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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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俺だって悩むことぐらいある


 俺の名はドラン。強い奴との戦いと、肉と酒をこよなく愛する男だ。






 「間に合って良かったですね、ドランさん」

 「受付のオッサンのあの驚いた顔はなかなか面白かったな!お!これうまいな」


 俺はハーヴィーの言葉を聞いて、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたギルドの受付のオッサンの顔を思い出す。良い酒の肴だぜ。

 

 俺達は、通りがかりで助けた兄妹達と別れ、すがたが見えなくなったのを確認した後、全力疾走でギルドに向かった。

 嬢ちゃんが、自分たちのせいで間に合わないんじゃないかと気にすると思い、余裕を見せて礼の話をしたが、実際は時間ギリギリだ。


 「後先を少しは考えてくださいよ!」


 そう俺に小言を言いつつも笑ってるハーヴィーは、俺の意図に気づいてるっぽいな。

 こいつは、自信がないと思われるほどに慎重だ。それ故に人をよく見ていろいろ考えている。まぁ、考えすぎて自滅することも多々あるけどな。


 「はっはっは!まぁ、お前さえ間に合えば良いからな」

 「……そうですね」


 ハーヴィーはそう言ってさらに速度をあげて走っていく。

 俺に小言を言うためだけに速度を落としてたのかあいつは。それとも天然か。判断に迷うな。


 ハーヴィーが先行するなら無理する必要は無い。

 俺は駆け足くらいの速さでギルドに向かうことにした。


 ギルドに到着して中に入ると、ハーヴィーがちょうど受付をしている最中だった。


 「お仲間ですか?」


 受付のオッサンが迷惑そうにこちらを見る。

 まぁ、受付終了時間間際だからな。早く切り上げたかったんだろうなぁ。

 俺はそう思いながらもオッサンの前に、背負い袋から出した大量の報告書を出す。

 一瞬、その量に驚いたオッサンだったが、すぐに不機嫌になる。


 完全に“余計な仕事増やしやがって“って顔だ。

 まぁ、言わないだけ大人だよな。俺なら絶対文句つけるわ。

 それだけで、このオッサンは仕事をきっちりやるタイプなんだなぁと思う。

 大体は、夜の分に回すから後で良いかとか言い出すし、酷い奴はここじゃ受付できないから本部まで行けとか言い出すしな。

 ハーヴィーの受付が時間内だったから、メンバーの俺の分も同じ処理にしてくれるっていうのはきちんと仕事をする証拠だ。


 オッサンは、仏頂面で書類を見出すが、みるみる内に表情が変わっていく。

 そりゃそうだ。書いてある報告書は大森林の深部を含む未開部分の詳細な地図、薬草や食材などの植生や効果、出没する敵性生物のおおよその分布、特徴、効率的な戦闘の仕方等が事細かに書かれている。

 伊達に隊長やミレイ嬢ちゃんがいるわけじゃない。

 今回は俺達は隊長と姐さん、ミレイ嬢ちゃんが中心になって行う大森林の調査護衛という名目の依頼を受けている。だが、同時にチームのサポートメンバーとしても登録されているから、二つ分の功績をもらえるようになっている。実際にこういう形で探検家同士で依頼を出し合うこともあるわけだ。

 さらに、隊長は自分の調査功績を俺達に譲るとか言っていたからさらに上乗せが多少あると思う。


 ハーヴィーはまだ新人だから、すこしでもクラスをあげたいとか言っていたが、少し所じゃないと思うぜ。目の前を見てみろよ。オッサン目の色を変えて、昼休みに行こうとしてる職員全員引き留めて処理し出したからな。やってきた配達係にも緊急便だから、処理が終わり次第催促で本部へ持っていってくれって言ってるわ。

