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斜陽の帝国復興期  作者: 鈴木颯手
第二章 帝国包囲網
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第六話 包囲網の前兆

「そうか…。税の取り立てに問題はないか」


「はっ!税制度が変わった事による混乱は起きていますが今のところ大きな問題はありません」


官僚の報告を受けてフリードリヒ1世は軽く息を吐く。税制度の改革から一月が経ち初めての徴税が行われた。いきなり変えた事による問題も発生しているが滞りなく進められていた。それにより国庫に入る金額も増えフリードリヒ1世は様々な事業への投資を考え始めていた。


「今だこの国は復興したとは言い切れない現状だ。しかし、漸く兆しが見えて来たな。となると次は軍事か…。おい、各将軍たちを呼んでくれ」


「分かりました」


官僚を下がらせたフリードリヒ1世はそのまま護衛としえて控えている近衛兵の一人に命令する。命令を受けた近衛兵は礼をして謁見の間を出ていく。暫くして二人の将軍が現れる。クラウスとラウロである。


「よく来てくれた。早速だが軍事においても改革を行おうと思っている」


「そうでございますか。…で?どれを変えるつもりですか?」


「いきなり変えても混乱するだけだろうからな、まず始めるのは武器の統一からだな。武器が揃っていないと連携がとりにくいだろうし何よりはたから見て無様だ」


帝国では軍に所属する者は全て自腹で武器を購入するなり作成するなりしていた。その為個人によって長さや形、強度が変わってしまい効率的な集団戦の妨げとなっていた。


「これについては帝都だけではなく直轄領に住む鍛冶職人を動員すれば問題ない。そしてこれを機にドワーフの受け入れも行おう」


「ドワーフですか?それはまた大胆な」


フリードリヒ1世の方針にクラウスは声をあげて笑う。ドワーフは子供の身長しかないが人の何倍の筋力を有しており何より鍛冶に優れた種族である。他の亜人に比べて迫害はされてはいないが長年研磨し名人と言われるようになった人間の作った武器よりドワーフの子供が適当に作った武器の方が素晴らしい物が出来る事が稀にあったため鍛冶職人が住む地域では疎まれていた。その為彼らは辺鄙な片田舎に多く住んでいた。


しかし、フリードリヒ1世からすれば優秀な人材を放置する方があり得ないためドワーフを帝都に呼び武具を作らせようとしていた。今回のはその一環である。


「武器はともかく武具は人によっては大小様々だろうからあくまで見本程度でしかないが鍛冶職人なら問題なく行ってくれるだろう」


「分かりました。それと陛下、ネーデルランド連邦共和国を見張っている物からの報告です」


「そうか。そう言う者は早めにくれるといいのだが」


ラウロが思い出したように紙束を渡してくる。そんな様子にフリードリヒ1世は苦笑するが紙に目を通すと表情が真剣になる。


「…これは本当か?」


「ええ、間違いありません」


ラウロの返事にフリードリヒ1世は苦虫を噛み潰したような表情を一瞬作り紙束を握り締める。


“ネーデルランド連邦共和国に侵攻の予知あり”


統一されたばかりの帝国に戦乱の影が早くも舞いこもうとしていた。






☆★☆★☆

ネーデルランド連邦共和国と領地を接するハイトラー男爵は日課である乗馬を楽しんでいた。東方の商人を使い立派な馬を買ってからは乗馬の時間は伸びていた。


「ほっほ、やはり風を切る感覚はたまらんの~」


馬が駆ける事で風を切る感覚を楽しんでいるとそこへ伝令兵が慌てたようにやって来る。


「男爵様!大変です!」


「どうした?」


伝令兵の近くで馬を止めたハイトラー男爵はそのまま話に耳を傾ける。


「ネーデルランド連邦共和国軍が攻めてまいりました!その数大よそ四万!」


「何じゃと!?」


ハイトラー男爵は予想外の伝令に思わず落馬しそうになるが寸でのところで立ちなおした。


「陛下にご連絡はしたのか!?」


「はい!ですが敵の進軍スピードは速く砦や都市の防衛が追い付いておりません!」


「…仕方ない。兵をここまで退却させろ。我らの兵は五千以下しかいないのだ。バラバラにいたところで各個撃破されるだけだ」


「民を、お見捨てになるのですか?」


「我にとっても苦渋の決断じゃ。ここに籠り陛下の援軍が来るまで耐えきるぞ。急ぎ籠城の準備をするのだ!」


「は、はっ!」


伝令兵は慌てて下がっていく。伝令兵を見送りハイトラー男爵も直ぐに馬小屋の方までかけていく。


馬小屋に馬をつなぎ居城に戻る頃には城内のみならず都市全体は混乱に包まれていた。兵たちは籠城に向けて準備を行い市民は少しでも安全なところに逃げ島と東門に殺到し人の波が出来ていた。中には家に籠っている者もいるが大半は都市を出て逃げる事を決意していた。


