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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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収穫祭前日である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 収穫祭を翌日に控えた朝、我輩はいつも通り工房へと向かうのである。

 しんと静まり返った工房内で、我輩は自分の作業を開始するのである。

 我輩の作業とは、女性陣のために【髪染めの髪飾り】を作製することである。

 造形が悪いと言われたり、思った色と違うと言われたりと、やり直しを何度もさせられる事になったのであるが、何とかこれで全員に配り終えることができるのである。

 全くもって、女性の美に対する欲求と言うのは物凄いものがあるのである。あそこまで常軌を逸する気はないのであるが、見習いたい点はいくつかあるのである。


 「おはよう、おじさん!」

 「おはようである、サーシャ嬢」


 我輩が手鍋を用いて最後の髪飾りを作っている最中に、サーシャ嬢が工房へやって来たのである。


 「おじさん、髪飾りは終わりそう?」

 「これで終わるのである。そちらはどうであるか?」

 「うん、お昼くらいには終わるかなぁ」


 サーシャ嬢はそういうと、釜の中に材料を投入していくのである。

 サーシャ嬢が現在作製しているのは、水仕事をしたあとの肌の手入れで使用する軟膏タイプの香油である。

 どうやらかなり評判が良いらしく、女性陣だけではなく、肌荒れやあかぎれなどを起こしているものもサーシャ嬢の香油を求めているのである。


 「うん、とても大変そうだから、少しだけ【回復】の構成魔力も混ぜたんだ。その代わりに、ちょっとだけ染みるようになっちゃったみたいだけど、皆喜んでくれてるよ」


 サーシャ嬢は、元あるレシピに自分なりの改良を加えて、どんどんと新しいものを作っていくのである。

 時折失敗することもあるようであるが、その研究心は、とても素晴らしいと我輩は思うのである。

 なので、我輩もそうしようと思うのであるが、何故か我輩の場合はダンかアリッサ嬢に止められるのである。


 「センセイの改良は、嬢ちゃんのようなちょっとだけとかじゃないから。全くの別物になるから」

 「そう。改良じゃなくて改造だからね。センセイのは」


 納得はいかないのであるが、あまり強引に推し進めると、実力行使で止められるので、おとなしく引き下がっているのである。

 

 「お早うございます」

 「おはよう、おねえちゃん!」

 「おはようである」


 今日は、最後にミレイ女史がやって来て、サーシャ嬢と一緒に香油の作成をするのである。

 最近、構築作業中の釜に構成魔力を投入して、別の道具を作ることができる事を我輩達は知ったので、時間短縮でそういう使い方をすることが増えたのである。

 ちなみに、手鍋を安定して使用できるのは、まだ我輩だけである。サーシャ嬢は手鍋での作業は無理のようで、ミレイ女史は最近少しずつできるようになってきたところである。

 なので、この工房でも基本的に手鍋は我輩が使用し、釜をサーシャ嬢とミレイ女史で使い合う形になっているのである。


 暫く、工房内で三人だけの時間が過ぎていくのである。各々が自分の作業に集中している、この時間が我輩はとても心地好く感じているのである。しかし、それももうすぐ終わるのである。


 ドアの向こうから、元気の良い足音が聞こえてくるのである。


 「みんな!朝飯だよ!」


 デルク坊の元気な声で、我輩達の朝食前の作業は終了を迎えるのである。

 

 「何とか間に合ったのである」

 「私たちも間に合ったね」

 「うふふ、頑張ったもんね」

 「うん!」


 どうやら、3人とも作っておきたい物は作り終えることが出来たようである。

 ノルマがきちんと達成できると気持ちが良いものである。

 我輩はそう思いながら朝食へ向かうのであった。






 「うめぇ!うめぇ!」

 「あはは、デルクはいつも通りだね」

 「うめぇもんは、うめぇもんな」


 いつも通り、朝食を味わうけれど早く食べるという、なかなか器用なことをするデルク坊を横目に我輩は食事を口にするのである。今日は、穀物を炊いたものと、湖で取れた魚を焼いたもの。それと野菜のスープである。


