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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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収穫祭後の夜宴である②


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。





 そういえば、この宴が始まってサーシャ嬢を見かけていない事に気づいた我輩は、何となく気になりサーシャ嬢を探すことにしたのである。

 広場をうろうろしていると、少し離れた場所でサーシャ嬢が誰かと一緒にいるのを見つけたのである。


 「サーシャ嬢、楽しんでいるであるか?」

 「あ、おじさん。うん。今日は疲れたけど楽しいよ!」


 サーシャ嬢は、青空教室の時生徒であった老紳士達の家族と一緒にいたのである。

 そこには、森で保護した少女も一緒にいたのである。


 「村には慣れたのであるか?」

 「うん。みんなとっても優しいです」


どうやら馴染んでいるようで安心である。老紳士夫婦もニコニコと笑い二人が楽しそうに話をしているのを眺めているのである。

 孫が二人にでもなった気分なのであろうか。


 「姿を現しているのは珍しいのであるな。妖精パットン」

 「今、ここにいる人たちの前では姿を隠しておく必要は無いからね」


 サーシャ嬢が森の民である事に気付いていた老夫婦と、森で助けた少女。確かに妖精パットンが姿を隠している必要は無いのである。


 「妖精パットンは楽しんでいるのであるか?」

 「もちろんさ、お祭り自体も楽しかったし、こんなに明るい意思の構成魔力に囲まれて過ごすなんて初めてさ」


 妖精パットンは、我輩の頭の上に乗り上機嫌で話すのである。酔っているようにも感じられるのであるが、酒を飲んでいるような感じでもないのである。


 「空気に酔うとか、場の空気に流されるって言葉があるよね?あれって、その場にある濃い意思の構成魔力の影響を受けているって事さ」

 「なるほど。たくさんの者から生じる構成魔力なので、普段魔力を感じないものも影響を受けるのであるか」

 「そういうことさ。だから、ボクなんかは大変さ」


 意識をしっかり持っていないと、暴走して何をやらかすかわからないらしいのである。

 まさに酔っ払いそのものである。


 「おじさん、どうぞ」

 「ありがとうである、サーシャ嬢」


 妖精パットンとしばらく話をしていると、サーシャ嬢が料理を持ってきてくれたのである。

 そういえば、ここに来るときにはミレイ女史からもらった料理は全て食べてしまっていたので皿は空になったしまっていたのである。


 「これはあまり見たことの無い料理であるな」


 皿に盛られていたのは、森で採れる野菜や山菜と魚の身を薄く切り軽く炙ったサラダであった。


 「お母さんが好きな料理だったんだって。昔おばさんが教えてくれたんだ」


 そのことをふと思い出したサーシャ嬢は、アリッサ嬢と再現を試みて、この前親御殿達が遊びに来たときに確認してもらったようである。


 「この香りの良い油はなんであろう」


 この風味豊かな食用油は、帝国では使われないものである。

 我輩が質問すると、サーシャ嬢はちょっと得意気な表情をするのである。


 「それはね。錬金術で作った食用の香油だよ」


 本来、森で採れる油分の濃い果実を絞って精製するらしいのであるが、手間がかかるのでサーシャ嬢は錬金術でそれを作成したようである。


