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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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期待されたが故に面倒なことになったようです


 僕の名はハーヴィー。ダンさんのチームで一人前の探検家を目指している新人探検家です。






 書類を持つ手が震える。文字を見ている視界が回る。

 何の冗談だろうと僕は何度もその部分を見る。

 だけどそこにははっきりと書かれている。

 

 探検家ハーヴィーをCクラスにクラスアップすることを許可する


 と。


 ドランさんも予想外だったようで、僕の書類を見て驚いていたけれど、そのあとにギルドの職員さんに自分の書類を見るように促されて確認して、僕と同じように体が硬直してしまっている。

 

 「はぁ!?なんだこりゃ!何の冗談だ?」


 完全に硬直していたドランさんだったけど、意識を取り戻したらしく大声を上げて職員さんに詰め寄る。

 だけど、職員さんは淡々と


 「冗談でも何でもない。事実だ。署名をしないのか?」


 と、そういったのだった。


 「なんで、ここまで急激なクラスアップが成立したのですか?説明いただけますか?」

 「クラスアップするのに抵抗する奴なんて珍しいな」

 「そりゃそうだろ、いきなりCとBだぞ?すんなり受け入れるには衝撃がでけぇよ」

 「まぁ、それもそうか。俺達も前例が無いからな」


 そういって、職員さんは数枚の紙を出してきた。そこに、今回の功績が書いてあるのだろう。


 「簡単に説明するとだ。まずは、大森林内部未開地点の各種調査。これが広範囲に渡っているな。これだけでも2クラスは上がるほどの功績だ。あとで、それに応じた報酬を出すから受け取ってくれ」


 これは、当然のことだからわかる。僕も、二つくらいは上がってほしいなとは思っていたからそれは想定内だ。


 「で、お前達が受けていた大森林調査護衛任務だが、依頼の中では浅い部分だけまでだったのが、深部まで同行してもらったので深部での護衛任務に変更されている。そして、その護衛評価はきわめて優秀という評価を依頼主から貰っている。1ヶ月以上の深部での護衛評価が高いことで、お前達の実力はC~Bクラス相当になるなという評価が下った。こちらもあとで報酬を渡すから受け取ってくれ」


 依頼主は一応アーノルドさんだ。でも、あの人がそんな気の回ることができるとは思えない。きっと、ダンさんかアリッサさんがそう言ったんだろう。


 「で、だ。一応C~Bクラスに相当する依頼や調査報告をしたわけだが、ギルドではそこまでの急激なクラスアップは行ったことが無い。」

 「それに、Cより上はそのクラスの探検家や上級貴族の推薦が必要だったはずだよな」


 ドランさんの言葉に、職員さんは頷く。

 え?そうだったの?全然知らなかった。そんな情報探検家になってから一度も聞いたことが無い。


 「ドランさん、なんで知ってるんですか?」

 「長い間探検家を続けるとな、Cクラスやその手前の連中とも一緒に仕事をして、そういう情報をもらえることもあるもんさ」

 「知ってるとは思うが、ギルドの上級職はCクラス以上だぞ。つまり、ここの責任者の俺はCクラス以上ってことだからな」


 え?この人Cクラス以上の探検家だったの?ドランさんも驚いたようで、目をぱちくりさせて職員さんを見ている。


 「おまえさん、俺を一般職員と勘違いしてやがったな。一般職員が、緊急便指定とか職員総動員とかできる権限があると思うか?」

 「……ねぇなぁ。すいやせん、マスター」

 「気にすんな。村のギルドだとな、責任者も受付しなきゃ回んねぇんだよ。人手不足でなぁ」


 だから初めてくる奴らには大概そう思われるんだとマスターは笑っていた。


 「で、だ。本来ならCクラス以上に上がるためにはそれ以上のクラスの現役探検家数人の推薦、もしくはギルド本部で行われる審査委員会で賛成多数を得られなければならないわけだ」


 それならば、現在ギルド本部に案件が上げられて審査委員会が開かれているところであるはず。なんで、すでにその書類があるのかわからない。


 マスターの言っていることが矛盾しているので余計混乱する僕らを見て、マスターは苦笑いを浮かべる。


 「“ドランはBクラス、ハーヴィーはCクラスのクラスアップ推薦する“という推薦状が特Aクラス探検家のダン・アリッサ・ウォレスの連名と徽章付きで同封されてたんだからな。」

