序章・第六話
「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
迫りくる斬撃を全身に妖力をまとわせ身体を強化し避けるか、昨日選んだ刀、『望月』に妖力を込めて斬撃を流す。四方八方から飛んでくる斬撃は、俺に休む暇を与えてくれない。それどころか息もする暇すらも与えてくれないほど激しい攻撃。もういじめである。これ。
ちなみに、妖力の纏わせ方はスマホを充電した時と似たようなもので、身体から出る妖力の流れを全身に移動させることで身体能力を強化することができる。これにより、あの重たい刀を軽々と持ち上げられるようになった。
振ったりするのはかなり反動が来てしまうけれど。
それで何をしているかと言うと、月読様との特訓だ。いきなり始まったのだが、なんで始まったんだったか。
たしか……………
ピピピピピピピピ
「あふ……………」
スマホのタイマーが鳴り目を覚ます。
昨日は寝坊してしまったので、一応早くタイマーを掛けていた。早く掛けておいて損はない。
体を起こしタイマーをとめる。
ベッドから降りて、朝食の準備を始めようと立ち上がりキッチンまで移動する。
キッチンはIH のようなものが二口付いていて、広い水回り。更には冷蔵庫や電子レンジ、食洗機まである。ありがたいことに、冷蔵庫には沢山の食材が詰まっていて、調理器具も揃っている。
早速、IHを付けて鍋をあたためる。今日は月詠様に早くきて欲しいと言われているので簡単に卵焼きにご飯、そして味噌があったので味噌汁を作ろうと思う。
前世がこんな生活リズムだったからか、体にこれがしみついてしまっているなぁ…………
朝食を食べ終わり、台所まで行き食器を洗う。洗い終わり、部屋に置かれている時計を見る。
…………まだ6時30分だ。
月詠様との訓練の時間は8時30分から。つまりは時間が余ったということ。
なにしようか。
早く起きすぎたことを後悔する。
だがしかし、時間は戻らない。今さら後悔しても無駄なのだ。
さて、この余った時間をどうするか。
特にすることはないので、早めに道場に行くとしよう。
と、言ってこのざまである。
「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんで俺は早く起きすぎてしまったんだ。
くっ誰が何のために!なんで朝の5時なんかにタイマーをセットしやがった!
だか、タイマーをセットしたのは紛れもなく、俺だ。自らを恨んでもしかたがない。前世でも早く起きすぎて面倒ごとに巻き込まれることはよくあったのだ。全く学習していない。
ところで、俺は良く月詠様の攻撃を受けていると思う。前世ではこんなことやったことなかったのに後ろから来る攻撃も避けられている。それに何時間もやっているが、疲れというものがあまりない。今さらなのだが人間を止めたのを自覚してしまっている。
しかしだ、いくら人間を止めたと言っても、こちらは元々だだの人間だ。鍛えるのは必要だとは思うが、いくらなんでも、いきなり刀を持って数日の元一般人には早すぎではないだろうか。
そんなことを考えていると、余計なことを考えていたのがわかったかのように攻撃が強くなる。瞬く間に斬擊に囲まれてしまった。
「あっちょ」
元一般ピーポーには避ける術は無く、斬擊は全部命中し、身体中から感じる衝撃にやられ、俺は意識を失った。
○
「おや、やりすぎてしまったかな?」
レイに近付いて様子をみる。レイは目を閉じていて、身体に力が入っていない。どうやら気絶しているようだ。
いくら妖力で身体能力を強化していたといえど、私の力で成長させたといえど、中身はただの人間。調子に乗って、少しやりすぎてしまった。斬擊を飛ばしすぎたかな?
ちなみに、私が攻撃に使うのは主に『弾幕』と呼ばれるもので、神力や妖力、霊力などを丸型などの形に作り相手に目掛けて撃つものだ。私は刀から斬擊を模した弾幕を使っている。
今さっき使ったものは衝撃が加わるだけの弾幕で怪我をすることはない。本当に殺しに掛かるなら斬ることができるものを出すこともできる。
今回は早さも威力もある程度下げて撃ったのだが、それでも、月製のレーザー銃位の威力はある。が、レイはその大半を避けるか刀で流すかをしていた。
これには心底驚いた。レーザー銃の性能は月人たちが『地上に派遣される月の使者の仕事が楽になるように』と、私と月の都の技術部が丹精込めて作ったものでその性能には目を見張るものだ。
それに後ろから来ていた攻撃も、軽々と避けていた。もしかしたら、レイの前世は武芸者とか、そう言う類いのものだったのか?いや違う。刀を渡した時には私が刀の持ち方を教えたぐらいだ。絶対に違う。
となるとやはり能力だろうか。レイの能力が玉兎の固有の能力『波長を操る程度の能力』であって私の攻撃を瞬時に察したのだろうか。そうであれば、おそらくだが、無意識に使っている可能性が高い。
これは鍛えがいがある。レイは気絶してしまったし、特訓は明日からだね。
楽しみだよ。
「んん………」
あれ、なんで俺はベッドで寝ているんだ?
まさか、また寝坊!?
いやいや俺は早くタイマーを掛けて起きた。それで道場まで行って、それで…………
『あああああぁぁぁぁぁぁ!』
自らの叫びが頭の中に響く。それにより全てを思いだし、
「あああああぁぁぁぁぁぁ!」
また叫んだ。
「ふう」
とりあえず落ち着いて、スマホを見る。
午後の10時。
気絶したのが確か午前中の11時ぐらいだったから、かなり長い間寝ていたようだ。ベッドで眠っているのはたぶん月詠様が寝かせてくれたのだろう。
………月詠様が気絶させたのだけれど。
明日もあるのだろうか、特訓。
がしかし、サボるわけにもいかない。月詠様のご厚意でやってもらっているのにサボるというのは、俺の良心が許さない。それに刀を武器にして振り回すのも、そこは日本男子。ロマンがある。
そんなことを考えながら、懲りずに朝の5時にタイマーを掛け、気持ち良すぎる魔のベッドに身を任せて眠る。
「やあ。依姫」
次の日に今日以上の地獄が待っているとも知らずに