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異世界神社の管理人  作者: いつきみずほ
第一章 期間雇用、それって終身雇用のことでしたっけ?
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002 続・プロローグ

「カッとなってやった。今は反省している」


 そんなことを呟きながら、わたしはPCの画面を眺めていた。


「でも、後悔は……ちょっとしてる」


 表示されているのはMMORPGのキャラ。

 一言で言うなら、それは黒髪の少女。


 用意されているパーツをグリグリといじくり回し、外見設定に半日もかけたその容貌は、何年か前のわたしにそっくりだったりする。


 外見設定にそんなに時間をかけるなんて、バカだって?


 うん、わたしもそう思う。

 バカだよね、ホント。



 ……いやいや、最初はそんなつもりは無かったんだよ。


 サブキャラだったから、時間をかけるつもりはまったく無く、ほとんどデフォでやるつもりだったのだ。


 ただ、キャラメイクする直前に、ちょうど従姉妹の子供が遊びに来ていたのがいけなかった。


 彼女の容姿がわたしに瓜二つという話で親戚たちが盛り上がり、昔のアルバムを引っ張り出してきて「この写真が似ている」とか「このへんがそっくり」とかワイワイ、ガヤガヤ。


 その後、従姉妹たちは帰ったんだけど、わたしの手元には、押し入れからわざわざ引っ張り出して来たアルバムが。


 で、何となく、そう、何となく、その写真に似せてキャラを作り始めてしまったのだ。


 そうなると、変なところで凝り性なわたし。


 ついつい出来映えを追求して――結果、無駄に自分そっくりなコレである。


 とは言っても、別にキャラの外見を反省しているわけではない。


 変に自分の趣味丸出しというわけでは無く、単に(昔の)わたしにそっくりなだけなんだから。


 問題はそのステータス。


 このキャラでプレイし始めて数ヶ月ほどなのに、すでにキャラレベルはカンスト、大量にあるスキルのレベルも、プレイヤーの中でも最上位のグループに属している。


 装備品は最高級素材をふんだんに使った代物で、性能のみならずデザインにもこだわった逸品である。


 持っている消費アイテムに関しても言うまでも無く。


 はっきり言って、超・強い。


 レイドボスすら一人で倒せそうなほどに。



 ――これがわたしの“姫プレイ”、三ヶ月の集大成である。


   ◇   ◇   ◇   ◇


 “姫プレイ”。


 それは、女性であることを売りにして、高レベルプレイヤーに寄生してパワーレベリングしたり、アイテムを貢がせたりするプレイ全般のことを言う。


 一部では蛇蝎だかつごとく嫌われるプレイだが、わたしはそれ自体を否定するつもりはない。


 言ってしまえば、ネトゲなんて所詮ゲームだし、ロールプレイの一環としてやるのは、それはそれでありだと思う。遊びなんだから。


 ホストやキャバ嬢に貢ぐのに比べればマシじゃない?


 だから、そのプレイヤーを見たときも別に大したことは思わなかった。


 『あー、あのキャラって多分、ネカマだよね~』と思ったぐらいで。


 ただ、裏で取り巻きの人たちをバカにしたような発言をしていたので、それに関してはちょっと注意をしたのだけど、それがいけなかった。



 ――喪女のひがみ。

 ――現実ではもちろん、ネットですらモテない。

 ――ギルドも作れないくせに何言ってんだか。



 帰ってきたのはそんな罵詈雑言だった。


 『おいおい、現実のわたしなんて知らないよね?』とか『わたしが女だなんて言ってないんだけど』とかいう事実なんて関係ない。


 それがネット。


 『うーん、さすがにこんなのに騙されている取り巻きが可哀想だよね?』と謎の正義感にかられたわたしは、目を覚まさせてあげるために行動を開始した。


 もちろん、喪女とか言われたのに怒ったわけでは決してない。


 ええ、決して。



 とはいえ、さすがにメインキャラ――ガチムチ盾職の騎士で男――で活動する気にはなれなかったので、別キャラを作ろうとした。


 その時思い出したのが、しばらく前に作ったあのキャラ。


 時間をかけて外見を設定したものの、できあがった時点で満足してしまい放置していたアレ。


 せっかく時間をかけたのに使わないというのも勿体ないし、長時間かけて美少女キャラを作るのも面倒くさい。


 それに、相手に対抗して美少女で姫プレイするよりも、平凡な外見の少女にやられる方がダメージ大きいはず、という思惑もあり、わたしはそのキャラでログインしたのだった。



 ――こうして、“最凶の姫”がゲームの世界に降り立った。



 その後のことに関しては、詳しく語るまい。


 

