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斜陽の帝国復興期  作者: 鈴木颯手
第二章 帝国包囲網
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第九話 巨人討伐・終

「フハハハハハッ!よく燃えるではないか!所詮巨人も人と変わらないという訳か!」


燃え盛る炎に身をよじって逃げようとしている巨人を見てフリードリヒ1世は上機嫌に笑みを浮かべていた。周りからは狂気の笑みを浮かべているように見えかなり恐怖を抱かれているが当の本人はそんな事は眼中になく目の前の光景を見ている。


本来なら本陣に居なければならないのだが自分の策に失敗があった時に直ぐに対応できるように真正面の陣地にいた。その結果フリードリヒ1世は勢いよく燃える巨人族の姿を見ることが出来た。


フリードリヒ1世が行ったことは実に簡単である。巨人が来る時を見計らい平原に油を撒いただけである。しかし、そうはいっても雨や平原にばらまくだけの


風向きもフリードリヒ1世の味方をしたのが大きかった。結果巨人は足を滑らせて転倒しその隙に油まみれになった巨人に一斉に火矢が放たれ油に引火し巨人は一斉に燃え始めたのであった。


巨人たちは聞き取れない奇声を上げながらも立ち上がろうとしている。しかし、


「放て!」


号令の元帝国兵士たちが矢を放ち巨人族に追撃を行い始めたので巨人族の体はあっという間にハリネズミとなっていった。幸い火矢を放つ直前に追い風となったので矢は後ろにいる巨人にも届きうめき声をあげていく。中には炎にもまれながら柵の所まで来た巨人もいたが矢の集中砲火を浴びて力尽きていった。


そして火が少し収まり始めるころには巨人族の声は聞こえずただただ肉が焼ける匂いだけが充満していた。


「陛下!敵軍が撤退を始めました!」


そこへ物見に出していた兵から報告が入った。敵は炎にまみれる巨人を見捨てて撤退を行おうとしていた。フリードリヒ1世はその報告に余裕を持って答える。


「問題ない。既に別働隊が動き始めているころだろう」


フリードリヒ1世はそう言うと狂気が籠った笑みを浮かべ火の遥か彼方を見るのであった。






☆★☆★☆

「盛大に燃えてるね~」


ベルセン平原の南に広がる小高い丘の上から巨人が燃える様を見ていたノア・リングホルムはつま先立ちになりながら丘の下の様子を楽しそうに覗いていた。彼の後ろには五千を超える兵が降りその時を今か今かと待ち望んでいた。


暫く観察していたノアは続いてネーデルランド軍のいる方向に目を向ける。そこでは撤退準備に取り掛かっている兵達の姿が良く見えノアは子供の様な顔に邪悪な笑みを浮かべると自分の馬に登るように乗ると後方の兵の方を向く。


「我々の役目は撤退する敵を少しでも殺し戦力を削ぐこと。敵を殺せば殺すほど我らが帝国の助けになる。だから…」


ノアはそこまで言うと口を歪めて笑った。味方である帝国兵が恐怖を感じ顔を青くするほど狂気の滲んだノアの表情に怯えた。


「たくさん殺して楽しもうね」


そう言うと馬を一気に走らせ撤退を開始したネーデルランド軍に突撃していく。少ししてノアの後ろを五千の兵が慌てて降りてくる。


ネーデルランド軍はノアの存在に気付くも撤退を開始していたため迎撃の陣形を作れなかった。


ふと、右側をノアが見れば僅か千ばかりのイングラッド兵に襲いかかる味方の姿があった。ノアと同じくフリードリヒ1世の私兵と活躍している無駄に固いもう一人の将の姿を思い浮かべて笑みを浮かべた。


「(きっと今回の事も「皇帝陛下の為に絶対に失敗は許されない。失敗する時は命を持って償う」とか思っているんだろうな~)」


ノアはそんな同僚の事を思い浮かべていたが丘を降り終えると目の前のネーデルランド軍に集中する。


挿絵(By みてみん)


ネーデルランド軍はせめてもの抵抗とばかりに端にいる兵が盾を構え少数の矢が降ってくるが兵には当たらずあらぬ方向へと飛んでいった。


「ここから入るぞ!」


ノアは最も脆い部分を見つけるとそこに自ら先頭となって突撃を開始する。右腕に持った矛を左に払う。ノアの小さい体躯からは想像もつかない力で薙ぎ払われた矛はノアに向けて盾を構えていた兵をそのまま切り殺した。切られた兵は上半身を上空へと飛ばしながら絶命し後方にいる兵に恐怖を与える。しかし、直ぐにノアは的中深くに入っていき五千の兵がそれに続いていく。ノアによってつくられた穴は五千の兵が突入する度に修復不可能なまでに広がっていく。


「何をしている!これ以上敵を入れるな!」


兵の指揮官が大声を上げて兵を纏めようとするがそれを見たノアが放った投げナイフによって絶命していく。指揮官が討たれるたびに兵の混乱は増していき組織的な行動が出来なくなりつつあった。


「たかが五千の兵に何をてこずっているのだ!早く敵を殺すのだ!」


本陣から敵が入って来るのを見ていたシャーキーは青筋を立てて周りの兵に怒鳴る。敵の奇襲により撤退はままならず本陣は全く動けていない状況であった。このままでは敵がここまでくる可能性がありシャーキーは焦りを見せていた。