 あれが、どれだけの価値があるかと言うのがわかってるとは、やるなオッサン。

 俺は、辺境近い小さな村のギルド受付だから大した事が無いやつしかいないと勝手に思っていたが、心の中でオッサンを見直す。


 戦場の様相を出してきたギルド内を眺めていると、ハーヴィーがよくわかってない感じで


 「なんでこんなに忙しくなってるんですか?ドランさん」


 とか聞いてきやがった。

 だから俺は、“こいつ、何も分かってねぇなぁ“って顔をして笑ってやる事にした。

 それを見たときのハーヴィーの困った顔も良かったな。これだから、こいつを弄るはやめられねぇ。

 隊長や姐さんがハーヴィーを弄って遊んでいる気持ちがわかるぜ。


 と、そんなことを思って酒を一口飲む。


 この酒うめぇな。飯もまぁまぁだ。

 少し前なら、この飯もかなり旨い分類に入るはずだが運が良いのか悪いのか。姐さんの料理を食い慣れちまったせいで、旨いの基準が上がっちまった。

 飽きない連中と、旨い飯、強い隊長。さっきハーヴィーに言った、隊長達に一生くっついて行くつもりだって言うのは嘘じゃない。


 ただ、まぁ、これから先、有能な奴らが加わり、もしもメンバーを切ることになることになったら俺が一番最初だろうな。とも思っている。


 元からいる5人は減ることは無い。そりゃ当然だ。雇い主と家の持ち主とずっと一緒にいた仲間だからな。

 ミレイ嬢ちゃんも、あの歳でかなり優秀だ。さすがは魔法研究所の研究員で、特Aクラスの探検家だったリリー姐さんが見込んだ娘だ。

 ハーヴィー、あいつは自信の無さが欠点だが、ものすごい優秀だ。

 遠目が効き、遠距離攻撃と隠密行動に優れている。頭も悪くないし、気も回る。

 おそらく今回の評価で最低でも2段階。もしかしたら一気にDクラスまで上がるかもしれない。

 更に後数年、隊長達と共に行動したらC、もしくは久しぶりのBクラスに上がる探検家になれる。

 あいつはそれだけの素質がある。

 そうなったら、仮に隊長達と別れても食いっぱぐれは無いし、別れなくても捜索探検家として名を馳せるだろうな。


 だが、俺は他の連中のような才能は何も無い。

 Eクラスで満足しているというのは本当だ。本当だが、それ以上は望めないと自分で認めてしまっている。とも言える。

 多分、隊長は俺に教官のような後列を守りながら敵を殲滅する役割を求めていると思う。

 体格的にも能力的にも近いから当然だろう。

 だが、俺には教官達のような戦闘センスが全くない。

 あの人達の戦闘を何度も繰り返してよくわかった。

 あの人達は自分の体格を生かした戦闘方法を努力で限界まで突き詰めていった。

 そして、効率的に敵を叩き潰す戦闘センスをでそれを上乗せしている。

 見ていてわかったが、ハーヴィーもそれを持っている。


 だが、俺にはない。

 俺は、強い奴らとひたすら戦闘訓練を繰り返して、そいつらのセンスや技術を取り入れているだけに過ぎない。

 一瞬のひらめきが勝敗を分けるときに、絶対に一歩遅れる。

 戦闘訓練なら負けるだけだ。

 だが、命が懸かった戦いの時、自分だけでなく人の命が懸かったとき、それは致命的だ。

 今はいい。だが、これから大森林の深部に入るだろう。そのうち旦那のことだ。北の山脈や西の荒野にも足を運ぶだろう。その時俺は、サーシャせんせいやミレイ嬢ちゃんを守りきれるだろうか?


 俺は酒を一口飲む。うまかったはずの酒が、気持ち味が弱くなった気がする。


 今回の一件で俺はおそらくDクラスになるはずだ。それは隊長達といなくてもいずれなれたかもしれないと思っている。

 だが、元々生きていくのに必要な稼ぎが得られさえすればクラスに拘りはなかった上に、Cクラスより上は、そういう一瞬の判断力や決断力。そういうものが無い奴らは決してなれない。と以前仕事をしたCクラスの探検家から聞いたことがある。

