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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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二人の正体である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 領主との会談を終え、片付けの手伝いに行こうと思っていた我輩達のところに、デルク坊達子供と一緒にやって来た二人組はどうやらギルドから派遣されてきた者達であったようである。

 それにしても、まだ体が弱っているようには見えないのであるが、このような老人を派遣させるとは探検家ギルドも人手不足なのであろうか?


 「そうであるか。して、こちらの……」

 「ちょっと!仕事はどうしたのさ!」


 我輩が老人と一緒いる少女のことを尋ねようとしたのであるが、それを遮ってアリッサ嬢が老人に話しかけるのである。

 

 「都合がよかったから辞めたわい」

 「はぁ!?」

 「こんな面白そうな話を他の連中なんぞに渡してたまるか。なっはっは!」


 老人の言葉に開いた口が塞がらない様子のアリッサ嬢である。

 話を聞いているかぎりでは、老人とアリッサ嬢は面識があり、それなりの地位にいたようである。

 しかし、このことを聞いて即時に辞めて来る辺り、無責任とも自由奔放とも取れる人物であるようである。


 「おい、アリッサ。なにしてんだ?」


 我輩の後ろから、ダンがやって来たのである。どうやら、全然片付けにやって来ない我輩達のことを曜日に来たようである。


 「おぉ、ダンではないか。元気にやっていたか?」


 我輩とアリッサ嬢のせいで、ダンからは姿が見えていなかった老人が、横から姿を現すのである。

 それを見たダンは、驚愕の表情を浮かべるのである。


 「はぁ!?なんで爺さんがいるんだよ!」

 「仕事を放り捨ててドラン達の適性審査官やりに来たってさ」

 「なっはっは」

 「マジかよ……ギルド運営はどうするんだよ」

 「そんなもの、弟に丸投げよ」

 「所長の顔が目に浮かぶようだよ……」

 「あいつの怒った顔はおもしろかったぞい」

 「戻って刺し殺されても知らねぇぞ」

 「兄を超える弟などそうそういないわい。なっはっは」

 「かっこよくねぇよ」


 ダンとアリッサが、愉快そうに笑う老人に心底あきれたよな表情を浮かべるのである。

 我輩と少女は完全に蚊帳の外である。なので、何やら盛り上がっている3人は放置して我輩は少女が何者かを尋ねるのである。


 「それで、少女は何者であるか?老人と同じく適性審査官であるか?」

 「少女……?」


少女は我輩の言葉に首を傾げて周りを見るのである。彼女は一体何をしているのであろうか?


 「御主の事であるが」

 「……えぇぇ!?私ですかぁっ!?」


 我輩に少女は自分を指差して驚いているのである。どう見てもまだ成人前の少女である。なのに何故自分のことだと思い当たらないのであろうか?


 「私、成人してます!少女じゃありません!」


 ここ最近、ドランといい領主といい、見た目詐欺みたいな者が多いのであるな。そう思っていたが、よくよく考えてみるとある意味で、1番の見た目詐欺はデルク坊とサーシャ嬢である事にふと気付くのである。

 なので、見た目で年齢を推し量るのは辞めようと我輩は思ったのであるが、それはともかく彼女が何者かを知っておくのである。


 「それは大変失礼なことをしたのである。それで、御主は何者なのであるか?」

 「こちらこそ、取り乱して申し訳ございません。私は、帝国治療院から派遣されてきました2級治療師のクリスと申します」


 確か、治療院に勤める治療師は下積み期間の准治療師を経て、能力や知識量で5級から1級までの階級に別れるはずである。ゴードンが我輩の研究室にやって来たときが2級であった筈なので、クリス治療師も同様の能力を有しているということである。


 「何故治療院から派遣を?我輩達はそのような要請などは出していない筈である」

 「それは……」

 「皆して何をやってるんでさぁ。隊長も呼びに行ったまま戻って来ないですし」


 クリス治療師が、我輩の質問に答えようとした時、ちょうどドランがこちらにやって来たようである。

 このドランの声を聞いて、クリス治療師は目を輝かせてドランの前に姿を見せるのである。


 「ドランちゃん!会いたかったよ!」

 「誰だ……って!クリス姉!?」


 ドランの言葉に我輩ほか、全員が驚くことになったのであった。






 混乱を極めた我輩達は、場を落ち着けるために自宅へと戻ることになったのである。

 戻る最中に、片付け作業中であったハーヴィーとミレイ女史を見つけたので、どうせなら一緒にいた方がいいと、二人に声をかけて一緒に戻ることにしたのである。


 その途中で聞いた話で、バリー老は探検家ギルドの総ギルドマスターを辞めて適性審査官として、クリス治療師はリリー嬢達から話を聞いたゴードンからの命令でこちらへやって来たと言うことが分かったのである。


 「総ギルドマスターが、何の前触れも引き継ぎもないまま急にやめるとか、頭おかしいんじゃないのかい?」

 「そうは言うがのぉ?儂がやらなんだら弟が同じことをするから、儂の負担が大きくなるからのぉ」

 「なんて迷惑な兄弟だよ……」


 げんなりとした面持ちでダンはぼやくのである。我輩としては、トップがこんな軽くて良いのかと思うのであるが、それだけその下の者達がしっかりしていると言うことなのであろうか?


