら、ごめんなさい聞いていなかったわ。」



「ちゃんと聞いていてください!」



本当に。



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