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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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収穫祭当日、始まる前の一時である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 「おじさん、おじさん」

 「……お早うである、サーシャ嬢。寝過ごしたであるか……」


 我輩を呼ぶサーシャ嬢の声で、我輩は目を覚ます。珍しく寝坊をしてしまったようである。

 そう思って目を開けるのであるが、様子がなにやら変である。

 視界は薄暗く、起こしてきたサーシャ嬢の表情もようやく見えると言ったくらいである。

 そこから見えるサーシャ嬢の表情は、なんとも申し訳なさそうな顔をしていたのである。


 「ごめんなさい、おじさん。今日のお祭り楽しみで、眠れなくなっちゃったの」


 初めて体験する人間の集落での祭りである。まだまだ子供のサーシャ嬢ならば、興奮して寝付かれなくなってしまうのも無理はないのである。

 そう考えると、普段通り食べて眠れるデルク坊は、大したものである。

 そんなことを思いながら我輩は、ベッドから出て立ち上がるとサーシャ嬢の方を向くのである。


 「それでは、まだ暗いのではあるが、少々散歩でもどうであるか?」

 「う!…………うん。おじさん、ありがとう。大好き」


 元気よく答えようとしたが、まだ夜明け前ということで小さい声で言い直すサーシャ嬢の姿になんとも微笑ましい気分を覚えつつ、我輩はサーシャ嬢と共に、まだ薄暗い集落を散策することにしたのである。


 家から出ると、普段とさほど変わらない景色が広がっているのであるが、少しずつ中心部に向かっていくと、雰囲気が華やいだものへと変化していくのである。

 収穫祭はたくさんの人に楽しんでもらおうと、中心部にある広場を使用して行われるからである。

 

 「これができてから、いつも見て思うけれど、たんけんかの人ってスゴいんだけれど限度を知らないよね」

 「探検家というよりは、音頭を取ったダンであろうな」

 「そっかぁ……ダンおじさんなら仕方ないかぁ」

 「ダンなら仕方ないのである」


 二人で見ているのは、集落の入り口からこの広場に入る際に通る道に建てられた巨大なアーチと、広場の中央にある式典用の台である。


 どうやらダンが、〈外の客を迎えるなら、こういうのは良く見えるものの方が良いんだぜ〉と、職人達と集落にやって来ていた探検家達を煽動して作り上げた作品である。

 探検家は、未開地の探索や調査団の護衛などと言った仕事だけではなく、最初の頃は荷物の運搬や大工仕事など便利屋稼業の面も持ち合わせているため、かなり効率的に作業を行うことができたようである。


 気になって聞いてみたことがあるのである。


 「どうやって、探検家達を誘ったのであるか?」

 「うん?俺の個人的な依頼だぜ」

 「探検家を雇うにはギルドを通さないといけない筈であるが」

 「一応そうだけどな。絶対って訳じゃねぇよ」


 金銭や物資等の報酬のみで、集落や個人の依頼を受ける事を中心に行っている探検家も、中にはいるようである。


 「絶対とは言い切れねぇけど、大体そういう連中っていうのは問題起こしてギルドの依頼を受けづらくなっちまったのや、きな臭い噂が付きまとう連中な事が多いけどな」

 「今回は、収穫祭やあたし達目当てで観光気分で来てる暇な探検家がそれなりにいたからね。小遣い稼ぎで喜んで飛び付いてきたのも結構いたよ」


 大量の食材を抱えながら、アリッサ嬢がこちらの会話に参加するのである。

 アリッサ嬢もそうやって、暇な探検家を集めて収穫祭に必要な食材の確保を行っていたようである。


 「それでも、大体何かしら揉めたりすることが多いって聞くけどな」

 「そりゃあ、依頼主が特Aクラスの化け物じゃあねぇ」

 「そっちか。俺はてっきりお前の場合は手料理を俺の場合は戦闘訓練もつけたからだと思ったけどな」


 恐らく両方なのであろうな。雲の上の存在が、そこまで特典をつけて頼んできたらまず断ることなどできないであろうな。

 

