石に纏わる寝物語
静かな夜
「いつもならそろそろ来る時間かしら」
暖かいお茶を準備しながらいつも来る小さなお客様を待つ
(コンコン)
小さな明かりだけで過ごす寝室に小さなノックの音が響いた
「どうぞ」
入室を許可すると扉から見えたのは夜着を纏った小さな女の子の姿
「おばあさま、おはなしきかせてください」
子供は既に寝る時間だがこの子はよく寝る前にこうして私の話を聞きたがる。
眠る間際になると侍女の目を掻い潜って部屋を抜け出してくる。
本人はうまく抜け出していると思っているがいつものことなので侍女たちも見つからないように見守ってはいるのだ。
「さあ、今日はどんなおはなしが聞きたい?」
ローテーブルにお茶を置いてソファーに座る。
昔から伝わる御伽噺はいろいろあるがこの子が好きなお話といえば
「おうじさまとおひめさまのおはなしがいい!」
もう何度も繰り返し読み聞かせているある絵本のおはなしだがこの子はとても気に入っているらしくこうして夜に寝室を抜け出してはお話を催促してくるのだ。
旦那様はこの絵本のお話あまりすきじゃないみたいだけどね、ふふっ
「さあ、冷えるといけないからこっちにおいで」
私が座るソファーの横に小さなお客様を案内して眠る前に良い香りのお茶を置く。
これが私とこの愛孫とのいつもの形である
「それじゃあ、王子様とお姫様のお話ね」
これは昔からある御伽噺ではなくある国の王子様とお姫様が結ばれる前に実際にあったお話
「昔々、あるところにとある国の王子様とお姫様がいました」
お話を始めると女の子を目を輝かせて聞き入る
その様子を微笑みながら続けていく
「王子様は無口で照れ屋な男の子、お姫様はちょっとおて・・・コホン・・・素直じゃない元気で活発な女の子でした」
「元気で活発なお姫様はよく城を抜け出しては侍女や騎士達を心配させていました」
女の子を見るとえへっと笑顔を見せる
この子ったらもう・・・
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ある日のこと、いつものように城を抜け出した女の子はある洞窟へ向かっていました。
その洞窟は小さなきらきらした宝石のような石が落ちていてお姫様が好きなとっておきの場所でした
その洞窟の手前にいつもなら見ないきらきらした男の子と護衛らしい騎士の姿が見えました
誰だろうと思いながら近付き女の子は話しかけました『ここで何をしているのですか?』
突然声をかけられた護衛がほんの一瞬警戒しましたが姿を見せたのが女の子だったこともあり護衛の人も女の子に話しかけてきました
『この辺りにあるらしい洞窟を探しているのだが何か知らないかな』
女の子が知る限り洞窟といえばきらきらした石が落ちているあの洞窟しかありません
『わたしがしっている洞窟ならここからすぐ近くにありますよ』
そう女の子が言うときらきらした男の子と護衛の騎士は
『案内してもらえるかな』
といわれたので
『こっちですよ』
と女の子は元気よく返事をしきらきらした男の子と護衛の騎士を洞窟の入り口まで案内しました
『ここが?なにも無いじゃないか』
きらきらした男の子は洞窟の入り口に案内されたが何もないことを女の子に言いました。
疑われたことに頬を膨らませて女の子は怒りましたが真っ直ぐ壁に進むと突然女の子の姿が消えましたが女の子はすぐ姿を現し
『どう?驚いた?』
きらきらした男の子と護衛の騎士は何も言わず驚いていましたが女の子が
『こっちだよ』
と声をかけると我に返り女の子を追いかけて洞窟へ入りました。
いつもきらきらしていた洞窟でしたがその日は様子がおかしいらしく女の子は首を傾げていました」
『どうしました』
と護衛が女の子に問いかけると
『きらきらした石が見当たらない』
と答えました。
護衛の騎士は『それは困りましたね、如何されますか』ときらきらした男の子に問うと
『本当にここなのか』
と女の子に言ってきました。
また疑われたと思った女の子はこの洞窟しか知らないため
『わたしはここしか知らない』
と答えてそっぽを向いてしまいました。
三人はもうすこし奥を調べることにしました。
一番奥までたどり着いた三人は目の前にきらきらした石があるのを見つけました。
その石を見つけた女の子は走り出しましたが女の子は近くに潜んでいたバケモノに気が付いていませんでした。
きらきらした男の子と護衛の騎士は気が付いていましたが女の子が突然走り出したため止めるのが間に合わずバケモノが女の子を襲おうとしていました
『あぶない!』
間一髪のところできらきらした男の子と護衛の騎士が女の子を庇いバケモノは退治されました。
きらきらした男の子は
『あぶないことするな!』
と女の子に怒鳴りつけ、女の子は涙目になりながら下を向いたまま洞窟を出てお城に帰るまで黙り込んだままでした。
きらきらした男の子と護衛の騎士は目的のものを見つけたものの困ったことにそれは一つだけでした
怒鳴りつけたことで女の子は臍を曲げて男の子は『これやるからもう泣くな』とその見つけた石を女の子へ押し付けました。
女の子は『いらない』と受け取らず自分の部屋に帰っていきました。
きらきらした男の子と護衛の騎士はなんどかあの洞窟へ通ったものの見つけられたのはあのときの一つだけでした。
その間、女の子はあの洞窟へは行かず部屋に篭って過ごしていました
きらきらした男の子と護衛の騎士はついに諦めて帰る日となりました
きらきらした男の子は帰る前に女の子に謝ろうと部屋を訪ねました
『このあいだはごめん、これあげるから』
とあのとき見つけた石を差し出してきました
きらきらした男の子の顔は真っ赤でそれをみた女の子は大きな声で笑いました
