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topics25 元カノ復活の件

 第34帖 若菜上(【超訳】源氏物語episode34-2 さざ波が揺らす心)に寄せて


 照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜に 似るものぞなき

(照り輝くのでもなく曇り空で見えなくなるのでもない、春の夜の朧月夜は最上の月夜だ)


 新古今集で詠まれた歌を彼女が諳んじたところから始まったこのふたりの恋でした。


「奇遇だね。俺も朧月夜が好きなんだよ。運命的じゃね?」

 源氏くんの運命はそこかしこに転がっています。どんな種だって花を咲かせて、どんな石ころだって石を煌めかせて「運命の恋」に仕立て上げるそのスキル。ある意味無形文化財かもしれません。


 けれどもそれは決して公表できるような恋ではなかった。


 そんな過去の過ちを須磨での謹慎で責任をとり(この謹慎が本当に謹慎生活だったかはどうか疑問の余地はありますが)、都に帰還して仕事に復帰、准太上天皇という最高位まで出世もしました。子供達も結婚し子育てもひと段落。明石の姫君を嫁がせた紫の上とゆったりハッピーセカンドライフ……とはならないこの物語。


 お兄さんの朱雀院のたっての願いで女三宮を正室に迎えることになった源氏。

 このいきさつについては前回のトピックスでつぶやきましたね。 


 けれどもこの結婚は紫の上の魅力やカンペキなパートナーぶりを源氏に再確認させることになったのです。一晩会わないだけでも恋しくなる。紫の上への愛が深まるばかりの源氏。去年よりも今年、昨日よりも今日の方が愛おしい最愛の紫の上。



 なのに、おいっ! こらっ!!!


 お、朧月夜にまた逢いに行くだとぉ?


 物越しで話をするだけだとぉ???


 とか言っちゃってほら、直で会おうとしてるじゃん。


 そしてさすがの「源氏クオリティ」でふたりのあいだの障子を取り払って……。

 初めて会ったとき以上に盛り上がるって……。


 ええ、ええ、そうでしょうね。

 アナタ、こんなシチュエーションには弱いもんね。

 久しぶりの再会

 最初は拒んでいるカノジョを口説き倒す

 変わらず美しいカノジョ

 大人になってからの同窓会で再会する元カノパターン?

 あの頃の美しさにオトナな魅力が加わって……。

 まあ、盛り上がるんでしょうな。



 一方最初は会うのを拒む朧月夜。

 あの頃みたいに若くはないし、いろいろな経験をしてきたわ。

 考えなしにアナタと戯れるわけにはいかないのよ。

 出家したけれど、優しい朱雀院がアタシにはいるのよ。

 もうアナタのことなんて……。

 アナタなんて……。

 ……。


 とはいってもねぇ。

 障子の向こうにトキメク源氏くんがいると思うとねぇ……。

 ここを開けてくれ、なんて言われたら……。

 あのとき、天下の光源氏が罪だとわかっていてアタシに溺れたのよ。

 アタシのためにアナタは失脚までして罰をうけてくれたんだわ。

 そんなアナタがまたアタシに逢いに来てくれた。

 この障子の向こうに……。

 



 開けちゃいますか……。

 そこには「光り輝く」源氏くん。

 ……。そうなっちゃいますかねぇ……。

 なっちゃいますか……。


 もともと「似た者同士」の源氏くんと朧月夜ちゃん。

 世間体と源氏への想いのあいだで戸惑っている朧月夜ちゃんは初めて会ったときよりずっと素敵なんですって。

 夜が明けなければいいのに。朝になったって帰りたくない。源氏は強く思うんですと。


 思えば朱雀院の出家は源氏のその後の人生にエライ影響を与えます。

 娘の女三宮を引き取り正室にして、

 実家に戻った妃の朧月夜とまた仲良くなっちゃって、

 そしてどちらの出来事も紫の上を深く傷つけます。

 

 しかもあろうことか、「元カノと復活したんだ♫」と最愛のツマに報告するアホ源氏。

 どんな思考回路だったら言えるんだろうか。

「キミに隠し事はナシだからね」

 ってか? ドアホ。

 あんたには「知らせない優しさ」や「隠しておく思いやり」というものはないのだろうか。


「物越しに話をしただけなんだけど、また逢いたいんだよねぇ」

 もうね、どういうつもりでこんなこと紫の上に言えるんだろうね。あげく最初は「話をしただけ」とウソをついていたくせに、結局朝まで仲良くしていたことまでカミングアウト。


 馬鹿者。ド阿呆。


「若い子と結婚したり、元カノさんとも復活するんじゃ、私なんて本当にかすんじゃうわね」


 紫の上は泣いてしまうのです。これでも精一杯穏便な言い方だと思います。


「なにそれ。信じらんない。私、あんたの今回の結婚で滅入ってんの知ってるわよね? あんたも焦って私のご機嫌とってたじゃん。それがなによ、もうひとり追加だぁ? 気は確か? しかもなんでソレ報告するかね? あんたって国宝級のバカ?」



 紫の上に代わって言ってやりたい。どれだけの言葉を浴びせても気が済まないと思う。

 謝られたって許しませんよ。フツーはね。

 

 そして機嫌を悪くする紫の上に

「そんなに拗ねるくらいなら、いっそぶったりつねればいいじゃん。俺たちそんな水くさいカンケーじゃねぇだろ?」

 

 ぶってやれ――!

 つねってやれ――!

 人前に出られないくらいに、その麗しい顔を腫らしてやれ――!!

 

 ああ、ムカつく、腹立つ、頭くる!!


「また逢いたいんだけど、どうやったら逢えるかな?」 だとぉ? 紫ちゃんにそれ聞く? おててでも繋いで連れていって欲しいんかね?


 なんで話すの? 話したいの? 聞いてほしいの? なんで?

 焼け木杭に火が付いてスンゲー盛り上がったって話したいの?

 バカでしょ、アナタ。

 でも何も紫ちゃんじゃなくてもいいでしょうよ。



 そして六条院(自分ん家)では紫の上に気を遣いながら女三宮のところに通い

 朱雀院や帝へも気遣いながら女三宮とカタチばかりの夫婦を装い

 絶望に打ちひしがれる紫の上をなだめすかし


 そして疲れたとばかりにいそいそと朧月夜のところに出かける源氏


 なんて言ってやる?

 どうしてやる?


 このばかぁぁぁぁぁぁ!

 あほ――――――――――!!


 もうもうもうもう!

 赤穂浪士みたいに討ち入ってやろうかしら?


 四十七士募集しようかしら?



 ☆【超訳】源氏物語のご案内

 関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。


 episode34-2 さざ波が揺らす心 若菜上

https://ncode.syosetu.com/n8727fe/35/


☆【別冊】次回予告

topics26 艶やか女子会

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