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斜陽の帝国復興期  作者: 鈴木颯手
第一章 バルバロッサの戴冠
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第四話 戦後処理と戴冠

第一章はこれで終了です。第二章はまだ完成していないため暫く次の投稿はありません。

ハインリヒ3世を総大将とした大規模な反乱を鎮圧したフリードリヒ1世はそのままウィンドボナに入った。そしてそのまま軍をリーンハイドに任せ東に送り反乱地域の征服を行わせた。


そして、フリードリヒ1世はウィンドボナに残り反乱に加担した貴族の裁判を行っていた。


「ふ、フリードリヒ様。何卒寛大な処分を…」


「爵位の剥奪及び全財産の没収。貴様は処刑、残りの家族は奴隷落ちだ。無論戦犯奴隷だ」


顔を青くして慈悲を求める貴族にフリードリヒ1世は冷徹に処罰を下す。神聖ゲルマニア帝国では他国に比べて奴隷は特殊である。他国の様に首輪をつけている訳でも冷遇されている訳でもなかった。帝国内では奴隷は主の許可さえもらえれば直ぐにでも解放される。更に奴隷だからと言って酷使するのも禁止されていたがあくまで一般奴隷の場合であった。


戦犯奴隷は国家に逆らう行為をしたものがなりその扱いは他国の奴隷よりも酷使されていた。戦犯奴隷は一度なったが最後二度と解放される事は無く死ぬまで酷使される。


同じ奴隷にすら忌み嫌われる存在であり誰もがなりたくないと言われていた。それを知っている貴族は絶望し囲むように立っている兵に引きずられて牢屋へと送られていく。


貴族が見えなくなるとフリードリヒ1世はため息をついた。既に数時間反乱に加担した貴族に対して同じことを言い続けていた。


「お疲れ様です」


フリードリヒ1世の様子を察した一人の近衛兵がワインを持ってくる。飲める飲料水が少ない大陸で多く作られているアルコール少なめのワインであった。フリードリヒ1世はグラスを受け取り中に入っているワインを一気に飲み干す。


「…今回の反乱で千名近い貴族が皇帝が保有する戦犯奴隷となった。気軽に使える駒が増えたな」


フリードリヒ1世は今回の反乱の結果に満足し近衛兵が新たに注いだワインを少しづつ飲む。


「…で?次はどうした?」


「今ので最後ですよ、陛下。後はコルド侯爵を含めた戦う前に降伏した貴族のみです」


「あいつらか…」


フリードリヒ1世は近衛兵の言葉に眉を顰め不機嫌になる。唯一フリードリヒ1世の計画通りにいかなかった者たちであった。自身の兄であるハインリヒ3世の派閥の貴族である彼らが降伏して来るとは予想だにしなかった。


「…そいつら全員ここに連れて来い」


「はっ!」


暫くしてコルド侯爵等ハインリヒ3世の派閥の貴族が部屋に入ってくる。勿論同じように降伏したヨウルも一緒であった。フリードリヒ1世は不機嫌な状態のまま話を始める。


「さて、本当ならお前らも戦犯奴隷なり処刑なりしたいのだがそれを補う働きをした。よって領地の一部没収と爵位の降下、罰金を処す」


フリードリヒ1世の言葉にコルド侯爵等はほっと安堵の息を吐いた。反乱に加担した貴族の家全てが潰されているのを見ていた彼らは自分たちも同じようになるのでは?と恐怖に駆られていたのである。


「以上だ。話す事は無い。さっさと出ていけ」


「…寛大な処分に感謝いたします」


最後にコルド侯爵が代表してフリードリヒ1世に礼を言って退出する。僅か数分の事であった。






☆★☆★☆

今回の反乱で大部分の貴族がいなくなりその分皇帝直轄領が増えた。しかし、奪った領地すべてが直轄領になった訳ではなく半分近くが今回の反乱で勲章を得た者たちに分け与えられた。そして一番特筆すべきはクラウス・フォン・イェーガーであった。


挿絵(By みてみん)


クラウスはフリードリヒ1世によって辺境伯の爵位を与えられ正式に神聖ゲルマニア帝国の貴族となった。クラウスは帝国の東に存在するアンヴァール帝国に対処する事となる。


コルド侯爵等今回の反乱で許された者達はフリードリヒ1世が言った通り罰金と爵位の降下、領地持ちは領地の殆どを取られ移動させられた。それぞれが自分の領地とは別の場所になり再度の反乱防止の為に領地は離された。


そしてフリードリヒ1世は二人の親族に領地を持たせることにした。その二人はオットー4世の代から代官として飛び地の直轄領を任されていた。その功績をフリードリヒ1世に認められ独立した領地が与えられたのである。


