第4話使う魔法は考えよう
第4話です。(11月1日改稿)
「清掃員に魔法を放つとかイリアーナ魔法学院の生徒と教師怖いな」
講堂で魔法を放たれた俺は現在、学園を囲っている森を歩いている。
とある精霊神を引きずりながら。
「お願いよぉー!許してぇー!悪かったわよぉ!お願いだから私を無視しないでよぉ!貴方に無視されたら生きていけないのぉー!」
精霊神・シアが泣きながら懇願する。
自分の嫉妬で相棒を危険な目に会わせておいて都合がいい奴だ。
「心が痛いいなー、傷付いたなー。まさか相棒が裏切るとはなー。それに腰が重いし誰かいるのかー?」
ここぞとばかりにシアに言う。
「本当にごめんなさい。だから無視しないで。貴方に無視されるなんて耐えられないの。辛いのよ」
強く握り締めた拳から血を流すシア。
「(はぁ……言い過ぎたか)」
俺はシアの腕を掴んだ。
「またその癖、自分を傷つけるなの止めろよ」
「煩いわ!貴方が許してくれないからよ!」
シアが泣き叫ぶ。
俺が泣きたい。
彼女は昔から耐え難い出来事が起こると自傷行為に走る。怖いので止めて頂きたい。
「今回はシアが悪いんじゃないか?」
「……ごめんなさい」
「よろしい。泣くのも終わり」
「……ハグ」
「はい?」
「だからハグよ!仲直りのハグ!」
「お前ほんと今日どうした?キスで味しめただろ!」
「う、うるさいわよ!いいからしなさい!減るもんじゃないんだから」
今日の精霊神様は甘えたいらしい。
「ほら」
俺が両腕を上げるとシアが飛び込んだ。
「冗談でも無視なんてしないでよ。凄く悲しいわ」
「今日は積極的だな」
「日々、進化してるのよ」
シアが笑う。
突然、ある考えが脳裏を過った。
━━俺が死んだらシアはどうなるのだろうか?
シアは長生きだろうし、寿命の概念すら無いかもしれない。
俺は人間だ。シアを置いて死ぬだろう。
あと何年、シアと生きられるのだろうか?
あと何回、シアの笑顔を見れるのだろうか?
愛してると言ってくれるシア。
ガキの頃から俺だけを見てくれたシア。
「なぁ、シア」
「何かしら?」
「今度、俺と「ドカァァァァァンッ!」」
森に轟音が響いた。
「何か言いかけたかしら?」
シアが首を傾げるが……
「行くぞシア。〈転〉!」
チクショウ!俺の勇気を返せ!
轟音のした場所の上空に転移した。
赤黒く発光する身体に鋭い一本角。鬣からは炎が吹き出す、体長5m程の馬のようなガクモン。
ガクモンの正面には倒れた少女。
「あれはAランクの炎馬帝だな。シア火力間違うなよ」
「わかってるわよ」
俺は固有精霊魔法を発動した。
「〈喰らい尽くせ〉」
背後に黒い渦が出現。
危険を察知した炎馬帝がその場を離れようと動く。
「(遅いな)」
目にも留まらぬ速さで漆黒の牙を生やした黒獣が炎馬帝を捕らえた。
激しく抵抗する炎馬帝を黒獣は咥えながら渦へ消えた。
獣って言ったがふさふさでもない。
四足歩行で鋭い牙の生えたナニカだ。
二足歩行でダッシュもする。
瞳も、耳もない。
黒い顔に口だけだ。
昔は気持ち悪かったが今は気にならない。
シアの説明では、地獄の住人らしい。
危険か聞いたら言われた。
「むしろ召喚した私達は感謝されてるわ。地上の生物は魔力を多く含んでいるからご馳走って言ってたわ」
言葉を理解できるシアが怖かったのを覚えてる。
炎馬帝を倒した俺は地上に降りて、少女の元へ向かった。
少女は頭を打って気絶していたようだ。
「この子美人さんだな。俺が学生だったら一緒に勉強したいな」
「私と勉強しなさい!私のほうが美人
よ!」
「はいはい、そうだな」
プチ嫉妬する精霊神様を撫でる。
「もっと撫でなさい!」
「もう終わりだ」
シアが横で文句を言ってるが無視だ。この無視はセーフだ。
少女に目を向ける。
陽の光を受けて金色に輝くショートカットの金髪。凛々しい顔にスラリと長い手足。長い耳にはバツ印で刻まれた妖精の紋章の耳飾り。青と黒を基調とした制服に身を包んだエルフの美少女。
エルフの女性は美しいな。
エルフは魔法が得意な種族だ。エルフの殆んどはエルフの国『ユグドラシル』で生活している。
奴隷制度が残っている国は少なくなく、特にエルフは容姿が整っている種族で奴隷にされることが多い。
街で誘拐して奴隷にする下劣な事件もある。
だからエルフは基本的にユグドラシルから出ない。
自衛が出来るエルフで俺も知り合いはいるが……この少女はそうでもなさそうだ。
「うーん、この紋章どっかで見たことあるんだよね。何処だっけなぁ」
「エルフの国『ユグドラシル』の王族の紋章よ」
「それだ!」
「ユグドラシルの王女かしら?ユグドラシルの王族しかそのイヤリングしてないわ」
「何で知ってるんだ?」
「その紋章ってシルフなのよ」
「シルフ?」
「風の精霊王よ」
「契約者はアルフか」
「そうね」
アルフ・ユグドラシル。五大賢者で『叡知の賢者』と呼ばれている。
そしてユグドラシルの現国王だ。
「このバツ印はなんだ?」
彼女の耳飾りはナイフで刻んだような痕がある。
「王族しかしてない耳飾りにバツ印は変ね」
「事情がありそうだな」
「そうね」
「ここで会ったのも何かの縁だ。話ぐらい聞いてみるか」
エルフの訳あり少女が目覚めるのを待つことにした。