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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
1章 森の民と新しい工房、である
8/303

始めた頃を思い出すのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師であった。






 「やっぱそうだ、これも魔法白金だ」


 ダンはそう言って、こちらを振り向くのである。


 「おそらくであるのだが」

 「?」


 我輩は、ある種当然の仮説を述べるのである。


 「魔法金属の性能が、そのまま作業速度や効率に関わるのと思われるである」

 「まぁ、普通に考えればそうだよな。研究所のは……準魔法鉄だったか?」

 「そうである。その時の基準で作業速度を考えていたのであるが、仮にそうであるならば、作業速度の確認をしないといけないのである」


 そう言ってから、ダンに振り向き我輩は、


 「ダン、材料採取を頼むである。恐らく、効果圧縮時の失敗が物凄く増えるのである。」


 と、頼んだのである。






 「……寝ていたようである……」


 床に倒れている我輩は、天井を眺めながらそう呟くのである。

 あれからの後、5回ほど調合を繰り返しているのであるが、全て効果圧縮の段階で失敗しているのである。

 そして最後の失敗の後、どうやら我輩は眠ってしまったようである。


 数十本分の解毒薬の構成魔力を一本分に圧縮するこの行程、作業速度が早くなった分、見極めが物凄く大変なのである。

 早すぎると、圧縮が足りずに圧縮前の魔力に戻ってしまい、遅すぎると、圧縮しすぎて魔力自体が消えてしまう。

 早いと、不安定な魔力が急激に散開、結果、爆発。

 遅いと、圧縮された魔力が暴走、結果、爆発。


 魔法陣の防護結界により、大ケガをすることはないのであるが、毎回作業に集中しているため、避難が間に合わずに床へ転がされるので、背中が痛くなってきたのである。

 

 「前の釜の時、異様に圧縮作業が楽であったのは、作業速度が遅すぎたからであったのか」


 研究所時代、圧縮作業を初めて行なったときから、一度も失敗したことはなかったのである。

 手引き書にはとても大変と書かれていたのであるが、この程度で大変であるかと拍子抜けしていたほどである。


 研究所の釜では止めるのに適切な時間の幅が、2~30秒ほどあったので、余裕で出来たのである。

 現在使用している釜は、最高級品の魔法白金。作業速度が10倍以上である。圧縮時間も短くなった代わりに、止めるのに適切な時間も物凄く短いのである。

 恐らく、一秒あるか無いかである。

 圧縮作業の困難さが今になって分かるとは、皮肉なものなのである。


 しかし…………


 改めて我輩は自分の作業工程を思い出すのである。


 定着作業を十分にしていてもこの猶予時間の短さである。

 仮に作業をしていなかった場合、一瞬しか無いのであろうと思われるのである。

 改めて我輩は、定着作業を必ず行う癖を付けていてよかった思ったのである。

 そんなことを思っていると


 「おじさん」


 子供が、ドアの向こうから心配そうに話しかけてきたのである。


 「どうしたのであるか。何か問題でも起きたのであるか」

 「ううん。違う。おじさん大丈夫? 魔法かける? どこか、痛くない?」


 どうやら子供は、我輩を心配してこちらに来たようである。

 健気な子なのである。


 「大丈夫である。我輩の分は、兄君のためにとっておくである」

 「うん。わかった」


 兄君のことで一杯であろうに、我輩のことも気遣ってくれるとは、この子は本当に優しい子であるな。


 「ダンはどうしたであるか?」

 「あっちのおじさんは、爆発の音が聞こえたら、お昼を食べながらお外に出かけて行ったよ。なんか、とても疲れてた。魔法かけた方がいい?」

 「ああ、彼奴も大丈夫である。魔法はかけなくて大丈夫である」

 「そう?なんかすごく眠そうだったよ」

 「我輩と一緒で殆ど眠ってないから仕方ないのである」

 「おじさんは、さっきまで寝てたよ」

 「……そうであるな……」


 ダンは、我輩が調合を失敗する度に採取に行っているので、おそらく一番疲れていることだと思う。


 だが、


 「俺のことはあまり気にしなくて良いから、ちゃんと作ってくれよ」

 「すまんのである」

 「そう思うなら、早く完成させてくれよ」


 そう言って笑い、遠くまで足を運んで採ってくれているのである。

 しかし、毎回必要量の採取では大変なのである。

 折角、状態保存の魔法が利いている倉庫などもあるのであるから………………倉庫?


