表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

囚われの姫


涼太りょうた、大丈夫か?」


 先程のジェットコースターが思いのほか怖かったのか、涼太の顔色は少し青ざめていた。


「ああ、大丈夫。気にすんな」


 コイツの「気にすんな」は、あまり当てにならない。

 小学生の頃に今と同じ様に「気にすんな」と言って倒れた事があるからだ、その時は高熱で1週間程寝込む事になってしまった。


「いいから、少し休もう。敷谷しきたにさん、この辺りで休める場所ってないですか?」


 ジェットコースターから少し歩いて来てしまっているうえに、ワンダーランド内にはベンチが一つも残っていなかった。たぶん、撤去してしまっているのだろう。


「うーん、そうですね……」


 ワンダーランドの従業員である敷谷さんは少し考えると、


「ワンダークイーン城なんてどうですか?」


「城? ああ、あの……」


 昔流れたワンダーランドのコマーシャルで、必ず最後に出ていたお姫様風のマスコットキャラ「ワンダークイーン」と、その居城という設定でこの遊園地のシンボル的な建物「ワンダークイーン城」

 中はアトラクションになっていて、魔王に捕まった姫を救う為に、道中出てくる敵を魔法の杖で倒しながら進む、いわゆるウォークスルーアトラクションと言われるモノだったはずだ。


「あそこは今でも冷房きいてますし、掃除もしてますので休憩するにはちょうどいいかと」


「なら、お願いします」


 はぁはぁと浅い息をしている涼太に肩を貸し、先導してくれる敷谷さんを追う。


「……礼二」


「なんだよ?」


 いつも活発な感じとはまるで違う涼太は、弱々しい声で、


「助かるわ」


「……気にするなよ」


 まったく、コイツは。

 臆面もなくこういう事を素直に言ってしまえる所が、モテる理由なんだろうな。


「さあ、もう少しですよ」


 目の前に、木目の大きな扉が見えてきた。敷谷さんはその近くの壁に埋め込まれた何かを操作している、電子音が一度鳴り、左右に木製風の扉が開かれる。


「さあ、早く」


 敷谷さんが手招きをしている、涼太の歩幅に合わせるようにゆっくりと歩き、涼しい建物の中に入った。


「ふぅ」


 涼太は床に座ると、大きく息を吐いた。


「じゃあ、お二人はここで少し休んでいて下さい。私はしばらく辺りを見て、二人を探してきますので」


 と、敷谷さんはそそくさと建物から離れていってしまう。僕はお礼を言おうとしたのだが、言う暇も機会を逸してしまった。


「涼太、大丈夫か?」


「あ? ああ、多少な」


 壁に寄りかかるように座る涼太が答えた。さっきよりは顔色も良くなっているし、もう安心だろう。

 そんな様子に安心し、僕は辺りを見回した。ここは城のホールの様な場所で、本来なら、この先に城の中に入る扉があるはずなのだが、その前には着ぐるみや備品が先を封鎖するかのように置かれていて、あるはずの扉すら見えなかった。

