序章・第三話
涙とはなんだろう。
それは、どのようなな時に流すのだろう。
答えは簡単。
感情が、ある一定のところまで上がると涙を流す時がある。ある者は、家族やペットを失ったことによる悲しみや、寂しさ、あるいは自分に対しての不甲斐なさから、涙を流す。ある者は、何かを為し遂げ喜んだり、誰かから話を聞いて、それに感動したりして、涙を流す。
つまり涙とは、ブラスの感情とマイナスの感情で出来ている。
○
俺は、今どんな感情で泣いているのだろう。
こんな、簡単な答えはすぐにでる。
悲しみだ。
寂しさだ。
色々ありすぎて、泣く暇もなかった。
自分が先に死に、家族や友達を。大切なものを全て置いてきてしまったのだ。これが悲しい以外に、なにがあるか。
泣き止もうとしても、止まらない。むしろ、涙の量が増えたような気がする。
「ヴぇぇ……」
月詠様に話しかけようとするが、ホラー映画に出てくるゾンビみたいな呻き声しかでない。そんな状態で、話しかけるとどうなるか。
「ずみまぜん、ばたじにはんがぢをがぢてくれまぜんが?」
鼻声である。
「ヴぁ」
……….また変な声が出てしまった。
~玉兎落ち着き中~
「落ち着いたかい?」
「はい。」
「……………あの、」
「なんだい?」
「ハンカチ、洗って返します。」
そう、鼻水や涙がくっついて、ぐちゃぐちゃなのだ。めちゃくちゃ汚ないと言わざるを得ないだろう。しかも、それは他人の物なのだ。きちんと洗って返すのが常識だろう。
「面白いね、レイは。」
「面白い?」
「そう。さっきまで泣いていたとは思えないほど落ち着いている。そう言うことが面白いんだ。」
「それが面白いんですか?」
「うん、面白いよ。すっごくね。」
「元人間とは思えないほど。」
「はあ。」
よくわからないが、俺は面白い?らしい。月詠様の面白いという基準はわからないが。
「あっ。」
「?」
「そうそう、さっき思い付いたんだけど………レイにね、
私の、側近になって欲しいんだ。
「えっ?」
俺は驚くしかなかった。
というか、さっきから驚いてばっかだ。
「いやいや大丈夫だよ、側近といっても私の話し相手になってほしいだけなんだ。」
「何故……でしょうか?俺よりも面白い話をしてくれる人はたくさんいると思うのですが。」
そう、その通りだ。
自分よりも優れた人はこの月にも、沢山いるはずだ。ましてや月に人がいるのだから、いない方がおかしい。
「いや、そう言うことじゃないんだ。」
「ですが、、、」
「居ないんだよ。」
「え?」
「話し相手がね。」
「「………………」」
場に沈黙が走る。
「何故ですか?」
最初にそれを壊したのは、俺だった。俺のせいで月詠様を悲しそうな顔にしてしまった。これをどうにかしようと動く。
すると何かを決めたのか、こちらを向いてきた。
「最初はね、皆、同じような立場で話してくれた。」
「だけど、私が神だと知ったとたんに崇め讃え、誰も話してくれなかった。」
「何かをを聞いても、月詠様のお手を煩わすものでもないとか、いつも、言われる。」
「だから、レイには、私と同じ立場で、私と一緒に話してほしいんだ。」
…………そんなこと断るわけがない。俺自身も誰か話し相手がいたら『良いなぁ~』と思っていたので、あちらから来てくれてよかった。よって、断わるわけもなく、
「分かりました。」
「いいのかい?」
「はい、もちろんです。」
了承の意を伝える。
すると、嬉しそうな顔でこちらを向いてくる。
「……………ありがとう。」
「これからよろしく、レイ。」
「こちらこそよろしくお願いいたします、月詠様。」
○
「そういえば、なんで私に敬語を使っているんだい?」
「いえ、目上の人には敬語が良いと思ったからですね。」
「じゃあ使わなくてもいいよ。」
「これは月詠様に対する敬意です。」
そう言うと、むっとした顔で、
「それは私を崇め讃えた人々と、一緒だと思うのだけれど。」
「いいえ、違います。これは感謝です。色々して貰ったことへの。」
少し、顔をしかめ「うーん」と、悩んでいる。
「どうしてもダメかい?」
もちろんダメである。
「ダメです。譲れません。」
先ほどよりも、さらに顔を悔しそうにしかめた。
~玉兎抗議中~
「分かったよ………」
三時間ぐらい同じようなやりとりを繰り返し、やっと月詠様が折れた。良くもまあ、三時間も同じことをやっていられる。それだけ、嫌なのだろう。だが、敬意を払っている相手に呼び捨てなどと、度胸のいることはできない。それを譲らなかったので少し落ち込んでいるが。
「まあ、いいか。」
フゥーとため息を付き、こちらを向いてきた。なんだろうと月詠様の顔を見る。
「レイ、後ろ向いて貰えるかな。」
