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乙女ゲームのモブに転生したけど元悪役令嬢に振り回されてます

作者: すばる

 処女作です。拙いので色々お目こぼしくださいませ。

 どうやら私は異世界転生というものをやらかしたらしい。前世でアニメ鑑賞に励んだり、ラノベを多岐にわたり読みふけってきた私にとって、異世界転生はおなじみのテンプレ設定だった……のだが。


 まさかの自分が当事者になるとゆー(遠い目)。


 いい加減もうこの手のネタに飽きた? すいませんね、でもやっちゃったことはやっちゃったことなんで許してください。

 暴走したダンプカーにはねられたと思った次の瞬間におんぎゃーと産声上げて産まれてきちゃったんですよ。不可抗力です。まる。


 異世界転生と言えば、たいていの場合乙女ゲーム転生かチートで「俺(私)TUEEE!」の二択だけど、私はどうやら前者だったらしい。そう、「らしい」のだ。何せ転生先は乙女ゲームのシナリオとはまっっっっっっったく関係ない、ごくごく普通の平民の一般家庭に生まれたから。


 これに関しては神サマに感謝しかない。私超ラッキー。

 またまたそんなこと言って、と思われるだろうか。でも考えてもみてほしい。こちとら前世も平均的な一般家庭に育ったのだ。長いものには巻かれようがモットーの小市民なのだ。

 貴族なんかに生まれたり、乙女ゲームのシナリオなんかに関わった日にはキャットファイト断罪その他もろもろに巻き込まれた挙句に家ごと被害を受けて没落コースの可能性。最悪ギロチンもあり得ます。没落して質素に生きるのには当然ためらいや嫌悪感はないけど、わざわざ周りの評価を落として生きにくくなってまで、庶民生活を満喫したいとは思わない。……悪かったね、小市民で。


 まあそれはさておき、私が転生したのはこれまたテンプレな乙女ゲーム世界のようで、西洋近代的世界観の中、下級貴族の庶子の令嬢が、王侯貴族が集まる学園に入学し、イケメンで将来有望で高身長なエリート男子達を、その天真爛漫(てんしんらんまん)な性格と可憐な容姿で魅了していき、悪役令嬢に邪魔されていじめを受けるが、ヒーロー達と共に悪役令嬢を断罪しハッピーエンドという内容の乙女ゲームだった。乙女の思考回路全開の作品でした、はい。


 私はこの作品をかなりやりこんでいて、本編ストーリーどころか隠しヒーローの攻略やファンブックの熟読まで行っていた。

 そのため、シナリオに全く登場しない私でも、小耳にはさんだ貴族についての噂などから、ここが乙女ゲームの世界だと推測できた。どこそこの高慢な公爵令嬢が第一王子の婚約者に内定しただとか、どこぞの騎士団長子息が剣技大会で優勝して最年少で騎士団に入団しただとか、あるいは、なんとかという子爵家が、当主が若いころに身分違いの恋をしてこさえた庶子の娘を引き取っただとか。家名や噂の内容がゲームの設定と一致しまくっていたのだ、これはもう決まりだろう、多分。




 さて、転生してこのかた、普通で平穏な人生を歩んできたけれど、実は私も転生主人公の例に漏れず、何かチートをやってみようと思ったことがある。平凡に生きたいくせに何やってるのかって? うん、まぁ、魔が差したというやつです。黒歴史なので忘れてください。



 結果から言おう。無理。



 前世では一応理系女子(リケジョ)だったので、いけるかなー、と思って発明チートにチャレンジしてみた。……無理でした。というか無謀だった。


 設定緩めの乙女ゲームだったせいか、この世界は、照明、シャワー・バス、温水設備完備(魔法を使っている)という、見た目18、19世紀ぐらいの世界の癖にそれでいいのかと突っ込みたくなる文明レベルだった。まだまだ一般家庭に浸透してはいないが、テレビやスマホに似たものまであった。正直私が何か発明しても劣化版にしかならないと思う。