 

 おどけて言うマスターの言葉に僕は驚きを隠せない。そして、それはドランさんも同じようだった。


 「あいつらは、いままで誰のことも推薦したことがなかったからな。俺達も驚いたさ。提出してきた報告書や、依頼評価もとてもいいものだったからな。お前達は、あいつらに大分期待されているようだな」


 マスターの報告は続く。しかし、一応言われている内容は耳に届いているが、まともに聞こえてはいない。ダンさんとアリッサさんだけじゃなくてウォレスさんの推薦?いつそんな話をしていたのか全くわからない。

 そして、僕以上にうろたえているのがドランさんだ。きっと、急に一代貴族の権利が生じるBクラスになったわけだ。帝城に行くことになるし、やることがいっぱいあるだろう。


 「あと、これからまた大森林へ潜ることになると書いてあるからな。特例として暫定的にクラスアップを認めるわけだ」

 「暫定的?」


 ドランさんが、怪訝な表情でマスターの言葉に反応する。


 「そう。いろいろ異例すぎてな。こちらとしてもどうして良いか分からねぇのが本音のようさ。本来は、審査委員会を開いて、お前達や推薦人を呼び出して質疑応答や実技試験などを行う。その間は本部のある都市で待ってないとだ。だが、お前達はこれからさらに森の深部の調査に向かうという追加依頼を受けている。今回の実績から考えると、都市で待たせるよりも遥かに利益につながるという判断がされたようだ」


 そう。僕たちは、こちらにくる前に依頼継続の書類と、それを受ける署名を持ってギルドに来ている。その内容はさらなる深部の調査のための護衛ということ。帝国の大きな利益になると考えたギルド本部は、今回の推薦をそのまま受けて僕たちに依頼にすぐ向かってほしいということなのだろう。


 「とはいえ、だ。お前達が本当に報告通りの仕事をしているかどうか。に関しては、実績と信用がなさ過ぎる。特にお前はな」


 そう言って、マスターは僕を見る。それはそうだ。いままでCクラスに最速で上がったのは、ダンさんの一年と4ヶ月だ。僕がここで上がるとそれに次ぐスピードで上がることになる。しかし、ダンさんは僕のように一気飛びじゃなかったから、実績がしっかり積み上がっていた。ついさっきまでHクラスだった僕にはそんなものは全くない。

 ドランさんにしたって、Bクラスに足りる実績をしっかり積んだかと言われれば、そんなことは無いだろう。

 ギルドとしても、そこは看過できないところなのだろう。


 「そこで、Aクラスの探検家相当の職員を一名、お前達の依頼に同行させて実際の能力を審査させてもらう事にした。誰が行くかはわからんが、お前達が森に向かうという2週間後までには拠点にしている集落に着くようにする。ほれ、その旨を書いた書類だ。あいつらにも見せておけ」


 そういってマスターは、一枚の書類をこちらに渡す。ダンさん達に見せる用の書類のようだ。


 「以上が、今回の一件の説明だ。わかったら、署名をしてクラスアップの手続きをしてくれ」


 異例続きの出来事に、結局納得するもしないも無いことがわかった僕とドランさんは、マスターが指を指している書類に署名するのだった。







 「面倒なことになっちまったなぁ……」

 「ですねぇ……」


 僕たちは、昨日食事をした店で夕飯を取っている。昨日の気楽さとは違い、多少重苦しい空気になってしまっているのは仕方がないと思う。


 もしも、ダンさん達の推薦がなかった場合はどういうクラスアップになったか確認したけれど、結局は遅かれ早かれこういう結果になっただろう。とのことだった。


 「そういわれちまえば、早い方がいいんだろうけどよ」

 「そうですね、サーシャちゃん達の事や森の家のことをどうするか考えてもらわないとですよね」

 「まぁ、あの人達のことだからどうにかするだろうさ」

 「そうですね」

 「審査役に人間至上主義の連中が来ないことを祈りたいところだな」

 「あぁ………それは、そうですね」


 人間至上主義者達に現状を知られるのは相当まずい。おそらく僕たちだけではなく、辺境の集落も被害を受けることになる。もしかしたら、このあたり一帯を巻き込む大事になるだろう。