 「ドランがいたら喜んで手伝っただろうに、残念であるな」

 「あいつは俺のチームなんだから、特典無しで強制参加だよ」


 ダンの心底嫌そうな顔が面白かったのである。

 まぁ、ダンの事なのでそんなことを言いつつも、最終的にドランと戦闘訓練をする事になると思うのである。


 そんなやり取りがあったことを、我輩はサーシャ嬢に話すのである。


 「ふぅん、たんけんかの人って大変なんだね」

 「そうであるな。我輩の回りを見ているとそんな感じには見えないのであるが、皆大変だと思うのである」


 そう言って我輩はサーシャ嬢と共に会場の中に入っていくのである。


 会場内は演台を中心に机と椅子が置かれており、外側に調理場が置かれているのである。

 ここや近隣集落の収穫物、採取や狩猟できる食材を使って様々な料理を楽しめるようにしているようである。

 それに混ざって、他の都市部からやって来た商人や行商であろうか、露店もいくつか見えているのである。


 「あと少しで、一杯の人がここにくるんだね」

 「そうであるな」

 「おじさん、楽しみだね!」

 「そうであるな」


 正直なところ、人混みは苦手であるが、ここは話を合わせた方がいいと思うので、サーシャ嬢の言葉に曖昧に頷いておくのである。


 「一緒に回ろうね!」

 「そうであるな」


 正直なところ、人込みは苦手であるが、ここは話を合わせないといけないと思うので、サーシャ嬢の言葉にしっかり頷くのである。

 まぁ、我輩だけではなくデルク坊や妖精パットンも一緒なのでなかなか騒がしい事になりそうである。

 特に、デルク坊辺りは集落の若い女性達に囲まれて料理を振る舞われる光景がすでに浮かんで来るのである。


 「さぁ、始まるまで少し時間があるのである。このまま起きていると始まった頃に眠くなってしまうかもしれないので、寝床で横になると良いのである」


 我輩はそう言ってサーシャ嬢と、手を繋いで自宅へと戻るのであった。






 「アーノルド様、アーノルド様。起きてください」


 ミレイ女史の声で我輩はゆっくりと意識を覚醒させていくのである。

 どうやら、今度は本当に寝過ごしてしまったようである。


 「うふふ、珍しいこともありますね。サーシャちゃんもぐっすり眠っているんですよ」


 サーシャ嬢はどうやら、あの後しっかりと眠りにつけたようである。

 我輩はそのことに安心するしてから、一度伸びをして寝床から起き出すのである。

 ちょっと変な時間に寝てしまったので若干眠いのである。


 「そろそろ朝ごはんになりますからね」


 ミレイ女史はそういって部屋を出るのであった。

 ふと、起きたときにとても嬉しそうな顔をしてこちらを見ていたのが気になったのであるが、すぐにどうでもよくなって我輩は身支度をして、朝食を摂りに向かうのであった。


 「おはよう、センセイ。今朝はおたのしみでしたか?」

 「いきなり何なのであるか、アリッサ嬢」

 「いいえ、べっつにぃ~。明け方にサーちゃんと二人っきりで出かけてるから何をしたのかなぁって」


 挨拶も早々に、気持ち悪い笑いを浮かべてアリッサ嬢が我輩の元に料理を置いていくのである。

 そこまで気づいているならば、どうしたかもわかっているだろうにわざわざ絡んで来る辺りが本当にしようがないものなのである。


 「おはようございまぁす……」


 我輩に遅れること数分、サーシャ嬢がデルク坊に連れられてやって来たのである。

 おそらく起きたばかりなのであろう。半分寝ぼけた感じになっているのである。


 「おはよう、サーちゃん。今日の朝方にやった、センセイとの散歩は楽しかったかい?」

 「うん、楽しかったよ……おじさんは、眠れない私のために私のわがまま聞いてくれたんだよ」

 「そうだねぇ、センセイは優しいねぇ」

 「うん、おじさんは優しいから大好きだよ……」

 