 そう、倉庫である。


 我輩は、倉庫の存在を思い出し、勢いよく立ち上がるのである。

 恐らくではあるが、倉庫内には()()がある筈である。

 たとえ倉庫内になくとも、工房内のどこかにある筈である。

 なぜ気付かなかったのであろう。


 そこへ


 「センセイ、持ってきたぜ」


 ダンが、新しい薬草の入った袋を持って帰ってきたのである。


 「丁度良いである、二人とも捜し物を手伝ってほしいのである。」


 我輩は二人にそう頼んだのであった。






 「センセイ、こっちにはないぜ」

 「おじさん、こっちにもないよ」

 「おかしいのであるな。おそらくある筈なのであるが……」


 現在我輩達は、工房内と奥の倉庫を捜索中である。


 探しているのは【調合補助試薬】である。


 当然のことであるが、調合内容が複雑になるほど難易度は上昇するのである。

 様々な理由で、構成魔力は暴走しやすくなるのである。

 今回で言えば、圧縮作業を行う際に起きる、成功時間前後に存在する不安定の時間である。


 そこで、成功時間を延ばしたり、別の補助の為といった目的で、この補助試薬を用いるのである。


 ちなみに、完品魔法鉄の調合の際に使った試薬でもあるのである。

 あれの時は、今回とは別の補助のために用いたのであるが、その説明は長くなるので省略するのである。


 このように、利用すると便利なこの試薬であるが、問題点が1つあるのである。

 使用した量に応じて、構成魔力の一部が強制的に純魔力へと変換され、使用不可能にしてしまうのである。

 それは、定着した後の構成魔力でも同じである。


 以前話した完品魔法鉄の場合、試薬を使用しないで作製が成功できたら、おそらく拳大のサイズのものができた筈である。

 試薬を大量に使用した結果、出来上がったの魔法鉄は小指ほどのサイズであったのである。


 今回使用する場合であれば、おそらく薬2・3本分の構成魔力を持っていかれると思われるのである。

 なので、その分の素材を追加投入すれば、完成する薬の量や効果に問題はない筈である。


 「それはそうと、まさか、嬢ちゃんと話が通じるなんて思わなかったぜ」

 「うん、私も思わなかった」

 「兄ちゃんのほうはいいのか?」

 「うん。ここに来る前に魔法掛けてきたから、今はぐっすり寝てるよ」

 「そうか、無理するなよ。疲れたら、嬢ちゃんも少し休むんだぞ」

 「大丈夫。皆、頑張ってくれてるもん」


 ダンと、子供、もといサーシャ嬢が会話しながら倉庫内を探しているのである。

 ダンとサーシャ嬢に試薬の捜索を頼んだときに、ダンは言葉が通じることを初めて知ったのである。

 そこで我輩達は彼女の名前を初めて聞いたのである。


 そして、なぜ我輩達が急に互いの言葉を理解できるようになったのであろうか。

 と、いうことであるが、おそらくこの家の中には、妖精の使う翻訳系の魔法でもかかっているのであろうと思われるのである。


 ちなみに、我輩達にはサーシャ嬢の言葉は人間の言葉で、サーシャ嬢には我輩達の言葉は古代精霊語として聞こえているようである。


 「おい、センセイ」

 「……何であるか?」


 横道に思考がずれ始めた我輩に、ダンが話しかけてくるのである。


 「なんだ今の間は? センセイさ、試薬を作れば良いんじゃねぇの?」

 「気にしなくて良いのである。一応、その事も考えて倉庫内を捜索しているのであるが、素材が足りないのである。今から採りには行けないの物があるのは知ってるであろう? あれである」

