八月一日、夜
「弥宵、聞いてる?」
通話アプリで話をしていた、小学校からの幼馴染みである桜井涼太がそんな事を言った。
「聞いてるよ。夏休みの事だよね?」
「そうそう、三人でどっか行こうぜ」
「どこかって、どこにするの?」
「海!」
「やだよ。水着とか着るの好きじゃないし」
私はベットに寄りかかりながら、適当に置いてある携帯にそう話す。
「やっぱりか、残念。せっかく、弥宵の水着が見れると思ったのに」
「まったく、涼太は中学生から変わらないな、高校生になったっていうのに」
そう言ったのは同時通話で話していたもうひとりの幼馴染み、夏目礼二。
「まったく。真摯な礼二君は弥宵の事なんかまったく興味がないって言うんだ」
と、いつものようにからかいだした。
「弥宵にはまったく魅力も感じないと、そう言いたいんだな?」
「いや、そこまでは言ってないじゃないか」
いつものように涼太がニヤニヤと笑っている顔が浮かぶ。
「ほう? なら弥宵に興味津々だと? なんて、スケベな奴なんだ」
「そんな事言ってないだろ!?」
「またまた慌てて、怪しいなぁ?」
私は二人のいつも通りのやりとりを、笑いながら聞いていた。
「もう、涼太。礼二が困ってるじゃん、その辺にしてあげなよ」
ここまでがいつもの流れ。涼太がからかって、礼二が困り、私がフォローする。礼二から始める事もあるんだけど、それはそれで楽しかった。
「はいよ。で、本当にどうすんのさ? やっぱり夏だし、それっぽい事はしたいよな」
涼太の言葉に、礼二が「うーん」と少し考えて、
「夏っぽい事か、お祭りとか?」
「ごめん。お祭りは高校の子と行くって約束してるからさ」
「そっか……。なら、別のにしておくか」
私はこの春から、ふたりとは別の高校に通っている。
小、中、と同じ学校で過ごしてきて「高校も三人一緒に」、ふたりはそう言ってくれたのだけど、私は両親から距離をとりたいと小さな頃から考えていた。
ふたりには悪いと思いながらも、私は寮のある今の女子校を受験して受かり、親元を離れる事が出来た。あの息苦しい家を出た事を、最初は寂しくも思ったけど、良かったとも思い始めている。
「なら、どうする? 夏、ナツ、なつ……」
涼太はそう繰り返しつぶやくと、
「そうだ! 肝試しなんて、どうよ?」
「肝試し?」
礼二がオウム返しに尋ねると、涼太は興奮したように、
「ほら、小さい頃にやったじゃん」
「そんな事したか?」
礼二の質問に、私が答える。
「小学校の近くにあったおんぼろの家。あそこ、誰も住んでいないのに、人影が見える事があるって。それを確認しに行こうって見に行ったじゃない? その事でしょ?」
涼太は同意する。
あの当時は、私達の間で探検のような遊びが流行っていた。そんな時、隣のクラスの子がそんな事を言ったもんだから、お化け屋敷だと噂になった。当然私達はその家に行ったのだけど、鍵がかかっていて入る事は出来なった。
「ああ。何日か張り込んでいたら内見の人がやってきた、あの家ね」
そう。
あの家はお化け屋敷でも何でもなくて、売りに出されているのを見に来ていた人を、幽霊だと錯覚してしまっただけの事だった。
「あの時のはデマだったけどさ。家を見張っている間って、面白かっただろ?」
「悪くはなかったな」
私も同意した。涼太は「礼二君は、素直じゃないね」と悪態をつくと、
「だからさ、あの当時を思い出して肝試し、どうよ?」
肝試しか。
私自身は幽霊をあまり信じていなかったけど、当時の事を思い返すと懐かしい気分が溢れた。
「いいんじゃない?」
「お、弥宵は乗り気だ。さぁ、礼二君はどうするのかな?」
こういう時に礼二は絶対に断らないと私は知っている、それは涼太も同じだろう。
「分かったよ」
「うっし、決まりな!」
そう嬉しそうな声を上げる涼太に、礼二は冷静な声で、
「けどさ、涼太。肝試しするって、どこでするんだよ?」
その言葉に涼太は、「フフフ」とわざとらしく笑い、
「そこは俺に任せとけよ。実はいい場所があるらしくてさ、知ってる奴から聞いておくよ。けど、お前らには当日までの秘密な。その方が面白いだろ?」
最初に涼太が海に行こうと言ったのは、断られる事を前提で話したのだろう。本当に決めていたのは、この肝試しの方。そうじゃなきゃ、そんな場所を知っている人がいるなんて言葉は出て来ないだろう。
「分かった。それじゃあ後は任せたよ」
そう、了解した。
「はいよ。そういえば、行く日っていつがいいんだ? 俺はいつでも問題ないぜ」
「僕も」
私は携帯を手にとった。画面には、中央に私がいて日焼けをした短髪の涼太と、眼鏡をかけた礼二の姿がある。
「ちょっと確認するね」
と携帯を操作してカレンダーを表示させた。予定を示すマークのない日を見つけ、
「八月の、二日なら大丈夫だよ」
「じゃあ、その日で決まりだ!」
「了解」
その約束の日まで、私はウキウキとした日々を過ごしていた。
けど。