こうして国内を統一したフリードリヒ1世は反乱鎮圧から一月後、戴冠式を行った。






☆★☆★☆

「フリードリヒ1世万歳!」


「新皇帝陛下万歳!」


戴冠式の日。神聖ゲルマニア帝国の帝都ベルーナは新たな皇帝の誕生を祝う人々の波によって溢れていた。ベルーナ中央に存在するブランデンブルク城の周りは更に人が多く人同士のぶつかり合い等による転倒事故が多発し近衛兵が警備に駆け付けるほどであった。


そんな帝都の様子をフリードリヒ1世は自室で不敵な笑みを浮かべて見ていた。傍らには婚約者であるベアトリスがおりフリードリヒ1世を温かく見ていた。


やがてフリードリヒ1世が口を開く。


「帝国の半分にまで及んだ反乱の鎮圧が聞いているのかな?随分と豪勢ではないか」


「そうでしょうか?私は陛下の実力を考えればこの位妥当と思えますが…」


ベアトリスは不思議そうにフリードリヒ1世を見上げる。フリードリヒ1世の父オットー4世はお世辞にも名君とは言えない人物であった。その為民衆は戴冠前に華々しい戦果を挙げているフリードリヒ1世に自然と期待していた。


現在帝国内で最も注目されているフリードリヒ1世は肩をすくめて言った。


「勝手に期待して期待に添わなければ批判する…。する方は楽しいかもしれんがされる方は苦痛でしかない」


「陛下は民衆の期待に添わないと?」


「当たり前であろう」


ベアトリスの疑問にフリードリヒ1世は即答すると窓際を離れベアトリスの隣に移動する。


「民衆が求めるのは今以上によりよい生活をさせてくれる皇帝だ。内容は様々だろうがこれに尽きる」


「よりよい暮らしをさせてあげてはどうですか?」


「何故?皇帝になるからには俺…いや、余は大なり小なり民衆に影響を与えるだろう。だが、民衆を裕福にするつもりはない」


ただのな、とフリードリヒ1世は心の中で付け加える。それが何を意味するのかは現状ではベアトリスには分からなかった。


「…とは言え我が領土を奪い勝手に独立した奴らには制裁を加えるつもりだがな」


そう言うとフリードリヒ1世はベアトリスの前方にある壁につけられた地図の方へと歩く。


「見よ。これが我が国だ」


フリードリヒ1世はそう言うと地図に手を添える。地図は神聖ゲルマニア帝国を中心に大陸とアフェリカやアーシア、シェリアを映し出し国ごとに線引きされていた。


「ネーデルランド連邦共和国。先ずはここを取り返す」


ネーデルランド連邦共和国はネーデルランド地方の領地持ちの貴族三名を宗主に十名の貴族が政治を行う議会制国家だ。独立当初は勢いがあったが代表だった貴族が死ぬと次の代表を決めるために争い国力を落とし続けていた。


「本当はノースウェンでもいいがかの国はネーデルランドよりも手ごわく領土も多い。何よりネーデルランドを落とさねば安心して攻め込むことが出来ないからな。故にネーデルランドを攻め落とす」


「そうでございますか。しかし、私にその様な話をされてよかったのですか?」


ベアトリスは疑問に思ったことを口にする。ベアトリスは貴族の娘であるが別段軍事や政治に詳しいわけではない。むしろ苦手としている方である。エルフ王国の王女に使える聖女のように神の祝福もうけている訳ではない。ただ、フリードリヒ1世の婚約者に選ばれた運のいい令嬢であるだけであった。


そんなベアトリスの疑問にフリードリヒ1世は一瞬呆けると直ぐに笑みを浮かべてベアトリスに近づき口づけする。子供がするような表面だけのキスではなく互いの舌を絡めあう激しいキスであった。


「ん!?…くぅ、ん…ちゅ、ふぅ!」


ベアトリスは一瞬驚くが次第にフリードリヒ1世に体を預け彼の成すがままの状態になる。数分間フリードリヒ1世はベアトリスの口内を蹂躙し唇を話し少し距離を取ると口を開く。


「さて、ベアトリスの疑問だが簡単な話だ。お前は余の婚約者。答えはこれで十分であろう。後は…」


フリードリヒ1世はそう言うとベアトリスの華奢な体を持ち上げるとベッドの方へ歩き出す。


「ベッドの上で語るとしよう」


「し、しかし。この後は戴冠式が…」


「それまでに終わらせればいいのだ」


フリードリヒ1世はそう言うとベアトリスに覆いかぶさった。






☆★☆★☆

ベアトリスと夫婦の営みを終えたフリードリヒ1世は着替えて戴冠式が行われる王の間に足を運んだ。その少しした後にベアトリスも向かったが少し歩き方がおかしかった事だけ追記しておく。


そして国内外からたくさんの貴族や実力者が参加する中戴冠式は無事に行われフリードリヒ1世は神聖ゲルマニア帝国ホーエンシュタウェン朝三代目皇帝として華々しく戴冠した。そしてそのまま記念パーティーが行われ貴族たちが思い思いに過ごし始める。