 料理チートは……ノーコメントで。

 い、いや、前世よりは上手くなったんだよ!?(汗)



 そんなこんなで平々凡々な人生を送ることにしたわけだけど。


「……ねぇ、どうしてティリアはここにいるの」

「だってわたくし、ここの店員ですもの。店長のエイミィさん?」


 気取った言葉遣いでコロコロと笑う元悪役令嬢(ティリア)に頭痛が止まらない。バ〇ァリンくださーい。


 ここは、私が数年前に開いた雑貨店。雑貨店と言っても置いてある商品のほとんどは金属細工のアクセサリーで、私の手作りだ。


 両親が代々の鍛冶屋を営んでいる私は、幼いころから金属の加工を目にする機会が多かった。作られていたのは大部分が消耗品となる剣などの武器だった(冒険者や騎士がよく買うらしい)けど、たまにネックレスや指輪なども受注されていることがあった。父が武骨な手で、魔法を器用に(あやつ)りながら細工していく様子はとても魅力的だった。……うん、あまり女の子らしくない趣味なのは分かってる。


 興味をそそられまくった私は、初等学校に入学した7歳ごろに、かつてないほどの駄々をこねまくって、金属加工について教えてもらうことになった。

 幸い、私には父と同じで生産系魔法、特に金属加工に向いた魔法の才能がそこそこあったので、義務教育を終える頃には、鍛冶はまだまだ未熟だが、金属細工なら何とか売れるレベルに達していた。パパンありがとう。


 その後更に何年か修行を積んでいたけれど、父の勧めもあり、鍛冶も学びながら、私は自分の金属細工の店を小さいながらも持つことになった。いずれ私が鍛冶師になって店を構えた時の練習だそうだ。はじめは両親に泣きついてばかりだった店の経営も、ここ最近ようやく軌道に乗った。……のだが。


 私は目の前の金髪美少女をぎろりと()めつけた。


「ティリアならいくらでも婚約破棄を回避できたでしょうに、なんでわざわざ平民になって、こんな豆粒みたいな雑貨店に就職したわけ?」

「だぁって、王子妃教育とか面倒くさいし疲れるんだもの。実質王妃教育だったし、あんなのほぼ虐待よ~? あの子爵令嬢もかわいそうにねぇ。うふふ」

「いやうふふて」

「びば、ゴロゴロ! レッツ怠惰!」

「あんたほんとに元公爵令嬢!?」



 少し前からのうちの常連で、今は店員をしているこの女が、まさか第一王子の元婚約者だったとか誰も気づくまい。こんな面倒くさがりな令嬢がいてたまるか。

 そう、私の目の前にいるこの少女は、例の乙女ゲームの『元』悪役令嬢である、ファティリア=エンフォード『元』公爵令嬢である。……何故『元』なのかは、お察しのとおりです。



 ティリアと初めて会ったのは、半年ほど前。


 やたら麗しい娘がこの雑貨店にひょっこりやってきた。

 第一印象としては、ちょっとした商家のお嬢さんが買い物ついでにふらりと寄ってみた、といった感じだった。

『あら、可愛らしいアクセサリーね。このバレッタをもらえるかしら?』

そんな会話をしたのが最初……いや最後だった。


 ティリアがこの店に通うようになって数か月すると、私たちはアクセサリーのデザインについて意見を交換するほどの仲になっていた。面倒くさがりなティリアも、デザインの話をするときはいつもより生き生きとして、『お嬢さん』な雰囲気は鳴りを潜めて、今どきの町娘にしか見えなかった。


 ……なんで貴族だと分からなかったんだ、って?

