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4 ふたりの術式と詠唱

転移が完了すると、確かに、俺とアクミは洞窟の中だった。

水の滴る音しかきこえない、静かな場所だった。松明によって内部が照らされていた。


「アクミ、この扉であってるか。開きそうにないんだが」


「ちょっと待ってね」


扉にアクネが手をかざす。すると鍵が開いたような音がし轟、という音をたてて開いた。


「すごいな、どうやってやったんだ」


いままでは洞窟にはいったとしても、こういった扉はもともと開いていたものばかりだったので、このように開ける機会がなかった。



「それは私の特殊能力だから。さ、倒しにいくよ」


「倒しにいくって簡単にいうけど、飛竜だぞ。飛竜。一筋縄でいくような相手じゃないことくらいわかってるだろ」


「そんな心配しなくていいんだよ。フィストが使う術式と私の術式さえ使いこなせば勝てる。大丈夫だから。さ、いこいこ」


「不安だな」


扉の向こうに進んでいく。松明による炎が少なくなり、薄暗くなるのがよくわかる。


歩いた先に、もう一つ扉があった。


「きっとこの先ね。さきに術式を唱えておいいて。そしたら開くから」


「わかった。アクミもやるのか」


「もちろん。さっさとしとめないと飛竜は厄介だからね」



フィスト家の詠唱を唱える。どの術式を使うときも、同じ詠唱だ。使う人物の家柄で、少しずつ詠唱は異なる。


その家系で最も効果があるとされる詠唱を見つけだし、使っている。


【千人殺しの拳】の展開を試みたが、うまく剣を生成することができなかった。なので、その幾つも前の段階で使っていた術式を試す。これなら。


「【斬拳】」


「いきますよ」


「了解」


飛竜の鳴き声はまだ聞こえてこない。


警戒しつつ中に入る。

さきほどまでいた部屋よりまた暗くなったくらいで、つくりに変化はなかった。


「本当にいるんだよな、飛竜」


「あと一歩できますよ」


「一歩?」


もう一歩、踏み出す。

地面が、徐々に物音をたてていく。


「何が起きているんだ」


ついには地面を引きさき、前方にはすっかり隠してあった穴が出現した。


「ここから光った飛竜がでてくるわ。いつでも術式を打てるように構えてて。すぐに倒さないとやられるから」


穴から、飛竜の鳴き声が、響いて聞こえる。

鳴き声は近くなっていく。羽ばたいている。その風と振動が、体を振るわせる。


光っている様子が、はっきりと見えてきた。


もう近い。


「頭を切り離せばいいから」


「頭だな」


来る。


輝く体が、美しかった。ここで討伐するのはもったいないような気がしたが、条件のためだ。


「【斬拳】」


拳を、前にふるう。


その振動で、竜の首を跳ねさせる。

振動が空気を通して伝わり、刃物ような鋭さを生じさせ、ピンポイントで敵を倒す術式。

振動が、伝わる。



出て間もない竜の首元に、波動がささるはず。

竜の厚い首に【斬拳】が絡みつく。抵抗して、死ぬかいきるかの瀬戸際だ。


なんとしてでも生き延びようとして、波動を跳ね返さんという勢い。抵抗する中で、首が少し切れる。

黄色い液体を洞窟にぽたぽたと垂らしていくのが放っている光を通してみえる。


「いったか、頼む」


ここで致命傷を与えないと、後が厳しい。この一匹ではないのだ。


「ぐあありゃあああ」



必死にたちむかう飛竜。液体で地面を濡らす一方だが、出た液体の割にはまだ弱っていない。


次第に【斬拳】を跳ね返しているようだった。まだこれは五年も前の、未完成の術式だ。


もともと実用性があるかといえば、難しいものだった。


「このままだと、まずいですよ。ここで食い止めないと」


「わかっているよ。この術式できつくなったら、別の術式で対応する。あと三つ使えるものがあるから。次の術式をうつまでの時間稼ぎはアクミに頼む」


【斬拳】の食い込みが浅くなっていく。押し返され、止められない。


「もう時間ぎれでしょ。早く次の術式を」


「いや、まだ打てないんだ。ここから詠唱、重ねて発動時間までのラグが長いんだ。思ったよりも【斬拳】でおさえられなかったんだ。すぐに跳ね返されないことを信じるしかない」


「でも・・・・・・それまで私が押さえますから、安心して詠唱をはじめてください」


飛竜が飛び出してくる穴で食い止め、他の飛竜が出てこれずに詰まったところに別の術式を放つはずだった。そこまで持つか持たないか。


詠唱を唱え始める。


できるだけ速く、できるだけ。

頼む。


術式発動まで、まだかかる。


「やるしかないわね」


「アクミ?」


「アクミ・キョウト。拳と刀の調和を欲する。拳の動きを刀に。刀の動きを拳に。【針の雨】」


手を上げ、指と指の間を見つめる。


指の間に、光が点る。飛竜がはなつものより圧倒的に暗いが、まばゆく、色が紫がかる。


風が起こり、空気が圧縮されていく。

圧縮された空気は、小さな針に形を変えていく。それも何百、何千という数。


もがき苦しんでいた飛竜が、ついに【斬拳】からとき放たれる。


「発動」


腕を勢いよくおろすと、針へと形を変えた空気が、勢いよく落下していく。


そのまま、飛竜に突き刺さっていき、飛竜は落下していった。


「やったか」


「いいえ、まだこれは時間稼ぎだから。あなたの術式がないと倒せる相手じゃなさそう。私の持っている対モンスター術式はもうないから。この針が形になっているのもあと数分といったところだと思う。あとは頼むね」


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