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童話系

色んな物と比べ合い

作者: 北田 龍一

 昔々あるところに、色んな人が暮らし、色んな物が集まる国がありました。

 まるで世界の中心かのように、その国にはこの世のすべての物が、一度行き来するような場所でした。だからこの国の中は、色んなモノで溢れていました。


 例えば、とっても色鮮やかな花だったり

 例えば、とっても美味しい食べ物だったり

 例えば、とっても立派な服だったり

 例えば、とっても素晴らしい音楽だったり


 たくさんのモノで溢れるその国は、たくさんの物同士で比べっこする事も多くなりました。そして時々、人と人の間で激しく言い争いになります。


「こっちの食べ物のほうがおいしいぞ!」

「いやいや! こっちの果物の方が甘くておいしい!」

「待て待て、この肉はとても貴重で、脂もたっぷり乗って旨いぞ!」


 ああでもない、こうでもないと争いが起きます。けれどこうして、比べあいになる事は珍しい。はっきりと決着がつくこともありました。


「見ろ! この薬の方が効果が高い。そっちの薬は全然ダメじゃないか!」

「でもこの薬は、集めるのは大変で……」

「けれどこちらの薬の方が、本当にすごいだろう?」

「う、うぅ……」


 こんな風に比べっこして『優れている』『すごい方だ』と決まった方は大威張おおいばりして、ダメな方を叩きます。様々な物が行き来するこの場所では、色んな所で比べあい、争い合い、叩き合いが起きるようになっていました。

 さて……この国の偉い人は考えます。

 確かにこの国は、色んなものが流れてくる場所です。たくさん色んなものが行き来しますから、比べっこやもめ合いは、沢山起こってしまいました。

 たまに酷く馬鹿にされたり、すごいものを使って威張る人もいて、時々酷い争いが起きてしまいます。争いをやめるように言っても、どうしても人は比べ合って……馬鹿にしたり、されたりで、人の心が荒れていきました。

 だから、この国の偉い人たちは考えました。


「これではいけない。色んな物があるのはいいけど、それと比べ合ってみんな疲れてしまう。すごい物を持った人は、それより価値の低い物を馬鹿にしてしまう。馬鹿にされた側は怒ったり、悲しい気持ちになったり、時々殴り合いや争いが起こってしまう……」


 そこで、この国の偉い人は考えました。ある法律を作って広げれば、この問題は解決できると。


「それなら、何かと何かを比べる事を禁止しよう。それですごい物だと分かった方は、みんな偉そうにしてしまう。逆にこれはダメだと分かった方は、ものすごく嫌な気分になってしまう。だから、何かを比べ合う事を禁止しよう。こうすれば、きっとみんな仲良くできるはずだぞ!」


 このお触れは、すぐに国中に広まりました。早速人々の中で変化が起こります。


「この洗剤は、床をピカピカに出来るぞ!」

「いやいや、こちらは色んな汚れに効く。これ一つあれば掃除は安心だ」

「それよりも食器洗い用に、沢山使えるこの洗剤はどうだい? とっても安いぞ!」


 色んな物が行き来する中で、商人が洗剤を比べ合っているようです。すぐに衛兵が止めに入ります。


「こら! 今この国では、比べ合う事は禁止だ! 比べられて上手くいかなかった方は、すごく気分が悪くなる。それにスゴイと分かった方は、ものすごく偉そうになってしまう。だから比べることは禁止だ禁止!」

「「「……はーい」」」


 商人たちは渋々引っ込みます。他にも色んなところで、比べ合おうとする人たちがいます。


「この服の方が綺麗だ!」とか、「俺の方が頭がいい」とか、色んな物を、色んな方法で比べようとします。その度に衛兵が割り込んで、比べ合いを止める事になるのです。今度はこんなことが起きました。


「見ろ! これはすごい槍だぞ! どんな盾だって貫くことが出来る!」

「いいや! そんな訳がない! この盾はどんな槍の攻撃だって防げるんだ!」

「なんだと! じゃあ試してみるか!?」

「あぁ! どちらが嘘かはっきりさせよう!!」


 二人の商人が、盾と槍を向けて比べようとします。周りの人も、やんややんやと騒ぎますが、そこで周りから衛兵が迫りました。


「待て待て! 今この国では比べることは禁止だ! すぐにやめるように!」

「くっ! どうしてだ!」

「そうだそうだ! はっきりさせたいぞ!」

「ダメだダメだ! どっちに転んでも、嘘になってしまった方は叩かれるじゃないか!」

「「ちっ!!」」


 ――そうして、色んなことを比べる事を禁止したのですが……すると困った事が起きました。例えば今の二人について、周りの人たちは考えます。


「なぁ、どっちが正しかったんだ? どんなものでも貫ける槍と、どんな攻撃も防げる盾は?」

「うーん……実際に試してないから分からないじゃないか」


 比べ合う事を禁止したその国は、大変な混乱が起きていたのです。


「こ、この肉は……うーん……」

「ま、参ったな……比べるのが禁止だから、どう良い所を訴えればいいんだ?」


 ――人が何かを知るには、物と物を比べなければいけなかったのです。

 あれより硬い、これより柔らかい、あれより綺麗だ、これより力強い、それより楽に作業が出来る――そうした表現は、ことごとく禁止されてしまいました。

 何かと比べないと言うことは、他の物との違いが、分からなくなってしまうのです。

 混乱が続く中で……ある一人の平民が、みんなにこう訴えました。


「何とも比べてはいけないのなら、人と人とも比べてはいけないのでは?」

「そんな馬鹿な事を言うな! だったらお前、隣の人間と自分が同じたと? それは違うだろ」


 ――人と人同士が比べることをやめてしまったら、他人と自分の差も分からなくなってしまいます。誰とも比べなかったら、どうして『個性』が分かるのでしょう?

 たくさんの混乱を見つめた国の人たちはお触れを取り下げ、ぼそりと呟きました。


「そうか……比べ過ぎてギスギスするのも悪いけど、何も比べなくなってしまったら、何も分からなくなってしまう。それは何も考えない事と同じだったのか……」


 それ以降、この国では「程よく」物と物を比べるようになったとさ。

 めでたしめでたし。


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