 「そうなったら、その間は森の集落に避難してもらうしかねぇよなぁ」

 「そこも含めて、戻ったら相談ですね」


 僕たち二人は、自分たちでは決めることの出来ない事に深いため息をつく。

 だから、ドランさんはその厄払いをかねた行動に出るのだった。


 「店主、今日出せる料理と酒を全部、ここにいる連中に振る舞ってくれ。代金はこれで足りるか?」


 ドランさんが手持ちの袋から金貨を数枚取り出す。たぶん、余裕でお釣りがくるくらいだろう。

 店主さんも、ドランさんの急な申し出といきなり出された金貨に驚きを隠せない。


 「こっちの都合で悪いけどな、急な大事があって厄払いをしてぇんだ。この金は、今回の迷惑料もかねてある。もし明日の営業で用意できる食材があれば明日こちらで用意してやる。だから協力してくれねぇか?」


 店主さんは、驚いた表情だったが頷きを返す。それはそうだろう。さらに上乗せされて金貨は十数枚になる。ここらへんで営業していればきっと数ヶ月分の売上を今弾き出したのだから、断ることはほぼ無いだろう。


 「おめぇら!今日は俺のおごりだ!厄払いだから遠慮なく食ってくれ!!」


 ドランさんが店主さんの頷きを確認してから後ろを振り向いて大声を上げると、席のいたるところで歓声が上がる。

 彼らは僕らがマスターの説明を受けている最中にちょうど居合わせた探検家達だ。

 だいたい、身の丈に合わないような大きな功績や報酬を意図せずに得てしまった場合、厄払いでその日大盤振る舞いをするのが探検家の縁起担ぎ的なものであるらしい。

 ちょうどその場に居合わせた探検家達が、タダ飯にありつけると思い、付いて来たようだ。


 「いいか!ここは帝都や都市じゃねぇ。あまり遅くまで騒いで村のみんなの迷惑になるのはギルドの信用にかかわるからな!そこんとこ頼むぜ!」

 「おう!わかったぜ!一代男爵様よ!」

 「まだ確定じゃねぇ!」


 ドランさんの言葉をきっかけにどんちゃん騒ぎが始まる。時折先輩探検家が俺より上に行きやがってと恨み言を言いに来たり、ダンさん達との日常や依頼内容を聞いてその異常さに驚いたり、大森林について色々聞いて感心したりしている。

 酷いやっかみや妬みで絡まれることもあるかなと思ったけど、そんなことは特になかった。


 「あの特Aクラスの二人が目をかけてるんだぜ。そして、その二人に連れられてとはいえ、チーム解散の原因になったと言われる大森林深部の探索から無事に帰ってきてるんだから、そりゃあ一目置かれるだろうさ」


 参加者の中で一番クラスの上のBクラスの探検家が、僕の疑問にそう答える。彼らも、何度か深部の探索へ向かっているようだが、敵性生物の度重なる襲撃で思うように探索が進まないようだ。

 そう考えると、パットンがいるということは物凄い有利なんだなと改めて思う。

 実力・実績・信用・そして強運を持つものが一流の探検家だという言葉があるが、僕は本当に運が良かったということなのだろう。


 「ハーヴィー。どうせならあいつらも巻き込んじまおう」

 「何というか、普通の人たちなのに僕らと知り合ったばかりにかわいそうですね」

 「それが、あの旦那と付き合うっていうことの結果なんだろうな」

 「ぶっ!!あはははは、それも、そうなのかも知れませんね」


 その強運も凶運もすべてアーノルドさんから始まっていると思うと、何となく気が楽になる。

 アーノルドさんやダンさんのせいでこうなったんだから、あの人達にどうにかしてもらおう。

 そんなふうに考えられるようになった事に、完全にあの人達に染まっちゃったんだなぁと思いながら、僕は昨日お世話になった兄妹家族をこの厄払いに巻き込むべく、彼らの元へ向かうのだった。






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