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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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道のりは程遠くである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「【お泊り用結界石】?」

 「まぁ、その名前の通りだよ。夜営や休憩用を主な目的とした、小規模の結界を張る魔法石型の道具だな」


 そう言うと、ダンは一度今から居なくなり、暫くすると上級手引き書を持ってやってきたのである。


 「っと、何処だったかな……。お、あったあった」


 ダンが手引き書からが移動するページを探し出して、我輩達に見せるのである。

 そこには、半径が団体泊まり用の大部屋くらいの球状に展開する、防護結界の魔法が封入された人造魔法石の作り方が載っていたのである。


 「これは、流石にまだ作れないのではないでしょうか」


 ページを見たミレイ女史の反応は芳しくないのである。実を言うと、我輩も同様の意見である。

 範囲魔法である防護結界の魔法は、特定の面を守る防護障壁の魔法の上位魔法となっているのである。

 そもそも、まだ防護障壁の魔法を模した物すら作ったことがないし、まだそのページすら読めていないのである。

 いきなり上級の、上位魔法を模した物を作るのは無謀ではないのであろうか。


 「ダンおじちゃん、それにこんなに凄いものだと素材も凄いの必要になるんじゃないの?」


 サーシャ嬢の反応もまたわかるのである。

 実は現在使用している【浮遊の荷車】も、【浮遊】の構成魔力の質としてはそれほど良質な物ではないので、大量の構成魔力を圧縮する必要があるのである。それがまた時間がかかってしまう要因になっているのである。

 圧縮自体も成功率が6割程度なので、さらに時間がかかったのである。


 「その辺りは大丈夫だと思うぜ、今嬢ちゃん達が作っているように効果範囲や効力を制限すれば、いくらか構成魔力の妥協は可能だろ?」


 たしかに、バリー老達に作っているのは二まわり程小型化した、浮遊の力もいくらか落として“浮く“では無く“浮くように軽い“程度の物になっているのである。その分、使用する構成魔力の質や量もこだわらずに済むので、難易度も低くはなっているのである。


 「結界というは、圧縮された大量の純魔力だったのであるか」

 「純魔力って、圧縮できたのかい?」

 「やったことはないのである。しかし、ここに書いてある以上、やれるということなのであろうな」

 「障壁系の魔法は、構成魔力を使わずに純魔力の圧縮のみで行うなんて……いつまでたっても研究が進まないはずです」

 「リリーが防護障壁の魔法を使ったのも、あの時の一回だけだしねぇ。しかも、本人は半分気を失ってたから記憶にないみたいだし」

 「ボクも、純魔力のみを使って魔法を使えるなんて事は知らなかったなぁ。でも、考えてみれば純魔力っていうのは【無】の構成魔力とも言えるのか」


 妖精パットンの説明に、我輩とミレイ女史は納得が行くのである。

 イメージさえできれば、名称などは別に何でもいいのである。所詮名称は、イメージをしやすくするための記号に過ぎないのである。

 

 そこまで思って、我輩はまた一つ勘違いしていたことを思い出すのである。


 そう、【浮遊】の構成魔力のことである。


 我輩は、どうやら【浮遊】という言葉とそのイメージにこだわりすぎていたようである。

 サーシャ嬢ではないが、ここはもっと我輩に適したイメージの方法で【浮遊】というものを定義すれば良いのである。

 それが何であるかは、今考えることではないので頭の片隅に置きつつ、話に戻るのである。 


 「でも、この結界石という道具は汎用性が高い道具ですね」

 「まぁな。この【お泊り用結界石】っていうのも、バリエーションの一つだ」

 「【畑の友シリーズ】と一緒ということであるか」

 「まぁ、そういうことだな」


 そう言われた我輩が前後のページを見ると、そこには


 効果範囲は狭まるものの、展開速度や強固性能を高めたおそらく戦闘目的で作られた緊急用結界石


 効果範囲と持続性を高める代わりに強固性を下がってしまうが、高品質で多量の【意思】の構成魔力を使用し、結界内に入れるものの制限を事細かに設けることで、危険を排除する事を目的とした選別用結界石


