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3 鍛冶屋のシーアー・ミサミ

切れ目で、いかつい顔をしているといわれる俺とは対極にいる女だ。名前をきいても、誰だか全くわからなかった。

まず、自分に従兄弟がいたことは知らなかった。

いままで、幼い頃に従兄弟は火事でなくなったと聞いて育ってきたため、従兄弟がいると知れただけで、うれしいと思った。


だが、この世界が、俺の過ごしていたところとは少し違っているように思う。



「だいたい覚えてるよ、アクミ。で、なんで俺はここに運び込まれたんだ」



「全然覚えてなさそうね。いいけど。ここは円形競技場の近くにあるでしょう。それであんたの知り合いである私のところに運ばれてきたわけ。そのときにはもう腕はなかったわ。で、私はあなたの義手を作らないといけないわけ。生産職の立場だから。片腕がないといろいろと不便でしょ。近くに私の店があって本当によかったわね」



「そうだな。で、本当にアクミに作れるものなのか、義手は」


「ちょっと待ってて」


そういうと、合掌し、何やら詠唱を唱えはじめた。ここの地域の言葉ではない。


「ここにアクミ・キョウトが命じます。あの男、アーク・フィストに鋼鉄の義手を与えよ」


その詠唱だけが唯一聞き取れた。左肩が、だんだんと赤い光を放つ。時間をかけ、光を透明感のある赤に近づける。


「生成」


光が、腕の形を作っていく。肩から少しずつ、戻っていく。


腕、手首、指先と生成されていく義手は、できていったところから赤い光を失い、その金属光沢をみせていく。素材が素材とはいえ、右腕とさほど感覚に違いはなかった。体の一部として、完全に馴染んでいた。


「完成、かな。一応できたから、鍛冶屋にいくよ」


拳闘族は、基本拳や足でしか戦いで使わない。鍛冶屋は、拳闘族の住む地域にはなかった。刀剣族の住む地域にしか鍛冶屋はないのだ。自分の知識が通用するのであれば。


「刀剣族の管轄だろ。剣一本を買うのにも相場の数十倍で拳闘族に買わせるところだ。どうするっていうんだ」


「この義手はまだ未完成だから、どうしても鍛冶屋で仕上げをしてほしいんだもん。条件付きで嫌悪されることなく、無料で剣をくれたり、整備をしてくれるところに宛てがあるの」



「そんな怪しいところ、本当に大丈夫か」


「もう時間がないから急ぐよ、フィスト」



最低限の荷物をつめ、着替える。


「これ借りるぞ」


「自由にして」


冒険者用の黒い羽織をまとい、使い古されている作業用のズボンをはく。これがいつもの服装だ。どこにいっても大概この服を見つけられる。


「さきいってるね」


黒髪を揺らして走る姿は、従兄弟とはいえ、かわいいと思えるものだった。

  



「ここは各種族の境目に近いから、すぐにあの子のもとにいけるの。いいところに住めて幸せよ」


この国の国土は、ほぼ正六角形となっている。外側にいけば海や島もあるが、多くが内側で暮らしている。

中心部に円形競技場があり、その近くにアクミの店兼自宅がある。



種族ごとに居住しているところははっきりとわかれており、六角形を六つの三角形にわけたときの二つの三角形に各種族が暮らしている。



「ここから東の方向に進んでいけば、刀剣族の居住区域ね。そこまでいけば歩いて十数分ってとこかしら」

アクミが走りたいというので、家をでてからひたすら走っている。走れば、あまり遠く感じなかった。

「もう居住区域の境目かしら。だいぶ建物も減ってきたことだし」



家が減り、代わりに草が増えてきた。


アクミは想像以上に運動能力が高く、ついていくだけで精一杯だった。まだこのころの体では、体力がない。義手の重みに慣れていないのに加え、決闘で毒を打たれたせいだろう。まだ体が重い。



「もう境目は越えたわ。あと少しだから」


走りながらアクミが振り返る。


急に振り返ったせいか、彼女の胸元が盛大に揺れた。あまり意識していなかったが、控えめな大きさではなかった。


「どこ見てるんですか、フィストさん。目線が嫌らしいですよ」


「俺は何もみてないから、さっさと前を向いてくれ。早くついたほうがいいだろ」


この頃の俺の年齢はまだ十九だ。彼女もそれよりは確実に低い。本当は幾つも離れているはずの女、ましてや従兄弟に欲情してどうする。


「とかいってるうちに、もうつきましたよ」



林の中に、ぽつんと佇む一軒家。刀を打つ音、炎のぼうっと燃える音が静かな一帯に響いていた。




「おじゃまするね、ミサミ」


「お、アクミじゃない。常連さんがきてくれるのは本当にうれしいね」


女とはいえ、火を扱う仕事だからか色黒く、服装に女っ気がない。女性にしては長身だった。


「いえいえ。今日はこの人に関する依頼で」


「はじめて見る顔だね。お名前は」


「俺は、アー・・・・・・」


続きをいわせてもらえなかった。アクミが突然口に手を当ててきたのだ。


「ちょっと、まさか上の名前もいうつもりだったでしょ。自分の身分をわきまえて。創始者の一族ってことは隠しておかなきゃだめでしょ。私だって上の名前は伏せてるんだし」


「わかったけど、近いんだが」


暑い季節である故、彼女は薄着だ。体が直でぶつかってくる。特に上が。


「別にそういうつもりはないから。もう離れて」


手で払われ、改めて。


「フィストです。こいつの知り合いというか、なんというか」


「私はシーアー・アサミ。ここで鍛冶仕事をしてる。よろしくね。ここはどの種族も関係なく使える鍛冶場だから、贔屓にしてくれるとありがたいな。で、アクミ。今日はどんな条件がいいの?」



「条件というと、どういうことだ」


アクミは条件があるが、いい鍛冶場だといっていた。


「モンスターの討伐で、何かあれば」



「じゃあこれかな。洞窟に潜む飛竜の討伐。この報酬の六割を渡してくれたら、今回は無料でやっちゃおうかな」


飛竜は何度か戦ったことがある。【千人殺しの拳】を何度打っても引き裂かれない頑丈な鱗。相性は、はっきりいってよくない。刀剣族の方が有利だ。【千人殺しの拳】は、刀剣族の技に近いとはいえ、刀剣族もどきの術式に過ぎない。



「あとこれ、一匹じゃないみたいなんだけど、頼める?」


「もちろん。フィスト君のためなので」


「あそこに転移装置があるから、そこに乗ってくれればあっという間に飛竜のいる最深部にいくから。倒すかピンチになれば転移装置がでてくるから、それまでがんばってきて。期待してるから」



飛竜の討伐か。

悪くはないが、この体で戦えるかどうか正直自信はなかった。

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