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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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安請け合いは良くないのである

今回は、短い更新になってしまいました。

申し訳ございません。


 我輩の名はアーノルド。帝国で自由気ままに生きる錬金術師である。






 「あの、本当によろしかったのですか?」


 工房で研究をしている我輩の元へ、クリス治療師が申し訳なさそうにやってきたのである。


 現在我輩は、我輩達が留守の間に家の近くに積まれていた大量の素材を使用して、森の集落へ持っていく道具や薬を作成している最中である。

 どうやら、魔法が得意ではない獣人達にとって我輩が作る紙人形や薬は、生存確率をかなり上げることができるものとして、需要が高まっているようである。


 そんな中、ミレイ女史とサーシャ嬢は、現皇帝への献上用として、我輩達が使用しているものと同サイズの荷車と作り方を書いた資料を。また、探検家ギルド用と治療院用にサイズを小さくした荷車を作っている最中である。

 クリス治療師は、そのことについて言っているのであろう。


 「バリー老から出された提案を、サーシャ嬢とミレイ女史がダン達と相談・吟味して決めたことである。我輩は、その決定を尊重するのであるよ」


 この前、我輩と話をしていたバリー老とのやりとりの時の際



 「まぁ、陛下から信用されていたおぬしから信用していると言われてしまえば、応えるしかないかのぉ」

 「だが、ギルドマスターはやめた筈であるが、どうするのであるか」


 バリー老は、ヨヨヨと泣く素振りを見せて、大袈裟に話しはじめるのである。


 「ここに来る前に、“ギルドマスターの業務は一旦引き継ぐから結果を持って戻って来い。でなければ刺し殺してやる“と、弟からおっかない文が届いてのぉ。儂は仕事は辞めれていないし、土産を持っていかないいけないしと、大変なんじゃよ」

 「自業自得だと思うのであるが」

 「ひどいのぉ、老人は優しくした方がいいのじゃよ」

 「笑いながら言っても、説得力はないのである」


 バリー老は、舌を出して茶目っ気をアピールするのである。まぁ何と言うか、ダンやアリッサ嬢と話しているような気安さである。確実に連中は、この老人の影響を受けていると思うのである。


 「まぁ、そういうわけでじゃな。ギルドに協力をしてくれる以上、そちらの不利益にはならぬように動くつもりじゃわい」

 「一つだけ訂正してもらいたいのである。我輩が協力するのは、ギルドではなくバリー老にである」

 「むむ、責任重大じゃのう……後先短い老人に重荷を背負わせるんじゃないわい」

 「本気でそう思うのであれば、早く後継者を育てるのである」


 我輩の言葉を聞いたどう受け取ったのか、バリー老は愉快そうに笑うのである。


 「なっはっは……興味のない振りをして、中々黒いのぅ。さすがは陛下の相談役といったところであろうかのう」

 「何を言っているのかわからないのであるが……」

 「そういうことにしておいてやるわい。おぉ、こわいこわい。油断も隙も無いのぉ」


 そう言って、バリー老は笑みを強めるのであった。



 というやり取りがあった後、バリー老から二人に荷車を作ってほしいという依頼があったようである。

 どういう交渉が行われたかというのは、我輩は知らないのである。ミレイ女史とサーシャ嬢は我輩ではなくダン達と相談して自分達の答えを出したからである。


 我輩が知っているのは、先程クリス治療師に言った通り


 「隊長達と相談して、帝国の行く先を考えればバリー様の提案を受けた方が良いと考えました」

 「だから、おじいちゃん達に荷車を作るね」


 と言う二人の答えだけである。

 二人が民のことを、帝国のことを考えて出した結論であるならば、我輩はそれを尊重するのみである。


 「しかし、それですと治療院が荷車を貰うという理由が……」

 「それは我輩に聞くよりも、バリー老やダン達に聞いた方が早いのではないのであろうか?」

 「それは、確かにその通りですね。では、グランドマスターに聞いてきます」


 そう言って、その場を辞するクリス女史を見送りつつ、おそらくバリー老は治療院に若干恩を売りつつ、我輩やサーシャ嬢達の影を隠すことに協力させようとしているのであろうなぁと我輩は考えるのである。


