一人飲み会(中)
私には少し変わった趣味がある。
ズバリ、観察だ。
ただし人間観察とは少々違う。例えば、人間観察の場合、ある一人を対象とし、行動の一つ一つを確認しパターン化することで、その人の特性や傾向を見出すものだと考えている。
しかし私の場合、観察対象は集団だ。だからありふれた人間観察とは一緒にしないでいただきたい。と言いたいところだが結局のところ一人の人から拡大したりするので大した差はないのだろうが・・・。
まず見るのは一番距離の近い隣。優男くんは私とは反対隣に座る子と、更に一つ右斜め向かいの女子グループ二人とで恋話に興じている。ちなみに私は「佐藤さんの好きな女性のタイプは?」に対して「あ〜、考えたこともないですね」と答えると早々に見限られた。だがその隙を縫って、飲み会というこの場で一人の時間を確保した。
次に正面。こちらは女子二人組がひっそりとお酒を楽しんでいる。しかし酒豪疑惑があったがために、今回の企画者の煽りを受け、片方はすでに泥酔気味で半分寝ている。もう片方はおしとやかな方で付き添う形になっている。
そして恋話グループに隣接する、飲み会を誘った子を含む五人組。そのうち四人は軽快に話しているが、恋話グループに一番近い人は少しぎこちなく映る。ノリの良い四人と、おとなしい一人。私としてはなんともいたたまれない気持ちに苛まれつつも、微笑ましさが混ざり合い、密かにエールを送りたくなる。まだ出会って一ヶ月ほどの私達。このメンバー内でやはり馴染める人もいれば逆もしかりなのだ。因みに私は馴染めていると信じたい。
最後に入り口近くの社会人グループだ。今までの人たちは学生だがこの一角だけはやはり落ち着いた雰囲気がある。もはや空気の壁があるかのようだ。流石にそこで何が話されているかはわからないが、険しい表情と笑顔を行ったり来たりしていることから、仕事や身の回りの愚痴といったところか。そこまで考察すると前言撤回したくなる。まぁ学生にはわからない難しいことでも話しているのだろう。
まず興味深いのは、やはり正面の女子二人組だろう。明らかにこの空気感になじめていない。私もそのうちの一人だという横槍はさておき、ところなさげでいかにも遠慮がちだ。そしてそこに飛んでくる煽り魔の声。普段なら腹立たしいことこの上ないだろうが、邪険にしながらもその表情は構われて嬉しいということを隠せていない。このような普段と言葉に対する反応が変わるのは、飲みの場という独特の空気感がなせるものであろう。
他にもメンバーが一同に介しても、やはり数人でグループが形成されるというところ。わざわざ集まっても結局話すのは席の近いもの同士で、話さない人が存在するという一種の矛盾に似た状況。なんとなくバカらしさがありながらも、なんだかそれが楽しいというのだから不思議なものだ。もとから仲の良い数人で食事に行けばいいとも思うのだが、やはりこの大人数というのとはまた違うのだ。
そして、このグループに小さな社会を感じ取れること。静かに、一喜一憂しつつ、騒がしく、しっとりと。それぞれのペースがあり、暗黙的なルールがある。それを理解してか無意識的にか、破らないように、それでも軽快にためらうことなく時間は流れていく。
この小さな社会を見つけたとき、私は多様性を感じ、人を愛おしく思うと同時に私という歪んだ存在に安堵するのだ。