第五話 税収改革と獣人
お待たせいたしました。第二章が書き終えたので投稿します。
戴冠式を終えたフリードリヒ1世は翌日政治を担う官僚たちを呼びだした。官僚たちは新しい、皇帝になったばかりのフリードリヒ1世に呼び出された官僚たちは何を言われるのか分からず緊張していた。
謁見の間に官僚が集まると黙っていたフリードリヒ1世が口を開いた。
「…いきなりだが誰か帝国の税について答えて見ろ。誰でも構わん」
いきなりの事に官僚たちは訳が分からないながらも一番前にいた一人が代表して答える。
「人頭税、土地税、通行税、公共物使用税、死亡税、商業組合税でしょうか?後は十分の一税もありますが…」
「その通りだ」
官僚の言葉にフリードリヒ1世は満足げに頷くと続ける。
「我が国はこれだけ豊かな税制度があるのに何故税収は下がり続けているのだ?」
その言葉に官僚たちは黙り込む。フリードリヒ1世はその様子を特に何の反応も示さずに話す。
「答えられないか。それもそうだろう。農民は少しでも税を減らす為にあの手この手を使う。それに加えて徴収した税から金を横取りする輩もいる。それでは税をいくら取ったところで下がる一方だ」
官僚の何人かは心当たりがあるようで顔を青くしたり逸らしていた。フリードリヒ1世は完了の予想通りの反応につまらないものを見るような眼で話す。
「よって税制度を改革する。改革するのは人頭税、通行税、十分の一税だ」
「へ、陛下。それは流石に…」
フリードリヒ1世の言葉に一人の官僚が反論しようとするがそれを視線で制する。
「反論は後からにしろ。先ずは人頭税だ。余は全ての税収を見たわけではない、が…」
フリードリヒ1世はそう言うと一束の羊皮紙を取り出す。そこにはとある村の税収が書かれていた。
「この村の人口は二百人。それなりの規模だ。だが、男女比は3:7となっている。この村は直轄領にありこの村から徴兵されたのはここしばらくない。だが、この村は異様に男性が少ない。確か女性は男性の半分だったな。つまりこの村は税収を少なくするために噓の申告をしていると言う事だ」
そこまで言うと羊皮紙を官僚に向かって投げ捨てる。飛ばされた羊皮紙は止められている部分を中心に扇状に広がり官僚の中に落ちる。
「こんなまともに税を取れない人頭税など必要ない。その分土地税に増税する。これに対して意見はあるか?構わんぞ。余が間違っているというなら好きに言うがいい。許可しよう」
フリードリヒ1世の言葉に官僚たちは黙り込む。それはフリードリヒ1世の言っていることは正しいと官僚たちが分かっているからであった。
「よろしい。次に通行税だが…これは人々の行き来を邪魔するものでしかない。関所は防衛上残すが税は廃止だ。そして最後に十分の一税だが…」
「お、恐れながら陛下」
フリードリヒ1世が最後の税については成そうとした時一人の官僚が前に出る。
「何だ?」
「十分の一税は教会が取り立てている税。つまり神の使徒たちが取り立てている物でございます。それを勝手に変えるのは…」
「成程」
十分の一税は各所に存在する教会がその運営維持の為に収穫した穀物の十分の一を寡兵か穀物で取る税で他の税とは独立していた。
「問題ない。代替え案は用意している。教会の運営資金は我々が出そう。無論帝国領内のみだがな」
フリードリヒ1世は十分の一税を帝国に組み込もうとしていた。その方が税制度が統一されるし何より各所の教会を抑える役目も得る。教会は帝国に逆らえば資金を止められ立ち行かなくなるからだ。
「し、しかし!」
「無論余も勝手に変えようとは思っていない。既に外交団を教皇に遣わした。いつ許可をくれるのかは不明だがな。他の税収も既に準備は整えさせている。後は発布するのみだ」
「…っ!」
フリードリヒ1世の言葉に官僚たちは絶句する。既にフリードリヒ1世は自分の力のみで税収を変え、いつでも発布できるようにしていた。つまり官僚たちがいかに反対しようが既にどうしようもないと言う事であった。
絶句する官僚たちをしり目にフリードリヒ1世は立ち上がると最後に言う。
「そうそう、貴殿らの働きを余は高く評価している今までの罪については全く触れるつもりはない。これから、きちんと働いてくれればな」
暗に自分は見逃すつもりはない、というとフリードリヒ1世は謁見の間を後にした。
翌日、税制の改革が帝国中に発布されるのであった。
☆★☆★☆
「集まったようだな」
税制の改革から数日後。フリードリヒ1世は謁見の間に再び訪れていた。目の前には鎖で厳重に鎖で縛られ身動きが取れない四名の獣人がいた。
「さて、諸君らは前回の反乱の際に反乱軍に加わっていたようだが何か申し開きはあるか?」
フリードリヒ1世の言葉に一人の獣人が歯を食いしばりながら睨みつけた。その様子に周りで控えている近衛兵が剣を握ろうとするがフリードリヒ1世が手で制する。
「放っておけ。いちいちその程度で殺していては人はいなくなるぞ」