 等といった、おそらくノヴァ殿が思いつくままに作ったであろう色々なバリエーションの結界石の作り方が載っていたのであった。


 「何というか、ノヴァ殿は時折何かが道具作製の琴線に触れるのであるな」

 「そうだね。だったら、お薬の種類をもっと細かく作っても良いと思うんだよね」

 「きっと、ノヴァ様自身が回復魔法を使えていたので、そこまで細かく作らなくても良いと思っていたのではないでしょうか」

 「ありえるであるな」


 森の民でもあるし、我輩達よりも色々な知識や能力が上であったノヴァ殿である。研究に向ける視点なども

違っていても当然なのである。


 「まぁ、それは置いておいてだ」


 我輩達が、若干脱線しかけた話をダンが元に戻すのである。


「俺は、嬢ちゃん達の言う事もわかるんだけど、これを代案として提案するのが一番良いと思うんだが、どう思う?」

 「他に、良い案が浮かばないし、仕方ないのかなぁ」

 「安心しなよ、作るのはセンセイだから」

 「我輩であるか?」

 「当然だろう?センセイが蒔いた種なんだから、それくらい自分で頑張りなよ」


 ダンの方を見ると、我輩が見ているのに気がついたダンは、意地の悪い笑顔を見せるのである。

 しかし、アリッサ嬢の言うことも当然である。


 「わかったのである。みんな、迷惑をかけてすまなかったのである」


 その言葉を受けて、全員が頷くのである。


 話し合いが終わった我輩は、それからバリー老に代案を説明しに向かうのであった。


 「……と、言うわけである」

 「それがダメであった時のことは考えていないのかのぉ。……まぁ、ええわい。どうにかするのじゃろ?」

 

 半分苦笑いのような笑みを浮かべ、バリー老は我輩の提案を受け入れるのである。


 「肝心の納期なのであるが……」

 「儂が帰るまでの間に一つでも完成させてくれれば良いわい。ちなみにのう、それが完成するまでは儂は帰れないからの。弟に殺されるからのぅ。なっはっは」

 「兄を超える弟などいないと言っていたはずであるが」

 「そんなこと言ったかのぉ。」

 「都合の良い頭であるな。しかし、約束は守るべく最大の努力をするのである」


 我輩の言葉に、バリー老は愉快そうに笑い


 「期待しとるぞ。錬金術師殿」


 そう言うのであった。






 と、そのような出来事があり、手が空いた我輩はバリー老の期待に応えるべく【お泊り用結界石】の研究に着手するのである。


 いきなり結界石の作製を始めても良いのであるが、上級手引き書にある道具がそうすぐにできるとは思えないのである。

 なので、先に中級手引き書の最後の方に載っていた【安心安全障壁石】の作製を始めるのである。


 結界魔法は障壁魔法を範囲魔法化したものと言っていいらしいので、まずは障壁石を作って感触を得ることにするのである。


 とはいえ、このあたりの道具になってくるとそう簡単には作ることはできないのである。

 まずは、膨大な量の純魔力を状態維持しつつ圧縮作業まで持って行くのが大変なのである。

 しっかり制御をしないと、すぐに釜の外へ抜けてしまったり、他の構成魔力と結び付いてしまったりするのである。

 

