第37話 「ラクル嬢来襲⁉」
グズリと飲み明かした翌日、早速ラクルがカズヤを籠絡しに訪れた
ーコンコン…《失礼致します》ー
「あ、貴方は?」
《今日からカズヤ様の身の回りのお世話を申しつかりましたラクルです》
ラクルは露出度の高いメイド服に身を包み恭しく一礼する
「おぅふ…」
悲しきは男の性、カズヤの瞳のない眼窩は本能でメイド服から溢れんばかりの胸の谷間に釘付けになる
《ウフフ…如何なされました?ご主人様☆》
うぐぐ…こやつ出来るな?
「あ、いや…あまりにもお美しい方なので緊張してしまったのですよ。
ところでどなたが貴方…ラクルさんにご命じになられたのですか?」
《まぁ、嫌ですわカズヤ様。私に敬語なんて…ドラグ王、つまり私の父から頼まれて参りました》
(あぁ、ここは隠さないんだ…ならば悪意での策略ではなさそうだな)
「そうですか。ドラグ王様には何から何まで良くして貰って感謝してますよ」
《そんな他人行儀な事仰らないで下さいね、父は貴方が気に入ったみたいですしね》
ラクルはカズヤの前に香木を置く
お茶を出しても飲めないのを知っての心遣いだった
「は~…良い香りですねぇ」
《はい、これは遠方より取り寄せた香木ですのよ。気持ちが安らぎますの》
「さぞかし貴重な香木なんでしょうね」
《ウフフ、お気になさらずご堪能下さい》
そう言うとラクルは一礼して静かに退室する
「…ヤバいな、あの格好は…」
カズヤの好みにどストライクなチラリズムさに目を(無いが)奪われっ放しだった
(これは心して掛からないとな)
カズヤはヴァイザーを掛ける事をすっかり忘れてラクルに少し惹かれそうになっていた
ードラグの私室ー
『で、どうだ?』
《私に落とせぬ男はおりませんよ?お父様》
『…そうか。』
ドラグは複雑そうな表情を浮かべ杯を傾ける
《落とした後はどうすれば良いんですの?》
『ん?あぁ、我はただカズヤを引き留めたいだけだからな…精々夢中にさせて離れ難くしておいてくれ』
《…随分ご執心なんですね。彼にそれ程の価値が?》
『あぁ。先ずはワール共の餌として、いずれは本当の友として誼みを結びたいのだ』
《まぁ、あれは冗談かと…》
『お前も触れれば分かる。彼奴は奥の知れぬ楽しい奴よ』
ドラグの愉しげな表情を数百年ぶりに見たラクルは驚いたが直ぐに笑顔を振り撒いた
(そんなに魅力がある人なら…落とし甲斐があるわね…)
ラクルは真っ赤な舌で唇を舐めた
ーカズヤの部屋ー
「…ほわぁ~…役得というか…いかんいかん‼油断は禁物ですぞ?」
カズヤはドラグに付けたビットの映像をそっと閉じる
「ドラグ王の策略は特に害意はないとしても注意を怠らない様にしなくちゃな!」
カズヤはそう言うと何故かベッド周りをパタパタと掃除してメイキング迄していた
ーコンコンー
「はい」
「失礼するぞ」
部屋を訪れたのはラクル…ではなくフェルトだった
「なーんだ…じゃなくてフェルトさんどうしたんですか?」
「いや、何近くを通りがかったモンでな」
「そうだったんですか、今お茶煎れますね」
「と、言うのは建前でな。実は折り入って話しておきたい事があるのじゃ」
「…何でしょうか?」
「ワシは今ワール王直属の魔導開発部におっての、そこで聞き捨てならぬ言葉を聞いたんじゃよ」
「成る程」
「直属の開発部の中でも更に一握りの部員達が怪しげな開発を行っておるとの噂が流れておるのじゃ」
「へぇ~、それは何でしょうね?」
カズヤは惚けて訊いてみる
「あくまでも噂じゃが…その一握りが得意とするのが「微細魔術」での、
何やら目に見えぬ程の生物を使って敵を倒す魔導具を急拵えで作っておるらしいのよ」
ガターン‼
「「生物兵器」か‼」
カズヤは勢い良く立ち上がって椅子をひっくり返した
「ど、どうした急に⁉」
「あ、いえ…実はワール王がドラグ王の命を狙っているらしいのです」
「…何と!」
「俺としてはその攻撃方法を事前に察知したかったんですがフェルトさんのお陰で助かりました‼」
「ふむ、ワシ等の仲じゃ。当然の事よ」
「フェルトさん、お願いがあるんですが…」
カズヤは今後の対応策を幾つかとフェルトの服に連絡用のインカムを具現化して貼り付けた
「これで俺といつでも連絡出来ます。それとこれを魔導部の部屋に撒いて下さい」
そう言うとビーズ大のビットを数十粒手渡す
「これは?」
「まぁ後で説明します。これを部屋に戻ったら何処かで放して下さい」
「うむ。分かった」
フェルトは頷くと部屋を出て行った
(…ちょっとタイミングが良過ぎなんだよなぁ)
カズヤは無言で立ち上がると何もない壁を叩いた
ードンッ‼…ギャッ⁉ー
カズヤの右手にはいつの間にか短剣が握られその先には梟の様な魔物が刺さっていた
「フェルトさん、油断し過ぎですよ」
そう、フェルトは情報を「わざと」掴まされて放たれたのだ
カズヤは自身の部屋にもビットを展開していてそのセンサーが異物の侵入を察知していたのだ
「まさか味方が敵の斥候になるとはね、あはは」
カズヤの眼窩には怒りの火種が小さく灯っていた