 「魚も良いけど、肉が食いてぇな」

 「ダンにいちゃん、昨日は魚が良いって言ってなかった?」

 「デルっち、この歳のおじさんになるとね、何でもかんでも文句を付けるのが趣味になるんだよ」


 デルク坊の何気ない一言に、アリッサ嬢はしみじみと答えるのである。


 「え?そうなの?でも、おれのおじさんはおばさんの作ったものをいつもおいしいって食べてたよ」

 「あー、あの人はいい人だからねぇ」

 「おっちゃんも文句言わないじゃん」

 「センセイもいい人だからねぇ」

 「おいアリッサ。まるで俺がいい人じゃないような言い掛かりをつけるのをやめろ」


 不服そうな表情を浮かべて、ダンはアリッサ嬢に抗議をするのであるが、ダンがいい人などと言うのはありえないのである。当然、アリッサ嬢の評価も同様である。


 「人が一生懸命作った料理にけちを付ける奴がいい人だとでも言うつもりかい?」

 「にいちゃん、おいしい料理を作ってくれる人に、感謝の気持ちは忘れちゃいけないよ」

 「デルっちはいい子だねぇ。昼は何が食べたい?」

 「肉!」

 「お前も肉が食いたいんじゃないかよ!」


 デルク坊も、したたかになったものである。


 「錬金術師アーノルド」

 「どうしたのであるか、妖精パットン」


 一足先に食事を終えた妖精パットンが、我輩の肩に乗ってきて話しかけて来るのである。


 「いやぁ、大きなお祭りが明日から始まると思うともう楽しみでね」

 「妖精パットンは、ここに来てからずっとそれであるな」

 「こんなに質の良い【意思】の構成魔力が集落中に漂っているんだよ。絶対楽しいものになるのが分かるからね」

 「そんなことまで分かるのであるか」


 集落にいる者がどれだけ祭を楽しみにしているのか、良いものにしようとしているのか。そういう気持ちから発せられる【意思】の構成魔力を感じている妖精パットンは、この収穫祭の成功を確信しているようである。


 「残念なのは、知らないところの人間が多くなるから、自由に動き回ることが出来ないことくらいかなぁ」

 「申し訳ないとは思うのであるが、もしものためである。我慢してほしいのである」


 集落の者達だけでなく、他のところの人間がいままで以上にやってくる収穫祭では何が起こるかわからないので、サーシャ嬢とデルク坊はパットンの意思疎通と認識疎外の魔法の範囲から出ないようにしてもらい、必ず我輩達の誰かと一緒に行動してもらう事にしたのである。