玉座に座りその様子を見ているフリードリヒ1世はつまらなそうにその様子を見ていた。


「(貴族同士の派閥形成か。下らない)」


貴族たちが行っているのは他の貴族に対する根回しや交友関係の構築である。戴冠式の前の反乱により一部の貴族が姿を消した。これにより新たに貴族になった者や消された貴族と親しかった者が新たな交友関係を広げようとしているのである。


そんな様子はフリードリヒ1世からすれば醜く映るが別段嫌う事もない。貴族に取ってそれが重要な事だと分かっているからだ。


「(皇帝と貴族では役割が違う。皇帝は国を導き貴族はそれを支える。それでようやく帝国は成り立つ)」


フリードリヒ1世はその様に考えていた。そこへ一人の貴族がワインが注がれたグラスを片手にやって来る。


「これはこれは皇帝陛下、ご機嫌麗しゅう…」


「何の用だクラウス」


やってきた貴族、東方辺境伯となったクラウス・フォン・イェーガーはにやにやと笑みを浮かべながらフリードリヒ1世を見る。


「まさか本当に皇帝になる日が来るとは思っていなくてな」


「貴様…、馬鹿にしているのか?」


「まさか」


クラウスの軽口にフリードリヒ1世は目を細めるがクラウスはそのまま話を続ける。


「常識的に考えて皇帝になるべきは兄上様では無かったのか?あちらも負けず劣らずの器量持ちと聞いたが」


「兄上か。確かにその様な未来もあったのかもしれないが兄は既に天に召された。亡き人の事を言うのは止めにしよう」


「へえ、確かこの城で軟禁されていたと聞いたのだが…」


クラウスはそこまで言って口を閉じた。クラウスの視線の先には深い笑みを浮かべたフリードリヒ1世がいる。


「…あまり詮索しない方がいいぞ。お前に与えた東方辺境伯の爵位はとても重要な物。前任者の様な最後を遂げたくはないだろう?」


「…確かに、な」


クラウスは戴冠式の前日に行われた反乱に加担した貴族の処刑を思い浮かべる。生きたまま火葬される彼らを見た者は誰もが恐怖を抱いた。大陸やシェリアなどで多く広まっているキリシアン教。この教義では火葬されると天にいく事は出来ず地獄に落ちると言われておりキリシアン教徒からすればこの行いは死よりも恐ろしいものであった。あまり宗教に興味のないクラウスですら恐怖を感じたためフリードリヒ1世の言葉に無言でうなずく事しか出来なかった。


「…おっと、ワインがきれたようだ。俺はこれで失礼させてもらうぜ」


意外と長く話し込んだのか?クラウスが持つグラスは既に空となっていた。それに気づいたクラウスはお代わりを貰うためにその場を離れていく。そして次に近づいてきたのは立派な髭を生やした老練な人物であった。


その者はフリードリヒ1世の前に来ると臣下の礼を取る。


「フリードリヒ様、お久しゅうございます」


「久しぶりだな、ドロール西方辺境伯」


老練な人物、西方辺境伯であり長年エルフ王国からの侵攻を防いできた辺境伯の当主を見てフリードリヒ1世は笑みを浮かべる。何時も浮かべるような見る者全てを凍らせるような笑みではなく優しく、温かい笑みであった。


「ここ最近見なかったから既に天に召されていたと思ったぞ」


「何の何の、辺境伯の地位を譲ったとはいえ私はまだまだ現役ですぞ」


ドロール辺境伯は皺だらけになった顔に笑みを浮かべてその様に言う。フリードリヒ1世は幼少期に見た時と変わらない様子のドロールに苦笑する。


「さて、私が領地に籠っている間に中央や東側は騒がしかったようですな」


「ああ、少し帝国の掃除を行っていた。おかげで帝国の汚れも多少は落ちて奇麗になったぞ」


「それはよろしゅうございましたな。しかし、西方ではその掃除がこちらにも及ぶのではないかと恐怖を持つ者もおります。掃除も程々にしませんと疲れ果ててしまいますぞ」


「長年帝国を守って来てくれた辺境伯の言葉だ、肝に銘じておこう」


「それがよろしゅうございましょう。それでは私は他の方々への挨拶の為にこれで失礼しますぞ」


そう言うとドロール辺境伯は臣下の礼を取りパーティーの人ごみへと消えていいった。


その後も公爵家や伯爵など爵位の高い者の挨拶が続きそれが終わった時にはパーティーは既に終わりを迎えようとしている時であった。


「それでは最後に新たなる皇帝陛下から臣下の者へ挨拶を」


司会を務めている男の言葉を受けフリードリヒ1世は立ち上がると軽く息を吸う。そして、


「神聖ゲルマニア帝国に忠誠を誓う者たちよ余はここに宣言しよう。我らが祖国を!民を!財産を!文化を!奪う者達を駆逐し初代皇帝に勝利と!繁栄を献上しよう!その為なら、余は…この命差し出そう」


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