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斜陽の帝国復興期  作者: 鈴木颯手
第一章 バルバロッサの戴冠
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第三話 計算された反乱鎮圧2

「あいたた、獣人は下にもいたか」


扉に近づいた兵の全滅と言う報告を受けたクラウスは軽く笑いながら頭を押さえて困っている演技をした。クラウスからすれば多少は予期していたが予想を超えた規模であったため多少は驚いていた。


「…さて、ここからどうすべきかだが…」


クラウスは顔を引き締めると机に置かれたウィンドボナ周辺の地図を見る。ウィンドボナは崖の下に作られた都市であり直接通じる道は四つ存在したがそのうちの三つは東側であるため実質ここを通らねば近づくことは難しかった。


「(あのフリードリヒがただの力攻めでウィンドボナを落とせるとは思っていないだろう。なにせこの反乱を作り出したのがフリードリヒなんだからな)」


クラウスは初めてフリードリヒ1世と出会った時の事を思い出す。


『セビアから来たのか?』


クラウスがフリードリヒ1世と初めて出会ったのは帝国で年に一度行われている戦争駒の試合後であった。当面の資金を得るために参加した程度であったがクラウスの戦術にフリードリヒ1世は興味を持ち話す機会を設けたのである。


『この後はどうするつもりだ?』


『しばらくはのんびりと各地を旅しながら軍に仕官するつもりですよ』


そんなクラウスの言葉にフリードリヒ1世の護衛騎士が剣を握るがそれよりも先にフリードリヒ1世に制され再び直立不動に戻る。これを短い時間で幾度となく繰り返していた。


『クラウス、と言ったか。俺の部下になる気はないか?』


『…理由を聞かせてもらっても?』


『単純な話だ。今日お前が戦争駒用でいた戦術に興味がわいた。それだけだ』


『成程、父から教わった戦術は皇帝陛下の目に留まることが出来ましたか』


クラウスはふざけたように言うが内心は少し歓喜していた。現在の大陸では卑怯と言われることもあるクラウスの戦術を評価してくれたのはフリードリヒ1世が初めてだったからである。


『部下になるのならまずは俺の私兵軍の参謀見習いとする。その後の功績次第では兵を任せる事も貴族にもしてやる』


『…随分と好待遇ですね』


フリードリヒ1世の言葉にクラウスは多少勘ぐってしまう。いくら何でも待遇が良すぎる。しかし、次の瞬間クラウスの体を恐怖とも、畏怖ともいえる感情が駆け巡った。理由は単純。目の前のフリードリヒ1世から発せられたものである。


『…俺はな、平民だろうが奴隷だろうが実力のある者はどんどん評価する。実力を発揮させるためなら貴族にも将軍にもしてやる。実力と功績を持つ者こそ帝国を支えるに相応しい。俺はそう考える』


フリードリヒ1世は他の者に知られれば反乱すら起こされかねない言葉を平然と言い放った。クラウスは自分の息子ぐらいの歳しかないフリードリヒ1世に恐怖を抱くと同時に胸の奥から熱い何かがあふれてくるのが分かった。


気付けばクラウスはその場で跪いていた。


「…フリードリヒはあの時よりも成長した。帝国でも類を見ない実力者が他にも策を用意していないはずがない。だとすると…!」


クラウスは地図のある場所に気が付き笑みを浮かべた。


「…もし俺の予想通りならこの防壁での戦いはほとんど無意味だな。となると俺たちは敵に気付かれないようにこのまま攻め続けるべきか…ふ、」


クラウスは口を押えるが自然と笑いが起こり笑みを深める。


「陛下。まさか自分を囮に使うとは…」


クラウスの予想が確信に変わるのはこの直ぐ後であった。






☆★☆★☆

ウィンドボナには北方から大河が流れていた。ウィンドボナはその川を跨ぐように建設された川の都とも言うべき都市であった。


しかし、周囲を分厚く高い壁に覆われ位置する場所の関係もあり天然の要塞と言えるところでもあった。


「ふあぁぁぁ。今日も暇だな~」


そんな防壁を反乱軍の兵であるカミルは自分の指定された北方の防壁を巡回していた。しかし、あくまで形だけでありカミルは欠伸を掻きながらうつらうつら歩くだけであった。反乱を起こし鎮圧せんと直ぐそこの防壁まで迫っていたがそれでも三つの防壁の存在はウィンドボナに残る兵の心の余裕を作っていた。その為実際に防壁で戦う兵と留守を守る兵との間で意識の差が大きくあった。その差は直ぐに反乱軍を崩壊へと導くことになる。


「…ん?」


カミルはふと北の方を見る。北からはウィンドボナを跨ぐように川が流れていた。


「…いつもより川の流れが変だな」


サボっていたとはいえ川の流れを聞いていたカミルはいぶかしげに川を詳しく見る。そしてそれは直ぐに表れた。


「…なっ!?」


帝国旗を高々と掲げ川を埋め尽くすほどの帝国の船がウィンドボナに向かってきていた。比較的川幅が広く船が並んで進む事ぐらいは出来るくらいには広かったが船はその川を埋め尽くすほどの大群であった。標準的な帝国軍の軍船で一つの船に200~300人は乗ることが出来る仕組みになっている。その為川を下る総兵力は万を超えていた。