「え、何故ですか。」
「いいから、後ろ向こうか。」
そこそこ、圧のかかった声で言ってくる。
俺が敬語を止めないのを根に持ったのだろうか、少し強引にやってくる。少し強く頭をつかんできて痛い。
「………何をするつもりですか。」
疑問に思ったので聞いてみる。怒っているにしても、何をやるかはわからないから聞いているのだが。
「まあまあ、すぐ終わるからじっとしててね。」
「え、ちょっ…………」
バチッ
何かが頭に当たったように、強い衝撃が脳に響く。
次の瞬間、俺は意識を手放さざるをえなかった。
「これでいいかな。」
少し息を吐き、椅子に腰掛ける。
やはり、力を誰かに移すのは、慣れない。
なんか違和感を感じてしまうからなぁ。
そう考えながら、ベッドで眠っているレイを見る。寝かせたのではなく、私が気絶させたのだけれど。
それにしても久しぶりだった、誰かと会話するなんて。
やはり、誰かと無駄話をしたりして笑い合うのはとても楽しい。姉や弟と話すのもいいけれど、最近は地上を構築するだとか何だとかで忙しいので最近は来ていない。そのせいだろうか、人と話すのはまた、楽しく感じられる。
人じゃなくて兎だけど。
さて、何で私がレイを気絶させたか。
それは………
「おや、起きたね。」
くっ!気絶させた帳本人のくせに!
まあ、月詠様への怒りは置いておこう。
とりあえず、先に確認するものがある。
「何をしたんですか?」
月読様が、なにをしたかだ。気絶するほどのことを何故かされたのだ。何をされたのかは気になるところである。そんな、率直な疑問に月読様はこう答える。
「それはレイが一番、わかると思うけれど。」
「?」
俺が一番分かる?特に変化はないはずだけれど。どこが変わって……………
「取り敢えず、立ってみてくれるかい。」
「え?あ、ハイ。」
少しニヤニヤしていた顔をして立つことを促してくる。立ってみればわかるのだろうか?他に成すことがなかったので、とにかく立ってみる。
「あれ?」
立った瞬間、疑問が浮かび上がって来る。
『あれ、こんなに背高かったっけ?』
いや、もっと低かったはずだ。
……………まさか、これ、
「成長してる?」
「そうそう、ある程度大きくなってもらいたかったからね。」
成長しているといっても、小学校3~4年位の身長しかないけれど……………
それで大きくなってもらいたかった?
「何故ですか?」
「そりゃあんな赤ちゃんの格好で歩き回られたらこまるからだよ。」
「?」
「あーごめん、言い方間違えたね。」
「部屋を用意したから、そこに行ってほしくてね。」
「それまでに、廊下とか通るからね。」
そういうことか。確かに、赤ちゃんが廊下が歩いていたら、びっくりするし、不審にも思うだろう。って部屋?何で?そんな疑問に対して月詠様はこう答える。
「レイは強くなるまで、私の回りにいてもらうよ。」
「私の周りのやつらは、産まれたばっかりの玉兎が私の側近になるなんて、認めないからね。」
「だから、それまでレイは私の近くにいてもらうよ。」
「分かりました。」
了承の意を伝える。
俺としても、この体に慣れるまでの時間が欲しかったので良かった。それにしても、周りのやつらとは?まあいいか。なにか事情があるのだろう。深掘りするのは良くない。
とにかく、俺は月詠様に感謝の意を伝える。色々なことをしてもらったのだ、感謝するのは当然だろう。
「ありがとうございます。」
「ん?何がだい?」
「何から何までしてくれて、ありがたいということです。」
「なに、成り行きだよ。」
そう言って、軽く流す月詠様。本当に感謝しかない。これから、恩返し出来るように頑張ろうと心に決める。頭を上に上げると、何やら後ろでごそごそなにかを探している。
「ん、あったあった。」
「何がですか?」
「レイが行く部屋の鍵と、案内用の端末だよ。」
「はい。」
そう言って手渡しで渡してきた。鍵と、端末………ってスマホじゃあないか、
「ありがとうございます。」
「使い方は分かるかな?」
「はい、前世でも、似たようなのがありましたので。」
月詠様に部屋の鍵とスマホみたいな端末をもらい、月詠様の部屋からでようとノブに手を掛ける。
「では、失礼します。」
「うん、また明日。」
「あっ、」
「どうしました?」
「忘れるところだった。」
「?」
「明日もここに、来てくれるかい?」
「分かりました。」
ウィーン
やっぱり、違和感あるなぁ…………この扉…………
まあいいや、とりあえず、部屋はどこにあるのかな。
次は例の姉妹がでるかと。
あと、一週間か二週間の頻度で出すと言いましたが、書け次第投稿しますのでそこのところよろしくお願いいたします。