 まだ半分寝ぼけているサーシャ嬢は、アリッサ嬢の質問にも適当に返答をしている感じである。

 話をしている最中に、にへらと笑うのはどうかとは思うにであるが、寝ぼけているのであれば仕方ないとも思うのである。


 「好かれてるねぇ、センセイ」


 絶好の絡むネタを見つけたとばかりに、ダンがこちらに話しかけてくるのである。

 本当にこういう時の反応は早いのである。


 「ダンも、ドランに好かれていると思うのである。なので二人で心行くまで戦闘訓練をすれば同じ気分になれると思うのである」

 「旦那はよくわかってますぜ。って言う訳でやりましょう!」

 「その返しは酷くねぇか、センセイ。ぜってぇやらねぇ……ってデルク!」

 「ドランにいちゃんの焼いた肉も、アリッサねえちゃんの焼いた魚も美味いなぁ。今日はすっげぇ楽しみだぜ!」


 前の皿にある肉を取るために牽制し合うダンとドランの横から、デルク坊が肉を奪っていくのである。今日のデルク坊はいつもよりもさらに食欲旺盛である。

 あれだけ食べたら祭の時には入らないと思うのであるが、きっとデルク坊の事である、そのころにはまたいくらでも腹に入る状態になっているのであろう。燃費が悪いというか、効率が悪いというかと思うのであるが、その割に食べないでも平気というよくわからない体質である。


 まぁ、いまの行動で食後二人に扱かれそうな予感がひしひしと感じられるのであるが、それは自業自得であろうな。


 「アーノルドさん、本当に大丈夫なのでしょうか」


 ハーヴィーが不安そうにこちらを見て尋ねてくるのは、昨日ダン達から報告があった件なのであろう。

 一応の状況説明とこれからの方針については話してあるのであるが、ハーヴィーは色々考えてしまっているようであるな。


 「大丈夫である。それにである、これはハーヴィーが考えてもどうしようもないことである」

 「分かってはいるんです。ダンさん達がやったことだから、ダンさん達に全部任せちゃえとも思ったんですが、寝る前とかにどうしても色々考えちゃって」


 そう言っているハーヴィーの表情は若干疲れているのである。

 本当に、色々考えすぎてしまうのであるな。


 「難しいとは思うのであるが、これはチャンスでもあるのである」

 「チャンス?」

 「そうである。確かにハーヴィーの思うように人間至上主義者が審査役でやってきて、色々と問題を起こす可能性もあるのである」


 ハーヴィーは大きく頷くのである。どうしてもハーヴィーはその可能性に目が行ってしまっているのである。


 「だが、である。亜人に理解を示す審査役や、まだそこまで行かなくても、我輩達に同行することで、亜人との交流の有効性について考えるものが審査役でやってくるかもしれないのである」

 「……もし、そうなら大森林の調査に森の民や亜人に協力を仰ぐようになるかもしれませんね」

 「そうなれば、新しい歴史の一歩を見ることが出来るかもしれないのである」


 我輩の言葉に、ハーヴィーが少し興奮した感じで表情に覇気が戻るのである。

 そう、悪い可能性ばかりで無いのである。良いかの失せいだって存在するのである。

 そもそも今回の出来事は、突発的に起きたことであるが、事態はまだ始まってもいないのである。はっきり言えば、あれこれ考えるだけ無駄である。

 だったら、下手に怯えるよりも前向きに考えた方がマシである。

 どうやら今回はうまくいったようであるが、ハーヴィーの慎重な思考は、我輩達に必要なときもあるのであるが、自身の枷になってしまう事が多いのがたまにきずであるな。


 今日の収穫祭で、すこしでも気分転換になれば良いのである。


 我輩はそんなことを思いつつ普段通りの朝食の時間を過ごしながら、収穫祭の始まる時間までのわずかな間を過ごしていくのであった。

 

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