 「妖精パットンの意思疎通の魔法を模した道具の作製方法も見つけたのであるが、如何せん素材が無いのである」

 「気にしなくて良いよ、錬金術師アーノルド。自由に動けないのはもどかしいけれど、嫌というわけじゃないからね」

 「そういってくれると助かるのである」

 「そうだろう?だから、分かってるね?」

 「アリッサ嬢に期間中、美味しい菓子を作ってもらうように頼んでおくのである」

 「フフフ、分かってるねぇ。ちなみに、卵と乳で作った、甘い滑らかなのがいっぱい入ったパンが欲しいね」

 「食材確保次第であるが、一応言っておくのである」


 妖精パットンも、最近大分したたかになった気がするのである。

 もともとこんな感じであったであろうか?よくわからなくなってきたである。


 「リーダー!今日の昼は一人肉抜きだからね!」

 「ちょっと横暴じゃねぇのか!?」

 「魚うめぇなぁ」

 「デルク!お前覚えとけよ!」


 何やらまたダンがやらかしたらしく、アリッサ嬢に罰を課せられているのを横目に、我輩は食事を進めていくのであった。






 「ただいま帰りました」

 「ただいまでさぁ!」

 「おや、あんた達。思ったよりも遅かったねぇ」


 ドランとハーヴィーが戻ってきたのは、夕方前になった頃であった。

 どうやら、ギルドのある村からこちらに向かう一団の護衛任務をかねて戻ってきたらしく、それで少々遅くなったようである。

 ちょうど二人が帰ってきたときに居合わせた、我輩とアリッサ嬢が二人を出迎えたのであるが、二人はアリッサ嬢を見かけると挨拶も早々に詰め寄るのである。


 何事であろうか。


 「姐さん!ありゃあ一体どういうことですかい?」

 「あぁ、驚いたかい?」

 「驚いたも何も、おかげで少々面倒なことになりましたよ……」


 ハーヴィーは、そういってアリッサ嬢に一枚の紙を手渡すのである。

 アリッサ嬢はそれを受け取り、目を通すのである。

 最初は普通に読んでいたアリッサ嬢であったが、その表情はだんだんと面倒そうな者へと変化していったのである。


 「これ本当の話かい?」

 「そうですよ。異例中の異例だから、こうするしかないって言われましたよ」

 「ちなみに、姐さん達の推薦がなければ、今回は見送りになったみたいですぜ」

 「えぇ……」

 「なので、どうするかは隊長と二人で決めてくださいね」

 「その時、サーシャせんせいやデルクを説得しないといけない場合も二人がやってくださいよ。二人が蒔いた種なんですから」


 そういって、二人はアリッサ嬢から離れると、改まってアリッサ嬢の方を向くのである。


 「まだ何かあるのかい?」


 若干困った顔のアリッサ嬢は、困惑を深めて二人に話しかけるのである。

 

 「今回は、僕たちを推薦してくださりありがとうございます」

 「姐さん達の期待に応えられるように努力いたしやす。ご指導のほど、よろしくお願いいたしやす」


 二人はそう言って、深々と頭を下げるのであった。


 「……なんだろうねぇ。先にやられた事柄のせいで、素直に喜べないあたしがいるよ。まぁ、これからが大変だからね。審査、がんばりなよ」

 「いやいや、書類見ましたかい?審査対象は俺達だけじゃなくて姐さん達もですよ」

 「うっそぉ……」

 「僕たちに甘い評価を下していないかを見るらしいですよ」


 どうやら、話を聞く限り今回のクラスアップの件で、この四人が何かしらの審査対象にされてしまったようである。

 何やら面倒なことになりそうであるが、そのことについて後ほど報告が来る筈なので、その時どうするか考えることにするのである。


 この後、夕飯の食材確保から帰ってきたダンにも同様な事が行われ、ダンも同じような反応を示していたのが面白かったのである。


 夕飯後に、今回の出来事について報告を受けた我輩であるが、とりあえず我輩の目の前で小さくなっている二人に発した言葉は、


 「もう少し考えて行動を起こそうとは思わないのであるか」


 であった。

 今回の出来事は、ダンが主体になってアリッサ嬢やウォレスに二人を引き上げる推薦状をだそうと提案したようである。ウォレスには、ミレイ女史が研究所に送る定期報告の鳩便を出すときに、一緒に手紙を出していたようである。


 そんな訳で起きた今回の騒動であるが、我輩の出した結論は“いままで通りに過ごす“であった。


 「森の民と付き合ってるのを見せるのか?」

 「帝国民と付き合う事がおかしいことではないのである」


 “帝国法は、帝国領土に住む全帝国民の幸福に寄与する“とあるのである。


 人間至上主義者は帝国法にある、帝国民を領土内にいる人間のみと考えているようであるが、そこの解釈は改編されたことは無いので、実際は領土内にいる人間、亜人、友好的な魔の冠をいだく者達すべてを対象にしているのである。定められている領土も、平野部だけでは無い事は明記されているのである。


