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八月二日


「うっす、お待たせ」


 半袖短パンの涼太りょうたが片手を上げながら駅前広場にやってきた。

 辺りは人が多い。お昼ご飯を食べに飲食店の多いここまで来ている、OLさんやサラリーマンの人のようだ。


「うっすじゃない、涼太。五分遅刻だぞ」


「そうだよ」


 私とカジュアルな格好をした礼二れいじが、涼太を嗜めたのだけど、彼は悪びれる様子もなく、


「ごめんごめん」


 と軽く謝った。


「まったく、いつもの事だけどさ」


「そうそう、だから気にすんなって」


「はあ。そんな事じゃ、恋人も出来ないんじゃないの?」


「残念だったね、弥宵やよいさん。こう見えても、俺ってモテるのよ」


 と、得意げに話す。


「ホントに?」


 礼二に尋ねると、


「まあ、こう見えても涼太はサッカー部の期待の新星なんて言われてるからね。このテキトーな性格を知らない女子達からすると、体育会系イケメンって評価なんだよ」


 プッ、と笑いが漏れてしまった。


「笑うなんて酷いな、弥宵」


「ごめんごめん。でも、いつもの涼太を知っているとね」


 と、笑いを堪えす事が出来なくなった。

 涼太がモテるのは今に始まった事ではなく、中学からモテてはいたのだけど彼の性格が露見するほど、その人気は消えていくのがいつものパターンだった。


「ヒドッ!」


 一通り笑い終え、ようやく落ち着いてきた。


「ったく、そんなに笑う事かよ」


「まあ、しかたないさ。俺もお前のファンクラブがあるって聞いた時は、笑いが止まらなかったからな」


 その言葉に、再度笑いが止まらなくなる。


「はぁ? それはオレも知らないぞ」


「クラスの女子たちが話してたよ」


「ハハハ、その女の子達は幸せだね、涼太のテキトーな性格知らないから」


「ああ、僕もそう思うよ」


「ったく。ってか、お前はどうなんだよ、礼二!」


 急に話を話を振られた礼二は、目を丸くしていたが、


「僕は、特にないさ」


「嘘つけ! お前がラブレターもらったって話を聞いたぞ」


 ちょっと意外だった、礼二は顔は悪くないが涼太と一緒にいる事が多く、どうしても引き立て役のようになってしまっていた。

 昔から礼二を知っている私からすると、それがもったいないとも思っていた。


「ああ、それか。それなら、丁重に断ったよ」


「マジか!? なんて、もったいない事を! お前は恋人が欲しくないのか?」


「いたら楽しいのだろうけど、今はそういう事にうつつを抜かしている場合ではないと思うからな」


「はあー、さすがご立派ですな」


 礼二の将来の夢は医師になる事。彼の家が医師家系だという事もあるのだろうけど、彼自身がその事を強く望んでいた。

 その夢を叶えるまでは、恋人を作らないつもりなのだろうか?


「茶化さなくていいから。それで? 今日の肝試しの場所ってどこにしたんだ?」


 礼二が眼鏡の位置を指で直しながら、そう尋ねる。


「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじゃん。夜になったからが本番なんだから。とりあえず、今は遊ぼうぜ」


「おい待てよ、涼太!」


 どんどんと先に歩いていく涼太を、礼二と二人で追いかけた。



 駅前に集まってから三人で色々と遊んだ。昼ご飯に映画、ゲームセンターにショッピング。そんなこんなで日もだいぶ暮れ始めていた。


「ふう、遊んだ遊んだ!」


 駅前にあるファストフード店の二階、その飲食スペースで夕食を食べていると、涼太がそんな事を言った。


「おい、涼太。まさか、本来の目的を忘れてないよな?」


「目的? ああ、目的ね。忘れるわけないだろ」


 本当は忘れていたんだろうと、その言葉で理解できた。


「まったく。それで? 昼間は聞きそびれたけど、どこに行くんだ?」


 その言葉に涼太は、何故か得意げに笑いながら、


「おっし、じゃあ言うぞ。それはな……」


「それは?」


「ワンダーランドだ」


「ワンダーランド? ワンダーランドって、あの郊外の?」


「そう。『みんな集まれワンダーランド』のワンダーランド」


 それは昔、テレビでやっていたコマーシャルの一節だった。


「あそこって、少し前に潰れたんだよな?」


「五年前にに廃業したんだと」


 と、涼太が答える。


「五年前から売地らしいんだけど、色々な噂があって買い手がつかないんだと」


「噂?」


 私の質問に、涼太はニヤニヤと笑う。


「あの辺りって民家はほとんどないんだけどな。ワンダーランドの周辺を偶然通った人が、電気がついてるのを見た事があるんだと」


「は?」


「その人が遊園地の近くまで行って入り口の柵越しに中を見たんだけど、中に人は見当たらなかったらしい」


「それなら、なんで電気がついているんだよ?」


「さあね? その人も、なんだか怖くなって逃げたらしいしさ」


「けど、それだけで肝試しをするような心霊スポットって言われてもな」


「ところが、あの遊園地。その噂だけじゃないんだよ」


「まだなにかあるのか?」


「営業中だった時に、複数の行方伊不明者と事故死を出しているらしくてさ。ワンダーランドが潰れたのも、そのせいだって言われているんだとさ」


 ほら、と携帯電話を差し出すと、そこには『心霊スポット、噂の真相を見る!』と赤い字で大きく書かれたサイトが表示されていた。

 それはオカルトサイトで、さまざまな場所の名前が実際の名称で書かれていた。

 その中に『ワンダーランド』と書かれているリンクがあった。


「アクアリウムで消えた家族、事故の起こったジェットコースター、そして経営者の自殺、か」


「いわくつき、ってやつだよな」


「ああ」


「それにな、中に入った奴も居るみたいなんだけど、そこでも色々な体験談があるんだよ」


「ふーん」


「ふーん、って礼二は信じてないのか?」


「うーん。昔に家族といった所が心霊スポットだ、なんて言われてもな。小さい頃にあそこで遊んだ思い出の方が強いしな」


「それは一理あるけどな、俺も話を聞いた時は嘘だと思ったし。だからこそ、肝試しにちょうどいいんじゃないか?」


「……それもそうだな」


「じゃあ、決まり! さて、そろそろ行くか」


「どうしたんだ、弥宵?」


 いつの間にか立ち上がっている二人は、不思議そうにこちらを見ていた。


「何でもないよ」


 と、私は首を振った。


「じゃあ、行こうぜ」


 と、涼太を先頭に店を出た。


(ワンダーランド……)


 その名前を聞いた時から、引っかかっている事があった。


(私……行った事があるはずなのに。その場所の事を思い出せないのは……どうして?)


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