 結果として、三ヶ月後にできあがったキャラと、めっちゃ恥ずかしい“最凶の姫”なんて二つ名が付いている時点で、おおよそ状況は想像できるだろう。


 一月半も経つ頃にはくだんのネカマのギルドは崩壊していたので、続ける意味はなかったのだが、意義を見失って半ば放置してしまった結果、三ヶ月を経つ頃にはちょっとマズイ状況になってしまった。


 ……いや、姫プレイとしては大成功なのだが、別に姫プレイが好きで始めたわけじゃないので、正直重荷になってしまったのだ。


 課金しまくって貢がれてもちょっと、ね……。



 まぁ、遊びで付き合ってくれた人も結構な割合でいると思うんだけど、純粋にゲームとして楽しむのとは、ちょっと違う状況だからねぇ。


 そんなわけでわたしが選んだのは、キャラのデリートである。


 今となってはメインキャラよりも強くなってしまったので少し勿体ない気持ちはあるが、苦労して育てたわけでもなく、精神的ダメージは少ない。


 自分では課金してないので、無駄になったのは時間だけ――貢いでくれた人たち、ホント、すみません。


 ログアウト状態でフレンドたちに引退のメッセージを送り、システムメニューからキャラの削除を選択する。



【キャラクターを削除します。すべてのデータ、アイテムが消滅します。よろしいですか?】



 確認画面が表示されるが、『Yes』を選択。


 アイテムをメインキャラに譲渡するのは、さすがにダメだよね。



【近々、下記のようなイベントが予定されています。削除すると参加できなくなりますがよろしいですか?】



 おっと、こんなイベントがあるのか。


 ……あぁ、いやいや。メインキャラで参加すれば良いんだから問題なし。


 再び『Yes』を選択。



【削除される場合には、注意事項を読んで同意する必要があります】



 引き留め工作がウザい。


 『同意する』と『時間があるときに読む』の選択肢。

 これ、後者を選ぶとキャラデリ、中止されるよね?


 当然『同意する』を選択……くっ、読まないと選べないヤツだ。

 注意事項のページを開いて流し読み。『同意する』を選択!



【本当に削除しますか? 今ならまだ中止できます】



 まだかっ!


 画面に大きくキャラクターの画像とステータスが表示され、『削除』と『中止』が表示されるが、やっぱり削除を選ぶ。



【削除することで、キャラクターは死んでしまいます。本当によろしいですか?】



 ――ホント、しつこいね、このゲーム。


 これはあれだね、ネガティブな選択肢を選ばせることで、離脱しにくくする手法だね。


 退会手続きを面倒くさくする手法と並び、各種サービスの解約やCMなんかでも使われたりする手法。


 でもさ、程々にしないと運営会社自体にネガティブイメージが付くよ?


 もちろんわたしは確固たる意思で『Yes』である。



【キャラクターを殺しますか?】



 しつこい!


 しかも、選択肢は『殺す』と『助ける』である。


 ここまでやられると逆に意地になる。躊躇なく『殺す』を選択。


「…………うわぁ、悪趣味」


 選択肢を選んだ瞬間、表示されているキャラクターが驚愕の表情となり、足下からじわじわと消えていく。


 自分と同じ外見(幼い頃だけど)だけに非常に気分が悪い。


 仮に自分と似ていなくても、苦労して外見設定したキャラや、頑張って育てたキャラをじわじわ消すとか、ひどい嫌がらせじゃない?


 これ、メインキャラでもこのゲームをプレイし続けるか、考えるべきかも。


 不満ながらもスキップもできないようなので、仕方なくキャラが消えていくのを眺める。


 そして、完全にキャラのCGが消えて画面が真っ暗になった次の瞬間、わたしの視界も突然真っ暗になり……わたしは意識を失った。

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