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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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来訪者とその理由である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 ドラン達、そして審査官の二人からこの場で研究を続けても問題ないと言われた我輩は、【安心安全障壁石】の作製を再開し、それから十日ほど経ったのである。


 時折、圧縮作業でミスをしてしまう事があるものの、ほぼ安定して最後の注入作業までは進むことができるようにはなったのであるが、未だに魔法石に構成魔力を適切に入れることができてはいないのである。


 因みに、既に荷車の作製を終了させているサーシャ嬢とミレイ女史も、障壁石の作製に取り掛かっているのであるが、二人とも同様に難航しているのである。

 サーシャ嬢は、基本的には集中を長時間持続させるのが苦手なので、圧縮作業で躓くことが多く、うまくいったとしても、注入の勢いが強すぎて石が割れてしまう失敗をしてしまうのである。


 「うぅー。頭がグルグルするよぅ……」

 「サーシャ、ちょっと疲れてるみたいだね。アリッサにお菓子を用意するように頼むから、一緒に休もう」

 「うん、そうする……ありがとう、パットン」

 「いいさ。サーシャは大事な友達だからね」


 そう言って、サーシャ嬢を伴い妖精パットンは工房から出るのである。なかなか気の利いた事をするのである。が、おそらく本音は菓子を食べたかったからであろう。一昨日当たりから、サーシャ嬢が疲れてくるであろう頃にちょうど妖精パットンがやってくるようになったのである。


 間違ったことはしていないし、寧ろ助かっているのであるが、全くもって調子の良い妖精である。


 「ああぁぁ……。また、全部漏れちゃった……」


 ミレイ女史はサーシャ嬢とは反対に、我輩同様、圧縮作業はほぼ終わらせられるようになったのであるが、慎重な性格が災いして、注入作業に時間をかけすぎてしまい、人工魔法石に構成魔力を入れた先から漏れ出てしまうという状態が続いているのである。

 なので、彼女はどうやら人工魔法石の構築を工夫して、漏れる量を少なく試ているようであるが、なかなか成果は上がっていないようである。


 我輩は、漏れる量を減らす作りにすれば、一度に注入できる量も同じく減ってしまい堂々巡りになってしまう気がするのであるが、ミレイ女史には、ミレイ女史の考えがあると思うので、我輩は黙っていることにするのである。


