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5 飛竜討伐の一撃


まだ、術式の発動はできない。


過去に戻り、能力が低下している自分にとって、すぐに強力な術式を放つのは容易なことではなかった。


ここ二、三年で急成長していったため、現時点での実力は物足りない。

拳をつきだしたときの衝撃波でモンスターや人を倒す【斬拳】はもう使ってしまったので、ここでは使えない。


技の威力のために反動があり、使った場所から遠くへ離れないと使えない。

そして今準備している術式。これが決まらなければ、本当に終わる。


その強力ゆえに、反動は【斬拳】以上のものだ。


術式を発動して一分以内に、術式の発動者は倒れてしまうのだ。


ひとりで戦うには意味をなさない術式。倒れてから復帰するまでに無事かどうかわからない。この一発で決まらないこと。それは飛竜への敗北宣言、つまり死を意味する。


「アクミ、今から放つ術式を打ったあと、俺は気絶する。もし倒せたら俺を転移門まで運んでくれ」


「その心配は無用ですよ。飛竜さえ倒せれば、自動的に鍛冶場まで返されますから。私、フィストさんがやってくれるって信じてますから。本当は私がサポートしないといけないんですけどね。頼りなくてすみません」


「いいんだよ、アクミ。【針の雨】なんていう強力な術式で飛竜の足止めができる生産職はアクミくらいだよ。尊敬するよ」



俺は、指先へと力を込めている。

ようやく、青い光をまばゆくだが放ちはじめた。あと少し。体の力を、指先にこめるイメージ。

ふつうの拳闘族なら、腕に力を込めるイメージをもつ。対立する刀剣族の力のこめかたに近い。

それが、最もあっている力のこめかただった。


体の中のエネルギーが、指先に回っていく。ただでさえ、アクミが空気を使った術式を使ったあとなので、意識が少し薄れる。


飛竜の鳴き声が、また聞こえてきた。一匹ではなく、複数匹が同時にきたようだった。

最大限に引き寄せてから、穴に近づいて放つ。


拳闘族、特にアーク家に伝えられた詠唱を唱える。



この一発に力の限りを尽くす。

もう、いつでも放てる。指先から力があふれてくるのを感じる。指先の青い光は、飛竜の放つ光に匹敵しているように思う。


さあ、来い。


「フィスト、もう来るわ」

決める。



「【円弧拳アークフィスト】!!!!!!」



自分の名前がついた術式。【千人殺しの拳】の原点ともいえる術式。


【斬拳】を放ったときと同じ構えをとる。そこから繰り出されるものはひと味違う。


ただ拳を振るうのではない。指先をひらき、放たれる光を指先から伸ばしていくのだ。


棒状に光が伸びていく。直線になっていくのを確認しながら、形を変形させていく。自由自在に光を操るために、直線の光を曲線へと変形させる。炎が燃え上がり、揺れていくかのように、光が揺れていく。


それを、出てくる飛竜とのタイミングを合わせ、打ち込む。たやすいことではない。自信はある。


飛竜の頭部が穴から飛び出たその直後。右手からふるい、光を当てる。慣れていないはずだが、違和感を覚えるようなことはなかった。

 


曲がった複数の光は、何かに反射するようにして加速していき、やがて一つにまとまる。

回転しながら、飛竜の首を捉えていく。


「いったか」



加速していった光は、首もとに当たってすぐにその首を断ち切った、いや焼ききったというほうが近かった。

焦げたような音と臭いを放ち、首と体は落下してすぐに、大きな振を洞窟全体に与えた。


飛竜の血がしばらく止まる様子もなく、ただ地面を湿らせる音だけがしている。


まもなく、他の飛竜も出てくる。これは、義手である左手でやらなければならない。


同じように左手を振るい、次々と出てくる飛竜に対して、今度は光がまとまらず、それぞれに数本ずつ光はわかれていった。ほぼ同時に飛竜の首を跳ね、さらに洞窟を振るわした。


「これで、飛竜討伐といったところか」


飛竜数体の討伐に一苦労をするほど弱ってしまった。【円弧拳】のその先、【千人殺しの拳】さえ使えていれば、一回で全滅にさせることくらい容易だった。

 


「やりましたね。お互いに術式を展開せざるをえなかったですね。あなたの義手のためにここまで大変な思いをするだなんて。もう少し余裕をもって戦いたかったですよ」


「これからだ、これから。今はまだ飛竜との戦闘で苦労しても、強くなっていけばいいんだ。そう後悔する必要はないんじゃないか」


「そうですね。これからですよ、これから。フィストさんは体に変化があって大変ですもんね。私も今までのままでいいとは思いませんから、って、フィストさん」


「なんだ、アクミ。指をさして」


「あそこ、なんだか光ってますよ」


飛竜は首を跳ねられたものの、体から放たれる光はさほど弱っておらず、洞窟内がはっきりとしすぎているほどわかる。


穴の先に、さらに強く赤い光を放つ箱があるようだった。剣や装備が入りそうなサイズ。


「もしかして宝箱かもしれない・・・・・・何か素材が・・・・・・かも。・・・・・・ので・・・・・・に」


まずい。そう。【円弧拳】はその強力さゆえに、一日一度しか使えず、使用後に意識を失ってしまうのだ。現にアクミが何をいっているのか断片的にしかききとれない。


「すまない、もう無理だ。意識が」


「え、でも・・・・・・仕方ないですね。転移門まで急ぎましょう。肩、担ぎますよ」


肩を担がれ、宝箱とは逆方面を目指す。転移門から戻らないと、モンスターが溢れる洞窟をくぐりぬけないといけない。


意識をどうにか保ち、転移門まで足を動かす。


「もうつきます」


転移門の上にのり、アクミがこういう。


「【転移】」


詠唱に伴って、転移門が作動していった。


きちんと鍛冶屋台までたどり着くかは不安だった。


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