 「それに大森林深部の捜索に付き合える実力のある探検家など、現役含めても殆どおらんわい。だったら、先の短い儂が付き合うのが1番じゃろう?」

 「それで、本音は?」

 「探検家としてこんな面白いことに参加しないとかありえないじゃろうて」

 「ガキかよ!」

 「若いものにはまだ負けんよ!なっはっは」


 確か、噂程度でしか知らぬが総ギルドマスターは[暴虐の槍神]と双璧を成す[豪剣の破神]と呼ばれる探検家だった筈である。敵を[斬る]のではなく[叩き切る]ために自身よりも巨大な大剣を振り回していたと言う話を聞いたことがあるのである。

 だが、目の前の老人からはそういう雰囲気は一切感じないのである。仮にそうだとしても大森林での戦いにおいてはそんな大剣は邪魔であるし、森を叩き切られるのもあまり気分の良いものではないのである。


 そのことをバリー老に尋ねたのであるが、


 「儂は、審査官じゃよ。そちらの邪魔にならぬよう、襲い掛かった敵から身を守りはするが、それ以上のことはしないわい」


 そう答えるのであった。

 確かに、身を守る程度のことにそんな物騒な武器はいらないのである。


 「そんな訳でのぉ、鈍った体を少しでも戻したいところじゃのぉ」

 「じゃあ、審査を兼ねてドランとハーヴィーの動きを見てやってくれ」

 「つれないのぉ」

 「審査官でしょうが。文句を言わない」

 「しょうがないのぉ……ドラン、ハーヴィー。来るのじゃ」

 「おぉ?有名な[剛剣の破神]とやれるのか!ありがてぇ!!」

 「ええぇぇ……お手柔らかにお願いします……」


 バリー老は、及び腰のハーヴィーとものすごく嬉しそうなドランを引き連れて外へと出て行くのである。

 ダンとアリッサ嬢が小さな声で“ご愁傷様“と言っているのを我輩は聞き逃さなかったのである。


 「あの……ドランちゃんは大丈夫でしょうか?」


 バリー老に笑顔で着いていくドランを、心配の面持ちで眺めていたクリス治療師はその表情のままこちらに質問をしてくるのである。

 大丈夫かと言われれば、きっと何の問題もないはずであるし、むしろ大喜びのような気がするのである。

 それはダン達も同様のようで、クリス治療師が何を心配しているのかわからないようである。


 「今の見てただろ?めちゃくちゃ喜んでたじゃないか」

 「はい。だから、抑えが利かずにギルドマスター様にご迷惑をおかけしないか心配で……」


 ドランが姉と呼ぶだけのことはあるのである。クリス治療師はドランの性質をよくわかっているのである。

 

 「あぁ。そっちか。あの爺さん活きの良い探検家と遊ぶのが大好きだからな。ちょうど良いんじゃないか?」

 「まぁ、ハーヴィーがとばっちりだね」


 ダンとアリッサ嬢の言葉にクリス治療師は何とも困ったような笑い顔を見せるのである。


 「それにしても、ドランにこんなに可愛いお姉さんがいるが実在するのかと思ったよ」

 「私も、<ドランちゃんの姉のクリスです>と言われたときは、世界が一瞬止まりました」

 「まぁ、実の姉ではなかったのであるが」

 「すいません。興奮しちゃって……」


 我輩達の話を聞いたクリス治療師は、恥ずかしそうに顔を俯かせるのである。こころなしか若干顔が赤く染まっている気がするのである。


 どうやらクリス治療師はドランの実の姉弟というわけではなく、少年であったドランが探検家を目指していたときにいろいろ指導していた探検家の娘で、ドランと姉弟のように生活していたという事のようである。

 ドランは探検家になった後も、暫くその探検家の世話になっていたようであるが、その間に地方の治療院で働くようになっていたクリス治療師は、帝都の帝国治療院へ転勤することになり、それっきり離れ離れになったようである。