 いやまさか、護衛の一人も付けずにカジュアルな服装で歩く公爵令嬢、しかも王子の婚約者とかリアルにいるわけないじゃん? ……ティリア以外には。

 家の人は止めなかったのか。この前そう聞いたら、ティリアはうふふと笑いながら、『塀を登ったり、屋敷に来た商人の荷車に紛れ込んだりしたら、あっさり通れたわよ~』と答えた。

 絶句。

 まじ、なにやってんの。



 ……話を戻そう。


 ティリアがこの店の常連になったころ、王都にある噂が流れだした。

 曰く、

 第一王子の婚約者である公爵令嬢が、王子のお気に入りの子爵令嬢に嫌がらせなどをしている。

 子爵令嬢は庶子だが優秀で、心優しく可憐な少女らしい。

 子爵令嬢は第一王子や騎士団長子息などの、高位で美形の貴族子息達に溺愛されており、彼らは愛しの子爵令嬢が受けている嫌がらせに怒り心頭である。

 etc.


 そして来たる第一王子の立太子の儀。

 第一王子改め王太子は公爵令嬢に婚約破棄を宣言、子爵令嬢を新たな婚約者に据えた。

 公爵令嬢は、苛烈で陰湿ないじめと、子爵令嬢の殺害未遂で平民に降格。公爵家は当主が交代し、子爵令嬢の取り巻きの子息の一人でもあった嫡男が後を継いだ。


 私は、おおゲームの筋書き通り、と素直に感心し心の中で、公爵令嬢ご愁傷(しゅうしょう)様、と思っていた。

 悪役令嬢は死刑とか国外追放にはならなかったし、所詮他人事なので、私は、左様かー、程度の薄い反応だった。

 ……そんな態度でいられたのも、公爵令嬢に対する処分が実際に行われるまでだったけど。


 いつものように店番をしていると、ティリアがやってきた。

『やっほー、エイミィ。突然ごめんけど、私をここで雇ってほしいな』

『……は? いきなり何』

『エイミィ前鍛冶の勉強したいのに店番のせいで時間とれないって言ってたよねー? というわけで雇って?』

『い、いや確かに言ったけど、脈略なさすぎ……』

『実は私、公爵令嬢だったんだけど、王太子の婚約破棄騒動のおかげで、実家からはした金と一緒に追い出されて平民になったの~。やー、婚約破棄頑張って良かった!』

『ぅわっつ!?』

『まずは生活の糧から得よう!……ということで雇って?』

唖然としたね。


 うちで雇ってくれとかそういうのは事前に根回ししろよ。つか、ここで元公爵令嬢だってカミングアウトしちゃう!? 婚約破棄されるって分かってたならいろいろ回避しろよ! 平民落ちするなら準備しようよ!

 エイミィびっくりしちゃった☆



 まぁ、そんなこんなで。


「ぶつくさ言いながらも雇ってくれるエイミィ大好きよ?」

「……ま、あんた仕事は一応ちゃんとする人だからね」

「エイミィのツンデレさん……ふふ」

「誰がツンデレだ誰が」


 きゃっきゃと私で遊んでくる元公爵令嬢を引き続きじっとりした目で見たけど、本人はどこ吹く風で涼しげな佇まいだ。

 一生勝てないのは分かっているがむかつく。


 ていうか『ツンデレ』て……。ティリア、あんた絶対転生者でしょ!?

 ……多分向こうも私が転生者だと気づいているんだろうなー。前も何か似たようなことあったし。どら焼き作って持ってきてくれたこともあったし。


 でも、私は定番の『実は私、転生者なの!』は言わないし、逆にティリアに『あんた転生者でしょ?』とも聞くつもりはない。

 ティリアも聞いてこないし、はっきり暴露もしない。

 だって、『シナリオ』が終わっている以上、転生者であることを明らかにするのに特に意味はないし、私たちが生きているのは『ここ』であって、前世の世界ではないからね。

 



 私ははぁ、と溜息をついた。―――なんか最近、溜息が標準装備になってきつつあるなぁ。

 