「…は」
近衛兵は渋々と言った具合に剣から手を放す。フリードリヒ1世は改めて獣人たちを見る。獣人と言っても何の動物の特徴を持っているかによって全然違う。ここにいるのは人狼族、猫人族、鳥人族が二人だ。
「では、話を戻そう。反乱軍に参加した貴様らによって我が軍は甚大な被害を受けた。勿論それを見ていたのにもかかわらず何も手を打たなかったリーンハイドも悪いがそもそもの原因は貴様等だ」
被害を出したリーンハイドは現在謹慎処分を受けている。流石にフリードリヒ1世と言えどリーンハイドをこれ以上罰する事は出来なかった。理由は単純である。将軍職に就いている者の中ではクラウスの次に有能だからだ。言い方を変えればリーンハイド以外は無能と言ってよい状態であった。
戦場に出た経験がほぼなく家柄のみでのし上がったような連中ばかりだったのだ。そして自分の地位を脅かしそうな有能な物は早めに消されていた。それらの行いが神聖ゲルマニア帝国の衰退の一つであった。そんな者たちは既にフリードリヒ1世の手によってこの世から姿を消していた。現在将軍職に就いている者は辺境伯となったクラウスとリーンハイド、そしてラウロ・カロ―ジオしかいなかった。無理矢理下の者を将軍にしても圧倒的経験不足で回らないのは目に見えているよって新たな将軍候補の育成が必須であった。
閑話休題
「では改めて貴様らの罪だが…、戦犯奴隷にする。今後は我が国の為に戦場を駆け回った貰おう。貴様らの家族については言及するつもりはない。獣人と言えど所詮平民。一々反乱に組した平民の家族を罰していてはこの国から人がいなくなってしまうからな」
フリードリヒ1世の言葉に獣人はただ黙って俯く事しか出来なかった。平民として考えるのであれば少々重い刑であるが獣人としてみれば軽く思えた。他国の王ならば村ごと殲滅していたであろう。それほどこの世界で獣人は、亜人は嫌われていた。
「よし、貴様等への罪状は以上だ。連れていけ」
「はっ!」
フリードリヒ1世の言葉に近衛兵は返事をして獣人たちを引っ張るように謁見の間から出ていく。彼らの行き先は王家持ちの戦犯奴隷が一括に集められている地下牢である。
謁見の間の扉が閉まり獣人たちが離れていくのを確認したフリードリヒ1世は軽く息を吐くとひざ掛けに肘を置き頬杖を付く。
「…いけませんな。皇帝ともあろうお方がその様では」
頬杖を始めた皇帝を咎めるようにしわがれつつもはっきりとした声が響く。フリードリヒ1世もその声に気付きやれやれとばかりに顔を持ち上げて頬杖を辞めるとしわがれた声の方向を向いて答えた。
「別に問題ないだろう?ここには余と近衛兵、そしてマルクス、お主しかおらんのだからな」
フリードリヒ1世の言葉に先代の皇帝から宰相を任されているマルクス・フォン・ロルバッハは「それでもです」と頑なに言う。
「神聖ゲルマニア帝国の皇帝になったからには常に優美にいてもらわなければ困ります。皇帝陛下はこの帝国の全て。動作一つで何もかも変わってきてしまいます。そもそも…」
長年聞かされてきた小言にフリードリヒ1世は顔をしかめる。しかし、宰相としても実力は折り紙付きであるためひたすら流し続けた。
暫く話して満足したのか「それで先ほどの獣人どもですが」と話題を変える。
「なぜ生かしたのですか?奴らは神聖なる帝国に反乱したのですぞ。村ごと殲滅するのが通りでしょう?」
マルクスは嫌悪感を全く隠さずに疑問を言う。周りを見れば一部の近衛兵も頷いていた。だが、決して彼らの嫌悪感は間違いではない。しかし、フリードリヒ1世はその考えを嫌っていた。
「理由は二つある。一つ目。彼らを少数精鋭にして戦場で活躍させる。逃げたり寝返ろうものなら村を焼き払えばいい。これで我が軍は戦力を上げることが出来る。他国はそんな事をしないからな。二つ目、村を殲滅するのに一体どれだけの被害、物資が必要になると思っているのだ?ただでさえ未だ反乱から立ち直っているとは言い切れないのだ。これ以上余計な手間を払う必要はないだろう」
フリードリヒ1世は実力があれば多少の問題児だろうと重用するつもりでいた。例えその者が危険な存在であろうと無能で危機が迫れば呆気なく寝返る貴族よりもマシと考えていたからだ。無論忠義を尽くして死ぬまで戦う者もいるかもしれないがそれは圧倒的に少数であることは分かり切っている。出なければ反乱など怒らないし反乱に加担した貴族が劣勢になったくらいで降伏等しないはずだからだ。
「それとも、貴様等は自分の意地を優先して国を滅ぼしたいのか?」
「…」
フリードリヒ1世の言葉に返すことが出来ずマルクスは口を閉じてしまう。フリードリヒ1世は立ち上がるとさらに続けた。
「俺はな。この国をこれまで以上に栄えさせたいのだ。その為なら何でもやろう。未来の者に暴君と罵られようと破門を受けようとな」
フリードリヒ1世の硬い決意にマルクスはただただ俯く事しか出来なかった。