ハイトラー男爵の居城は他の居城よりも立派な物であった。それもそのはずで今回の様にネーデルランドの侵攻から守るために分厚く建築するのが許可されていたからだ。その為ここに籠れば多少の時間稼ぎは行えると自負しておりハイトラー男爵は市民の混乱の中堂々と居城に入っていった。


しかし、時として予想は覆されるものである。


十日後、ネーデルランド連邦共和国によってハイトラー男爵領陥落。同男爵も戦死。


この報がベルーナに届けられた。






☆★☆★☆

「ネーデルランド連邦共和国なのか?ネーデルランドの皮を被ったイングラッドやリエリアだったりしないよな?」


直轄領の端、ハイトラー男爵領に続く道をクラウスは進みながらそんな事を呟く。フリードリヒ1世は当初十万の兵で対応に当たるつもりであった。男爵領の敵を倒しそのままネーデルランドに侵攻するはずだったが男爵領の陥落によってその計画は中止に追い込まれた。


フリードリヒ1世はすぐさま五万の兵をクラウスに預け男爵領へと向かう様に指示を出した。対する敵は四万。数の上では未だに有利だが油断はできない状態であった。


「よし、ここからが男爵領だ。敵がいつ襲ってきても可笑しくはない。全員に警戒させろ」


「はっ!」


クラウスはいつも通りの態度をとるがその端端に周囲への警戒心が染み出ていた。それを感じた周りの兵も改めて身を引き締めていく。


暫く進んで行けば男爵領で一番東側にある都市に到着する。ここに来るまで敵兵どころか避難民すら見かけておらずクラウスは薄気味悪い感覚を覚えていた。


それが、目の前に現実として現れる。


「…っ!?敵襲ぅ!」


少しづつ聞こえてきた規則正しい振動音が聞こえてきたと思うと遠くの方から薄っすらと影が見えた。だが、その大きさが尋常ではなかった。目の前の都市の防壁と同じ大きさの巨大な人がこちらへとゆっくりと近づいてきていた。それを見た兵士たちは顔を青くする。そして誰かがぼそりと呟いた。


「きょ、巨人…!」


巨人は人間を優に超える巨体を持った種族で基本的に大陸には住んでいない。主に住んでいるのは、そしてそれを兵士として運用している国はただ一つであった。


「…嫌な予感ってのは的中しない方がいいな。陛下に伝令を送れ。イングラッド・ブルーニュ連合王国がネーデルランドと合流している、とな」


「は、はい!」


伝令兵は上ずりながら逃げるようにその場を離れていく。クラウスはその様子をしょうがないと思いながら声を張り上げた。


「全軍陣形を作れ!奴らは敵だ!敵は我らの大地に土足で踏みにじっている!奴らを決して許すな!」


「「「「「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」


クラウスの激励に兵たちは覚悟を決めたように叫び声をあげると陣形を作り巨人の攻撃に備えていく。そんな彼らに巨人たちは手に持った巨大な棍棒を振り下ろした。






☆★☆★☆

「イングラッド・ブルーニュ連合王国がネーデルランド連邦共和国に加担した模様!ハイトラー男爵領に巨人の兵士が多数侵攻中!クラウス辺境伯様が迎撃しております!」


フリードリヒ1世にその報告が届いたのはその日の内であった。官僚たちからの報告に耳を通していたフリードリヒ1世はその伝令兵の言葉に目を見開いた。


「…事実か?」


「は、はい!総数までは分かりませんが十は確実に存在しております!」


「…くそっ!」


フリードリヒ1世は思わずひじ掛けを叩き怒りを露にする。その一方で官僚たちは恐怖で顔を青くしていた。


「巨人が十体以上!?あり得ない!一体どうやって海を越えたのだ!?」


「それよりここも危険ではないか!?早く逃げた方が…!」


「我が帝国軍は最強だ!巨人なんかに負けるわけがない!」


各々好き勝手に騒ぎ始め謁見の間は一気に騒がしくなる。その様子にどうしたのかと近づいた兵が官僚たちの言葉から話を察し顔を青くしながら別の兵に伝えていく。やがて謁見の間のみならず城が騒がしくなる。そしてそれは帝都全体を覆い始めた。そして話というのは離す人の解釈や話す側の様子によって何時しか真実とはかけ離れた情報があふれかえる。今の帝都ベルーナはまさにそんな状態であった。


「イェーガー辺境伯様が巨人に踏みつぶされたらしいぞ!」


「敵が帝都のすぐ目の前まで来ているそうだ!」


「逃げろ!帝国軍は全滅した!この国はもうおしまいだ!」


帝都の臣民たちは恐怖で大混乱を起こしていた。誰もが東へと歩みを進めていき一歩でも帝都から離れようとしていた。そんな中を一騎の騎馬兵が駆けていく。向かう先はフリードリヒ1世がいるブランデンブルク城。更に北、南からも馬に乗った伝令兵がやって来る。


フリードリヒ1世の最初の試練である帝国包囲網は着実にフリードリヒ1世を締め上げようとしていた。


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