 なぜなら自分と同じ、もしくは自分以上の判断力やセンスを感じるから自分たちの後釜として責任を持って上にあげたり帝城に紹介するからだそうだ。


 「お前も、もう少しそういうセンスがあればDクラスまで行った時に上に推してやれるんだがな。勿体ねぇ」


 自分で言うのも何だが、おれは行儀は悪いが素行は悪くないはずだ。だが、多分俺は上の連中が目を付けるようなセンスは持ち合わせていなかった。

 だから必要以上に上を目指すのはやめた。だけど、一緒に行動する奴らの命はどんな状況でも守れるようにしたい。

 おれは、自分が好きだからっていうのもあるが、そのために強い奴との戦闘訓練をする。危険な仕事も受ける。

 センスが無いなら、ギリギリの緊張感の中で少しずつ身に刻んでいくしか無いからな。


 そんなことをしてたら、いつの間にか【戦狂熊】とか呼ばれるようになってたのはお笑いだ。

 大体、二つ名なんざDクラス以上の奴等がつけられるもんだぜ。


 「ドランさん、一体どうしたんですか?珍しく真剣な顔をして」


 どうやら考え事をしているうちに、飯を食う手が止まっていたようだ。

 ハーヴィーが心配そうな表情でこちらを見ている。


 「珍しくとはなんだハーヴィー。俺だってなぁ、たまには真剣に悩んだり考え事するときだってあるんだぞ」

 「あれでしょ?アリッサさんのご飯にどうやって早くありつこうとか、どこで肉を買えば良い肉が手に入るかとかそんなことじゃないんですか?」

 「はっはっは!バレたかハーヴィー!って言うわけでな、お嬢ちゃん。良い肉を分けてくれそうなやつに心当たりはねぇか?」


 ハーヴィーの″心配して損した″という表情を確認して、俺は俺たちと一緒に飯を食っている兄妹の妹の方に声をかける。

 なぜ一緒にいるのかというと、あのあと教えてもらった店に行ったら親共々店の前で待っていたからだ。


 「いただいたお薬の代金とはほど遠いのですが、私たちにできるせめてものお礼です」


 といって差し出してきたのは、俺たちの食事代のようだった。

 はっきり言えば、俺がものすごい食うのでまるで足りない。

 貰うつもりはなかったが、気持ちだと言われちまったら突っぱねるのは失礼なのでありがたく受けとる。

 その代わりに、遠慮する一家をを強引に店に連れていき一緒に飯を食うことにした。


 「安心して食ってくれ!代金は全部ハーヴィー持ちだからな!」

 「僕、破産しますよ!新人がお金ないの知ってるでしょ!?」

 「はっはっは!そこを痩せ我慢して払うから探検家としての株が上がるんだぞ!ハーヴィー!」

 「絶対嘘でしょ、ドランさん」

 「もちろん嘘だ!俺が全部持つから安心して食え!」


 そんなわけで、俺の奢りで一緒に飯を食うことになったわけだ。

 俺の雰囲気が戻ったことで、その後は賑やかに時間が過ぎていった。

 そのあと親に泊まるところを聞かれ、宿をこれからとるという話をしたら、家に泊まっていってくれと言われたので、厄介になることにした。


 そして翌日の夕方前の事、村の中をぶらついていた俺たちにギルドの職員が声をかけてきた。

 もう更新が終わったらしい。予定では明日の昼くらいのはずだったが、おっさんが言っていた緊急便指定が効いたらしい。


 「おう、あんたたちか。待ってたぞ。ほれ、これを受けとれ。で、これに署名をしたら新しいギルド証を渡すからな」


 俺達がギルドにいくと、おっさんが何やら書類を出してきた。

 ランクが上がると、一応確認の署名をすることになっている。それと今持っているギルド証を提出してランクアップの手続きが終了する。


 俺もハーヴィーもランクアップか。気にしてないとか言ってても、上がるってなると嬉しいもんだなぁ。等と思いハーヴィーを見ると、何やら固まっている。

 まぁ、ジャンプアップなんかすることはないからな。俺だってそんな書類を見たら驚くぜ。


 「ド……ドランさん…………」

 「どうした?幾つになったんだ?Eか?Dか?」

 「…………C……です」

 「はっはっは!なかなか面白い冗談だなハーヴィー!」


 しかし、ハーヴィーの顔は冗談を言っている顔じゃなかった。

 震える手で書類を見せてくるので、受け取り確認すると、そこには確かにCクラスへのランクアップが明記されていた。


 何かの冗談か思い、ギルドのおっさんの方を見ると苦笑いのような、にやにや笑っているようなそんな顔をしている。昨日の俺への意趣返しのような感じになっている。


 「お前の方も確認してみろ」


 おっさんがそう言って俺の書類を指差すので、俺はまだ見ていなかった自分の書類に目を通す。


 そこには





 探検家ドランを


 Bクラスにクラスアップすることを許可すると書いてあった。



 はぁ!!?なんだそりゃぁ!





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