「―――ところで、この前注文のあったネックレスなんだけど、装飾用の宝石の値段が高騰してて、予算内に収まらないんだよね。ティリアはどうしたらいいと思う?」


 ティリアは白魚の手を口元に持っていき、小首を傾げ、ややあって、紅唇を開いた。

「宝石の産地は指定されてるの?」

「まさか。貴族や大商人ならまだしも、依頼者は平民だから、宝石の産地とかはあんまり気にしないんだよね。そういうわけで、今回の依頼も産地の指定はなし」


「なら、今使っている国産のじゃなくて、南方の国……そうね、アルレシャ公国からの輸入品を使えばいいんじゃない? あそこのならまだ高騰は免れてるはず」


 私は困惑して眉をひそめた。

「え、でも王都内でアルレシャの宝石を扱ってるところってあった? アルレシャ産は確かに安いけどマイナーだから、南方の領地にしか売ってないと思うんだけど」

 そう私が言うと、ティリアはよくぞ言ってくれました!と言わんばかりににんまりと笑った。


「カルニア商会にならあるわよ」

「カルニア商会? 聞いたことない商会だけど」

「アルレシャの商会なの。出向、っていうか、ファルク商会のいちブランド、って形で王都に出店してるのよ。大商会であるファルク商会の方が目立ってるし、アルレシャのマイナーさもあって、()()あまり有名じゃないの」


 私は、へぇ~、と感心してうんうん頷いていたが、あることに気づいて再びティリアをじっとりと睨んだ。



「……ねぇ、ティリア。確かファルク商会ってバックにエンフォード公爵家がついてたよね?」



 ティリアはピクリと眉を動かしたが、にっこりと愛らしい笑みを浮かべた。……おいコラ、演技なのはばれてんぞ。


「エンフォード公爵家が商会の後ろ盾になった時に、どこぞの令嬢がほとんど仕切って、経営に凄い介入したとか何とかいう噂があったんだけど?」


 表面上は笑顔に変化はないが、ティリアの瞳はうろたえるように泳いだ。———やがて可憐な笑みが、開き直ったイイ笑顔に変わった。

 そして、親指をグッと立てて一言。


「まいどあり~」


 自分の息のかかった商会をちゃっかり宣伝するとともに、お買い上げ確定☆やったね! とばかりに話を進める元悪役令嬢。あんた実家から追放されたって言ってたけど、うちの店以外からの収入があるの、私知ってるんだからね。


 ……おかしいなぁ、巧みな話術と商魂たくましさに心の涙が止まらないや……。


 ティリア、あんたもう商人になれば?






 カランコロン、と店のドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」

 笑みをを浮かべてティリアが応対する。

 その姿からは、何だか彼女が公爵令嬢『ファティリア=エンフォード』だった時に時折私が感じていた頑なさや緊張感が抜けて、大人びつつも少女のあどけなさが漂っている。

 一言で言うなら、とても楽しそうだ。


 

「ま、いっか」



 そしてそんな彼女を見てしまえば、私はティリアに振り回されるのも悪くない、と思うのだ。




「あ、エイミィ、今日晩ごはん食べに行ってもいい? 茸のシチューがいいな。あと胡桃パン」

「いやまだいいとは言ってないし、ていうか何家主に断りもなく夕飯のメニュー決めてんの」


 オーダーしてんじゃねぇよ。その前に私料理苦手なんだよ。


 前言撤回。

 誰かこの元悪役令嬢に振り回されずに平凡な生活を送る方法を教えてください。


 ティリアが婚約破棄を回避しなかった理由として、第一王子があまりにも腹黒だったからという裏設定があります。

 ティリアとの婚約破棄も、子爵令嬢との恋愛のためではなく、公爵家の力を削ぐためなどの政治的な理由によるものです。婚約を無理に継続していた場合、ティリアは闇に葬り去られてしまった可能性が高いです。公爵家としても王子とコトを構えたくない上、優秀なティリアを失うのは惜しかったので、商会で働くという条件で婚約破棄に協力しました。さらにティリアの面倒臭がりがプラスされたので婚約破棄は割とすんなりいきました。

 そういう訳で実は子爵令嬢は哀れな生贄……失礼、子羊でした。

 ……裏設定はシリアスですが、本編は能天気ですね。

 ご要望があれば、王子や子爵令嬢視点の話も書く予定です。

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