 「至上主義者達に知られたらまずいんじゃないの?」

 「そんな一部の思想者の都合など知ったことではないのである」


 そもそも知ったところで、現状の帝国戦力で大森林侵略など出来る訳が無いのである。

 我輩達が、深部まで安全にいくことが出来るのは、妖精パットンの認識疎外の魔法のおかげなのである。


 「センセイの存在が出ちゃったら宰相が黙ってないんじゃないのかい?」

 「それこそ論外である。そうであったら、我輩がここに来ている時点で何かしらの行動が起こされているのである。それに、何かあったとしても我輩は二人を信用しているのである。だから問題ないのである」


 現状、この二人を倒せるだけの実力を持っているのは、二人以外のチームメンバーくらいである。


 「だから、我輩達が何かを気にすることなど無いのである。あるとしたら、この集落の者がサーシャ嬢達を森の民だと知っていることを黙っているように言うくらいである」

 「そうだね。そっちは徹底しておかなきゃだね」

 「集落長には明日俺から言っておく」


 二人の言葉に我輩は頷き、そして、先程の話へと戻るのである。


 「そんなこと言ってもよぉ」

 「こんな展開になるなんて予想しないじゃないのさ」

 「言い訳はよすのである。何故ウォレスだけでなく、リリー嬢にも相談しなかったのであるか」

 「リリーにも言ったさ。」

 「え?嘘!?何で黙ってたのさ!」


 アリッサ嬢はそのことを知らなかったようで、驚きの表情でダンを見るのである。


 「大方、時期尚早だからギルドの判断に委ねるように等と書かれていたのであろう」

 「むしろ、本人たちの成長のためにならないので、特例などは認めさせないようにって釘を刺された」

 「そんなこと言われてたのに、何でリリーの意見無視するようなことしたのさ。らしくないじゃないのさ」


 アリッサ嬢が、さらに驚愕を深めた表情でダンを見るのである。

 そうであるな、ダンは衝動的な思考をするときがあるが、だからといってそれに反対する人の意見を聞かずに物事を強引に推し進めることはしない男である。


 「……そうだな。チームが解散して、いつの間にか焦ってたのかもな。いなくなったウォレスやシンを無意識に二人に求めていたのかもしれない。あいつらは、ドランとハーヴィーなのにな」

 「まぁ、やってしまった事をこれ以上言ってもどうしようもないのである。とりあえず、ダン。歯止めとなるリリー嬢やゴードンがいない以上、当面は何かを決めるときは我輩とミレイ女史に必ず相談するのである」

 「わかった。って、何でミレイ?」

 「現メンバー内で、我輩のほかに常識的なのはミレイ女史しかいないのである」


 我輩の言葉に、アリッサ嬢だけでなく神妙な面持ちで話を聞いていたダンまで白い目をこちらにむけて来るのである。


 「センセイが常識的だったら、この世の大半の奴らは紳士だねぇ」

 「反省はしてるし、センセイの言う通り相談しようとも思うが、その言葉は受け入れる気にはならねぇなぁ」

 「お前達の頭は大丈夫であるか?」

 「むしろ、センセイの神経は大丈夫か?」

 「無いんじゃないかねぇ」

 「あぁ、だから無神経なのか」

 「お前達は我輩を一体なんだと思っているのであるか」


 我輩の言葉に二人はニヤリを笑うのである。


 「そうかぁ、わかんねぇかぁ」

 「じゃあ、分かるまで教えてあげないといけないねぇ」

 「いまはそういう話ではない筈なのである」

 「俺も問題があったが、センセイだって相当問題あるからな」

 「この際、そこところはっきりさせようじゃないのさ」


 なぜか、怒られる側の二人に説教や注意を受ける羽目になる我輩なのであった。

 全く以って納得いかないのである。

 このような感じで言いようの無い不満を抱きつつ、収穫祭の前日は過ぎていくのであった。






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