 自分の好き勝手にやった結果だとは思うのであるが、面倒なことになったのであるなぁと思いながら我輩は道具の制作を続けるのであった。






 森の集落へ持っていく薬や紙人形を、ある程度作製し終わった我輩は、現在バリー老の要望に応える道具を作るべく、研究を開始しているのである。


 と言うのも


 「一言良いかの」

 「何であるか?」


 結界内の使用許可の話等が終了して、ミレイ女史達に荷車の作製を依頼しようと席をたったバリー老が思い出したかのようにこちらを向くのである。


 「先程の結界使用の件じゃがの、おぬし一人で簡単に決めてしまって良い問題なのか、良く考えてみることじゃな」

 「バリー老、何を急に…………」


 そこまで言った後、我輩は次の句を述べることが出来なかったのである。

 なぜなら、バリー老の言葉で、我輩が何をしでかしてしまったのか気付いたからである。

 我輩は、こんな重要なことを、気軽に、一人で、偉そうに決めていたのであろうか。


 その我輩の様子を見て、バリー老は楽しそうに笑うのである。


 「なっはっは。学者の一族でも鬼才と言われ、前皇帝陛下の相談役と言われたおぬしであるが、まだまだ若いのぅ。さっきの話は聞かなかったことにするから、もう一度良く考えるのじゃよ。おぬしが、お嬢ちゃんにしたようにのぅ」

 「ご配慮、痛み入るのである。しかし、何故指摘をしてくれたのであるか?」


 我輩の質問に、バリー老は


 「おぬしが、ダンやアリッサを信用する儂を信用すると言ったように、儂も、かわいい教え子達が信頼を寄せているおぬしに期待しているのじゃよ。あやつらや仲間を振り回すのは結構じゃが、蔑ろにしないようにして欲しいものじゃの」


 そう言って、いなくなったのであった。

 

 その後、バリー老との会話をダン達に相談した結果、


 ダンとアリッサ嬢からは、人には必ず報告や相談をしろという割に、自分は忘れるのかと説教され

 妖精パットンには、もっと物事を深く考えなよと小言を言われた上に頭を蹴られ

 ドランとハーヴィーとには、本当にしょうがない人だと呆れられ

 ミレイ女史には、私達はそんなに頼りないのですかと悲しい顔をされたのである。


 「デルク坊、サーシャ嬢。森の家は、二人の物だというのに勝手な事をしてしまい、申し訳なかったのである」

 「へ?何が?この家だって、もうおっちゃんのものみたいなもんだしさ。おっちゃんが良いと思ったようにすれば良いんじゃないの?」

 「うん。私もそう思う。だけど、何かをするときは、ちゃんとダンおじさんやアリッサお姉ちゃんにお話してね」


 好きなように使わせても立っているうちに、いつの間にか自分の工房だと勘違いしていた我輩の謝罪を、二人は寛容に受け入れてくれたのである。二人が、我輩の物のようだと言っていても、ここは、二人の家である。そのことを忘れないように己を律しようと我輩は思うのであった。


 「それは分かったのですが、これからどうなさるおつもりですか?」

 「旦那のことでさぁ、このまま終わりって言うわけじゃないでしょう」

 「当然である。バリー老の期待には応えるのである」

 「でも、良い代案なんてすぐ浮かぶのかい?」


 当然、浮かぶわけがないのである。

 どうしたものかと思案する我輩であったが、その時間もすぐに終わるのである。


 「上級手引き書に、【お泊り用結界石】っていう魔法の道具の作り方があったから、それで手を打って貰えば良いんじゃねぇか?」


 そう、ダンが言ったからであった。






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