 「あぁ、あれか。じゃあ無理だな」


 試薬に必要な素材は何種類かあるのだが、そのうち、ここから南に進んだ先に広がっている海でしか採れない素材が朽ちてしまっていたのである。

 試薬の作製に使用するのはどう考えても無理そうであったので、もう少し試薬を探すのである。

 それでも見つけられなかったのならば、試薬無しで頑張るしかないのである。


 その場合、何回失敗すれば、感触がつかめるのであろうかのであろうか。

 それは、時間との勝負の現在では非常に大きな不安要素である。


 なので我輩は細かいところにまで目を配り、試薬を探すのであった。






 「無かったね」

 「無い物は仕方がないのである。圧縮も問題なのであるが…………最後の構築作業の方も問題なのであるな」

 「日も落ちかかってきたし、なんとか成功させたいところだな」

 「お兄ちゃん……私、もっと魔法かけるから、時間伸ばすから、お薬作って」

 「無理はダメだぜ、嬢ちゃん。このセンセイがちゃんと次で成功させてくれるさ」

 「極力努力するである」

 「うん…………このお部屋、散らかっちゃってるから片付けするね。」


 そう言って、サーシャ嬢は床に散らばっている薬草の束や紙類などを片付けてくれるのである。

 本当に良い子であるな。


 「良い子だな」

 「であるな」

 「頑張ってくれよ」


 我輩とダンがその様子を見ていると、


 「…………おじさん、こっち来て」


 サーシャ嬢が片付けしていた場所で、何か発見したようである。

 なので、我輩達はそちらへ向かうのである。

 

 「これは、床下収納であるな」

 「何でこんなわかりづらい風になってるんだよ」

 「全然気づかなかった……」


 なぜか、開ける部分も床と同じ色になっていて判別が難しくなっているのである。

 ただ、天井を見てみるとこの場所の上に看板なようなものが吊るされているのである。

 よく見てみると、吊るされている物には【薬品置き場】と書いてあたのである。


 なんということであろうか…………。


 「本当に、何で気づかなかったんだ?」

 「おそらく全員余裕がなかったのであるな。では、開けるのである」


 そうして開いた場所には、試薬を含め様々な薬品が置いてあったのである。

 これでなんとかなる筈である。


 我輩はそう思い、試薬を取り出すのであった。






 

 「サーシャ嬢はどうしたであるか?」

 「兄ちゃんのところで寝てたから、部屋まで運んでったよ」


 時間は夜中である。

 試薬を発見した時を今とすると、現在は翌日の夜明け前というところである。


 発見した試薬を投入したことで、圧縮作業の猶予時間も3秒ほどに延びたので、圧縮作業は無事に成功しているのである。

 釜の中に多くあった魔力は、底に少量漂うくらいに圧縮されているのである。

 後は最後の構築作業のみである。


 ちなみにサーシャ嬢には、発見した薬品置場に置いてあった解毒薬と体力回復の薬を渡し、兄君に飲ませて貰いに行ってもらったのである。

 解毒薬に関しては、通常の効果のものであるので、今となっては効果が薄いと思うであるが、回復魔法と体力回復の薬と合わせれば遅延効果の上昇も期待できるでのはないのであろうかという判断である。

 やれることは、今はとにかく試してみるのである。


 そして、魔法をかけ疲れて眠ってしまったサーシャ嬢をダンが部屋に運んでいった後が現在。

 と、いうことなのである。


 「そろそろ完成させないとだな」

 「そうであるな」

 「プレッシャーかけるようで悪いが、安全に採れる範囲内の薬草はこれで全部採っちまったからな」

 「そこまで採り尽くしたであるか」

 「あとは、センセイの求める品質以下だ」

 「余計に難易度が上がるのである。どうにか完成させるのである」


 時間的にも、ギリギリの時間になったのである。

 気合いを入れて作業を開始するのである。


 構築作業は、釜の外へと構成魔力を取り出し、特定の物質へと具現化させていく行程である。


 今回であれば【解毒】【水】の構成魔力を圧縮した魔力を、作業台の上に置いてある薬瓶に薬液に具現化させながら入れていく作業である。


 まずは混ぜ棒を使い釜の中の魔力を操作し、釜の外へと構成魔力を取り出すのである。

 そのため、我輩は圧縮された構成魔力を制御するべく混ぜ棒と釜の中の構成魔力に意識を集中をさせるのである。


 なぜわざわざ釜の外へと取り出さねばならないかと言うと、どういう理屈かはわからないのであるが、釜の中の構成魔力は具現化ができないのである。

 そういう点は、微妙に不便な魔法技術なのである。


 そして釜の外へ構成魔力を取り出す際は、維持制御をしないととたんに魔法陣外に引っ張られていき、純魔力へと戻っていってしまうのである。

 定着作業を行った構成魔力であると、制御にかける集中力は減るものであるが、それでも維持しきれない構成魔力は少しずつ流失してしまうのである。

 が、今回は補助試薬のおかげで構成魔力の外側に、純魔力の膜があるのである。

 これが魔力の自然流失を一層防ぎ、制御にかける負担を減らしてくれるのである。


 そして、取り出した魔力を一度球状に纏めていくのである。


 構成魔力を取り出すときもそうなのであるが、この魔力操作というのが厄介で、我輩のように魔法を使えないもの、感じることができない者は魔力操作というものが視認に頼らねばならないので非常に困難なのである。