 ここだけ冷房をつけているのは、あの備品の管理の為なのだろうと思った。


「なあ、礼二?」


 ただ休んでいるのがつまらないのか、涼太が目を閉じたまま話しかけてきた。


「ん?」


 俺は携帯を出し、電波が戻ってないか確認したが無駄だった。


「お前……弥宵の事どうすんの?」


「? 何の事だよ?」


「……告白しないのか、って話だよ」


 コイツはよくその話をしてくる、特に何かの行事を終えた時なんかに。

 またそれか、しかも今言う必要のある事なのか? と、そんな事を考えていると、


「好きなんだろ? 弥宵の事」


 携帯を見て、聞こえないふりをする。


「いい加減、告れよ。弥宵だって、お前なら良いって言うさ。それに……人生ってのは思ったより短いんじゃないか、と思うけどな」


 なんだよ、人生って。


「だからさ、後悔する前にさ……」


「あのなぁ!」


 無意識に声が大きくなる、一旦落ち着こう。

 はぁ、と息を吐き怒りを拡散させる。


「あのな、涼太。お前は、それでいいのかよ?」


「……なんで?」


「お前も、弥宵の事が好きなんだろ」


「は? 俺が?」


「誤魔化すなよ、長い付き合いなんだから分かるって」


「いや、そんな事ないさ。それに俺はモテるからな、引く手数多ってやつだ」


「モテるのは知ってるよ、だけどお前が誰とも付き合わないのは、なんでたよ? 弥宵の事、諦められないからじゃないのか?」


「それは……」


 クスクス。


「ん?」


 今、誰かが笑ったような声がした。

 それも男ではなくて女性の声だ。一瞬、弥宵かとも思ったが彼女なら笑ってなんていないだろうし、彼女よりも少し低い声だった。


「なんだ、今の声?」


 僕は立ち上がり、声のした方に確認しに向かう。たしか、ぬいぐるみの辺りのはずだ。奥の扉の先にでもいるのだろうか?


「おい、やめとけよ」


 その声に振り返ると涼太が、なんでか分からないが、好奇心旺盛な彼には珍しい位にこちらには興味無さそうな顔をしていた。

 こんな表情を見るのは初めてだった。


「なんでだよ?」


「なんだか……嫌な予感がするんだ」


「嫌な予感?」


「……いや、実はさ」


 ゴロン。

 僕の目前にあるライオンの着ぐるみの頭が、ひとりでに落ちた。


「駄目よ? 喧嘩しちゃ」


 俺の目と、誰かの視線が、交わった。


「わ!」


 なんであんな中に埋もれるように人が居るんだ!? 予想を一切していなかった事に、僕は後ずさる。


「そんなに驚かなくてもいいわよ」


 その目の主は、いまだに僕に話しかけてくる。


「おい、どうしたんだよ?」


 僕の声と行動に、涼太は驚いて立ち上がる。


「な、なんでそんな所に!?」


 僕はあまりの事に、何故かそんな事を聞いていた。


「少し……訳ありでね」


(なんで、この人は普通に答えてくるんだ!? あからさまにおかしな状態だって言うのに!?)


「それよりも、さっき話してた事について聞かせて頂戴よ」


 ますます混乱する。さっきの話ってなんだ? 第一、この人はこんな物置のような場所の奥で何をしているんだ? いや、それよりもギュウギュウに物が置かれた場所の中で人はそのままで居られるのか? いや、待てよ。大量に見えるだけで、実は奥の方は空間があって、その隙間に入っているのかも知れない。けど、何のために?

 堂々巡りを繰り返す思考を、女の声が途切れさせた。


「もう、そんなに警戒する事ないじゃない。分かった、信用してもらえるように、自己紹介しまーす」


 唐突に始まった、なんだかよく分からない人のよく分からない自己紹介。


「私の名前は……しより。ここの従業員なの。年齢はヒミツで、彼氏は……現在募集中でーす」


 なんだか、普通にクラスの女子の話を聞いているかのような感覚になる。

 理解が追い付かないような状況だというのに、そんな事はとりあえず考えなくてもいいと思えるほど普通だった。


「でね、君達のやりとりを聞かせてもらっていたんだけど、もう青春って感じで。凄く興味湧いちゃって、出来ればもう少し聞かせてもらえたらなぁ、なんて思ったんだけど。ダメかな?」