 我輩も同じところで躓いている以上、人の事をどうこう言えるような状況ではないのである。


 そんな中、森の家に一組の来客が訪れるのであった。 






 「サーシャちゃん! 来ちゃった!」

 「フィーネちゃん! いらっしゃい!」


 サーシャ嬢は、おおよそ二月弱ほどになる友人との再会を喜んでいるのである。

 森の民の時間感覚からすると、一週間程度の間しか空いていないような気もするのであるが、嬉しいものは嬉しいのであろう。


 「おや、新しいお仲間ですか?」

 「仲間というか、お目つけ役というか……であるな」


 親御殿は、開いた口が塞がらないといった感じで我輩達を見ているバリー老とクリス治療師を見て、我輩にそう尋ねるのである。

 我輩の答えを聞いて、捜索団員の一人が不安そうな顔をするのである。


 「もう、この状態になって言うのも何ですが、大丈夫なのですか?」

 「確かに、この状態になって言うのはおかしいな。まぁ、帝国の中でも亜人達に理解のある組織の連中だから、大丈夫だと思うぜ」

 「むしろ、あわよくばそちらと友好関係を持ちたいと思っている組織だからね」


 ダンと、アリッサ嬢の言葉に胸を撫で下ろす森の民達である。彼らも当然、人間の中には亜人を敵視する存在がいることを知っているからである。


 「立ち話もあれである。家に入ってゆっくり話すのである」

 「そうだねぇ、お茶とお菓子を用意するよ」

 「アリッサさんの菓子かぁ! やってきて良かったよ!」


 おそらく何かの用件があって、この短い感覚でこちらに訪問してきたはずである。それを聞くべく我輩は中に入るように促すのである。


 「ちょ! ちょっと待つんじゃ!」

 「そうですよ! 何で、森の民の方々がいらっしゃってるんですか!」


 だが、気を取り戻したバリー老とクリス治療師に、引き止められるのである。


 「あれ? 言って無かったっけ」

 「聞いておらんわい! 何でこんな大切なことを説明しておらんのじゃ!」


 興奮冷めやらぬ感じで、ダンに詰め寄りつつ、我輩とアリッサ嬢にも鋭い目を向けていくバリー老である。


 「センセイ、言ってなかったのかい?」

 「我輩は、てっきりダンが説明している物だとばかり思っていたのである」

 「こういう説明は、センセイが担当だろうが」

 「そんな決まりごと等あったであろうか?」

 「この調査チームのトップはセンセイだろうが」

 「だが、ドラン達の探検家チームのリーダーはダンである」

 「じゃあ、ドランが説明すれば良かったんじゃねぇのか」

 「そんなことある訳ないでしょうが……」

 「責任をなすりつけあっておる場合か! 二人ともそこに正座せい!」


 ダンが自分の責任を認めないせいで、バリー老の堪忍袋が切れてしまったのである。そのせいで我輩まで叱られる羽目になってしまったのである。全くもって納得いかないのである。


 「じゃあ、用件はあたしとミレちゃんで聞いておくから、しっかり反省しておくんだよ」


 そう言ってアリッサ嬢は、森の民達を伴って家の中へと入っていったのである。去り際、すごい楽しそうな笑顔を浮かべていたのが中々憎々しいのである。


 「ダンが自分の説明責任を認めて謝れば、こんなことにはならなかったのである」

 「それを言うなら、センセイだろうが。森の家に連れていくってなったら普通説明するだろうが」

 「そもそもであるな、ダンが暴走しなかったらこんなことにはなっていないはずなのである。責任を持って対処するのはダンであろうが

 「おぉ!? 今、その話に戻るのか? それを言ったら爺さん達をここへ連れていくのを決めたのはセンセイじゃねぇか。だったらセンセイが爺さん達に説明するのが筋じゃねぇのか?」

 「どうでもいいからさっさとそこへ座らんかい! この愚か者共がぁっ!!」


 業を煮やしたバリー老の怒鳴り声が、森中に響き渡るのである。

 その後、我輩たちは夕飯の時間になるまでの間、延々と説教を受けることになったのであった。






 「全く、センセイのせいで散々な目にあったぜ」

 「それはこっちの台詞である」

 「まだ言うとるのか。説教が足りなかったのかのぅ」

 「言っても無駄だと思うよ、あの二人はいつもああだから」


 我輩は、食後の茶に手を伸ばしつつ、ダンのぼやきに抗議するのである。そのやり取りをみて、呆れたようにつぶやくバリー老とアリッサ嬢、それに同意するように頷くハーヴィーとミレイ女史である。


 「二人ともガキじゃの。苦労するのぅ、アリッサ」

 「本当だよ。全く」

 「お前に言われたくねぇよ」

 「それは同意するのである」

 「僕もそう思いますね」

 「失礼だとは思いますがそれは、私もです」

 「なんでよ!!」

 「このチームは、本当に大丈夫なのかのぉ……」


 しかし、我輩同様に問題をちょこちょこ起こすアリッサ嬢に、言われる筋合いは無いのである。

 おそらく一番苦労しているのは、ハーヴィーとミレイ女史である。


 現在、夕飯も終わり、皆思い思い自由時間を過ごしているのである。


 サーシャ嬢は、フィーネ嬢と人形の研究をしに、工房へ行っているのである。

 最近、荷車を作ったり、魔法石を作ったりと、自分の時間があまり取れていなくて人形の研究に進展が無かったことを多少気にしていたのである。

 本人の決めることではあるのであるが、自分のことよりも我輩や他人のことを優先させて頑張ってしまうサーシャ嬢である。少しこちらでも気にかけてあげようかと思うのである。