 そのために構成魔力が視認できるようになっているのであろうが、何も感じられない状態で感覚を掴むという矛盾したようなことをすることはとても大変だったのである。


 混ぜ棒のような補助具を使用しても、魔力の操作に半年かかったことを思い出すのである。

 慣れてくると混ぜ棒などの道具を使用しないで操作できるのようなのであるが、我輩にはまだ無理なので道具を使用するのである。


 ちなみに、この作業は二度目である。

 やはりこの作業も久しぶりだったのと、魔法白金製の混ぜ棒が予想異常の反応のよさを見せたことで、勝手が違い、制御に失敗して一度爆発させたのである。

 防護結界があるとはいえ、釜の外の魔力だったので近くにいた我輩は見事に吹っ飛び、道具も沢山散らばったのである。

 同じく部屋にいたサーシャ嬢は、ダンがしっかりと守って無事だったので良かったのである。


 そうして我輩は漂っている構成魔力を、最終的な物質として具現化していくため集中していくのである。


 まずは、【解毒】【水】という二つの構成魔力を使い、【解毒薬液】という具現化させる解毒薬の構成魔力に構築していくのであるが、例えば他にも【快復】【解熱】【体力増進】の構成魔力があると【総合快復薬液】などの構成魔力を作ることも可能である。


 しかし当然のことながら、構築する構成魔力が複雑になるほど構築作業にかかる時間と、制御や構成魔力のイメージといった集中力の負担が増えるのである。

 そして出来上がった構成魔力も、作業中の集中・イメージ度合いで具現化した際の道具の効果が変化するである。

 欲をかきすぎた結果、構築中の集中やイメージが足りないと、良くて著しく品質が低下した失敗作になり、最悪の場合具現化することができずに霧散するのであるが、それでも強引に具現化させようとすると逃げ場を失った構成魔力が暴走して爆発するのである。



 「出来たのである……」


 できるだけ丁寧に、しかし極力早く構築した解毒薬の構成魔力が、純魔力で作られた膜の中に漂っているのである。

 最後にこれを薬瓶に入れ、具現化の魔法を発動すれば、薬瓶内で薬が具現化され完成なのであるのだが、


 「お兄ちゃん、少し元気になった!」

 「!?」


 完成間近ということで、つい油断していた我輩は、部屋へ飛び込んできたサーシャ嬢の物凄い嬉しそうな元気な声に驚き、せっかく作った魔力を霧散させてしまうという、初歩ミスをつい数時間前にやらかしてしまったのである。

 自分のせいだと泣いて落ち込むサーシャ嬢をフォローするのがとても大変だったのである。

 油断大敵なのである。


 「センセイ、今度はやらかすなよ」

 「だったら黙って見ているのである」


 我輩はそう言うと、狙いを定めてゆっくりと容器に先程出来上がった構成魔力を入れていくのである。薬瓶半分ほど満たし、全て入れ終わったのである。魔力を保護している純魔力の膜は、時間とともに空気中に溶けていくのである。

 最後に、この魔力を発動させて、構築作業の終了である。魔法らしく、きちんと発動させる為の言葉も決まっているのである。


 「【構築された構成魔力よ、その姿を現せ】なのである」


 発動させると薬瓶内の魔力が一瞬輝き、消えた後には緑色の薬液がそこにあったのである。


 「完成したのである」


 部屋の外は薄暗いのである。

 日が昇り始めたのであろう。

 何だかんだで当初の予定時間になってしまったのである。


 解毒薬を作るのに失敗すること8回。

 まともに調合ができるようになってから、最多の失敗数である。

 だが、錬金術が出来たという嬉しさと、久しぶりの調合成功の達成感で我輩の心は満たされているのである。


 あぁ、頑張った、我輩はよく頑張ったと思うのである。

 だから、あとはぐっすりと寝たいのである。

 そう思い我輩は床に倒れ込むのであった。



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