「イングラッド兵はどうなっている!?」


「…!こちらと同数の兵の奇襲を受けこちらに敗走中!」


「…何!?」


部下の報告にシャーキーはイングラッド義勇軍の方を見る。そこには何倍もの兵によってこちらに押されながら減っていくイングラッド義勇軍の姿があった。イングラッド義勇軍は巨人族がメインであり残りはその補助程度でしかなくかつ五倍もの兵に奇襲を受ければ当然と言えた。


挿絵(By みてみん)


「…これ以上ここにいるのは危険だな」


シャーキーはそう呟くと僅かな共のみで一気に駆けだした。後方では更に追撃として一万の帝国軍が向かってきておりシャーキーは四万の兵は助からないと考えていた。実際ノアの奇襲、後方から帝国軍に押されるイングラッド義勇軍にダメ押しとばかりに一万の兵。兵数では未だにネーデルランドの方が多かったが奇襲による攻撃で指揮系統は混乱。更にシャーキーが逃げ出したことで完全に機能を停止していた。


「…敵は四万の兵を捨てたか。敵の司令官は逃げたぞ!殲滅せよ!」


イングラッド義勇軍に奇襲をかけたヨハネス・クスターは畳みかける好機と見て兵に叫ぶ。兵達もそれを受けて士気を挙げネーデルランド軍に襲いかかっていく。


その後は一方的な虐殺となった。指揮官がいないネーデルランド軍は組織立った抵抗や撤退が出来ず各々が勝手に離脱、抵抗を続けていき火が落ちるころにはベルセン平原は真っ赤な血で染まり切っていた。ネーデルランド軍ひいては巨人族を倒した帝国軍は勝利の雄たけびをあげるのであった。






☆★☆★☆

「陛下!」


ベルセン平原にて四万の敵兵を屠ったフリードリヒ1世は勢いのまま攻め込むことはせずに一度フランフルトへと帰還した。ネーデルランド軍を殲滅したとは言え未だ東側の脅威は去っておらずこのまま西に集中していては不味いと考えたからである。


そしてフランフルトにて事後処理を終えベルーナへと帰還しようとした時一人の兵が現れた。かなり走って来たようで汗が額に張り付いていた。


「行方不明だったイェーガー辺境伯様が見つかりました!」


「何!?本当か!」


兵の報告にフリードリヒ1世は笑みを浮かべた。理由は西側の守備を任せる将がいなかったからである。フリードリヒ1世の私兵のノアやヨハネスは未だ万を率いた経験は無く将軍のラウロは東方直轄領へと派遣してしまったため将が不足していた。


フリードリヒ1世は兵の案内の元早速クラウスの元へと向かう。とある一室の前までくるとここですと言いその場を離れていった。フリードリヒ1世は扉を開け中に入ると少しやせ細ったクラウスの姿があった。クラウスはフリードリヒ1世の姿を見ると慌てて起き上がろうとするがそれをフリードリヒ1世は手で制した。


「そのままで構わん。それより具合はどうだ?」


「はい、目立った傷はありませんがここ数日何も食べずに逃げていたので…」


「そうか…。だが、お前が戻ってきてくれてよかった。今すぐに、とは言わんがクラウスには西側の防衛を任せたい」


「…分かりました。次は必ずや守って見せます」


クラウスの強い意志にフリードリヒ1世は満足そうに頷くと部屋を出るとそのまま門の方へと向かう。既に出発の準備は完了しており五百ほどの兵がフリードリヒ1世を待っていた。フリードリヒ1世は自分の愛馬にまたがると兵に声をかけた。


「よし、ベルーナへと帰還するぞ」


「「「はっ!」」」






☆★☆★☆

「そうか。義勇軍は敗れたか」


イングラッド・ブルーニュ連合王国王都ロンドニアムの王城。その一室にて報告を受けたジョンはため息をついた。枝のように細く色白い腕を顎に置き天井をただ眺める。


「全く、兄も馬鹿な事をしたもんだな」


ジョンは兄であるリチャード1世を思い浮かべため息を吐く。あまりにも弱弱しい外見のせいでそのまま魂が流れ出るのではと思わせるほどであった。


「それで?兄上は今は何処に?」


「は、今はブルーニュへと渡っており練兵を行っているとの事です」


「またか、何を好き好んで神聖ゲルマニア帝国に喧嘩を売るのやら」


ジョンとリチャードの仲は極端に低かった。それぞれの思想があまりにも違っているためしょうがなかった。


リチャード1世は今以上に領土を広げようとしているがジョンは現状維持を望み今持つ領土の発展を望んでいた。その為リチャード1世派とジョン派の間で対立が起き少しづつだが政務が滞り始めていた。


ジョンは再びため息をつくと立ち上がり窓の方へ向かうとそのまま外を見る。既に夕暮れ時で真っ赤な太陽がジョンを照らしていた。


「どちらにせよ兄がいない今の内にいろいろと準備を進めておかないとな」


ジョンはそう呟くと笑みを浮かべるのであった。


唐突ですが第二章はこれで完結です。第三章が書き終わり次第投稿します。

第二章終了時点での勢力図を載せます。

挿絵(By みてみん)

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