 「副作用は何なのであろうか?錬金術で作ってる以上、無いと言うことはないのであるが」

 「えっとね……、口の中がくどくなるんだけど、一生懸命副作用を抑えて作ったんだよ」

 「なるほど、サーシャ嬢は副作用を抑えながら作るのが得意であるからな」

 「えへへ……」


 確かに言われてみると少々油っぽさが濃い気がするのであるが、殆ど気にならないのである。


 サーシャ嬢は、自分で色々考えて作るのが得意でおるな。我輩も見習わなければならないのである。


 そう思いながら、我輩はサーシャ嬢の頭を撫でるのである。撫でられたサーシャ嬢も嬉しそうに笑うのである。


 「あぁ!ずるいれすぅっ!サーシャちゃんばっかりぃ!」


 ふと、声をした方を見ると、多少足元がおぼつかなくなっているミレイ女史がいたのである。どうやらアリッサ嬢への説教が終わったようである。


 「大丈夫であるか?ミレイ女史。酔っているようで……」

 「あーのるろさま!わたしも頭を撫れてくらさいっ!」


 そう言うと、座っている我輩の腿辺りに頭を乗せて来るのである。


 「ちょっと待つのである。帝国淑女がこんなところでであるな……」

 「あー、良いなぁ。私もしたいー!」

 「じゃあ、サーシャちゃんは反対側ねぇ。はい、ろうぞぉ」


 そういうと、反対側にいたサーシャ嬢も同様に頭を載せるのである。


 「うふふ、楽しそうねぇ」

 「そうだねぇ」

 「おばあちゃん……わたしもああいうふうにしていい?」

 「あらあら、おばあちゃんで良いのかい?」

 「うん!」

 「おやおや、私はダメなのかな?」

 「後でおじいちゃんもして?」

 「いいともいいとも」


 どうやら、この光景を見た少女も老夫婦に同じことをしてほしいと甘えたようである。

 老夫婦はとても嬉しそうにそれに応じるのである。なかなかほほえましい光景である。


 「あーのるろさま、頭を撫れてくらさいっ。私いっぱい頑張ったんですよぉ?」

 「そうであるな、ミレイ女史は準備からたくさん頑張ったであるな」


 向こうの様子を見ていた我輩に、拗ねるように甘えて来るミレイ女史である。珍しいのであるが、帝国淑女としてこれはどうなのであろうか。しかし、頑張っていたのは事実なので、言われるがまま頭を撫でることにするのである。


 「そうれすよぉ、私、まら大人になったばかりなのにあんなに頼られても困ります……」

 「そうであるな。首長達はミレイ女史に甘えっぱなしであったな。後で言っておくのである」

 「れも、あーのるろさまにこうやって、してもらえるなら頑張って良かったれすぅ」


 頭を撫でられて満足そうに笑顔を浮かべるミレイ女史を見て、しっかりしているように見えてもまだ成人したばかりだということを思い出すのである。そう考えると頼りすぎてしまっているのもあるのであろう。少々申し訳ない気持ちになるのである。


 「私も頑張ったよ、おじさん」

 「そうであるな、サーシャ嬢もたくさん頑張ってくれていたであるな」

 「えへへ……。これからも、一緒に頑張ろうね」

 「私も頑張りますぅ……」

 「二人もありがとうである。ただ、無理だけはしないようにするのである」

 「ふふふ、もてもてだねぇ。錬金術師アーノルド」


 その光景を頭の上から見ている妖精パットンが声をかけて来るのである。


 「ダンやアリッサ嬢に見られていないのがせめてもの救いである」

 「じゃあ、ボクも褒めてほしいなぁ」

 「どういうことであるか?」

 「いま、この場所に認識疎外の魔法をかけてあるんだよ。だから、いつもよりも見つかりづらくなっているはずさ」


 珍しく、妖精パットンが我輩に協力的である。これも、妖精パットンが空気に酔っているからであろうか?