 「それは良いけれど、なんで帝国治療院勤めのクリチーがあの爺さんにくっついて来たんだい?」

 「帝国治療院としましても、先人である森の民とのつながりを持ちたいと言う希望がございまして、帝都の治療院にいた3級治療師以上の治療師全てに希望者を募りました」

 「その結果、クリス治療師が選ばれたのであるか」

 「はい。ドランちゃんと知り合いというのも有利に働いたようです」


 まぁ、面識の無いものよりも有る者の方が、いろいろと都合が良い面が多くなるのである。


 「一応、ギルドの適性審査官の補佐役と言う役目も付いておりますので、私もギルドマスター様とおなじく、皆様に力添えをすることは基本禁じられていますのでご了承ください」


 つまり、我輩達が怪我や病気などをしたとしても、クリス治療師を当てにするなということである。


 「あと、ゴードン様からダン様に、書状を預かっておりますのでお受け取りください」

 「ゴードンが、俺に?」


 ダンは、クリス治療師から書状を受けとるとそれを読むのである。そのダンの表情は次第に渋い顔になっていくのである。


 「どうしたんだい?リーダー」


 アリッサ嬢の言葉に、無言で渡された書状を差し出すアリッサ嬢は、それを受け取り読み出すのである。


 「……っぷっくくく……あっはははははは!」

 「笑い事じゃねぇよ。仕方ねぇじゃねぇかよ……」

 「何が書いてあるのであるか?」


 我輩は、アリッサ嬢から手渡された書状を見るのである。


 そこには、自分だけ大森林に我輩達が入ることを知らされなかったことに対する不満と寂しさ、帝国治療院から協力者を必要としなかったことの不満と憤り、帝都に戻ってきたら仲間というものの礼儀と言うものを説教するので覚悟するようにと言うことが延々と綴られていたのである。


 「あの時は、ゴードンはどっか行ってて居なかったし、協力者だって元々ウォレスにしか頼む予定なかったし、回復魔法だって嬢ちゃんがいるし、最悪センセイの薬に頼めば問題なかったからよぉ」

 「どんどん帝都に行きづらくなって来るねぇ。リーダーは」


 机に突っ伏すダンに、からかうように笑うアリッサ嬢。二人のやり取りをミレイ女史とクリス治療師が微笑ましく笑うのである。


 そうして、ダンとアリッサ嬢のやり取りを微笑ましく笑っていたミレイ女史とクリス治療師であったが、急にクリス治療師がミレイ女史を、まじまじと見るである。


 「な、なんでしょうか?」

 「いえ、リリー様が仰っていたように綺麗な方だなと」

 「ええ!?」


 どうやら、クリス治療師達がこちらへ向かう際に、リリー嬢達が見送りに来たようであった。


 「ミレイさんにはリリー様から言伝を預かっております」

 「は、はい。なんでしょうか?」


 ミレイ女史は姿勢を正し、聞く体制を整えるのである。本人はいないのに、真面目なことである。


 「<馬鹿ばかりで大変だとは思うけれど、貴女が馬鹿共の面倒を見るつもりでこれからも頑張りなさい。期待しているわ>…………だそうです。」


 クリス治療師は、かなり気まずそうにではあったが、リリー嬢から預かった言葉をミレイ女史に告げるのである。


 「リリー、怒ってるね」

 「そうであるな」

 「勘弁してくれよ…………」


 思い当たる節がある我輩達は、預かった言葉の内容からリリー嬢がかなりご立腹であることを察するのである。

 しかし、クリス治療師が預かっていたものはこれだけではなかったようで、我輩達に一枚ずつ手紙を手渡すのである。


 そこには


 ダンには、人の話を無視するなら聞くな大馬鹿者

 アリッサ嬢には、もう少し深く物事を考える癖をつけろ馬鹿者

 我輩には、我輩が監督なのだから、もっと人と関わってきっちりと舵取りをしろ愚か者


 と言うような意味合いのことが書かれていたのである。言葉は丁寧であるが、それが余計に怒りの度合いが大きいことを窺い知れるのである。


 最後に一言。


 「<まあいいわ。早く帝都に戻ってきなさい。美味しいお菓子を用意して歓迎するから>だそうです。良かったですね、許していただけるそうですよ」


 何も知らないクリス治療師は、笑顔で預かった言葉を我輩達に届けるのであったが、我輩達にとっては一番最悪な言葉を聞くことになったのであった。

 おそらく、リリー嬢もそのつもりは無いのであろうが、結果としては死刑宣告に等しい言葉である。


 「お察しします……」


 我輩達同様、その言葉の意味を知っているミレイ女史は、我輩達にそう言葉をかけるのである。

 意味を知らないクリス治療師だけが、不思議そうに我輩達を見るのであった。






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