 どうしたものかと思っていたのであるが、そんなときにサーシャ嬢とミレイ女史がこちらにやってくるのである。


 「どうしたのであるか?二人はもう荷車の作製は終わったのであるか?」

 「いまは、ちょっとお休みだよ」

 「さすがに、ずっと集中しているのも厳しいですので」

 「それはそうと、サーシャ嬢は何を持っているのであるか?鍋のようであるが」


 我輩は、サーシャ嬢が持っている大きな鉄鍋を見るのである。

 大きさの割に、サーシャ嬢が大変そうに持っているわけではないので、おそらく錬金術で軽量化された鉄鍋なのであろう。

 鉄鍋に興味を示す我輩に、二人は満面の笑みを浮かべるのである。


 「おじさんが大変そうだから、なにか良い道具が無いか調べてたんだよ」

 「そうしたら、こういう道具がありましたのでお持ちいたしました」


 そういって鉄鍋を作業台の上に置くのである。


 「さっき、道具入れのせつめいを見たらね、これ、構成魔力をしばらくの間置いておけ事もできるお鍋なんだって」

 「もともとは、釜同士の構成魔力の移替えなどの目的で作られているようですね」

 「でも、これで作業ができないのが残念なんだよねぇ」

 「どうも、普通の鉄鍋に状態維持の魔法を強引に練り込んだようですね」


 その言葉を聞いて、我輩は驚くのである。


 「魔法金属の鉱石ではなくても、そんなことができるのであるか?」


 我輩の質問に、ミレイ女史は困ったような表情を浮かべるのである。


 「できない……と、言いたいのですが、できている物がここにある以上、私たちが知らない方法があるのでしょうね」


 確かに、ミレイ女史の言う通りである。

 研究所時代に魔法鉄を作ったことがあったが、あれは初級手引き書での作製方法である。

 もしかしたら、中級手引き書か上級手引き書のどちらかにそれを作る方法が載っているのかもしれないのである。


 そう思い、ちょうど様子を見に来たダンに一応確認してみたところ驚かれたのである。


 「あ?センセイ達、そこまでまだ進んでなかったのかよ。それなのに結界石作ろうとしてたのか?」


 どうやら、ダンは我輩達が人工魔法石の作製経験済みだと思い、結界石の作製を提案したようである。


 「そんな暇はなかったである」


 辺境の集落にある釜では中級手引き書の道具のほとんどは時間がかかりすぎてしまい、研究などできなかったし、こちらに移ってからも全員やることがあって研究などする時間が持てなかったのである。


 「まぁ、でも今のセンセイ達なら人工魔法石くらい余裕だろ」

 「気楽に言うのであるな」

 「荷車もできたんだろ?手引き書見てみればわかるけどよ、問題は人工魔法石を作ることじゃねえからだよ。頑張ってくれよ、センセイ」


 そう言ってダンが持ってきた手引き書の、人工魔法石の欄を見てみるのである。

 確かにダンが言う通り、荷車に比べれば人工魔法石の作製方法は簡単であった。


 【石材】または【鉱石】の構成魔力を使用して、空になった魔法石を作るイメージで構築すれば良いだけの話である。

 この時、石の元になる構成魔力の純度が高いほど、人工魔法石内に入れることのできる魔力の量が増えるようである。

 問題は、この魔法石に魔力を注入することの方であった。


 魔法鉱石から構成魔力を分解・融合・構築する初級の方法とは違い、最初に空の魔法石を先に作り、そのあとに作製した具現化していない構成魔力をそのまま入れるのである。

 この時、注入の勢いが強いと石が割れてしまい、失敗。弱いと注入した先から漏れていってしまい入っている魔力量が少なくなってしまうのである。

 また、魔力量が多過ぎても石が割れてしまうのでなかなか見極めが難しいのである。


 さらに、自然に存在する物と違い、魔力が自然に消費されていってしまうのである。

 まぁ、構成魔力が結晶化した自然界の魔法石とは作りが違うので仕方がないのである。


 ただし、利点もあるのである。

 それは、内部に構成魔力が残っている場合に限り、魔法が使えるものが純魔力を内部に入れることで再利用することが可能であることである。

 つまり理論上では、何度でも【お泊り用結界石】の連続使用も可能になるのである。


 「どんだけの純魔力を注ぎ込まなきゃいけないのかは全くわかんねぇけどなぁ」

 「おそらく、上位の魔法使いくらいに魔力使用限界が高くないと無理じゃないでしょうか」

 「そう考えると、【お泊り用結界石】の必要純魔力量が途方もないのであるなぁ」

 「だから、圧縮が絶対必要なんだね」

 「そういうことであるなぁ」


 一つ進んだような気もするのであるが、先はまだまだ長いのである。

 それでも、一つ一つ段階を踏んでいけば必ずできるはずである。

 深部の捜索に向かうまでに少しでも先に進めるように、我輩は研究に没頭する決意を決めるのであった。



 

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