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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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初遭遇


 俺の名はダン。帝国でたった二人の現役特Aクラスの探検家だ。






 「こっちの者が、失礼をした。本当にすまない」

 「クリス姉」

 「……ごめんなさい。とっても可愛らしくって……つい……」


 これでもかと言うくらい小さくなって、獣人達に謝るクリス。

 そんなクリスに対して、獣人達は慌てて顔を上げさせる。

 こいつら、基本的にお人好しだな。


 「いやいやいや、我々を初めて見る森の民なども、よくそうなるので慣れているので大丈夫なのだ」

 「ただ、人間殿の顔が少々怖かっただけなのだ。ちょっと食べられるかと思ったのだ」


 獣人の言葉に、クリスは心外だとばかりに瞬時に反応する。


 「た、食べませんよ! ちょっと、はむはむっと……あの、ごめんなさい。冗談です。だからドランちゃん、頭掴むのは…………」

 「クリス姉のせいで、人間がこんなのばっかだと思われると困るんだよなぁ」

 「ああぁぁぁぁ! 頭痛い! 痛いぃ! ごめんなさいいぃぃぃ!」


 クリスの発言と、それに対するドランの行動に獣人達は完全に引いている


 「あの、こういう人は一部だけですから、怖がらないでください」

 「は、はいなのだ……」


 ハーヴィーの言葉に、返答をするものの、目の前の獣人達の中では、きっと人間は理解不能の危険な生物と認識されたかもしれないな。


 「それで、本題に移って良いか?」

 「わ、わかったのだ」

 「ハーヴィー、頼む」

 「わかりました」


 このままだと話がいつまでも進まないと判断した俺は、ハーヴィーに説明を担当させる事にする。

 俺がやっても良いのだが、一応今回はドランとハーヴィーの適正審査の面もあるが、これから先の事を考え経験を積ませるためにも、できるだけ二人に交渉事や決め事を任せたいと思っている。


 「何やら自分の中で格好つけて悦に浸っておるようじゃがのぉ、実のところ面倒くさいだけじゃろ」

 「俺には、センセイのお守りって言う何よりも面倒な仕事があるんだよ。他の事なんかやってられるか」

 「なっはっは。そいつは確かに大変じゃのぉ」


 そんな軽口を叩いている俺と爺さんだが、同じ場所をじっと見据えている。


 「爺さんもわかるのか?」

 「はっきりとではないがの。魔獣かの?」

 「どうだろうな。ただ、こっちに気付いているって言う訳じゃねぇな」


 気配は近づいているものの、俺達のいる場所から少し外れるように進んでいる。

 俺の言葉に、何やら爺さんは思い当たったことがあったようだ。


 「だとすると、この先に用があるのかのぉ」

 「この先……集落か」

 「斥候か、襲撃かはわからんが、そういうことじゃないかの」


 爺さんの言葉を受け、俺はパットンを呼ぶ。


 「どうしたんだい?ダン」

 「これから15分ほどあいつらに認識阻害の魔法をかけておいてくれないか?」

 「あれ?今回は使用禁止じゃなかったっけ?」


 そう、今回は集団戦になると言うこともあり、混乱を招かないようにということと、この前、爺さんに言われた事もあり、全員でそういうことにしようと言うことに決めたのだった。


 それを知った爺さんに、<今回じゃなくても良いじゃろうに>と呆れられたが、爺さんに言われた<パットンの魔法に甘えすぎじゃないのか>という言葉がどうやら全員思い当たってムキになっているようだ。