 デルク坊は、クリス治療師と共に食後の菓子を黙々と食べているのである。先ほど二人とも相当量の食事をしていた筈なのであるが、一体どこにそれだけ詰め込めるのであろうか。

 おかげで、かなり大量に持ってきていた食材もすごい勢いで減っているのである。今回、捜索団の面々が素材とともに食材も持ってきてくれたのはとても助かったのである。


 「まぁ、それはともかくとして、そちらの要望はよくわかったのである。明日から至急そちらの道具作製に移るのである」

 「良いのですか?こちらとしてはうれしいかぎりですが、錬金術師様も、現在何か重要な道具を作っている最中だと聞きましたが」


 話を変えるべく発した我輩の提案に、多少恐縮したような様子を浮かべながら親御殿は返答を返すのである。

 今回、捜索団の面々がこちらへやってきたのは、とある獣人の集落近隣で新しい魔獣の巣が発見されたのであるが、厄介なことに例の魔物も数多く見受けられたということである。

 そこで、駆除にむけて紙人形と薬を大量に欲しいという話がその集落の者からあったのである。

 なので、素材を持って一度こちらを尋ねてきたのであるが、ちょうどその時我輩達は、辺境集落の調査を行っている最中だったのである。

 素材を家に置き、集落へと戻った親御殿達は、その集落の者に我輩達の不在を説明したのである。

 落胆の表情を浮かべて戻って行った集落の者の姿をみて、親御殿達は比較的安全である自分の集落と近隣集落に説明をし、紙人形と薬の全てを集め渡したのである。


 「だけど、それだけじゃ足りなくなったって言うのか?」

 「はい。どうやら掃討準備をしている最中に、魔獣側から攻撃を仕掛けられたようです」


 何とか敵を退けることはできたのであるが、渡された道具も含め、数が足りなくなるほど消費することになり、また親御殿達の集落へ助けを求める使者がやって来たのである。


 「それで、今回の来訪という訳であるな」

 「はい。いらっしゃって本当に助かりました」


 そんな状況であれば、そちらを最優先させるのは当然のことである。少なくともサーシャ嬢とミレイ女史に道具の作製を頼めば良いと思うのである。

 そう思い、バリー老の方をちらりと見ると、何も言わずに頷くのである。


 「では、とりあえず現在作ってある道具は全てそちらに渡すのである。かなりの量があるので、持って行くのは大変になると思うのであるが」

 「それだけ急を要するのであれば、私たちの荷車を使用してもらえば良いのではないでしょうか」


 ミレイ女史はそういうと、工房へと向かっていくのである。おそらくサーシャ嬢に使用の許可を取りに行ったのであろう。このような状況であれば、反対はしないはずである。


 「荷車?」

 「新しい移動と運搬手段である」

 「それはわかりますが、整地されていない森の中では荷車はかえって……」

 「おい、錬金術師様だぞ。普通の荷車なわけ無いだろ?」

 「そうだよ。きっと、宙に浮いたりするんだよ」

 「まさか!さすがに錬金術師様でもそこまでは……」


 そう言って笑う捜索団員であったが、我輩達の苦笑いを見て笑顔が凍りつくのである。


 「まさか……」

 「そのまさかである」

 「……錬金術師様には驚かされますね……」


 我輩の返答に、調査団員達も若干引き攣ったような苦笑いを浮かべるのである。

 そこへ、ミレイ女史が戻って来るのである。使用許可は取れたであろうか。


 「アーノルド様、サーシャちゃんから使用許可をいただきました」

 「わかったのである。と、言う訳で我輩達の荷車を使えば早く移動ができるので、是非使ってほしいのである」

 「わかりました。ありがたく使わせていただきます」


 これで話は終わりになると思ったのであるが、予想外のところから別の提案が来るのである。


 「何じゃ、それで終わりかのぉ。錬金術師殿らしくないではないか」

 「バリー老、どういうことであるか?」


 我輩の問いに、嬉しそうな、愉しそうな笑顔を浮かべてバリー老は


 「当然その掃討作戦、儂達も参加するんじゃろ?」


 そういうのであった。






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