「て、敵襲ぅ!」


カミルはどもりながらもそう叫ぶのと船から矢が降ってくるのはほぼ同時であった。カミルは直ぐに防壁の所々に設置された矢避けに作られた簡易的なあばら家に退避する。瞬間カミルが巡回していた防壁に矢が雨の様に降ってくる。少数は防壁を超えて都市に落ちていく。


カミル以外の場所からでも報告があったらしくウィンドボナは蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。防壁が劣勢と言う報告はあったが決して突破されたという報告はなく敵の出現など予想していなかった。その為防壁には巡回の兵士しかおらず門に至っては平時の通り開いた状態であった。


ウィンドボナ周辺まで来た帝国軍二万は防壁への攻撃を行いながら上陸の支援を行っていく。


「進め!門が閉まる前に都市内部に侵入せよ!さすれば我らの勝利だ!」


別働隊二万を指揮するラウロ・カロ―ジオは兵にそう指示を出していく。速度を生かす為に鎧を付けずに剣と小さな盾のみを持った状態で突き進んでいく。ウィンドボナの防壁からの攻撃は全く来なかった。


敵の防壁の状態にラウロは笑みを浮かべる。


「よし…。敵は我らの侵攻に追いつけていない!今が好機だ!」


「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」」」」」


ラウロの言葉に兵は雄たけびを上げ半開きとなっている東門からウィンドボナに侵入していく。侵入すると同時に両軍の間で激しい攻防戦が行われるが圧倒的な帝国兵の前に東門は完全に占拠され二万の兵が続々と都市内部に侵入していく。そこからは戦争とは言えない代物であった。


「略奪は最小限に抑えろ!抵抗する者と敵兵だけを殺せ!敵の総大将ハインリヒの居城を攻め落とすのだ!」


市街戦が得意なラウロは的確に指示を出し敵の反撃を一切許さずにウィンドボナを占領していく。その様子はハインリヒ3世がいる都市の中心の城からでも詳しく伺うことが出来た。


「…フリードリヒの方が何枚も上手か」


自室から都市の様子を見ていたハインリヒ3世は諦めたように呟くと服を整え剣を持ち部屋を出る。


「ハインリヒ様!敵兵が都市内部に侵入してきています!急いで避難を!」


ハインリヒ3世を守っている若い近衛兵が顔を青くして慌てたように説明する。よほど慌てていたらしく近衛兵の右手に握られた剣は鞘が付いたままであった。


自分以上に慌てている近衛兵を見たハインリヒ3世は苦笑するとともに緊張がほぐれるのが自覚できた。覚悟を決めたとはいえ死に対する恐怖は残っていた。ハインリヒ3世は改めて近衛兵を見る。


「ハインリヒ様!」


「…外に出るぞ」


ハインリヒ3世が発した言葉はそれだけであった。若い近衛兵はその言葉を逃げる事だと捉え笑みを浮かべるが当の本人は諦めたような表情で続ける。


「我が弟、フリードリヒに降伏する」


「…え?」


若い近衛兵は一瞬何を言われたのか分からず固まってしまうが直ぐに気を取り直してハインリヒ3世に詰め寄る。


「なぜですか!?我らはまだ負けたわけではありません!ここはウィンドボナを捨ててでも逃げるべきです!」


「…俺は数日前にコルド侯爵をフリードリヒの元に送った。数名の貴族を連れてな」


「…まさか、二万近くの兵が急にいなくなったのは…」


「そう、フリードリヒに降伏したからだ。他にも領地持ちではカルネウス辺境伯、ペヒ伯爵、エストマン男爵。領地を持っていない者でもピール子爵、プラーム勲功爵などが降伏した」


「な…」


ハインリヒ3世が告げた貴族はヨウルのカルネウス辺境伯を覗き全てハインリヒ3世の派閥の貴族であった。その彼らが降伏していると言う事はハインリヒ3世を守る貴族はほぼ存在しないと言う事である。


挿絵(By みてみん)


更に、ハインリヒ3世が治める領地の北部にはコルド侯爵家があるため反乱軍の貴族は自分の領地と分断された状態になっていた。


「それにこれ以上長引かせれば他国の介入すら許してしまう。そうなればこの斜陽の帝国はもう立ち直れなくなるかもしれない。俺はそれを避けたい」


「ハインリヒ様…」


ハインリヒ3世の言葉に若い近衛兵は涙を流しながら自分の使える主の不運を呪った。そして呪う事しか出来ない無力な自分自身を更に呪い、恥じた。しかし、若い近衛兵に出来るのはそれだけであった。


「…敵の本陣まで、私が警護します。この命に代えて」


若い近衛兵の言葉にハインリヒ3世は頷くのであった。


ハインリヒ3世は近衛兵三百を連れて都市に出るとそのままラウロに降伏した。名目上とはいえ総大将の降伏にウィンドボナにいた反乱軍の兵士は抵抗を辞め降伏した。


反乱軍の首都であり前線の防壁の真後ろが陥落した事により防壁にいた反乱軍は挟まれる事となった。大半の貴族は直ぐに降伏したが獣人の地位向上を求めている獣人たちは抵抗をつづけたが直ぐに皆殺しにされた。


反乱軍に加担した貴族を縛り上げウィンドボナにフリードリヒ1世が到着したのは同都市の陥落から二日後の事であった。


こうして終始フリードリヒ1世の計画通りに進んだ反乱は他国が介入する前に鎮圧されると同時に国内に燻る火種を取り除くことに成功するのであった。


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