 何だかんだで俺達は、不器用な探検家なんだなとそのとき思ったわけだ。


 「まぁ、今回は獣人の連中と話してる最中だしな。特別って言うことで」

 「魔法使用の事は、君達の意地の問題で、ボクは別に使うのは構わないんだけどね。何か来たのかい?」

 「まあな。ちょっと、敵さんの強さがどれ程のものか調べてこようかと思ってな」

 「そっか。頑張ってね」


 そう言うと、ドラン達の存在感が急激に薄くなる。早速認識阻害の魔法をかけたらしい。

 俺は、それを確認するとひとつ大きな伸びをする。久しぶりの森の生物と本格的な戦闘だ。ちょっとだけ滾ってくる。


 「さて、行くかな」

 「そうじゃの」


 意外な返事に、俺は一瞬気が抜ける。なんで爺さんの姿が見えてるんだよ。


 「あ? なんで爺さんも行く気なんだよ」

 「久しぶりのダンの戦いを見てみたいんじゃ。だからさっさと行かんか。敵さんが近くまで来とるぞ」


 絶対嘘だな。暇で自分も暴れたいに決まってる。


 「ったく! 襲われても助けねぇからな」

 「なっはっは。誰に言うとるんじゃ。自分の身くらい守れるわ」


 遊びに行くように気楽に言いやがって


 そんな風に心の中で毒づきながら、俺は爺さんと一緒に敵のいる方向へと進んで行くのだった。






 「まぁ、魔獣だけあって結構厄介じゃったの」

 「全然そう見えなかったけどな」


 俺は、自分達の回りに転がっている猿の魔獣の死体を見てそうぼやく。


 死体は全部で十体程。向かったときは倍以上いたように感じたが、どうやら予想外のところで大きな被害を受けたから、残りは撤退していったようだ。

 なかなか賢い連中のようだ。


 ちなみに、俺は半分くらいしか倒していない。俺を倒せないと踏んだ魔獣達は、一見弱そうな爺さんに襲いかかったのだが、敢えなく撃退されることになる。

 だから、実際は俺よりも爺さんの方が戦っていた感じだ。


 「なっはっは、儂の方がモテモテじゃのぉ。こやつらは儂のもんじゃ」


 とか言って、嬉しそうに戦っていた爺さんが厄介な相手などと言っても全く説得力がない。


 「何を言っとるか、オヌシは全部退治しとるが、儂は何匹か討ち漏らしとるわい。やっぱり歳じゃの」

 「代名詞と言える、獲物を持ってきてねぇからじゃねぇのか?」


 爺さんの愛用武器は、ふざけたでかさの大剣だ。今回は、森の中での戦闘なので、取り回しの楽な小剣を持ってきている。しかし、なんで杖に剣を仕込んでいるんだろうか。全く物騒なもんだ。


 「それこそ馬鹿を言うでないわ。あんなもの振り回したら、腰を痛めるわい」

 「はっ。どうだかな」


 そんな事を言い合っていたが、爺さんは話を元に戻してくる。


 「さっきの話じゃがの、難易度の基準を儂やダンにしたら確かにそうじゃの」


 その言葉で、爺さんが何を言いたかったかを理解する。


 「なるほどな。一般的な探検家にはきついか」


 猿の魔獣自体の強さは以前襲われた熊の魔獣や魔狼に比べれば大分弱い。中級ランクに入った探検家であれば十分に渡り合うことも可能だろう。

 ただ、それは一匹あたりの単純な強さという点であって、実際は連中は木の上という、普段戦うことの無い場所から襲ってくる上、さっきの二種類の魔獣に比べると知恵が回っている。

 数の優位性というものをある程度理解しているようで、俺の時も爺さんの時も、襲ってくるときは必ず3~5倍の数を維持した状態で襲ってきていた。

 さらに言えば、投石や枝による牽制役の存在、時間差攻撃や波状攻撃などの比較的簡単な戦術も使っていた。これらは、元々奴らが持っていたのか、それとも獣人との戦いの中で覚えたことなのかはわからないが、そのせいで森での戦いに慣れていなければ、上級ランクの探検家のチームでも勝てない可能性が高い。

 少なからず倍の数の相手に個人で渡り合えなければ話にすらならないだろう。


 俺が余裕で戦えたのは、森での戦闘にも慣れているのもあるが、北の山脈での体験もあるからだろう。空中から一気に降下して襲撃してくる翼竜に比べれば、あいつらの速度なんざ可愛いもんだ。