「いや~、さすがにそれはちょっと……」


 状況が分かってないんだと思う涼太は、いつもの軽口でそう答えた。


「それよりも、お姉さんの方の恋バナ教えて下さいよ。ほら、俺達のなにかの参考になるかも知れないじゃないですか?」


 と、切り返す。


「え~、私の? うーん、分かったわ。教えて、ア・ゲ・ル」


 彼女は涼太に乗せられるように、過去の自分の恋愛話を語りだした。


「私ね、このワンダーランドの中で付き合ってた人が居たんだ」


「はいはい」


 涼太が、調子を合わせるように相槌をうつ。


「でもね。私が好きな人ってのが上司で、しかも奥さんが居る人だったの」


「あ~……」


「そんな訳で、私の恋は凄く辛いものだったの。けど、上司だから毎日会わないといけないじゃない? 本当に苦しかったわ……」


「それはそれは……」


 ピリリリ。

 二人の会話を遮るように、僕の携帯が急に鳴りだした。


「あら、電話?」


「え、ええ」


「私の事は気にしなくていいから、早く出て」


「では、遠慮なく」


 こんな状況に慣れ始めている自分が滑稽に思えた。

 携帯の画面を見ると、見慣れた名前が表示されている。


「涼太、弥宵だ!」


「ほんとか!?」


 僕は頷き、急がないとまた圏外になってしまうかもしれないと、すぐさま通話ボタンを押した。


「礼二!?」


「弥宵か!?」


「うん。よかった……」


 それはこちらのセリフだ、と言いたかったがそんな事よりも今は合流をする事の方が大切だった。


「今、どこに居るんだ?」


「えっと。あ! 向こうんの建物に、アクアリウムって書いてあるよ」


「……涼太、アクアリウムの場所って分かるか?」


 昔の記憶を思い返したが、僕にはその場所が分からなかったので涼太に尋ねた。


「ああ。たしか、ミラーハウスの近くにあったはずだ」


 ミラーハウスの場所なら、僕にも思い出すことが出来た。


「分かった。なら、そのホラーハウスで合流しよう」


「うん!」


 弥宵の声が弾んでいるのが分かり、僕も安心して嬉しくなる。


「おい、礼二。敷谷さんはどうするんだ?」


「あ……」


 そうだ、敷谷さんは二人を探しに行っているんだった。どうしたものだろうか……。


「しき、たに……?」


 モノの山の中から、そんな声が聞こえた。ガタガタと、その山が小刻みに揺れている。


「ど……した……」


 耳に当てている電話の声に雑音が混じり始めた。


「弥宵! アクアリウムに行くんだ! 僕と礼二もすぐに向かう!」


「……え……なん……言っ……」


 ブチッ、ツーツー。

 携帯が切れてしまったが、僕はそれよりも目の前のモノ達の震えが次第に大きくなるのが異常を表しているようで危険だと思えた。


「しきたに……? シキタニ? しきタニ!? 敷谷!」


 ガラガラと着ぐるみの頭が落ちていく、箱が崩れ中身が散乱した。


「アイツは悪魔よ!」


「!?」


 声にならない恐怖というのを産まれて初めて知った。


「あの男は、わたしの骨に理子りこの口を縫い付け、洋子の顔に変えさせた!」


「あのおとこはワタシの口を切り抜いて、翔子の骸骨に押し込めた!」


「あのオトコは私の顔を剥がして、翔子しょうこのドクロに貼り付けた!」


 その姿は継ぎはぎだらけで見るに堪えない。その腕に中途半端にある皮膚と筋肉。肋骨は見えるのにその中にわざわざ大きなホッチキスで止められた腸。右手の先は中指と小指しかなく、左足の大腿部は上半分しかない。


「し、よ、り……」


 そうか。

 彼女は一人じゃなくて、三人だったんだ。翔子しょうこ洋子ようこ理子りこ、その頭文字をとってしより。


「あの男は、この場所で問題を起こした!」


「けど、それはあの男をより狂暴にさせた!」


「彼も敷谷に殺された! そして私達も!」


 その叫びは断末魔以外の何でもない。


「早くここを逃げて!」


「あいつは、今でも狙っている!」


「アイツ好みの女性を!」


 俺と涼太は顔を見合わせた。


「弥宵が危ない!」


 僕と涼太は急いでその場を去ろうとした。

 その時。


「アー!」


「あー!」


「aー!」


――メキメキ、メキメキ。

『しより』の身体が、徐々に中心に潰れだす。


「痛い! 痛い! 痛い!」


「助けて!」


「お願い!」


 潰れていく体の内臓から、黒く臭う液体が漏れ周りの物を濡らす。


「イヤー!」


――バキバキバキ。

――バキ!バキ!バキ!


 骨が砕け、一本の赤黒い塊に変わり、そのまま横に倒れていってた。


「……行こう」


 涼太はここに来た時と同じ様な顔色をしている、たぶん僕も相当にひどい顔をしているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