女の子はそのきらきらした男の子から石を受け取りましたが、少し考えたあと自分のネックレスにつけていた同じ大きさの石を取り出しました。
そしてその石を男の子へ渡しました。
きらきらした男の子は顔を真っ赤にしながら『ありがとう』とその石を受け取り護衛の騎士と帰っていきましたとさ
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(スー・・・スー・・・)
愛孫が寄りかかってかわいい寝息を立てていた
「おやおや、寝てしまったかい」
物語のお話がひと段落したところで寝てしまったので起こさないように侍女を部屋に呼び出す。
そしてそのまま抱き上げてこの子の寝室まで連れて行きベッドへ寝かせる
これが毎日の日課だった。
「申し訳ありません、お義母様」
小さな声で謝罪を伝えてくるのは愛孫の母親で息子の嫁
「よしなさい、この子のおかげで私も楽しいからね。それよりあなたも身重なのだから冷やさない様にね」
蛙の子は蛙とは言うけれど蛙の子の子も蛙なのだと良く思う
「それも悪いところばかり似るのだから・・・」
かつての自分と旦那様、そして子供達とその孫達
受け継がれるのは良いものばかりとは限らない
けれどそれが返って自分の特徴を受け継いでいるとなれば愛おしいものであろう。
次の日の夜。
(コンコン)
「どうぞ」
そしていつものように尋ねてくる小さなお客様
「おばあさま、きのうのつづき、きかせてください」
昨日は途中で寝てしまったこと分っているためか照れながらいつものようにお話を聞きたいとおねだりにきた。
そしていつもの位置に座らせたら昨日の続きを聞かせていく
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きらきらした石を交換した女の子と男の子はその後自分のもつ本来の役割を全うするために日々いろいろな勉強を頑張っていました。
男の子は強く賢くなるため剣を学びながらも勉強をがんばりました。
女の子はお淑やかな女性になるべく礼儀作法やダンスをがんばりました。
それでも本来であればまだ遊びたい盛りの子供達。
それでも自分の持つ本来の役割のために我慢して勉強をしていました
女の子はある日とうとう我慢が出来なくなり城を抜け出しました。
抜け出して向かった先はあの男の子と一緒に入った洞窟でした。
膝を抱えて俯いたまま小さく肩を揺らしています。
暫くして女の子はペンダントについた石を取り出しました。
それはあの時男の子と交換したきらきらした石でした。
その石をじっと見つめていると不思議なことが起こりました。
バケモノに襲われ『このばか!』と怒鳴られたあのときの光景が見えてきたのです。
女の子はあのときのことを思い出しすこしむっとしましたが不思議なことに先ほど膝を抱えていたときの鬱蒼とした気分は綺麗に消えていました。
気分の晴れた女の子は城に帰り再び自分がするべきこと、学ぶべきことを再確認しました。
時は流れて女の子は立派な淑女となり、婚約者が決められることになりました。
立派な淑女になった女の子は馬車に乗って隣の国で開かれるダンスパーティーに参加することになりました。
向かった先のダンスパーティで女の子は色々な男性にプロポーズを受けましたが全て断りました。
疲れ果てた女の子は少し休もうと会場の外にある庭に出てきました。
身に着けていたネックレスにはあのときの石を取り出すと大事そうに両手で包み込みあのときの男の子のことを思い浮かべました。
女の子はあの男の子にいつの間にか恋をしていたのでした。
『ここにいたのか』
そう声を掛けられた女の子は聞き覚えのあるその声つい先ほどまで考えていたことを見透かされたかのような気持ちになり真っ赤になっていました。
あのときのきらきらした男の子も立派な男性となってこのダンスパーティへ参加していました。
『あの時はすまなかったな』
女の子は急に謝罪をうけて何のことか意味が分らず戸惑いましたが男の子の顔を見るとなぜか男の子は顔を真っ赤にしていました。
何度か何かを言おうとしていた男の子は何かを決意したかのか女の子に
『あの時初めて合ったときから君の事が好きでこの日まで忘れられなかった、僕と結婚してほしい』
急なプロポーズに頭が追いつかない女の子は戸惑いながらそのことを理解するとぽろぽろと涙を零しながら返事をしました。
『私も貴方にいつの間にか恋をしていました』
そう返事をすると二人の持つあの石が光りだしました。
お互いがどのようにどんな思いで過ごしていたかをその石は教えてくれました。
光りが収まるとお互いに顔を見合わせて笑いました。
こうして男の子と女の子は婚約し、数年後男の子の国で結婚しました。
その国のお姫様となった女の子は子供達にも恵まれて幸せに過ごしましたとさ
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(スー・・・スー・・・)
お話が終わったところでいつもと同じように眠っている子をいつものように寝室へ連れて行きベッドに寝かせる。
「お義母様」
「わたしは幸せだよ、子供にも恵まれてこんな愛らしい孫もいて・・・願わくばわたしの子供達も貴女も、そして孫達も幸せになって欲しい」
「お義母様、わたくしも幸せです。こうしてこの子とお腹にいるこの子もきっと幸せになります」
いつまでこの平和が続くかはわからない。
でも、子供達もこの国の民達も幸せになって欲しい。
それがこの国を護るわたし達の務めなのだから。
コンコン
「どうぞ」
そして夜の寝物語は今夜も語られていく。