 爺さんが戦えたのも、若いときに森に入っていたようだからその時の経験だろう。


 「ちなみに言うとの、儂だって敵さんがあの程度波状攻撃で退いてくれたから良かったものの、あのまま最後まで襲われ続けていたら多分やられていたかもしれないのぉ」


 そう言う爺さんの方をよく見ると、全身が細かく震えている。どうやら爺さんは、最初から全力で戦闘を続けていたらしい。


 「無理すんなって言っただろうが」

 「言っとらんわ。怪我しても知らねぇからなって言われたから、怪我をしないように頑張ったんじゃ」


 口を尖らせて不満を爺さんは不満を述べる。枯れたジジイがそんな事をしても全くもって可愛くない。


 「いい歳して屁理屈捏ねてんじゃねぇよ。どうにもならなかったらどうするつもりだったんだよ」

 「そうしたら、オヌシになすりつけるだけよ」

 「自分のもんじゃなかったのかよ」

 「いきり立つ老人を諌めるのが若者の勉めじゃろうが」

 「勝手なことばかり言ってやがる」

 「なっはっは。しかしのぅ、これはドランやハーヴィーには少しばかり荷が重くないかのぉ」


 爺さんは、自分が連中を手合わせをした結果、ドランやハーヴィーの事が心配になったようだ。


 「このくらいなら何とかなるだろう。っていうか、ある程度は何とかしてもらわないと困る」

 「厳しいのぉ……」

 「なぁ、爺さん。今、俺よりも少しだけ若い連中でDとかCとか……Bの奴もいたかな?」

 「なんじゃ、急に?」

 「あいつらの中で、異常に修羅場をくぐってるような奴いるだろ?」

 「それがどうしたって言うんじゃ?」

 「あれな、大体センセイの現地実験に巻き込まれた奴らだ」


 そこまで言うと、爺さんも何を言いたいか理解したようだ。


 「つまり、あれかの。オヌシのところの錬金術師殿が色々とやらかした巻き添いを喰らって、生き延びたものがいま上にいるという事かの?」

 「厳密に言えば、“今でも探検家を続けられている“だな。あの経験をして、探検家を続けようって思う心の強い奴いだけが残って上に行ってる感じだな」


 センセイの現地実験に巻き込まれた(稀に巻き込まれに行った)探検家は、高確率で敵性生物との戦いに追われることになる。自分よりも強大な敵との戦闘や何倍もの数の敵との戦いなんかしょっちゅうだ。

 俺達は、センセイのワガママに巻き込んじまった手前、連中を殺さないように半ば守りながら戦わないといけなくなる。

 そうした戦いで俺達や探検家達が大怪我を負う度に、嬉しそうにセンセイはキズいらずを塗っていく。そう、それは嬉しそうに副作用で呻いている俺達を観察している。


 完全に、物語に出てくる[狂乱の薬師]そのものだ。


 その様子に恐怖した連中(俺達を含め)は、大怪我を負わないように限界を超えて戦うことを半ば強制的に覚えていくわけだ。

 そんな目にあっても尚、現役を続けることのできている心の強い(異常な)奴等が俺の下の世代で上に上がっている奴らの殆どだ。言ってしまえば、大半はセンセイの被害者だ。


 ドランやハーヴィーだって、これから先センセイのワガママに付き合わされることになるわけだから、これくらいのことはどうにかしてもらわないと困る。ある程度は選別してやるつもりだが、最低でも四倍くらいの相手にそれなりに立ち回ってもらわないと困る。


 しかし、今回はセンセイがいないから、俺があいつらにキズいらずを塗りたくってやんないといけないから大変だ。限界を超えてもらうためにもヤバい顔をして塗ってやんないといけない。


 どんな顔をして塗ってやろうか。


 そう思うと、ちょっと楽しい気分になってきた。


 「ダンよ、性格悪いの」

 「爺さんほどじゃねぇよ」


 俺はそう言って、ドラン達のいる場所へと戻るのだった。







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