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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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隠し事は面倒なのである。


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 些か重苦しい空気が場に漂いだした頃、部屋の外から元気な声が聞こえてくるのである。

 どうやら、デルク坊とサーシャ嬢が帰ってきたようである。


 「ただいま!……あれ?元気ないね。どうしたの?」

 「あれ?さっきの姉ちゃんじゃん」


 若干の悲壮感すら漂わせている我輩達に、サーシャ嬢は疑問を抱き、デルク坊は我輩達を全く意に介さずクリス治療師に挨拶するのである。


 「サーシャちゃんとデルク君だっけ?君達もこのお家の人だったの?」

 「そっかぁ、言ってなかったっけ」


 どうやら、クリス治療師には自分たちのことをあまり話さないまま案内をしていたようで、クリス治療師はサーシャ嬢達を集落の子供と思っていたようである。


 「おねえちゃんは、御用は済んだの?」

 「うーん、これからかなぁ。私とおじいちゃんは、この後皆と一緒に森の調査に行くんだよ」

 「そうなんだ!じゃあ、おねえちゃん達がドランお兄ちゃんのことを見る人なんだね」

 「へぇー。さっき、ドランにいちゃんとハーヴィーにいちゃんが、あのじいちゃんに遊ばれてたけど、すげえじいちゃんなんだなぁ。おれも混ざろうかなぁ」

 「一応あの二人の能力審査も兼ねてるからな。邪魔にならないか聞いてから混ざれよ」

 「うん、わかった!」


 そういうと、デルク坊は嬉しそうに外へと出かけて行くのであった。ドランとハーヴィーが遊ばれていると言うことが分かるというのも大概であるが、そこへわざわざ行こうと思うあたり、デルク坊も戦闘馬鹿の道を順調に歩み出している気がするのである。


 「へ?止めないんですか?」

 「まぁ、邪魔にはならないんじゃないか?」

 「隊長、クリスさんはそっちの心配はしてないと思いますよ」


 クリス治療師が心配そうに質問するのであるが、ダンは全く意に介さず返答をするのである。

 我輩もそう思うのであるが、ミレイ女史の言葉のようにクリス治療師はそちらの心配をしているわけではないと思うのである。

 まぁ、ダンの戦闘訓練にデルク坊もよく混ざっているので、ダンはそちらの方向の心配など考えていないのであろう。

 

 場の空気から、心配はいらなさそうだと感じたクリス治療師は、話題を変えようと別の質問を始めるのである。


 「そういえば、先程回復魔法を使える人がいると言っていたのですが、その方は……」

 「わたしだよ?」


 クリス治療師の言葉に、サーシャ嬢が即答するのである。

 意外な人物からの返答に、驚きを隠せないクリス治療師である。

 まぁ、それはそうである。現在の人間が有している魔法観において、このくらいの子供が回復魔法の魔方陣を作れるというのは神童と言われるレベルである。

 なので、目の前の子供が回復魔法を使えるといったことは、嘘でない限りものすごい衝撃なのである。


 「冗談ですよね?」


 こんなことを冗談で言ったらいろいろ厄介なことになるので、魔法が使えるということを冗談で言う事はタブー視されているのでそんなことをする訳が無いのであるが、そう思いたい気持ちも分かるのである。


 「本当である。更に言うなれば、サーシャ嬢とデルク坊は森の民である」

 「へ?何を?」


 いきなりの告白に、クリス治療師の理解が完全に追いつかないようである。

 元々隠すつもりもなかった上に、隠したとしても森の家に戻れば全てがばれるのである。

 であるならばさっさと全てを晒してしまった方がいいのである。


 「おじさん、隠さなくて良いの?」

 「この者達は、ドラン達を審査するためにやって来た者達である。下手に隠しても良いことなど無いのである」

 「まぁ、隠しきれるとも思えないしねぇ」

 「あの爺さん相手じゃな」

 「治療院は亜人種に対して友好的な方針ですし、ギルドの上層部も益になるなら停滞する必要は無い方針を取っていた筈です。問題は無いと思いますよ」


 残りの三人も、我輩の言葉に諦めと肯定が入り混ざったような反応を示すのである。

 それなので、我輩はサーシャ嬢に髪飾りを外すように頼むのである。我輩から頼まれたサーシャ嬢は頷いて髪飾りを外すのである。

 茶色だった髪の色が、透き通るような翡翠色へと変化するのである。また、それに合わせて要請パットンの魔法で隠していた耳と目の色も戻るのである。もとの姿に戻ったサーシャ嬢を見て、クリス治療師は目を見開くのである。