 それはともかく、連中に見つかったらとにかく面倒なことになるので、妖精パットンには感謝である。


 「感謝するのである。今度お礼に……」

 「お礼なら今してほしいね」


 そういうと妖精パットンも我輩の足の空いている場所へ寝転がるのである。


 「ボクの頭も撫でておくれよ」

 「あー、パットンもおじさんに甘えてるんだ」

 「うふふふ。あーのるろさまは大変れすねぇ」


 とても楽しそうに三人は笑うのであったが、我輩は三人の頭を平等にに撫でるという行為に追われることになったのであった。






 夜も大分深まり、休むために家や宿舎に戻る者も増えてきたのである。帰る者達も、まだ残る者達も、皆笑顔で満足そうである。

 その光景を見ていると、我輩を呼ぶ声が聞こえてくるのである。誰かと思いそちらを見ると、ダンが我輩のところへとやって来るのであった。


 「よう、センセイ。楽しんでるかい?」

 「終わりも近づいているこの時にそれを聞く感覚はよくわからないのである」

 「何だよ、つれねぇなぁ。挨拶みたいなもんじゃねぇかよ」


 ダンは、笑いながら手に持っている串肉をかじるのである。

 まだ焼きたてのようで、香ばしい香りと森の集落でもらった黒い実を挽いた物の香りが、満足していた我輩の腹をいくらか刺激するのである。


 「ドランの焼きたてだぜ。食うかい?」

 「頂くのである」


 ドランの焼きたての肉であれば、食べないのは損である。今日の収穫祭でも、アリッサ嬢の作った森の食材を使ったスープの次と人気を二分していたのである。

 とは言え、満腹状態である我輩は、串肉の一片をダンから分けてもらいそれを口にするくらいである。

 風味と少々焦げた食感、肉本来の柔らかさに噛むと滲み出る油の旨味。このバランスのよさはドランしかいまのところ出せる者は知らないのである。少しでも、食べて良かったと思うのである。


 「そういえば、飲み比べはどうだったのであるか?ハーヴィーが潰れたのは見たのであるが」

 「見てたのかよ」

 「人垣ができていたので気になって見に行ったのである」

 「人垣に興味を持つなんて珍しいな」

 「帝都のような、人が溢れる状況が嫌いなだけである」


 我輩の言葉に苦笑いを浮かべたダンは、飲み比べの結果を我輩に教えるのである。


 どうやら、我輩のいなくなった後はしばらく膠着状態が続いたようであるが、ダンが最初に限界を迎え、次に他の集落の参加者達が勝負を降り、ドランと領主の一騎打ちになったようである。

 あの領主、それほどに酒に強かったのであるか。特に、何の利点もなさそうではあるが驚きではあるのである。


 「で、最終的に酒が終わって引き分けさ」

 「何というか、呆れるのである」

 「領主様はドランを気に入ってな。社交界デビューをさせようと躍起になってたぜ。ドランは全力で断ってたけどな」

 「嫌がるドランの顔が目に浮かぶのである」


 あの領主であれば、社交場よりも場末の酒場の方が似合うような気がするのである。

 ドランが酒を飲める場を拒否するのは珍しいのである。さすがに貴族達の社交場は嫌だったようである。


 「楽しかったか?」


 ダンが、先ほどと同じような質問をして来るのである。だが、先ほどとは感じが違うのである。


 「そうであるな。楽しかったのである」

 「そうか。集落に来て、センセイは変わったな」

 「そうであるか?」

 「そうだな。前までならこういう祭に参加もしなかったし、そこに出来る人の集まりにだって興味なんか持たなかっただろう?<こんなことに時間を費やすなら、研究をするのである>とか言ってさ」


 まぁ、否定はできないのである。いまもそう思わないことも無いのであるが、この空気を楽しもうと思えるようになったというのも事実である。


 「センセイは、辺境に来て良かったと思うよ」

 「そうかもしれないのである。ただ、森の工房が無かったら、腐っていたとも思うのである」

 「あぁ、そうかもしれないなぁ」


 我輩とダンは、宴会も終盤を迎え広場にいる者達が集まって歌を歌い出す様を見ているのである。

 この光景を目にしながら我輩はずっと思っていたことをダンに聞くのである。


 「陛下も、領主のように祭に参加したかったのであろうか」

 「ん?……あぁ、そうだな。そうだと思うぜ」


 帝国領民が死ぬまでに一度で良いから行ってみたいという、帝都で年に一度行われる【帝国祭】。毎年お忍びで帝都の市民街に行こうとしていた陛下を、周りのものが必死で止めていたのは恒例行事であった。


 「私の身代わり人形みたいなものは作れないのか?アーノルド」

 「手引き書にはそれに当たるものは見つからないのである」

 「そうかぁ……」


 そう言い肩を落として研究所を出る陛下を見て、我輩はそこまで祭に行きたい気持ちが理解できなかったのである。


 「陛下は、こういう国民視点で祭を楽しむことで、民の生活振り等を知りたかったのであろうな」

 「……どうだろうなぁ。あの陛下のことだから、単純に息抜きしたかっただけかもしれないぜ」

 「そんなことはないのである……とは、言いきれないのであるな」

 

 それでも、きっと民達と共に祭を楽しみたいくらいに民を愛し、帝国を愛していたのであろうと我輩は思うのである。


 そのような感傷的な気分を抱きながら、我輩は広場に響く歌声を聞いて残り少ない宴会の時間を楽しむのであった。






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