 「その、その髪と目の色と耳は……偉大なる先人の……」


 帝国治療院は、森の民のことを尊敬を込めて【偉大なる先人】と呼んで敬っているのである。

 我輩達学者の一族の先祖が、治療院の建設に際して必要な知識などを伝えているから、その特徴もある程度把握しているからである。


 そのまま平伏しそうな感じすらあるほど、神々しいものを見るような目をしているクリス治療師に、サーシャ嬢は困ったような顔をしてこちらを見るのである。


 「おねえちゃんどうしちゃったの?」

 「そうであるな、急にいろいろありすぎてパニックを起こしているのであろう」

 「間違っていないんですけど、微妙な表現ですね」


 我輩の言葉に、苦笑いを浮かべるミレイ女史である。

 その時、部屋の外も騒々しくなるのである。


 「おい、ダン!おぬし達は森の民といたのか!」

 「ごめん、おっちゃん。髪飾り壊しちゃった」


 どうやら、向こうの方でもデルク坊が森の民であると言うことがばれたようである。というか、髪の色だけではなく、耳と目の色まで戻っているのである。


 「ごめん、範囲魔法だっていうのを忘れて魔法切っちゃった」


 唐突に我輩の頭の上に姿を現した妖精パットンが、申し訳なさそうにそういうのである。


 「よ、よ、よ、妖精!!!!」


 あわてふためく客人二人の顔を見たかったからわざとやったのであろうな。そうでなければ、わざわざ姿を現すこともないのである。

 この混沌とした空気の中、楽しそうに体を震わせているのが伝わる我輩は小さくため息をつくのであった。


 「ため息をつくと幸せが逃げるんだよ?錬金術師アーノルド」

 「だれのせいであるか」


 全くもってしようも無い奴である。






 「久しぶりにあんなに驚いたわい。森の民だけではなく、妖精とも行動を共にしていようとはのう」

 「どうする?異端者として帝都に報告するかい?」


 予想外の急展開に驚きを隠せないバリー老であったが、ダンの言葉を聞くとそれを鼻で笑い一蹴するのである。


 「ふんっ。そんな狭量なことなどするものか。それに、森の民に会ったことくらいは儂や弟にだってあるわい」

 「本当かい?初めて知ったよ」

 「別に言う必要もなかったからのう」


 バリー老の言葉に、今度は我輩達が驚くことになるのである。

 しかしよくよく考えてみれば、大森林の調査を行っていれば遭遇する確率は確かにそれなりにあると思うのである。


 「そうは言っても、交流を持つほどでは無かったがのう。深部調査の際、全滅の危機に瀕したときに何度か助けてもらっただけじゃよ」


 話を聞くかぎりでは、もっと南の方にある場所での深部調査で森の民の集団に幾度か危機を助けてもらった事があるようである。


 「いつも浅い場所まで送ってくれてのう。儂達が、何かを礼に差し出そうとしても<自分たちには必要ない。言葉だけで十分だ>と言って受け取ってはくれなんだ」

 「ギルドには報告しなかったのか?」


 ダンの言葉に、バリー老は首を横に降るのである。


 「当時のギルドは、トップがかなり重度の人間至上主義者での。そんな報告などしてみぃ。ギルドをあげた大々的な討伐作戦が始まるわい」


 幾度となく助けられたことに感謝しているバリー老達は、森の民のことを胸のうちに秘め、早めに引退をしてギルド改革に着手することに決めたそうである。

 そこには感謝と言うだけではなく、森の中にいる種族との協力関係を取り付けることができれば、大森林の調査も今よりも円滑に進み、ギルドのひいては帝国の利益になる筈だという現実的な側面もあったようである。


 「そういうこともあり、儂がやって来たというのもあるんじゃよ」


 探検家ギルドのギルドマスターが直々に森の集落の者と取引を交わす約束をすることで、お互いの信頼を築く足がかりにするという算段であるか。


 「おじいちゃん、嘘は良くないよ。今言った理由は、それは今取ってつけたでしょ」


 我輩の頭に乗っている妖精パットンが、バリー老の言葉に物言いをつけるのである。

 どうやら、意思の構成魔力を読み取っていた妖精パットンは、今の話から嘘の意思を読み取ったようである。


 「確かにそうだな。もし本当にそう思ってたなら、ギルドマスターをやめる必要ないもんな」

 「じゃあ、なんで急にそんな話をしたんだろうねぇ」

 「あれじゃないですか?それを手土産にして、弟さんに許してもらおうとか思っていたんじゃないんですか?」

 「あぁ、ありえるねぇ。昔の話をしてるうちに思いついたんだ。きっと」


 ダン達の予想がどうやら図星だったようで、バリー老は笑い出すのである。


 「なっはっは。ばれてしまっては仕方ないのぉ。そこの妖精は心が読めるのかい?」

 「ボクの名前はパットンだよ。前ギルドマスターバリー。僕は人の心は読めないよ。感じるだけさ」

 「なるほどのう。感受性が強いという訳か。それにしては結構詳しく感じるようだがの」

 「人の言葉から漏れる本当の気持ちを感じるというだけの事だよ」


 【意思】の構成魔力の話をまたするのが面倒なのか、妖精パットンはだいぶぼかしたような説明をするのである。バリー老は多少納得のいかなそうな表情を見せるのであるが、一応の理解はしたようである。


 「この妖精がいるかぎり嘘や盛った話はばれるという訳じゃの」

 「わりぃな、爺さん。今の俺達にとってこいつらは大切な存在だからな。万が一にも何か起こすわけには行かないんだ」

 「その割には面倒ごとが起きる行動を取っているがのう」

 「……それは、反省してる……」

 「なっはっは。儂としてはそのおかげでこうやっていられるから感謝じゃがの」


 そういって愉快そうに笑うバリー老であったが、少しするとその顔を真剣な者に変えるのである。


 「しかし、先程言ったのは思いつきではあったが偽りのない気持ちでもある」

 「そうだね、その気持ちがあるっていうのは嘘じゃないね。やって来た理由じゃないけれど」

 「おぬしもしつこいのぉ。なっはっは」

 「あははは、ごめんね」


 妖精パットンもそういっていると言うことは、クリス治療師もバリー老も帝国の為になると思い森の民との交流を望むという訳である。

 我輩は心の底で安心する自分を発見したのである。どうやら、強気な態度に出てはいたものの、意識の底では不安を抱えていたようである。

 ふと、いつのまにか我輩の頭から下りていた妖精パットンが、優しい顔で我輩を見るのである。もしかしたら、我輩の気持ちを知っていたから協力的だったのだろうか。

 そうかもしれないし、違うかもしれないのである。

 だが、これで心置きなく大森林の調査へと向かうことができるのである。


 我輩は、森の家に戻ったら妖精パットンに甘い菓子を作ってやろう。そう思いながらバリー老達との話に加わるのであった。






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